第78話 強襲
突然襲われたら咄嗟に防御態勢にも入れないであろう作者です('ω')
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「どうすればいい」
大輝は一度部屋に戻るとそう独り言ちた。もちろん、絶対にそうであるという確信はない。だが、あまりにタイミングが良すぎるし、特に消える前のあの言葉......それがとにかく引っかかる。「もう限界」とはなにを指しているのか。それさえわかれば、また何か違って来るかも知れないが、その本人はこの村にはもういない。
「はあ......」
それからまた考えなければいけないことはこの事実をユリスにどう伝えるかだ。ユリスにとって村長は魔法の全てを教えてくれた師匠に当たる。そして、そんな村長をなにより尊敬していたのはユリス自身だ。村長が災悪でユリスの弟子である俺が戦わなければならないと知ったら、一体どう思ってしまうのか。それがわからない。だが、確実に悪い方向に転ぶことは間違いない。それが怖い。
なら、そのまま黙っておくべきなのか?いや、それもバレるのは時間の問題だ。村長が消えた今、ユリスがそのことに疑問に思っていないはずがない。そして、俺が災悪を討伐した後にも帰って来なければ......ユリスは察しが悪い方じゃない。必ず気づく。そして、もしかしたら俺が伝えなかったことにも傷ついてしまうかもしれない。俺を信じてくれているからこそ。
「......伝えるか」
まだ違うという可能性は信じたい。だが、可能性がある以上伝える義務は俺にはあるはずだ。正直、体がとても重い。まるで行くことを拒んでいるようだ。......いや、本当に拒んでいるのは俺の心の方か。まだまだ、俺は覚悟なんて出来てはいない。「覚悟」という言葉がこんな重いなんて知らなかった。きっとこの世界に来なければ、こんな経験をしなければ実際のその言葉の意味の圧を知ることはなかっただろう。
大輝は重い腰をあげ、ゆっくりと歩き出す。どう伝えればいいかも、どんな気持ちで向き合えばいいかもわからない。ただ、逃げてはいけない。俺は勇者であり、ユリスの弟子でもあるのだから。
大輝は部屋を出ると外に向かった。外はもう日が落ちており夜空に輝く星々がはっきりと見える。大輝はユリスを探すついでに辺りを見回す。不自然な動きをしている人たちがいないか確認するためだ。一応、俊哉によって反応があった人たちは、申し訳ないが気絶させて縄で動けなくしている。
「ユリス......」
「ん?......大輝さんですか、どうしましたか?」
大輝の声に気づいたユリスは大輝の方へ振り向くが、どことなくその表情は暗い。もしかして気づいているのだろうか。だとしたら話が早いが、一先ずは話を聞いてみるか。
そうして大輝はユリスの隣を座るとゆっくりと話し始める。
「......突然だが、この村の内部、および周辺を調べてわかったことがある」
「なんですか?」
ユリスは覚悟を決めたような目で大輝に目を合わせた。
「実はこの村に災悪の一部のようなものを探知した。それも人から」
「!......そうですか、それだけですか?」
「.....!」
大輝は思わずユリスのその強い眼差しに怖気づいた。それはユリスとは違って覚悟が出来ていなかったため。だから、大輝は本当に言うべきことが言えなくなり、「それだけだ」と答えてしまった。
「......大輝さん、話は変わりますが人を殺したことがありますか?」
「殺したこと......」
大輝は思わず言い淀む。なぜならその言い方ではユリスは人を殺したことがあるという事になるからだ。......いや、それはさすがに考え過ぎだ。村長のことがあってただ考えが悪い方向に行きがちなだけだ。
「ないな。ただ、前回の災悪との戦闘でもうほとんど人のような動きに、しゃべりをする猿の魔物は切ったことはあるが」
「なら、今回は全く違うと感じますよ。その感覚は......」
「ユリスは人を殺したことがあるのか?」
大輝は思わず聞いた。さすがにもうその考えにしか至れない発言をしていたからだ。すると大輝の言葉に「ありますよ」と答えたユリスはそっとその時のことを話し始めた。
今から4年前の11歳の時、ユリスは師匠である村長と言い合いになり、家を出た。その内容とは冒険者になるか否かだ。村長は「なるにしてもまだ早い」と必死に止めようとしていたが、魔法に対して優等生だったユリスは「自分なら十分にやっていける」と反発した結果だ。
そして、ユリスは近くの村で冒険者登録を済ませるとすぐにいくつものクエストをこなしてランクを上げていった。だが、そんな優秀なユリスに対して近づくものは誰もいなかった。おそらくその才能に対する嫉妬もあっただろうが、理由はもっと単純でまだ幼過ぎるという点でだ。その当時も今もほとんどの冒険者は成人年齢である15歳を超えてから冒険者になることが多い。それは全て大人であるという自己責任故にだ。
だが、ユリスは11歳。明らかに年齢が足りないし、それに少女である。それはパーティを組もうにも命を預けるという点で不安要素の方が大きいのだ。そして、その事実はユリスに大きな衝撃を与えた。ユリスは想像の中でまさにサクセスストーリーといった感じで、自分の優秀さを誇示すればすぐに誰かがパーティに誘ってくれると思っていたのだ。だが、現実はそう上手くはいかない。
ユリスは自分が思っていた想像と現実のギャップで浮かない日々を過ごした。だが、そんなある日、転機を迎えることになる。それはある程度知り合いも増えてきてそれでも苦も無く過ごせていた頃、ユリスを誘うパーティが現れたのだ。それはユリスより2,3歳上の少年少女達であった。
ユリスはそこからの2年間はとても楽しかった。夢見ていたものとはだいぶ違ったけれど、それでもその夢が時には霞むくらい楽しい日々を過ごした。もしかしたら一人の時間が長かったから余計にそう思うかもしれない。しかし、これがあったからこそ楽しく感じるのかもしれない。とにかくユリスは楽しんでいた。強い魔物との戦いもダンジョンでの冒険もその全てを。
しかし、そんな楽しい日々に終止符を打つような出来事が起こった。それはあるダンジョンで新しいフォーメーションを確認していた頃、数体のゴブリンが現れたのだ。だが、そのダンジョンはユリス達の遊び場と言っていいほど行き慣れた場所でそのゴブリン達を見ても焦りも不安にもならなかった。だが、その選択が間違っていた。
ユリス達は新しいフォーメーションでそのゴブリン達を倒そうと試みた。だが、そのゴブリン達はまさに逃げるように走っていく。そんなゴブリン達を追ってユリス達も走る。そして、ある空間に入るとそのゴブリン達は迎え合うように立っていた。
ユリス達は油断していた。だから、気づかなかった。その空間に誘導されていたことに。するとユリス達を囲うようにどこからともなく多くのゴブリンが現れた。そして、一匹明らかに強くそのゴブリン達を統率しているであろう巨大なゴブリンが立っていた。
そのゴブリンはユリス達がやっとのことで倒せかどうかのレベルだ。それに加えて明らかに苦戦するレベルのゴブリン達。ユリス達はゴブリンの罠に嵌ったのだ。そしてそこから始まったのはただの蹂躙。ユリス達は手も足も出なかった。
そうしてそこから抜け出すことが出来たのはユリスただ一人。他の者達は全員死んでしまった。
「......私が生きられたのはその人達のおかげなんです。最年少の私だけは生き残らせようと必死に必死に戦って。その時、私は人を殺したんです」
「......え?」
大輝は思わず言葉が漏れた。ユリスの話を聞いていたが、そのゴブリンと戦っていたのはユリス達しかいない。ということはユリスはその仲間を殺したという事になる。俺より小さい一つ下の少女が、さらに幼い年齢の時に人を殺している。それはあまりに衝撃的なことだ。
ユリスはふと夜空を見る。そこにその仲間たちがいるかのように。
「みんな私が脱出できるように道を確保してくれたんです。でも、私はそれに気づかず「先に行け」と言われたので、私が先に行けばみんなも来ると思っていたんです。ですが、そうではありませんでした。ただ私の道を確保するためだけに、戦っていただけだったのです。そして、みんな私が逃げたのを確認すると力が抜けたのか殺されていきました。それに気づいた私はみんなを助けようと戻りました。ですが、一人のお姉さんが止めてくれたのです」
「もしかしてその人が......」
「はい。その人は最後に生きていた人でゴブリンに取り押さえられていました」
大輝はその言葉でその後の展開が読めた。基本的にはゴブリンは雑食性で人でも食らう。だが、それは大抵男性のみ。女性は子孫のための苗床として死よりも辛い屈辱を受けることになる。だから、ユリスは......
「私はその人を殺しました。その人が嬲られるのが嫌だったんです。そして、私が攻撃した時、その人は私に『ありがとう』と言って死にました。そこからはあまり覚えてません。きっと逃げるのに必死だったんでしょうね」
「......」
「それから私は今の仲間に恵まれました。そしてその後も盗賊を殺したことがありました。実は一人ではないんですよ、私。......こんなこと言うべきではないでしょうが、私は今でも殺した人のことを全て鮮明に覚えています。あの溢れ出る血の感じや外れてはいけない体の一部が取れる感じを」
大輝はふと手を見る。微かに震えている。ユリスの言葉を聞いて恐怖している。勇者として情けない。大輝は思わず拳を握りしめる。
「......!」
するとそんな震えた大輝の手にユリスの手が重ねられる。そして、優しい笑みを浮かべながらも強い眼差しで大輝を見る。
「大輝さんなら大丈夫です。私の弟子ですから。確かに殺してしまった時の罪は重くのしかかりますが、大輝さんならそれを背負って進んでいけると信じています」
「俺は......」
大輝は思わず言いかけた否定的な言葉をグッと堪えて飲み込む。そして、にこやかな笑みを浮かべてユリスに告げる。
「ああ、任せてくれ。俺は勇者で師匠の弟子だ。必ず乗り越えてみせる」
そんな大輝の言葉にユリスはほんのり頬を赤く染める。
「それじゃ、遅くなってしまったのでそろそろ戻りましょうか」
「そうだな。戻る―――――――――――――」
大輝は言いかけた言葉を止めると聖剣を咄嗟に引き抜くと天へと掲げた。その行動にユリスは呆気にとられるが、すぐにその行動の意味がわかった。
「結界発動!」
大輝が叫ぶと同時にこの村を覆うような魔法陣が空中に浮かび上がり、天を丸焦げにするかのような豪炎に村は包まれた。
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