第76話 感情の燻ぶり
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「大輝さん......どうしてここに!?」
ユリスの言葉は最もだった。大輝がここにいるということはここ災悪が存在しているという証だ。だが、もちろんあの時話したみたいにたまたまここに寄ったというのもある。そう信じたい。しかし、目の前にいる大輝の表情は暗い。優しさで言わないのか、それとも辛くて言えないのか。だが、大輝の表情が全てを物語っていた。
「大輝、この子は?」
「ああ、俺が村で魔力練度っていう裏技を教わった師匠だよ」
大輝とユリスの様子がおかしかったので、香蓮はあえてここで聞くようにしてこの空気を晴らそうとした。その意図を察した大輝は香蓮の振りに感謝しながら返答した。そして、ユリスと話すのは後にしようと決めるととりあえずこの村の村長の所へ向かうことにした。するとその案内役をユリスがかって出た。
「この村の村長は私の師匠なんです。ですから、私がその場所まで案内しますよ」
「そうなのか。ユリスの師匠に会うのは楽しみだな」
そして、案内された場所はこの村で一番大きい和風の家であった。この家は塾のようなものも兼ねているらしくそれで大きくなっているらしい。
「それじゃあ、入りましょうか......あ!」
「あ!」
ユリスが入ろうとすると同時におさげな髪形をして大人っぽく、だがどこか暗い表情をしている女性が出た来た。その女性はユリスの顔を見るとより一層申し訳なさそうな顔をして逃げるようにこの場を去った。
「あの人は?」
「この村でとても優しい方ですよ。いつも頑張って努力している素敵な人です」
ユリスはそのその女性の反応を不思議に感じていたが、嬉しそうに大輝に紹介した。そして、改めて村長宅に入ると大輝達は村長と対面した。
「どうもこの儂がこの村の村長じゃ」
「初めまして、勇者の大輝です」
二人は自己紹介をし、握手を済ませると早速本題に入った。
「早速で申し訳ないですが、災悪の目撃情報とかありますか?」
「すまんが、今の時点でこれと言った情報はないのぉ。もしかしたらこの村の周囲にある結界が影響しているかもしれないのぉ。その結界は魔物除けの効果があってそれも強いやつだから近づいて来ない可能性があるのじゃ」
「なるほど、それだけでもありがたいです。ご協力感謝します」
そして、その後少し他愛もない会話をすると村長への挨拶を終えた。それから割り振られた各部屋に自分の荷物を置くと大輝はユリスを探し始めた。するとそんな時、エミュが話しかけてきた。
「もしかしてユリスちゃんを探してるの?」
「ああ、少し話しておかなければならないこともあるしな」
「それって災悪のことだよね?」
エミュはわかっていたように大輝に尋ねた。エミュもユリスとはあの村の頃からの付き合いだ。だから、俺が今から話に言おうとしていることを察していたのだろう。また俺がこれから話すことを若干言いずらそうにしていることもまた察しているのだろう。だから、きっと話しかけたのだ。
「すげー言いずらいけどな。でも、師匠には伝えないよりかはちゃんと伝えた方が良いと思う」
「大ちゃんのそういう気遣いのできるところ、私は好きだよ。私も大ちゃんの意見には賛成。大ちゃんにとってユリスちゃんはまた大事な人だからそういう大事なことはちゃんと伝えた方が良いと思う」
「そうだな。励ましてくれてありがとな、エミュ」
「励ましじゃないよ、ただ事実を述べただけ。あとそれから曖昧にしちゃダメだよ。ちゃんと伝えること」
「ああ、わかった」
エミュはその言葉をやたら強調して言った。その言葉がどこか別の意味に聞こえたのは気のせいだろうか。いや、香蓮の時といいもしかしたそう意味も含んでいるかもしれない。
大輝はその言葉を頭の片隅に入れておくとユリスを探しに行った。
「ここにいたか」
「大輝さん、もしかしなくても大輝さんの仕事に関わる話ですよね」
ユリスはわかっていたという顔をしながら大輝の言葉に返答した。大輝は縁側に座るユリスの横に座るとゆっくりと話し始める。
「災悪についてはあの時話した通りだが、覚えてるか?」
「覚えてますよ、楽しいひと時でしたから。ですが、まさかこんな事が現実になるとは......」
ユリスは暗い顔を見せた。だが、それは仕方がないことだ。誰だって自分の故郷が脅威にさらされると知れば顔色も悪くなるだろう。それも自分達では太刀打ちできないであろう存在。実力があるユリスだからこそそのショックも大きいのかもしれない。そんなことを思った大輝はユリスを励まそうと言葉をかける。
「師匠、安心してくれ。弟子としてしっかりと師匠と師匠の故郷を護って見せるから」
「師匠ですか......そうですね、期待しています」
ユリスは大輝に笑みで答えた。だが、その表情は大輝が思っていたものとは違い嬉しさと悲しさが入り混じった複雑な表情をしていた。大輝にはその表情の理由がわからなかった。もしかして信用されていないのか?いや、そういう感じではないか。
すると今度はユリスの方から話しかけてきた。
「災悪は手ごわいですよね?」
「まあな。ここ最近に討伐した災悪は多くの同じ種族の魔物を引き連れていた、しかもそいつらはどいつもこいつも強かった」
「ってことはそのような災悪と戦う場合い、他の魔物にも注意しなければならないということですね。しかも勇者パーティが手こずるほどのですか......」
ユリスは大輝の言葉を聞いて思わず顔を暗くした。護ってもらうばかりは気が引けていたが、戦うとなるとそれはそれで覚悟しなければならないこともある。そんな恐怖が襲ってきているのかもしれない。仕方ないことだ、ユリスは大輝の師匠ではあるがまだ15歳の女の子なのだ。そんな子にこんな思いをさせるのはとても酷だが、これは伝えた方が良いと思った。伝えないことが優しさになることもあるが、知らないと動けないことはベテランの冒険者にも多くあると聞いたから。だから、こそここは勇者並びに漢としてユリスの支えとなろう。
そう思うと大輝は不意にユリスの頭に手が伸びていた。そして、その頭を優しく撫でていた。
「大丈夫だ、そうさせないために俺がいる。俺はまだ実力不足なこともあるかも知れないけど、ユリスに涙を流させない自信はある」
「......ありがとうございます」
ユリスの表情がやっと柔らかくなった。不安なことはある。だが、その不安ばかり考えたってその時が待ってくれるわけじゃない。だったら、前向きに自信たっぷりに胸張った考えをしようじゃないか。不安なことを考えることが悪いんじゃない。不安だと思い詰めることが悪いのだ。それは一種の自己暗示にも等しい。どうせ自己暗示をかけるならやはり明るいことの方が良いし、視野も広がるのではないかと思う。
すると段々とユリスの顔が赤くなってきた。大輝は何事かと思ったが、すぐにその原因がわかった。
「ああ、すまん。勝手に触っちまって」
「いいいいい、いえ、大丈夫です!問題ありません!」
「そっか、それならよかった。あんまりこういう事ってされたくないもんだしな」
「そういう事ではないんですが......」
ユリスは大輝がこちらの思いに気づいてないことに若干のジト目を送る。だが、大輝はそれでも「どうした?」といった様子だ。それを見てると思わずため息が出る。
「まだ時間ありますから、少しこの村を見ていってください。私が連れていくよりも案外なにか見つけるかもしれませんから」
「そうだな。そうさせてもらうよ」
そして、大輝がこの場から去っていくのを確認するとユリスは大きく息を吐いた。これでやっと心が落ち着けるからだ。大輝が近くにいると無意識に意識してしまって動悸が激しくなってくる。話しているだけで、時間が簡単に過ぎていくような感じ。全くこれまでこんな経験あっただろうか。まあ、それに近しいことはあったけどここまでハッキリとしたのはあまりない。一体いつからこうなってしまったのか。あの村にいた時はごく普通に話していただけだったのに。いや、その時から実は始まっていたりしたのだろうか。楽しかったから気づいてないだけ......案外あるかも知れない。
「別に特別なことされてませんよね......」
あの村で話したことを思い出しても特別に好意があるようには感じなかった。ただ楽しそうだった。話すことが、聞くことが、知ることが、冒険することが。これは久しく忘れていた感情だ。大輝さんが勇者であることを知った時にはとても驚ろいたが、だからこそ大輝が楽しそうな理由に納得した。
勇者は総じて別の世界から来た者だ。来た人によってはこの世界とは全く違うという人もいる。それは大輝さんにも当てはまるのだろう。未知との遭遇、それは魔術師の私にとっては大きな喜びだ。だが、ここ最近は冒険者として働き過ぎて(それも楽しかったんだが)魔法の研究という本来の仕事に手を出せないでいた。そんな時に現れた一つ上の青年。......なるほど案外私は単純な女だったのかもしれない。
「それが案外悪くなってしまうと思ってしまうんですよねー」
ユリスは木漏れ日に手をかざしながら、自然と笑みをこぼす。辛くても苦しくても私が忘れていた輝かしい感情を持っていた青年を思い出すとすぐそばからその時見ていた楽しそうな笑みが浮かんできて......私は頑張れた。そんなことを繰り返していたら勝手に住み着き始めたのだ。あの青年は。
「ですが、こういう感情はあまり長く持っているのは危険かもしれませんね......」
それはあの日の夕方ごろ、突然の夕立で宿までショートカットして向かっていた時に通り過ぎた女性。そして、すぐそばの公園の東屋で立ち尽くす大輝さん。あれはこの感情を拗らせた故の結果であると思う。こんな時間が続けばいいとは確かに思う。けど、どんな物語にも終わりが来るのだ。それはなんにしても。そして、多くの人がその物語の中で後悔しないように生きている。もう師弟も関係ない。この思いに後悔なくケリをつけよう。
「なにはともあれ、まずは災悪を何とかしばければなりませんが......それは大丈夫でしょう」
なんせとても頼もしい自慢の弟子がいるのだから。
ユリスはゴロンと横になるとその優しい暖かさと光に包まれて眠りに落ちた。
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