第69話 近くて遠くて近くなる
香蓮パートですね
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「大輝、待ってて。今助けるから」
香蓮は涙を拭うと大輝を静かに地面に寝かせて、刀を抜いた。そして、前方から襲ってくる猿(小)を切り飛ばし、後方から来る群れには<雷光弾>を放って、正面にいた猿は感電死させ、その後ろで痺れて動けなくなっている猿には瞬時に移動して切り伏せた。
「「「「「キギャ――――――――――!」」」」」
「させない!」
だが、怒りで興奮している猿達はどんなに仲間がやれようとも進撃を止めない。むしろ増々襲いかかって来る。そして、動けない大輝を狙って複数の矢が放たれた。だが、香蓮が大輝を庇うように前に立ち矢を的確に処理していく。その矢にも毒が塗られているかもしれない。だが、その恐怖は香蓮には存在していなかった。心は澄み切った青天のようにクリアになっていて、そのおかげで極限まで集中できているような気がする。当たるはずがないと思うぐらいに。そして、今はただ助けたいと一心になるだけ。
「ウキ―――――――!」
「はっ!」
猿(大)が切りかかって来ると香蓮は刀でその剣をいなし、そのまま刃を滑らせて逆に切りかかる。そして、瞬時に左手で腰にある鞘を引き抜くと後ろに向かって振るった。すると大輝に飛び掛かろうとしていた猿(小)を殴ろ飛ばす。そして、直ぐに刀を鞘へと戻した。
「一刀流......氷撃愁旋」
香蓮は戻してから刹那の時間で刀を引き抜き、その場で一回転した。すると香蓮の周囲にいた猿達は一気に氷漬けになる。だが、まだ猿達の攻撃は止まらない。それに近づいても勝てないと思い始めたのか。遠距離攻撃をし始めた。そうなると香蓮は大輝のもとを離れるわけにはかないので、防戦一方なり始めた。
「はあはあはあ......やああああ!」
段々と息が切れ始めながらも、香蓮は自分を鼓舞しながら無理やりでも体を動かしていく。せっかく抱いたこの気持ちを踏みにじさせるようなことはさせない。絶対に大輝を助ける!
「精霊の刃」
「黒の武人」
「そりゃああああ!」
「外さないよ」
「ウォン!」
その時、背後から仲間たちの声が聞こえた。俊哉は精霊の力で強化した斬撃を放って薙ぎ払い、セレネは影で武装するとエミュと共に殴り飛ばしていく。そして、茉莉は矢で的確に射抜いていき、レオ(大)が斬撃で引き裂いていく。
その声に香蓮は思わず安堵した。
「皆!」
「遅れてごめんなさい」
「思ったよりも手こずってしまった」
「来てくれて助かったわ。でも、今はそれよりも大輝が大変なの!」
香蓮の言葉で全員が地面に寝ている大輝を目にした。来た時にすぐに姿が見えなかったのはそういうことかと全員が理解した。そして、茉莉が大輝に近づくとすぐに解毒魔法をかけていく。
「香蓮ちゃん、どうやら吹っ切れたみたいだね」
「エミュ!?......そうね、あの感情はエミュに対しての気持ちだったのね」
「ふふっ、そうだったんだ」
香蓮に背中合わせをしてきたエミュは香蓮にしか聞こえないようで話すと香蓮の返答に思わず微笑んだ。だが、その話は後。今優先すべきはただ一つ。
「セレネちゃん、としちゃん、大ちゃんを乗せた?」
「乗せたわ」
「OKだ」
「それじゃあ、全員撤退するわよ!」
エミュがセレネと俊哉が大輝をレオ(大)乗せたのを確認すると香蓮が全員に指示を出した。そして、茉莉がロキの背で安全に大輝を治療できるように、残りの全員がサポートしながら全力で山を下って行った。
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「スースース―」
「顔色は悪くなさそうね」
香蓮は優しく大輝の髪をかき分けながら、そう呟くと安堵の表情をした。
「それにしても大輝が私と同じ思いをしていたなんてね......」
それは大輝が独り言として口にしていたこと。どうやら大輝は私の知らないところで私を好きになっていたらしい。それは今思えばとても嬉しいと同時に、どうして気づかなかったんだと後悔している。けど、そんなものは今更だ。
「大輝、苦しかったんだね」
大輝は私を好きだった。けど、大輝は自分に自信を持っていなかった。そんな自分と私は釣り合わない、きっとそう思ったんだろ。だからこそ、せめて私の幸せを願った。好きな人が幸せになってくれることを。その時の大輝は私の未来の姿だったんだと思う。私が自分の心を押し殺し続けていたら、こんな風になっていたんだろうか。それはとても苦しいこと。体験した私だからこそわかること。
「大輝も私もある意味お似合いだったわけね」
香蓮は呟くとクスリと笑った。それは心が晴れた今だから笑える。大輝が気づかせてくれた今だからこそ。幼馴染だと思考が似てくるのかな?そうだと少し嬉しいな。
「大輝、きっと知らないだろうけど、私はずっと昔から特別に思っていたのよ?」
大輝と初めて会ったのは私が引っ越してきた時のこと。お隣さんへの挨拶できっと私の運命は始まっていた。もちろん、そんな時から好きだったわけではない。むしろその頃の私は人見知りでどちらかというとインドア派だったので苦手としていたのだ。けど、大輝はそんな私の気持ちも知らず次の日から好き勝手に振り回してくれた。主に外で、たまには家で。私は時々怒ったりもした。ほっといておいてって。でも、大輝は笑顔で言った。
『きっと楽しいから、一緒にやろうよ』
大輝の強い押しに負けた私は結局大輝の遊びに付き合わされるハメに。でも、インドアだった私にはその全てが新鮮で、キレイだった。そして、なにより大輝の言った通り楽しかった。きっとこの時から私の思いは動き始めていたのだろう。また、成長するにつれて私と大輝のこども二人だけで山に登ろうと言ったり、高い木に登って鳥の巣を見ようとしたり、橋から川に飛び込んだりと危険な行動も目立ち始めそれを止める私の苦労性も。
でも、大輝は常に笑顔を絶やさなかった。そんな大輝に私も釣られて笑ってしまうことが多かった。けど、同時に私は大輝に依存していった。同い年の男子からイジメられたときも大輝は常に守ってくれたから。大輝を中心とした考えも多くなり、このままではいけないと中学に上がってからは出来る限り大輝を頼らずに行動しようと心掛けて大輝から距離を取ったこともあった。大輝が好きだからこそ、迷惑をかけたくなかったため。でも、それがすれ違いの始まりだったのだと思う。
私は小さい頃の大輝をまねて活発にいろんなことに挑戦していった。それが幸か不幸か私の容姿も男子から人気があったことも相まって私は中学の中でもかなりの有名人になった。多くの同学年と繋がりができて、後輩からも慕われた。そして、告白される回数も増えていった。呼び出されたときは馬鹿正直に会いに行って断っていった。たとえ相手がどんなイケメンだろうと心に決めた人がいたから。けど、その時の私は大輝から自立した行動をするあまり、大輝と全く会話をしていなかった。登校は必ず一緒だったのにもかかわらず。
すると大輝からもどこか距離を取ったような行動をし始めた。大輝はその時から言い得ぬ思いに苦しんでいたんだと思う。私は大輝と離れるのが嫌だった。だから、志望校を一つ下げてでも大輝と同じ高校に行って小さい頃と同じような距離を作ろうとした。この時はそれが先決だと思っていた。けど、その時から大輝と関係が壊れることを恐れていたのかもしれない。そして、それを言い訳にしてずるずると引きずって引きずって引きずって。
そして、運命が訪れた。何もない当たり前の放課後。またエッチな本を学校に持ち出して読もうとしている大輝に一喝しようとした時に現れた魔法陣。大輝が飛び込むままに何か嫌な予感がした私は大輝についていった。そして、辿り着いたのは王の間。確かに全く知らない場所に来て驚いたし、怖かった。けど、一番怖かったのはその場に大輝がいないことだった。それはたまらなく怖かった。依存していた頃の私みたいにいるはずのない大輝の名をずっと呼んでいた。落ち着いて寝られたのは一体いつだったのかと思うぐらい不安と嫌なイメージで眠れない日々が続いた。そして、同時にこんなに大輝を思っているんだとも思った。けど、その時の私にはそれが恋だということには気づいていなかった。大輝を思う気持ちが自分の勇気のなさのせいで日常化してきていたのだ。
しばらくして大輝らしき情報が上がった。私はすぐに飛びついた。どんな小さな可能性であろうと大輝に会える可能性があるのなら。そして、私は大輝に会うことが出来た。けど、それは嬉しさ半分、なんとも言えない気持ちが半分だった。その時はまだその気持ちが嫉妬だということに気づいていなかった。そして、その嫉妬を抱いたのはエミュの存在である。私がいるはずだった隣にエミュがいる。それがとても辛かった。けど、エミュを知っていくほど私は強気にはなれなかった。大輝がなんとなくエミュに好意を寄せていることもわかっていたし、相応しいとも思った。でも、私の意思は許しても本心は許してくれなかった。
次第にその気持ちは膨れ上がり、自分でも抑えきれないようになってきた。キリキリと心を掻きむしるような感覚を感じるようになってきて、とても不快だった。そして、エルフの国ではエミュの言葉もあり、大輝に聞きたいことを聞いた。大輝は答えてくれた。けど、それはきっと本心じゃないと心のどこかで思ってた。だから、大輝の言葉を疑った。でも、それ以上は聞けない。決定的な何かが壊れる気がしたから。
私はまたずるずると引きずった。本当はあの時から自分の気持ちには気づいていた。けど、気づきたくなかった。それは認めてしまうことだから。諦めようと思っているのに諦めきれなくなってしまうから。そして、この気持ちにケリをつけるために私は大輝のデートの申し出を受けた。いや、あの時は単純に大輝からなにか誘ってくれたことが嬉しかっただけかもしれない。小さい頃以来だったから。
そして、雨が降り始めて雨宿りしたときにゆっくりと話せる時間が出来たから、私は思いきって聞いた。今思えば、あの時の行動は正しかったかもしれない。大輝がなにか気持ちを隠していてそれを幼馴染の私にも言ってくれなくて、とても悲しかった。
私の気持ちは爆発した。その時に大輝に言った言葉は今の今までずっと後悔していた。でも、大輝が言ってくれた本心が私を変えてくれた。私と同じ気持ちだったんだと思うと胸に来るものがあった。そして、気づいた。私は幼馴染という枠を超えたかったのだと。卒業したかったのだと。その為にはこの関係は壊さなければならなかった。
私はずっと臆していた、この関係を壊して戻せる自信がなかったから。でも、今は違う。自身なんて今もないけどこの胸に抱いた気持ちはどこまでも本当なんだ。だからもう、気づかないふりはやめよう。
私は今、恋をしている。
それはよく聞く甘酸っぱい思いなんてしなかったし、いつもの日常が新鮮に映ったりもしなかった。でも、ふと大輝のことを思えば、自然と笑みがでてただ「好きなんだ」と実感する。それだけで心が明るくなる気がした。だから......
「大輝......私、ずっとずっと前から好きよ」
この幼馴染という関係を壊そうと思う。私はただ大輝という男の子に恋する女の子。そして、発展した関係に進みたい欲深な女の子。もうこの気持ちは揺らぐことはない。またどうせ大輝はバカやると思うけど、笑って許してやろうではないか。もちろん、止めるべきところは止めるけれどね。それから......
「エミュ、ごめんね。大輝の隣はずっと昔からわたしの場所よ」
香蓮はそう言うと大輝の頭をそっと撫でて部屋をでた。するとちょうど看病に来たのかエミュと鉢合わせた。香蓮はエミュに微笑すると告げた。
「エミュ、後悔しないでよね」
「しないよ。私はいつだって本気だからね」
そう言うと二人はすれ違う。するとエミュは言葉を付け足した。
「なら、もう手助けはいらないってことだね?」
「ええ、いらないわ」
香蓮は晴れやかに言い切った。
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