第68話 変わるとき
前とは違うバトルシーンにしてみました。少年漫画風ですかね?
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大輝が千切れた糸を辿っていくと前方から複数の気配とその中に一際大きい気配がある。あれはおそらく災悪の可能性がある。だが、一応確かめとかなければ。
「香蓮、準備は良いか?」
「......ええ、大丈夫よ」
その言葉とは裏腹に表情は暗い。ここまで来てこの状態はさすがに危険かもしれない。だが、ここで香蓮のためと思って言った言葉もきっと俺が思っていた意味とは違う捉え方をするだろう。そう思うとなかなか口に出せず、挙句の果てに「わかった」と声が出てしまった。
そして、その気配に近づいていくと段々と姿が見えてきた。そこにいたのはガタイの良い5メートルものボス猿がいて、その周りには猿(大)が数体、その倍の数の猿(小)が、まるで迎え撃つかのように立ちすくんでいた。
「ははは、つえぇな。あれ」
大輝はそう呟きながら苦笑いを浮かべる。歴戦の戦士のような威圧に斬馬刀のような巨大な剣を持ち、腰にはポーチのようなものをつけている。それに、本来の魔物ならばすぐに襲いかかって来るだろうことをしない知能。かなり厄介な災悪だ。だが、対峙した以上もう引くことは出来ない。
大輝はいつでも動けるように臨戦態勢になりながら、ゆっくりと近づいていく。そして、上空に一発魔法を打ち上げた。それでも尚、猿達は動かない。正しく統率されているように。
「オマエ、ユウシャカ?」
「マジか、しゃべるのかよ......」
大輝はボス猿の言葉を聞いて、危険度を上げた。これまで二回も災悪と戦ってきたが、しゃべることはなかった。だが、こいつはそれができる。もうこいつは人そのものだ。
そう思うと大輝は軽く深呼吸した。まさか案外早く覚悟を決める必要があるとはな。切り殺す覚悟が。
するとボス猿が一人でに大輝に近づいてくる。そして、斬馬刀を大輝に突きつけると大輝に言葉を投げかけた。
「ソノオンナ、キニイッタ。オレ、ヨコセ」
「はぁ!?!?!?」
「......!」
大輝はその言葉を聞いた瞬間、一瞬で怒りの沸点に達した。顔も態度からも怒気が放たれている。一方、香蓮は思わず驚いた。それはボス猿の発言のこともあるが、それ以上に大輝が示した態度のことであった。あれだけ、ボロボロになった関係だというのに大輝は未だに自分のことを思っていてくれた。そのことに戸惑いと胸に宿る小さな熱を感じた。
「猿の分際で何を言い出すかと思いきや、香蓮をよこせだと?やるわけねぇだろ!」
「ナラ、ケットウ、キメル。カッタヤツ、ソノオンナ、モラウ」
「いいだろう、負ける気がしねぇ!」
「ちょ、大輝!」
自分の思わぬ形で会話を進めていく大輝に香蓮は思わず制止の声をかけた。だが、大輝は聞く耳もたんとばかりに反応することがない。そして、香蓮が数回呼びかけることでようやく反応した。
「大輝!」
「......ようやく香蓮から話しかけてくれたな」
「今そんなことを言っている場合じゃないでしょ!?戻って、危険すぎる!?」
香蓮の若干怒気が混じった声に対し、大輝は顔だけ振り向かせる。その顔は香蓮の表情とは別に笑みを浮かべていた。
「香蓮、もしお前にまだその気があるならさ、俺を信じてくれないか?最初で最後のお願いだ」
「......っ!」
香蓮はなぜか何も言えなかった。なぜか踏みとどまってった。大輝が心配だから止まって欲しい。けど、大輝の言葉は信じたい。そんな複雑な葛藤が香蓮の心を支配した。私はどうすればいい。どちらを選べばいい。何を考えたらいい。わからない、わからない、わからない、わからない、わからない。けど、確かに熱が大きくなっているのはなぜ?
何も答えない香蓮に大輝は少し不安に思いながらも、背を向けた。そして、ボス猿に対して構えを取る。すると他の猿達が戦うフィールドを作るように大輝とボス猿の周囲を囲った。
「アンシン、ナカマ、コウゲキ、ナイ」
「あくまで正々堂々と勝敗を決めようってか......いいぜ、信じてやるよ」
「半分ぐらいだがな」と内心思いながら、そっと口に出す。
「香蓮、今から俺が言うことは全て独り言だ。適当に聞き流してくれて構わない」
「......え?」
大輝の突然の言葉に困惑の表情を浮かべる香蓮を尻目に見ながら、ボス猿との間合いを測った。そして、一匹の猿(大)が頭上に石を投げて、その石が地面に着いた瞬間一人と一匹は動き出した。
「俺なぁ、実はずっと後悔していたことがあるんだよ!」
「イク――――――――――!」
大輝は<超加速>で接近するとボス猿に聖剣で切りかかった。だが、それは斬馬刀によって止められる。しかし、そんなことはわかっているとばかりに魔剣を突き付けると魔法を放った。
「風弾!」
「ウギャ!」
「それはな、自分の気持ちを押し殺したことだ!」
ボス猿は腹部に魔法が直撃するが、数メートル引きずられながらも踏みとどまった。そこに大輝は追撃しようとするが、ボス猿が薙ぎ払ってできた横一文字の斬撃によって近づくことが出来なかった。そして、気づけば自身の側面にボス猿の拳が迫って来ていた。
「がはっ!」
「大輝!」
「......げほぉ......その行動はな、その相手のためを思っての行動だった」
香蓮の叫びを聞きながらも大輝は言葉を続けていく。そして、体勢を整えるとボス猿に向かっていった。同時に両剣に炎を纏わせて。
「山針!」
「ウギッ!......ナメルナ!」
「くっ!」
大輝の炎の身構えたボス猿は大輝の不意を突いた攻撃を避けることができず、背後から迫ってきた土の針に刺された。そして、正面からは<大炎裂刃>を使いながら大輝が切りかかりにかかる。しかし、それは失敗終わった。ボス猿が斬馬刀を地面に突き刺すとその剣の柄を持ちながら、垂直になるように体を支えてその攻撃を避け、さらにそこで回転して大輝に蹴りを食らわせた。大輝は腕で防ぎながらもその衝撃は防ぐことは出来ずに吹き飛ばされる。鼻と口から血を流しながら。
「くっ......けどな、それは結局はビビっていただけ。勇気がなかっただけ」
「オマエ、ツヨイ」
「そりゃ、どうも!」
大輝とボス猿は再び互いに向かって走り出した。大輝は今度は両剣に風を纏わせる。一方、ボス猿は腰からひょうたん型の水筒らしきものと火打石を取り出すとその水筒の中身を口に含み、斬馬刀に吹きかけた。そして、火打石で着火させて斬馬刀を燃え上がらせる。
「そして、なにより壊れてしまうことを恐れていた!......風滅波!」
「ウギャ―――――――――――――!」
大輝とボス猿は勢いよく撃ち合った。周囲一帯を吹き飛ばすような風が舞い、焼き焦げるような炎が踊った。この場の温度はどんどん上がっていく。そして、撃ち負けたのは大輝だった。もともとの膂力が違ったのか、身体能力を上げても押し負けた。
「俺は弱かった!だから、維持することを選んだ!......おらああああああ!」
「ウギィッ!」
だが、大輝は吹き飛ばされてもすぐに戻ってきた。それは大輝が切りかかる直前に飛ばしていた蜘蛛糸のおかげだ。これは大輝の魔力で出来ているので、熱でも溶けることはない。そして、ボス猿のもとへ大輝はやってくると聖剣をボス猿の肩へと突き刺した。ボス猿は思わず悲痛な声を漏らした。
大輝は一旦距離を取って呼吸を整える。
「......結局はその距離が、居心地が良かっただけなんだ。はじめっから変わる勇気も、変える勇気も持ち合わせてなんていなかった」
「ウギ!」
「そして、そのまま時は流れて勝手に消えるだろうと思い込んでいた。だが、消えることはなかった。だから、気づかないことした。今のまでな」
大輝は再びボス猿に向かった。ボス猿は迎え撃つように斬馬刀を構える。そして、接近してきた大輝に斬馬刀を振るった。だが、大輝は<土壁>を盾のように自身の前に作り出すと<風乱舞>を使って気配を消しながら移動し、ボス猿の懐に入り込んだ。
「炎竜旋!」
「ギッ!」
「がはっ!」
大輝はその場で回転して炎の竜巻を作りだした。その勢いは凄まじくボス猿に火傷させながら上空へと吹き飛ばそうとするが、ボス猿は斬馬刀を地面へと固定することでそれを防いだ。そして、同時に膝で大輝の顎を打ち上げる。
「決着をつける!」
大輝は膝蹴りの勢いで宙に舞いながらも、すぐさま体勢を立て直しそう言った。それはこの戦いに関してにも聞こえるが、これまでの独り言のようにも聞こえる。
あまりにも早い大輝の立て直しにボス猿は咄嗟に反応するが明らかにその動きは遅かった。その隙を大輝は見逃さず剣を振るって―――――――――
「!」
大輝は剣を振り下ろす前に体を捻った。すると大輝の頬をかすりながら一本の矢が通り抜けていく。
大輝は咄嗟に距離を取るとボス猿に聞いた。
「おいおい、正々堂々とした戦いだと思っていたらこれはなんの真似だ?」
「スマナイ、ナカマ、ジャマシタ。ソイツ、スグ、コロス」
「......!」
そう言うとボス猿は射った猿の周りにいる猿に指示をした。するとその猿達は攻撃した猿をひっ捕らえると串刺しにしていった。このあまりに慈悲のない処罰に大輝は目を見開いて言葉を失う。これがこの猿達のルールか。随分と厳しいものだ。それとは別に頬が少しヒリヒリする。矢じりが炎の熱で熱くなっていたか?
「サア、ハジメル」
「そうだな。そして、終わらせよう」
そして大輝とボス猿は近づくと互いの全力をもってラッシュし始めた。互いに相手の剣を避け、ギリギリの隙をついて攻撃していく。その手数は段々と増えていき、互いの剣が撃ちあう音が響き渡る。
「俺はずっと特別な思いを抱いていた!」
大輝はボス猿に殴られながらもその場で踏みとどまり切っていく。
「それは香蓮、お前のことだった!」
「え?」
大輝とボス猿の互いの手数はどんどん増えていき、それに比例するかのように切り傷が増えていく。
香蓮は大輝の言葉をずっと聞いていた。まるで好きだった人がいてその人のために身を引いたような、今の自分と同じような境遇を辿っていたようなそんな言葉。だからこそ、耳を疑った。そして、心に響いた。切なくて、もどかしくて、怖がって、自身が持てなくてそんな感情を大輝が持っていたなんて。胸がさらに熱くなる。それは次第に体をも火照らせ始めた。今まで胸で抱え込んでいた気持ちとはまた違う、懐かしい気持ち。
香蓮は思わず叫びたくなった。この思いが、今膨れ上がって、弾けようとしている。変わろうとしている。
「行け――――――――!大輝―――――――――――!」
「うらああああああああ!」
大輝はその声援で気合が入ったのか。集中力が増していった。そして、ボス猿の攻撃が先ほどよりも少し遅く感じた。ほんのわずかな差だったが、それだけで十分。
「魔力解放!能力増幅!神聖属性付与!......聖貫弾!」
「うむなのじゃ」
「わかったなの」
「貫けええええぇぇぇぇ!!!」
「ウギャアッ!」
僅かに開いた小さな隙を大輝は見逃さなかった。そして、そこを一気に突き、その攻撃はボス猿の腹部に風穴を開けた。
ボス猿は悲痛な声を上げながら、血反吐をぶちまけて大輝の横に倒れ伏した。
「香蓮、信じてくれてありがとな」
「......っ!」
大輝はふらふらになりながらも安心させるような笑みを浮かべ、香蓮にサムズアップした。それを見て香蓮は思わず涙ぐむ。心配もあった。不安もあった。だが、今はそれ以上に喜びがあり、嬉しさがある。そして、その涙はやがてこぼれ落ちた。
「「「「「ウキャ――――――――――――――!」」」」」
だが、そんな時間がいつまでも続くわけではなかった。猿達はボス猿がやられると弔い合戦とばかりに大輝に襲いかかった。大輝は咄嗟に身構えるが、なぜか体が思い通りに動かない。そして、胃から込み上げてくる何かを感じ思わず吐き出した。
「......え?」
「大輝!!!」
それは大量の血だった。確かに、内臓を傷つけられたような攻撃を受けたが、これはさすがに異常であった。そして、次第に意識が遠のく。
「香蓮、今すぐ大輝を安全な所に運ぶのじゃ!」
「そして、すぐに解毒するの!この症状は毒なの!」
香蓮はその時、思い出した。あの時、大輝が受けた攻撃のことを。あの矢じりには毒が塗られていて、たとえボス猿がやられても道ずれにできるように。香蓮は猿達に切り込みながら大輝のもとにやってくると大輝を抱える。
「大輝、しっかりして!」
香蓮は苦しそうな表情で呼びかける。だが、大輝に反応はなかった。
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