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第60話 意外な組み合わせ

第4章開幕です

 緊急クエストが終わった翌日、セレネは珍しく大聖堂にいた。「珍しく」というのは普段......というか全く立ち寄らないという意味もあるが、大聖堂はミリアと女神様が交信する場所でもありで神聖な雰囲気が周囲一帯を包んでいるので、魔族であるセレネは居心地が悪いという意味もある。だが、それなのにいるとはよっぽどのことがあったわけで......


「はあ~~~~~」


「珍しいお人がおられますね。セレネさん、どうされましたか?」


「疲れてるのよ、いろいろとね」


 母親のことと言い、災悪のことと言い、悪魔のことと言い、そして勇者とエミュと香蓮のこと言い。頭がパンクしそうだ。これこそ猫の手も借りたいほどに。だが、どれもこれも解決策は見つからず、時間ばかりが過ぎていくばかり。精神が持ちそうにない。


 するとミリアが自身の鞄から何かを取り出した。よく見るとそれは饅頭のようなお菓子であった。


「これは休憩時間に食べようと思っていましたが、セレネさんにあげます。遠慮なく食べていいですよ、まだありますから」


「ありがとう、それなら遠慮せずにいただくわ」


 そして、セレネはそのお菓子を頬張った。


「うっま~~~~~~~♡」


 セレネは思わずその美味しさに叫んだ。甘さが口いっぱいに広がり、頬が落ちそうだ。ああ、これが甘み。私が望んでいた至福の象徴。一度入ったら出て行きたくなくなるような極楽の時間。最っ高。


 お菓子一つ食べただけでとても幸せそうな顔をするセレネに申し訳なさを感じながらも、思わず笑みがこぼれた。そして、セレネの横に座ると話しかける。


「懺悔というわけではないですが、相談や悩みを聞くことも聖女()の仕事でもあります。良かったら、話してみませんか?言うだけで、楽になることもありますから」


「そうね、なら聞いてもらおうかしら」


 ここ最近誰かに聞いてもらいたかったというのはあった。先ほども言ったがパンクしそうなのだ。だが、それは一人で抱え込んでいるというのもあるわけで。というわけで、たとえ聞く相手が聖女でも構わないからこの際言ってしまおうかと。


「そうね......まずは母様が見つからないことに関してからかしら」


「確か、今までずっと探し続けていたんですよね?」


「『今まで』じゃなくて『今も』よ。一応手掛かりをあてに情報とかを集めてはいるんだけど」


「それはどんな情報で?」


「非常に言いづらいことなんだけど、子供好きという情報から.....」


 セレネはなんだかその言葉を言うのが妙に恥ずかしかった。だが、仕方ないことなのだ。もっとも有力な情報を集められそうな条件はある。それは魔族だ。しかし、こんなことを人族の冒険者に言えるわけはなかろう。そして、他に上げられる条件とすれば、同じ髪の色をしていて美人で少しセクハラ気味なところか。けれど、自分と同じ髪の色なんてこの国にも似たような人は多くいたし、美人でセクハラ気味とか人によって個人差があるし。その中で唯一言える条件がこれだったのだ。もはやどうしようもない。


 この言葉にミリアは「う~ん」と唸らせると一つ提案してきた。


「なら、私の情報網も利用してみませんか?」


「え?」


「ちなみに、今はどこの情報網を使っていますか?」


「あ、えーと、冒険者ギルドよ」


「確かに、あそこは情報が多く集まりますが、デマも多いんですよ。情報もとを精査せずに鵜呑みにして持って帰ってくるので」


「ええ、ミリアの言う通りよ。それで去年は散々踊らされたわ」


 セレネはその時の苦労を思い出してしまったのか疲れたため息を吐いた。初めに聞いた情報がエルフの国にいると聞いて準備して行ってみればいないし、次に砂漠の国にいると聞いた翌日には位置的に真反対ある帝国にいるという情報を聞いたし。そんなこともあって今のやり方に変えたわけだが。だから、ミリアの提案はすごくありがたい。しかし.......


「まだ、遠慮しとくわ。自力でやれそうなことだから」


「......そうですか。なら、必要な時はまた声をかけてください」


「ええ、ありがとう」


 セレネは断ることにした。なぜなら「精査」という言葉に引っかかったからだ。精査されればその情報の真偽も確かめられる。その時に探している母親が魔族だとバレる可能性もあったからだ。それが一番怖かった。なら、触らぬ神に祟りなし。頼ることはできない。


「次は災悪のことね」


「そのことは本当に驚きました。お知り合いさんの捜索にいったら、災悪の一体と遭遇してしまうとは」


「ほんと、ただの不幸よ」


「ですが、女神様は喜んでおられましたよ。信仰力は回復せずとも、この国に迫るはずだった脅威を事前に倒すことができたと」


「それは良かったわ」


 セレネはその言葉は実に適当に流した。あの時のことを思い出してお疲れ気味だ。仕方がないこととはいえ、あんな急な戦闘はもう十分だ。......あ、そうだ。あの勇者にお礼の品でも買ってこなくては。あの時はレイのことに関して世話になりっぱなしだったし。


「それにしても......」


「ん?どうかしましたか?」


「い、いえ、なんでも」


 セレネは思わず漏れた言葉に反応したミリアに何でもないような素振りを見せた。だが、その頭の中ではレイに言われた言葉を再生していた。それは、丁度レイたちが祖国へ帰る時のことレイが仲間の二人に聞こえないように小声で話しかけてきたのだ。


『姫様、変態さんには言うことは全て言いました』


『?......急に何を言い出すかと思えば、何を言ったの?』


『さあ、なんでしょう?』


『言いなさい、命令よ』


『ほんとに聞きたいんですかー?この流れから何を言ったのかわからない姫様ではないと思いますが......っていたたたたた!』


 ニヤニヤとするレイにセレネは思わずイラッとしてその頭を拳でグリグリと当てた。レイはその地味に来る痛さにバタバタと暴れる。だが、その行動をセレネは止めることはなかった。一体、どんな厄介ごとを増やしてくれたというのか。


 するとレイはセレネの手を必死に抑えようとしながら答えた。


『わ、分かりました!言いますから!ただ姫様は一人で抱え込みすぎるから手伝ってやってくださいと言っただけです』


『そ、そうなの?』


 セレネは「そんなことならサッサと言いなさい」と言うとレイから拳を遠ざける。するとレイは先ほどの言葉を続けた。


『姫様、変態さんは信用していいですよ。この私が言うんですから』


『......信用はしてるわよ。完全じゃないけど』


『なら、完全にしましょう。そして、逃さずに捕まえて置くんですよ』


 そこで話は終わり、レイたちは帰ってしまった。結局、あの言葉の意味は分からずじまいで悩みの種は増やされたままだ。「逃さずに捕まえて置く」ということは利用しろということなのか。なら現在進行形で利用してるし、なら他の意味ということになるが......一体あの勇者と何を話していたのか。非常に気になるところだ。


「最後に......これが今一番の問題なんだけど」


「わかりました。香蓮様のことですね?」


「察しが良くて助かるわ」


 レイたちが帰った後から著しく香蓮の様子がおかしい。ボーっとし過ぎて、一枚も割ったことのない皿を割る始末。それから勇者に会うと動きが変だ。会うことを拒絶しているような。もとより抱え込むタイプではあったが、まさか助けを求めないほど頑固だとは想定外だ。そのくせこちらからの助けもいらないと言う。まさかまだ一人で解決できる問題だと思っているのか。面倒だが、勇者か香蓮のどちらかに介入してこちらから解決策を分からせる様に仕向けないといけない。ああ、なんと面倒な!!


 するとミリアも同じことを考えていたのか香蓮のことに関して似たような発言をした。


「そういえば、大輝様たちが帰っているところを見かけたのですが、エミュ様はとても幸せそうな表情をしていたのに対して、香蓮様は酷く俯いた顔をしていました。そして、チラチラとエミュ様の方を見る仕草もありました。その時の表情は変わってはいなかったんですが、どこか羨ましいといった印象を受けました」


「羨ましいね......」


 セレネはその気持ちがわからなかった。もっと言えば、なぜ勇者にハッキリ伝えないのかということも。ここら辺はエミュと同じかもしれない。香蓮が何に渋っているのかわからない以上、自分の考えを率直にぶつけるのは愚策だ。なら、勇者の方しかない。しかし、香蓮との関係性をちゃんとしらないので無神経が過ぎるだろう。


「頭が痛くなるわ~」


「そうですね、人の心は移ろいやすいものですから最悪の事態にならないようにこちらでフォローするしかなさそうです。香蓮様とお話したことがあったんですが、香蓮様と大輝様は幼馴染であるそうですね。私はいませんから詳しいことは分かりませんが、そこがネックになっているのではないですか?」


「幼馴染ね.......小さい頃から一緒だった人を取られるのは確かに辛いかもしれないわね。もちろん、今はまだ取られてはいないけど、あの勇者の反応から察するにまんざらでもないってのがね。私の知り合いにもいたけれど、幼馴染って報われないのかしらね」


「そうとは決まっていませんが、きっと近すぎて見えていないんです。そして、相手も本人もそのことに気づいていない。だから、成長して大きくなっても異性として認識できなくなってくるんです。もしくは認識しても関係性の崩壊を懸念して身動きが取れなくなっているかのどちらか。香蓮様の場合は後者でしょうね」


「全くもってその通りだと思うわよ。両想いだったら話は早いのにね」


 そう言うとセレネは立ち上がった。話して少しスッキリしたし、ミリアのおかげで少しだけ関係性の溝が見えた気がした。これでどうかなるとも言えないが、少しは動きやすい。


「ありがとう、おかげで楽になったわ」


「どういたしまして、また何かあれば気軽にどうぞ」


「頑張るのはいいけれど、自分の鬱憤ぐらいも晴らしなさいよ。いざとなれば勇者を連れ回せばいいんだから」


「ふふふっ、ならそうさせていただきます」


 そうしてセレネは大聖堂を去った。......さてと手っ取り早く俊哉にでもけしかけさせるか。

評価、ご感想、ブックマークありがとうございます。励みになります。


それではまた次回

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