第59話 距離感
これで第3章は終わりになります。いつもより短いかもしれませんが、1章と2章が長すぎたんです。次からも大体こんな長さで行きます。
「せいっ!はっ!そりゃあ!」
「マスター、時間なの」
「少し張り切り過ぎじゃ。あの戦いが終わってからまだそんなに経ってない。あの時の行動を反省するのは良いがもう少し自身の身を案じるのじゃ」
「......ああ、そうするよ」
大輝は闘いが終わった翌日から朝の鍛錬を始めていた。しかも疲労もまだあるというのにも関わらず、前よりもキツくして。それほどまでに自身の闘いが不甲斐なかったのだ。自分は勇者なのに皆に心配かけるようなことをしていた。むしろ自分は皆の支えとならなければいけないのに。
それを分かっていたフランとドリィは出来る限り大輝の指示に従ったが、鍛錬で潰れてしまっては元も子もない。なので、フランの言い方はややキツイ口調になっていたのだ。
フランとドリィはそれぞれ剣から人型になると座り込んでいる大輝に言った。
「そういえば、この近くに川があったのじゃ」
「そこで汗を流してくるといいの」
「待て、俺はまだワンセット残っているからその後に―――――――――」
「行くのじゃ!」
「行くの!」
「おい、手を引っ張るなって!フラン、ドリィ!」
ストイックさに拍車が掛かっている大輝に業を煮やしたフランとドリィはそれぞれ大輝の手を掴むと聞く耳持たんとばかりに引っ張り歩き始めた。そして、そのまま川に連れていくと大輝をそのまま突き落とした。
「おい、フラン!ドリィ!なにすん......だ!?」
「いくのじゃ!」
「いくの!」
「ザッパアアアアアアアアア!!!」
突き落とされた川は幸い浅くそこまでの被害はない。しかし、突然突き落とすとは何事か。そのことにさすがに怒るべきだと思った大輝は後ろを振り返るともうすでに目前へとフランとドリィが。そして、抱きつかれるままに再び川の中に沈んだ。
「はあ、お前らなぁ......」
「楽しいじゃろ?」
「これでマスターもリフレッシュ出来ると思うの」
なんだか怒る気力もなくなった大輝だったが、フランとドリィが少し無理矢理ではあったが自分のことを思ってしてくれたことを嬉しく感じた。そして、その勢いで二人の頭を撫でる。二人は嬉しそうに目を細めた。
「よっしゃ!そんじゃ今日は思いっきり楽しむとするか!」
「「お――――――!」」
大輝は靴と靴下を脱ぎ、そして半裸になると後ろ向きに倒れた。少し暑いぐらいの日差しに冷たいか川の水はとても合う。実に気持ちよく、心が休まる。一方、フランとドリィは川の水を蹴って互いにかけあいながら遊んでいる。その時、聞き覚えのある声が聞こえた。
「だ、大ちゃん、何してるの?」
「ン?......エミュか?」
そういって声のする方向を見るがそこには誰の姿もない。そのことを不思議に思いながらも<気配察知>で探るとすぐ近くの木に反応がある。おそらくあれがエミュだろう。しかし、なぜ隠れているのだろうか。
「おーい、エミュ!隠れて、どうしたんだ?」
「い、いやー、そのー、大ちゃんの恰好が......」
「俺の恰好?」
言われて大輝は自分の恰好を見る。ズボンだけ履いているだけで、半裸だ。だが、それがどうしたのいうだろうか。いつものエミュらしくない。
いまいちエミュの反応がわからない大輝はもう一度エミュに尋ねる。
「本当にどうしたんだ?」
「な、なんかね、その格好だと上手く直視できないんだ」
そう言うエミュの顔はなんだか赤く染まっているように見える。もしかして恥ずかしがっているのか?そう思うとなんだかこっちまで恥ずかしくなってきた。そして、大輝はエミュにフランとドリィを預けて後ろを向いてもらうといそいで上の服とズボンの水気を取って、それから着た。
「もう大丈夫だ」
大輝がそう言うとエミュは後ろを振り返って大輝のもとに駆け寄った。そして、川岸に座っている大輝の横に座る。少し近めに寄って。
「なんだかこんな所で会うなんて不思議だね」
「そうだな。エミュはどうしてこんな所に?」
「私は釣りをしに来たんだ。まあ、ここでは素手の方が早いんだけどね」
大輝は村にいた頃、エミュに釣りを教えたことがある。その時は大輝のやっていることにただ興味を示しただけだと思っていたが、どうやら案外気に入っていたみたいだ。だが、肝心の道具は持っていないということは作るのかと思ったが、そうではないようだ。素手の方が早いとはどういうことだ?
するとエミュは「見てて」というと靴を脱いで川に入っていった。そして、前かがみになり川の中をじっと眺めている。その瞬間―――――――――――――
「バシャッ」
「痛てぇ!?」
水しぶきの音とともに大輝の顔面に何かが飛んできた。そして、自分の足元に落ちたそれを見るとなんとそれは魚だった。それから気づけば魚が雨のように降ってきてるではないか!
エミュはまるで熊が鮭を取るかの如く手で素早く引っかけて魚を大輝の方へ飛ばしている。フランとドリィは思わずその光景を魅入っている。そして、ある程度取り終えるとエミュは大輝にドヤァとした顔をした。それから大輝にあることを頼む。
「大ちゃん、これであの時の塩焼き作ってよ」
「......そういうことか。任せとけ」
それから大輝は枯れ木を集めてサッと火をつけると魚を調理し始めた。魚が焼けていく香ばしい匂いがするのかエミュはもうすでに美味しいといった顔をしている。だが、大輝にはそれが意外であった。
「まさかエミュがこれを好んで食うとはな......確かあの時の一回だけだよな?」
「私は何度か食べてるよ。でも、どうしても大ちゃんが作ってくれた味にならなくて。だから、大ちゃんのが好きなんだ.....」
エミュはそう言いながら微笑む。その顔に大輝は思わず顔を赤くした。その笑みがいつもの元気とは違ってどこか大人っぽく、そして柔らかく、だがいじらしいようなそんな笑み。今までではまず見たことない。大輝は照れを隠すように出来上がった焼き魚に食らいついた。
そして、落ち着いてくるとエミュにふとあることを尋ねた。
「そういえば、もう一度竜化できたのか?」
それはあの戦いの時のこと、エミュは大輝への思いをさらけ出すことによって竜化することができた。だが、それはその時限りの可能性もある。だから、エミュは戦いの後、一目のつかないところで一人でに竜化できるかどうか確かめていたのだ。だが、その結果を大輝は知らない。
するとエミュはおもむろに右腕を横に向けた。そして次の瞬間、その部分だけ肥大化して竜の腕になった。大輝はその衝撃に思わず手に持っていた焼き魚を落とした。それは驚きではない。嬉しさからだ。
「良かったな、エミュ!!」
「うん、ついにやったよ!」
大輝は感情のままにエミュの手を掴むと真っ直ぐと言葉を伝えた。エミュはその言葉にとても嬉しそうな笑みを浮かべるが、次第にそれ以上に顔を熟れたリンゴのように赤くした。そして、ジッと握られた手を見ている。
「エミュ?」
「わああああ!?ななな、なんでもないよ!」
エミュは慌てて大輝から手を離すと後ろに手を隠した。そして、妙にもじもじしている。大輝はそんなエミュにどういう反応をしたらいいか戸惑いが隠せない。だが、ここでふとあることが気になった。
「エミュ、一つ聞いていいか?」
「ど、どうしたの?」
「エミュはこれからどうしたい?」
「.......」
その言葉の意味をエミュは分かっていた。自分の目的は大輝の旅を通じて竜化になれる方法を探すこと。だが、それはあの時の闘いで達せられてしまったし、前は出来なかった部分竜化までできるようになってしまっている。それは嬉しい。しかし、少し寂しい。目的が達せられてしまった以上、もう大輝たちと一緒にいる意味はないのだ。そして、その答えは村に来た時の頃はそれで良かっただろう。でも、もうそんな目的以上に離れたくない理由が出来てしまった。むしろ、その目的を少し忘れてたぐらいに。それに......逃がさないって決めたしね。
「私はまだここにいたいよ」
「戻らなくても大丈夫なのか?」
「大丈夫だよ。もうすでに何百年と帰ってないし、それに人族と時間間隔が違うからね」
「そうなのか」
「大ちゃんは嬉しい?」
「え?」
「私がまだいたいという気持ちのこと」
エミュはそっと三角座りに姿勢を変えるとその状態からイタズラっぽく下から覗き込みながら言った。その仕草に大輝は思わず胸が跳ねる感覚がした。そのせいか顔がみるみるうちに赤くなっていく。
そこにエミュが追撃とばかりに尋ねてくる。
「それでどうなの?」
「そ、それは......い、いて欲しいと思います」
大輝はエミュの顔が直視できなくて思わず顔をそむけながら小さな声で言った。だが、エミュにはその返答が聞こえていたのか勝ち誇ったような笑みを浮かべる。
「そっか、そうなんだね。私もまだ大ちゃんと一緒にいたいかな」
そして、照れた表情も隠さず最高の笑みを浮かべてそう言った。大輝はもうどう反応したらいいかわからなかった。ただやたらと恥ずかしい。
するとエミュが言葉を続けた。
「それからね、香蓮ちゃんとももっと仲良くなりたいんだ」
「仲良く?もう十分、仲良いじゃねぇか」
「ううん、今はまだ7割ぐらいだよ。私はそれを10割にしたい。そのために大ちゃんの力が必要なんだ」
「俺の力......何をすればいいんだ?」
大輝がそう聞くやいなやエミュが両手に焼き魚を持つと立ち上がる。そして、大輝の問いに返答することもなく歩き始める。
「エミュ?」
大輝はその行動を不思議に思い、咄嗟にエミュを制止しようと声をかけた。するとエミュは立ち止まると振り返ることもなく答えた。
「それは大ちゃんが知っているはずだよ」
「......俺が?」
「うん、だけど大ちゃんは知らないふるを、いいや忘れようとしている。でも、それじゃあ香蓮ちゃんはずっと苦しいままだよ」
その言葉だけ残していくとエミュはこの場を立ち去った。
「人の考えていることはわからないのじゃ」
「ドリィもなの」
「......俺もだよ」
ずっと黙って話を聞いたフランとドリィは聞いていた感想を口にした。大輝はその二人に同調するように言葉を吐き出すとついでに「最近、わけわからん」といったため息も吐き出した。
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「よーし、君たちはその円に沿って並んで」
ローブを着た男は自分の部下であろう男女を描いた巨大な魔法陣の円に沿って均等に並べる。そして、並び終わると「その魔法陣に魔力を注ぎ込め」と命令した。
「それにしてあいつ、俺のムカデちゃんをかしてやったというのにむざむざと殺させやがって。それに俺に文句の一つも言わせないとは、とんだ野郎だ」
ローブを着た男はここにはいない、いや、正確にはこの世界にはいない男に関して愚痴を吐いた。確か、聖樹に住む女郎蜘蛛にやられたんだっけな。
「魔力注入終わりました」
「おー、わかった。なら、そこで立って待ってろ」
そう言うとローブを着た男は両手を魔法陣に向け、人族にはわからないような呪文を詠唱する。そして、詠唱し終わると部下たちに軽い口調で命令した。
「あー、お前ら。すまんが死んでくれ」
その瞬間、部下たちは声を出す間もなく体全てを赤い、血液のような液状に変わると勝手に魔法陣の中心に集まっていく。そして、集まった血液が真っ黒に染まり変わると黒い靄のようなものを発生させながら、人型へと姿を形作っていく。
「どうも、お初にお目にかかります。ベリアル様」
「おう、これは随分と礼儀正しいじゃねぇか。以前、呼び出した奴は俺を駒かなにかと勘違いした奴だったからな。思わずその場で殺しちまった」
ベリアルと呼ばれた悪魔はその時のことを思い出してカラカラと笑うとローブを着た男に尋ねた。
「で?お前はオレに何を望む」
「数多くの死でございます」
「......ほぅ」
ローブを着た男にベリアルは興味を示したように声を漏らした。そして、それがどんな意味を指すのかベリアルは理解した。
「なるほどな、それは面白い。それで、具体的には?」
「それだけでございますよ。あとは自由に破壊していけばいいのです。あ、あとは女神の探知能力が上がっているというのでそれにはお気をつけください」
「なるほど、いいだろう。なら......」
するとベリアルは醜悪な笑みを浮かべた。その笑みはローブを着た男をもゾッとさせるものだった。
「せいぜい弄んでくれようか」
「あれ?わらわの出番少なくないか?」
「こんなもんなの諦めてなの」
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それではまた次回。




