第58話 答え合わせ
「終わった~~~~!」
大輝は大声でそう言うとそのままへたり込んだ。そして、その行動に続くように大輝以外の仲間達もへたり込む。雰囲気からもわかるが、疲労感たっぷりだ。もうしばらく呼吸だけでやっていけそう。
するとふとフランが話しかけてきた。
「それにしても今回は凄かったのじゃ」
「確かに、あの骨が倒れなくてマジで焦ったわ~」
「三回も連戦するとか辛過ぎだよな」
「というか、勇者も俊哉もレイも無茶し過ぎなのよ!どれだけこちらを冷や冷やさせるつもり!?ねぇ、香蓮!」
「ええ、そうね。大輝に関しては今回も言いたいことは山ほどあるけど......助かって良かったわ」
「そうだね、香蓮ちゃんの言う通りだよ。死んじゃったら文句の一つも言えなくなっちゃうからね」
「本当に無事で良かったよ~」
「「「ほんとすいません」」」
大輝、俊哉、セレネは心からの謝罪をした。四人の言っていることは全くの正論で反論などもとよりない。香蓮には帰ったら言われたい放題だが、これは覚悟をしとかなければ。
大輝がそう思っているとフランが大声で叫んだ。
「ちっっっっっが―――――――――――う!そういうことじゃないのじゃああああ!!」
「フラン、耳元で叫ばないでくれ」
大輝は突然声を発したフランに驚くと咄嗟に手で耳を覆った。そして、「なにが?」と聞くとフランは言葉を続けた。
「凄かったというのはあのスケルトンに纏わりついていた悪気のことじゃ」
大輝はその言葉を聞くと当時のことを振り返った。確かに言われてみればあの骨の最終形態には黒っぽいのが纏わりついていた。そして、それからは災悪に似ていた。まあ、前にフランが災悪だって言ってたから似てて当然だけど。だが、それがどうしたというのか。
「わからないのは当然なの。本来のスケルトンは体が動けないように壊されれば、もう動くことはできないの」
「そうなのか.......でも、あの骨は動いていたぞ?」
「じゃから、それが問題なのじゃ」
未だわからない様子の大輝に若干ため息が混じった声でいうと結論から先に述べた。
「アレの正体は悪魔じゃ」
「「「「「は?」」」」」
フランのあまりにばかげたような言葉にセレネ以外の全員が呆けた声を出した。悪魔?え、なにそれ?いや、どういうのかはわかっているが、そんなものが実在したのか。まあ、女神様がいる時点でいるにはいるんだろうけど......まだちょっと常識違いをしてたか。
「......」
大輝がそんなことを思っている一方で、セレネはひとり考え込んでいた。なぜならそれは魔族の専売特許であるからだ。人族が勇者召喚なら、魔族は悪魔召喚。それだけ人族と魔族では有名なのだ。だが、この単語に対してレイが気づかないのも無理はない。なにしろそれは大昔の常識であり、いまでは滅多に使われなくなったからだ。
その理由は全て知っているわけではないが、悪魔と言えば代償を支払って契約する。その代償が自分にとって大切であればあるほど大きな願いが叶えられる。だが、それは言わずもがな様々な絶望な出来事を呼んだ。故にその言葉を知っている人は王族とその他のごく少数だ。これもレイが知らない理由の一つでもある。そして、この単語は魔族の間でもその言葉すら呼んではいけないタブーとなっているのだ。その単語を今聞くということは、フランが嘘をつかない以上ひとつしかない。
「誰かが召喚した?」
そうとしか考えられない。それもやったのは魔族だ。これは由々しき事態、このことが明るみになれば、人族と全面戦争になりかね......いや、そんなもんじゃすまない!今の勇者パーティにはエミュがいる。エミュは竜王の娘だ。これは世界を敵に回しているようなもんだ。勇者に竜王、勝率なんてゼロが無限にあるのに等しい。勝てるはずがない!
「ん?なにか思い当たることでもあるのか?」
「え?......い、いえ、言葉を失っていただけよ」
「そっか」
大輝に不意に聞かれたときは驚いたセレネだったが、王女直伝のポーカーフェイスでごまかした。
......これだけは勇者に言える話ではない。私が勇者に取り付いて内部情報を聞き出して、裏では悪魔を使って悪さをしていると思われたら......もちろん、勇者のことはそれなりに信用している。だが、キッカケがあれば人ほど簡単に変われる種族は他にいない。これは慎重に情報を集めなくては。
セレネはそう心に誓うと「最近悩みの種がやけに大きすぎないか」と思わずため息が漏れた。だが、無事やり遂げなければ。
「悪魔......か。まあ、詳しいことはこの際抜きにして、要するにぶっ倒せばいいんだろ?」
「あんたねぇ、なんでそんなに楽観的なのよ」
「ん?違うのか?」
「ああ、もう!......まあ、いいわ。言ってることは間違っていないもの」
「だが、着々とゴリ押し脳筋に近づてるな」
「うっさいわ」
大輝は俊哉の言葉に噛みつきながらも体を起こすと立ち上がる。そして、他の仲間達も立ち上がる中、エミュだけがまだ座って自身の手をジッと眺めていた。それを不思議に思った大輝はエミュに尋ねる。
「エミュ、どうかしたか?自分の手ばっか見て」
「う~ん、なんかあんまり実感がわかないんだよね。例えばもう一回変身したとして、成れるかどうか......ん?」
エミュがそう言うとそって手を差し出された。その手の先を見ると大輝がニッコリと笑っている。エミュはその笑みに見惚れながら無意識にその手を掴んだ。大輝はエミュが手を掴んだのを確認すると一気にい上げ、そして言う。
「大丈夫だ、俺を信じろ」
「......!」
「うおぉ!?え、エミュ!?」
エミュはその言葉を聞くやいなや衝動に身を任せるままに抱きついた。そして、何度も「ありがとう」と言葉を繰り返す。ついでに心の内で「大好き」という言葉も繰り返しながら。
周りの仲間はその突然の行動にエミュにしてはこうやって目の前でイチャつくのは珍しいと驚きはしつつも喜ばしそうな笑みを見せた。それはエミュの目的が叶ったことを知っているから。そして、その思いを一番に伝えたい相手が大輝だと知っているから。
「良かったわね......エミュ」
ただ香蓮一人、もう他の誰が見てもわかるほど歪な笑みを浮かべていた。喜ばしいことは分かっている。こちらもエミュが目的を叶えてくれて嬉しい。なのに......なのにどうしてこんなに胸が苦しいの。どうしてエミュの位置が自分だったらと考えてしまうの。なんで素直に喜べないの。こんな醜い自分が嫌い。仲間の幸せも祝えない自分が嫌い。......助けて、大輝。
香蓮の心は確実にヒビを大きくし、軋んでいった。
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「わぁ~、凄いですねー」
「だろ?そう悪いもんじゃないのさ」
現在、大輝はレイを中心街へと案内している。なぜこうなったかというと簡単な話でレイが祖国へ帰る前にどうせだったら【聖霊国 アイリス】の街中を見ていきたいと言い出したのだ。セレネもレイの仲間もレイの呪いが解かれたとはいえ、もとよりドジという危なっかしい属性を抱えているレイを野放しにしたくなかった。だが、大輝がそこで名乗り出して今に至る。この場にセレネやレイの仲間がいないのは、その二人が外に出るのを怖がってセレネがそれに付き添っているからである。
レイはおのぼりさんのように辺りを見回しながら感嘆の声を出す。大輝はこうして本来なら敵国であるレイが人族を知ってもらえていることに嬉しさを感じていた。
「おーい、勇者様ー!今度連れてる女の子は誰だい?」
「ははは、勇者様も結局は男だってことだ」
「勇者だから女の人をとっかえひっかえなのか」
「幼女や聖女まで手を出してるし、これはMEKSFDMファンクラブ第151条に抵触する」
「羨ま死ね」
「ちょっと待って!?俺、そんな女ったらしじゃないぞ!?」
周りに歩く民衆からの容赦のない言われように大輝は思わず取り乱す。だが、言った民衆はというと一部の過激派を覗けば、からかって反応を面白がっているだけである。ちなみにあのファンクラブ名はミリア、フラン、ドリィも含めた勇者パーティ女性陣の頭文字からとったものらしい。無理やりつけた名前なのでこれを初めて聞いた時、大輝は「なんかどっかのロボの名前みたいだな」と思わなくもなかった。
「え.....変態さん、そんなことやっていたんですか。やっぱ変態さん、いえ、鬼畜変態さんですね」
「えーと、一旦落ち着こうか。話せばわかるから。だからね?そんな離れないで、こっちおいで?」
「嫌ぁぁ~、犯される~!」
「おいコノヤロー!公衆の面前でなんてこと言いやがる!俺の積み上げてきた好感度が!!」
「やっぱ、そんなことやってたんだな」
「まあ、勇者もベクトルは違えど努力しているってことだな」
大輝は思わずその場で崩れ落ち嘆いた。これまでの行動が全て泡となって消えたような。あんにゃろー、マジ許さん。
そう思っている大輝とは裏腹に民衆の反応は「だろうな」というものだった。故にあまり下がりはしていない。むしろ親近感がわいたぐらいだ。一方、ある意味勇者をぶっ倒したレイは大輝を指さしながらカラカラと笑っている。
「ふー、笑いました。爆笑鬼畜変態さんですね」
「コノヤロー、絶対後悔させてやる」
大輝は軽く深呼吸して気持ちを落ち着かせると立ち上がり、歩き始めた。レイは大輝の横に並び歩く。
「そういえば、話が変わりますが......約束、覚えていてくれたんですね」
「ん?......約束?」
「え、覚えてなかったんですか!?てっきり覚えてたから......はあ、まあ、これに関しては仕方ないと思って不問にしますよ。あんな戦いがあった後では」
未だわからずじまいの大輝にレイはやや不満そうなため息を吐くとあの時の約束を改めて教えた。
「私が言ったのは、『相手のことばっか見ていて自分を見ていないから、相手のことが見えていない』ってやつです」
「あ~、あの激ムズ問題か。やっぱ、今考えてもレイの言語能力もしくは頭がおかしいとしか―――――――――」
「それ以上は殴りますよ」
「理不尽!?」
レイはもう一度ため息を吐くと大輝の前に出て向かう形で歩き始めた。
「爆笑鬼畜変態さんはちゃんと自分の心と向き合ってますか?」
「なあ、その呼び名は呼びづらくないか?」
「まあ、呼びづらいですね。なら、今まで通りでいきましょう。で、どうなんですか?」
「う~ん」
大輝は思わず唸った。自分の心と向き合う......それは一体どうすれば向き合うことができるのか。これまで考えたことはなかった。考える機会もなかった。なら、この際考えてもいいかもしれないが......う~ん、わからん。
大輝がなにも思いついてなさそうなのを察したレイは大輝に話題を提供した。
「わかっていなさそうだから、私から話題を提案します。時間もあまりないので、直球でいきますよ」
「ああ、わかった」
「誰が好きなんですか?」
「......!」
大輝は思わずその話題に目を大きく開いた。そして、一瞬の間思考が停止した。俺の好きな人......冗談かと思えば、目が本気だ。ということはレイは俺にもわからない好きな人を知っているということなのか?
レイは言葉を重ねる。
「エミュさんですか?」
「......」
「香蓮さんですか?」
「......」
「それとも姫様ですか?」
「......」
「......なるほど、そういうことですか」
レイは大輝のほぼ変わっていない表情から何かを読み取ったような発言をした。そして、この話題に対しての最後の言葉を告げた。
「答えを聞くのはやっぱなしにします。焦ることないですから、大いに悩めばいいと思います。ですが、早めに蹴りをつけないと面倒なことになりますよ」
そして、レイはグッと胸ぐらを掴む。その瞳は真っ直ぐ大輝の瞳を捉えていた。
「今は変態さんには、性質は違えど特別な感情を抱いている人が二人いますよね?ですが、答えを出せない今は出来る限り関係を維持してください。変態さんはまだその答えを出せるほどのレベルに達していないんです」
「なら、俺はどうすれば......」
「だから、自分に向き合ってください。その答えを探し続けることが変態さんには向き合うことになりますから」
レイは大輝から離れると「帰りましょう」と提案してきた。どうやらレイの中では言いたいことは全て言ったようだ。だが、その一体どれほどが大輝に伝わったかは分からない。しかし、これ以上はレイにも言えなかった。どう動いていくのかわからないというのもあったし、全ては大輝次第だからだ。
そして、帰ろうとしたレイはなにか一つ言い忘れていたみたいで大輝にもう一度目を合わせるとこう告げた。
「姫様のことも考えてくださいね」
「......え?」
「さあ、帰りましょう」
「ちょっと待て、レイ!?」
レイは大輝の制止も虚しく颯爽と帰っていった。そして、他の仲間二人を連れて祖国へと帰るときも大輝にそのことに関して一切触れなかった。
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