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第54話 もう辛い

心の機微って書くの難しいですね

 大輝、レイ、俊哉、茉莉以外の三人もまた知らない場所へと落とされていた。しかし、この場所は罠というよりは主に魔物の方が多い。


「香蓮ちゃん、そっち行ったよ!」


「ええ、任せて」


 香蓮はこちらに向かって攻撃してくるゴブリンを半身で避けるとそこから最小限の動きで頸動脈を切った。そして、腰に携えていた鞘を左手で引き抜くとそれを後ろへと横なぎに振い、背後に迫ってきていたコウモリの魔物を吹き飛ばす。


「二人とも一旦どきなさい......影の手腕(ゲンガーハンズ)


 セレネは二人が自分の攻撃範囲外に出たのを確認すると自分の足元の影から四本の腕を生やして、掴んで投げ飛ばしたり、握りつぶしたり、魔物同士を突き合わせてペチャンコにしたりといろいろな方法で、魔物を一掃していく。しかし、数が一向に減っていかない。


「これだけいて多いとは、ほんとに罠ダンジョンなの!?」


「おそらくだけど、大量の魔物が襲いかかって来るっていう罠じゃないかしら」


「それ、最悪ね」


「だけど、しばらく戦っているのに減らないとしたら、どこかに司令官がいて呼び寄せてるかもね」


「その可能性が高いわ。エミュ、探ってくれないかしら」


「わかったよ」


 セレネの言葉にエミュは肯定すると目を閉じて、この場にいる魔物の戦闘力を感覚で測り始めた。だが、無防備になったことでエミュに向かって一斉に魔物が襲いかかって来る。しかし、そうはさせないと香蓮とセレネが立ちはだかる。


氷の矢(アイスアロ―)雷刃(ボルトエッジ)


黒の武人(ダークネスアーマー)


 香蓮は氷でできた矢を多数の魔物に放ち、それで倒せなかった魔物や当たらなかった魔物に対しては自ら接近して、雷を纏わせた刀で一体の魔物を切ると同時に周りにいる数体を感電死させていく。


「香蓮、背中借りるわよ」


「ええ、わかったわ」


 香蓮は十数体を即座に切り伏せた後、足を少し開き踏ん張った。するとその背中にセレネの背中が当たる。


 セレネは手に纏わせた闇を巨大な手の形にすると同時に目の前に迫りくる魔物を押し返した。そして、香蓮が上体を前傾にしていくのがわかると背中合わせのまま香蓮の前方へと転がっていき、互いが正面から向き合う位置に立ったのを確認する。それから即座に香蓮はセレネの背後から来る魔物を、セレネは香蓮の背後から来る魔物をぶっ飛ばした。


 息の合った連携。だいぶ互いの呼吸が掴めてきたようだ。するとエミュから声が発せられた。


「見つけた、この魔物の集団の一番後ろで立ったまま動いていないリザードマンが!」


「了解!」


「わかったわ!」


「それじゃあ、そこまでの道を作るよ......せいやあああああああ!」


 エミュは左手を前に右拳を腰に辺りに構えて、正拳突きの姿勢になると思いっきり右拳を前に突き出した。するとエミュが拳を突き出した瞬間、猛烈な拳圧がリザードマンまでの直線上にいる魔物を次々と吹き飛ばしていく。


「シャアア!?」


「逃がさないわよ......香蓮!」


「ええ、氷連撃(フローズンガバレッタ)!」


 突如として、自分の存在が露わになったリザードマンはすぐに逃げようとするが、セレネが<影の手腕(ゲンガーハンズ)>をリザードマンの陰から生やして、拘束する。その隙を香蓮は逃さない。


 香蓮は一気に接近すると刀を上段に構え四連突きwした。リザードマンの胴体からは四つの氷柱のような氷が生える。


「これで、最後よ」


 もはや虫の息のリザードマンに香蓮は上から下にかけて一気に振り下ろした。その一撃にとってリザードマンの体は氷漬けになり、そのまま呼吸音が消えた。セレネはその一撃がどこか鬱憤晴らしにも見えなくなかった。


 それからの闘いは掃討戦になり、香蓮達は大きな問題もなく全て倒しきった。


「はあ、疲れた~」


「一向に減らなかったからね、しょうがないわよ」


「私も疲れたかな。久々にあんな多くと戦ったし」


 とはいえ、疲れないはずもなく。倒しきるやいなやすぐにへたり込んだ。これぐらいは許してもらえるぐらい戦ったからいいだろう。それにしても......


「大ちゃんたちはどこにいったんだろうね」


「そうね......」


 香蓮は思わず声のトーンを低くした。だが、その声の変化に本人は気づいていない。そのことにセレネはそっとため息を吐いた。とはいえ、この原因を作ったのは自分の身内(レイ)であるから、この際怒るべきはレイなのだが今はここにいないので、こちらとしても悩ましい気持ちが増していくばかりだ。......はあ、なぜこんなことでこちらまで悩まないといけないのか。いっそのこと、知らないことにしてしまおうか。いや、それをするにはいろいろと知りすぎたし、関わりすぎた。


 そう思いながらエミュの方を見る。けしかけた張本人の顔は全く何を考えているのか。デフォルトが笑顔だからか、たとえ嘘をついていても本当のことと感じてしまうだろう。最初はもっと単純で扱いやすいかと思いきや心も読めなければ、行動すら読めない。この上ない厄介な人物だ。そのうえ......


「ん?どうしたの、セレネちゃん?」


「あ、いえ、なんでもないわ。少しボーっとしていただけ」


 この上なく察しもいい。今もこうしてバレないように見ていたのに気づかれた。まあ、これは種族の問題でもあるけど、それが竜人族とはさらに厄介さが増す。やはりレイではなく、大輝に八つ当たりするべきだろう。だが、それは香蓮にバレないようにやらないといけないわけで、もしそんなのが香蓮の琴線触れたらエミュだけではなく、私まで疑いの目を向けられてしまう。それだけは勘弁だ。そう考えると香蓮が復活するまで大輝に何かするのは得策ではない。となると私の生贄(サンドバック)となるのは俊哉しかいないか。


 そんなことを考えていたせいか、いつの間にか結構時間が経っていて体力も回復していた。そして、三人が協議した結果、このまま進むことに決めた。もとよりここには一本道しかないし、進んでいけば必ず合流地点があるはずだ。


 そして、三人は立ち上がると歩き始める。


 しばらく無言だった中、突然エミュがセレネをドキッとさせる発言をした。


「香蓮ちゃん、そのネックレスどうしたの?」


「......!」


 セレネは思わずエミュの方を見る。だが、エミュはその視線にどこ吹く風といった表情だ。そして、そのままエミュは話を進める。


「似合ってるよ」


「ありがとう、エミュ。......これね、大輝がくれたんだ。迷惑かけたお詫びだって。こんなのでこれまでのツケを払いきれるわけないのにね」


 そう言う香蓮だが、その言葉の割には表情が合っていない。そのネックレスを握りながら、優しい笑みをしている。


 セレネは思わずため息が漏れた。「もう本当はわかっているんでしょ?」と問い詰めて、それでも気づかないようなら直接言ってでも気づかせたい。だが、その行動はエミュにきっと止められる。それはエミュにとってタブーだからだ。エミュはあくまで本人が自分の気持ちに気づくことにこだわっている。まあ、その気持ちはわかる。誰だって、自分の気持ちを一番分かっているのは自分だっていうだろう。それが、他人によって気づかせられるようならそれをそう簡単には認めないし、最悪拒絶するかもしれない。そうなれば悪いのはこっちだし、この先の旅で必ず問題が生じてくる。とはいえ、このままエミュの好き勝手に動かせていいものなのか。


「それは良かったね、これが初めてなの?」


「初めてではないけど、これは初めてね。だから、正直驚いている。大輝らしくないというか......」


 その言葉にセレネが再びドキッとした。なぜなら、知っているからだ。香蓮がつけているネックレスのことを。話の内容は分からなかったが、エミュと大輝、そしてミリアがそのネックレスが売っている貴金属店でいろいろと物色していたことを。だから、香蓮の言う「大輝らしくない」という言葉もあながち間違ってはいない。なら、気づく前に早急に話を終わらせなければ。


「ならさ、今度は――――――――――――――――」


「はいはい、おしゃべりはそこまでよ。今はダンジョンにいるのよ?もう少し気を引き締めなさい」


「ええ、そうだったわね。ごめんなさい」


「いいわよ。私たちはついこの前にとんでもないレベルの魔物と戦ったから、つい拍子抜けに感じてしまうぐらい」


 リリスは考えた通りにスパっと話を終わらせた。やはりと言うべきか、エミュは若干不満そうだ。なので、香蓮に聞こえないようにエミュに話しかける。


「エミュ、これ以上引っ掻き回すのはやめなさい」


「そのつもりはないよ。ってことはどこかで見てたの?」


 あいかわらず察しが良いというべきか、むしろ良すぎて怖いぐらいだ。そして、どことなくエミュの声色が冷ややかである。もしかしなくても一番、頭を悩ませるのはエミュであろう。


「ねぇ、もしかして妬いてるの?」


「な、なに、急にそんなことを!?」


「......なるほどね。私はてっきりスパッと否定するものかと思っていたけど......ふ~ん」


 そう言うとエミュは心なしか喜ばしいような笑みを浮かべた。セレネはその言葉に二の句が告げられなかった。そして、頭を抱えた。もう勝てる気がしない。とにかく今はとてつもなく分が悪い。


 セレネは咄嗟に距離を取る。そして、エミュに対して一方的に話しかけられないようバリアを張った。もうしばらくは静かに過ごしたい。


 そんなことをしながら進んでいくと正面から光が差し込んでいる部分を見つけた。


 三人はその場所を訪れるととてつもなく広い空間に出た。例えるなら野球ドームぐらいの広さであろうか。そして、三人がいる場所はそのドームの底から3メートルほど高い位置だ。一度降りれば、戻るのは困難だろう。また、ドームの端々に骸の山がいくつかあった。それから他にも香蓮達がいるところと同じような穴がいくつか見える。するとその穴の一つから見覚えのある顔が現れた。


「あ~あ、もうボス戦って雰囲気の空間だな」


「確かに広いね~」


「ウォン」


「としちゃんに茉莉ちゃん、レオちゃん!」


「ん?あ、お前らもここに着いたのか」


「良かったよ~、三人とも無事で~」


 声に反応した俊哉はその声のする方向を見た。するとはぐれた仲間の顔ぶれがあった。そのことに一先ずの安心を得る俊哉と茉莉。あとは大輝とレイっていう少女だけか。


「あの勇者はまだのようね」


「まあ、もしかしたらすでに地上に向かってたりするかもな」


「それなら私たちも戻りましょう......とはいえ、これまでずっと一本道だったのよね」


「私たちもだよ~」


「......ドゴンッ!」


「「「「「......!」」」」」


 その時突如として、ドームの天井付近から大きな爆発のような音がした。全員驚きながらも、咄嗟に身構える。もう動きは立派な冒険者となっていた。


 すると鈍い音を響かせながらドームの天井に穴が開いていく。そして、隙間から滝のように水が流れてきた。それから......


「「わあああああ!!」」


 二人の男女のような面影も一緒に。


「ひゃっ!」


「ぐふっ!」


 大輝はレイに下敷きにされるように地面に叩きつけられた。幸い、レイは無事のようだが、馬乗りの状態だったので腹部への圧力が著しい。そのため思わずうめき声が漏れた。


「だ、大丈夫ですか!?」


「だいじょばない......」


「しっかりしてください!」


「痛い痛い痛い!やめろ、ビンタすんな!大丈夫、大丈夫だから!」


 レイは大輝が今の衝撃で気が遠くなっているのかと思い、目を覚まそうととにかくビンタした。マウントポジションを取られている大輝はただただぶたれるばかり。その時だった。


「カタカタカタカタ」


 なにかが震えて甲高い音を鳴り響かせた。すると骸の山が不自然に動き出すとその骨でスケルトンを作り出した。それも無数の。そして、大輝たちはあっという間に囲まれた。


「「......へ?」」


「「「「「なにやってんだあのバカ――――――――!!!」」」」」


 仲間全員から怒気の籠った言葉がドーム内にこだました。

評価、ご感想、ブックマークありがとうございます。励みになります。


今日は「神逆のクラウン」も投稿しました。そっちも読んでくださいね。


それではまた次回

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