第52話 勇者と魔族
継続していく大切さを知ったような気がします。
「げぇほ、げぇほ......ここは?」
大輝はむせながらも周囲を確認すると知らない一本道に辿り着いていた。すぐさま<精霊の瞳>で見るが、とりあえず罠らしきものは検知できなかった。そのことに一先ずの安堵の息を吐くとふと仲間の存在にいないことに気づく。いるのはレイという魔族の少女だけだ。
レイは未だ目を覚ますことがないので、大輝は体を揺さぶって起こそうとする。
「おい、起きろ。おーい、おーきーろー」
「ん......ここは?」
「よお、やっと起きたか」
「あなたは......変態さんじゃないですか!?」
「誰が変態だ!」
大輝は思わず言い返した。とはいえ、完全否定はできない。男というものは少しぐらい変態が正常なのだ。......ってそれはどうでもよくて。
「どうやら俺たちは散り散りになってしまったようだな」
「そうみたいですね......って、まさかこの場に二人っていう状況を利用して私に何かする気ですか!?確かに、私は可愛いですし、ドジっ子がアピールにもなりますし」
「自己評価が無駄に高いな。っていうか、あれはドジってレベルじゃない気がするんだが。」
コケて、尻もちついた位置が放水ギミックのスイッチとはある意味運がいいと言えるかもしれない。もちろん、はた迷惑の方だが。
大輝はとりあえず立たせようと手を伸ばすが、レイはその手をはねのけた。
「変態さんの手は借りません......ってあれ?」
「おい、よろけるな!なんか嫌な予感がするから―――――――――」
「ガコンッ」
「シュバババババッ」
レイがよろけた拍子にたまたま手をついた場所が少しへこんだ。その瞬間、音が鳴るやいなや片方の壁から大量の矢が射出された。大輝はその矢を何とか全部避けた。間一髪だった。少しずれていれば、確実に刺さっていた。......あれ?おかしいな、ちゃんと見渡したはずなのに。もしかして見落としていたか?だとしてもなんてピンポイントな位置に。
大輝は軽く深呼吸するとレイに告げる。
「今の状況が整理し終わるまで、とりあえず動かないでくれ」
「な、なんですか、人を罠発動装置みたいに言って!?」
「やめろって。突然、石投げんなよ」
「ガタンッ」
「あ......」
「おいぃぃぃぃぃ!何やってんだぁぁぁぁ!」
「ひぃ!ごめんなさいぃぃぃぃ!!」
大輝は思わず怒鳴った。これは怒鳴ってもいい案件だ。なぜなら。音がした瞬間、大輝の足元から道幅いっぱいに大量の槍が飛び出してきたからだ。
大輝は土魔法で天井に手すりを作るとそれに捕まって、足を限界まで引いた。するとなんとか当たらずに済んだ。そしてしばらくして、槍が引いていくと大輝は地面に着地する。
「......で、俺の意見に反論は?」
「......ありません。ごめんなさい」
レイはさすがに自分の行動を反省した。三度も起こせば、気づかないはずがない。ああ、どうして昔っからこうなのだろうか。
暗い顔をするレイに大輝は思わずため息を吐く。そして、レイの目の前で背を向けるとそのまましゃがみ込む。この行動にレイは思わずキョトンとした表情をした。
「乗れ」
「え?ええええええ!?と、突然何言い始めるんですか!?」
「その方が安全だと思ったからだ。だろ、フラン?」
「そうじゃな、こやつからは邪気がするからの」
「ドリィもそう思うの」
「剣がしゃべった!?」
なんともテンプレな反応をするレイを大輝はさらりと無視すると「どうすんだ?」と尋ねた。レイはしばらく悩んだ末に大輝の背中におぶさった。そして、しっかり乗ったことを確認すると大輝は立ち上がり、歩き始める。
しばらくして大輝は<精霊の瞳>で周囲を確認しながらトラップを避けながら、レイに話しかけた。
「レイのドジって前からなのか?」
「前からと言えば前からですけど、ある日を境に酷くなったんですよ」
「あれを酷いってだけでかたずけられるレベルじゃないんだがな......」
「そうですよね。それはわかっているつもりでした」
レイの声はそこはかとなく悲しい感じがした。そして、また大輝はある言葉に引っかかていた。......あの日か。どんな日かはわからないが、これだけのことを体験するとおそらくとんでもないことに現在も巻き込まれている最中かもしれない。それからフランの「邪気がする」という言葉。これはもしかして.....
「......呪いか?」
「じゃろうな」
「また剣がしゃべった!?」
「いい加減慣れるのじゃ。それで話を戻すが、主様の言っていることは正しい。これはそういう類の気じゃ」
聖剣が言うのならこれは確定的なことだろう。聖剣は光、それに対なす呪いは闇であるから、検知できたのだろうな。しかし、本人が気づかないところで呪いとな、俺が思っているよりも大きそうな話になりそうだ。
大輝がそんなことを思っているとレイが口を開く。
「呪い......ですか。確かに、あれはそうでしょうね」
「なにか心当たりあるのか?」
「はい、昔にですよ......そんな深い話ではないんですが、私が小さい頃河原で良く遊んでいたんです。そんなある日に川の中で黒い水晶玉のようなものを見つけたんです。それは欠けていましたが、とてもきれいな漆黒で一目で気に入って、姫様にあげたいと思ったんです。そして、触れた瞬間、水晶玉から黒い靄のようなものが出てきて私の全身を包んだんです。その時は何もなかったんですが、少し歩いただけでこのようなことが起こり始めたんです。」
「......周りはどう思ったんだ?」
「ご察しの通りですよ。気味悪いと避け始めました。......当たり前ですよね、私自身の怪我は少ないのに、私の周りの人たちが怪我をしていく。『歩く災厄』なんて呼ばれましたけど、その通りだと思ったんです」
その時のレイの気持ちを推し量ることはできない。できるはずもない。そんな経験を味わったことはないから。でも、同情って言えばなんか上から目線のように感じるが、レイの悲しさは背中からひしひしと伝わってくる。過去の出来事を思い出して、思わず俺の服を掴んでいるのがわかる。
「でも、そばにいてくれる友達もいるんです」
「そうだな」
「見捨ててくれないお人もいるんです」
「知ってる」
「けど......辛いんです。そんな人たちが周りにいるのになにも返すことが、できないことが。だから、せめて明るく振舞おうと、元気でいようと。他の人になんと思われても」
「......」
背中から震え伝わってくる。鼻をすする音が聞こえる。わずかに握っていた力が強くなる。......助けたい。だが、今のレイになんて声をかければいいのか。わからない。けど、わかることもある。
「見捨ててくれないのは、そばに居てくれるのは、皆......お前のことが好きなんだよ」
「そう......なんですかね。こんなに迷惑かけたのに」
「大丈夫だ。なら、なんでわざわざ俺たちが動いていると思ってんだ?」
「それは......」
「ほんとはわかってんだろ?なら、セレネやあの二人に会った時の言葉は間違えんなよ」
「......はい、ありがとうございます」
レイは小さな声で感謝の言葉を伝えた。そして、優しく服を掴む。
背中から伝わる震えは消えた。どうやら俺はちゃんと言葉を送れたらしい。するとレイがふと気になったことを聞いてきた。
「そういえば、今さっきから全然不幸な出来事が起こってないですね」
「当たり前じゃな。主様に宿る神聖効果で呪いを打ち消していっているんじゃから」
レイの疑問にさらっとフランが答えた。大輝はフランの言葉を聞いて、少しだけ目を見開く。......今更ながら、俺って自分のこと案外知らないよな。神聖属性が俺自身に宿っているなんて知らなっかったし。ステータス以外で知り得ないことって意外とあるんだな。
大輝がそんなことを思っているとフランの言葉を聞いて喜んだレイが思わず身を乗り出した。
「それって本当なんですか!?」
「本当じゃが、まだ完全ではないから油断はきんも――――――――――」
「わーい、やった―――――!」
「おい、急に動くな」
「ガチャッ」
「「「......あ」」」
身を乗り出したレイによって、避けるはずだったスイッチを大輝は踏んでしまった。そのことに思わず呆けた声が漏れる三人。その瞬間、後ろからゴンッ!っと大きな音が鳴った。大輝たちは後ろを振り向くとどこからともなく道を埋めるような鉄球が。そして、なぜかそれが物凄い勢いで大輝たちに向かって転がってくる。
「「わあああああ!!」」
大輝は思わず走り出す。できるだけ他のギミックも発動しないように気を付けながらも、多少のことはやむを得ん。今大輝たちがいる場所は罠が多すぎて魔物が存在しないことが不幸中の幸いか。とにかく、今は逃げ切るだけだ。
そんな中、大輝の後ろから笑い声が聞こえてきた。その笑い声に思わず大輝はツッコむ。
「なにがそんなおかしいんだ!?ついに頭がおかしくなったか!?」
「違いますよ!ただ......楽しいんです」
「なにが?」
「こうして悩んでいたことが晴れたことは。もちろん、まだなにも始まっても終わってもいませんけど。それでも今はちょっとのことが明るく感じるんです。これっておかしいですか?」
「ああ、おかしいね!少なくとも今は違うだろ!?」
「あははははは、頑張って走ってくださ―――――――い!」
「こんにゃろめぇぇぇ!」
そう言いながらも大輝も笑っている。こんなことになりながらも明るくなれているなら、今後ともきっと大丈夫だろ。なら、すぐにでもあいつらに会わしてやりたい。
するとレイから声をかけられた。
「変態さんも悩んでばっかじゃいけませんよー!」
「悩んでいる?俺がか?」
「はい、そうです!相手のことばっか見て、自分のこと見えて無さすぎなんです!だから、相手のことがみえてないんです!」
「お前、何言ってんだ?」
大輝がレイの言葉が何一つ理解できなかった。言葉もメチャクチャだし、ついにおかしくなったか?
そう思ってしまったからか、不意に言葉に出てしまった。だが、レイはその言葉にイラ立つ様子もなく言葉を続けた。
「変態さんは今も私のために、姫様や私の友達のために頑張ってくれてますよね?それはとてもとても嬉しいです!ですが、その相手が変態さんに対してどう思っているか考えたことありますか?」
「......いい迷惑ってことか?」
「そう悪く考えている時点で変態さんはダメです!これは私からの宿題です!ここから出るまでにちゃんと自分なりの答えを出しといてくださいね!」
レイによる唐突な宿題宣言。大輝はその言葉にもとの世界のことを思い出し、少しげんなりした。しかし、未だにレイの言っていることが訳が分からない。言葉の断片的にも理解できていなない。確かに、悩みといえば悩みらしいこともあるが、まだ解決には時間がある気がする。だから、それは今考えるべきことではないだろう。
「ガコンッ」
その時、なにかギミックの発動音がした。今、足元にあったのはちゃんと避けたはずだ。そう思っていると背中から声が聞こえた。
「ごめんなさい」
「......何をした?怒らないから言ってみなさい」
「それ絶対、怒るやつじゃないですか」
「いいから、早く」
「バンザーイしていたら、手をぶつけてそのぶつけた位置にスイッチが......」
「ザアアアアア!!」
話を聞いていると後ろから聞き覚えのある音が聞こえてきた。これは......まさか......
「ザッパアアアアアアアアアアアン!!」
「バカヤロー!!......ごぼぉぉぉぉ」
「やっぱ怒った―――――――!.......ごぼぉぉぉぉ」
大輝たちは再び激流に飲み込まれた。
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それではまた次回




