第49話 何やってんだか
「ふぁ~~、こんな晴れた日にゃあ、外に出るに限るよな」
俊哉は大きく伸びをしながら、大通りを歩いていく。もともとこの国は晴れの日が多いが、今日は格別に青空が良く見える。周りから聞こえる賑やかな喧騒、露店や宿から漂う美味しそうな匂い。うむ、実に最高だ。
「ドンッ」
「ん?」
俊哉が周りを見回しながら歩いていると不意に足元に何かがぶつかった。「なんだ?」と思って、みて見るとそこには5歳児ぐらいの女の子が。そして、その手にはアイスが乗っていないコーンカップを持っていた。さらに近くには乗ってたであろう二つのアイスがあり、自身のズボンはそのアイスが当たったのだろう汚れていた。
女の子はアイスが乗って無いことに気づくとその悲しさか泣き出してしまった。
「うぁ~~~ん、アイスが~~~!」
「こら、だから走るんじゃないって言ったでしょ!申し訳ありません、俊哉様。お召し物を汚してしまって。どうぞこのお金をクリーニング代にでもお使いください」
女の子の母親であろう女性は自身の持つ鞄からかなり高い額のお金を出してきた。おそらく自分が勇者パーティの一人であるから、着ている服もさぞかし高いのだろうと思って出した感じだな。申し訳ないが、受け取れない。もともと受け取るつもりもないが、まずそのお金に似合うズボンではないのだ。なんせ場所も覚えてない古着屋で買ったものだし。
「いえいえ、お構いなく。俺が勇者の仲間であっても、今はここにいる人たちと一緒でただの一般市民です。そこまでされることはないですよ」
「でも......」
「なら、そのお金でもっといいアイスをこの子に買ってあげてください。俺はそちらをしてくれた方が嬉しいです」
「俊哉様.....!」
「ありがと!」
母親はうるうるとした瞳で俊哉を見る。だが、俊哉はその反応に少し困っていた。なんせちょっとしたテンプレで返しただけに過ぎない。もう少し言えば、好感度を上げるための打算的な回答でもあったからだ。だから、俊哉の顔は笑顔でも内心では己の良心にけっこうなダメージが。
俊哉はここにはいられんと足早にその場を去る。こんないい日なのに俺の心は曇り模様。
「うぁ!」
俊哉が申し訳なさそうにそそくさと歩いていると足に何かが引っ掛かり、思わずつんのめった。だが、そこは勇者パーティの一人。難なく体勢を直していく。そして、咄嗟に後ろへ振り返る。するとそこにはセレネの姿が。
「おい、なにすんだ」
「あら、私はてっきり良心の呵責に苛まれてるから、一度ぐらい転べば釣り合いがつくんじゃないかと思ってしてあげたのよ」
「エスパーかよ」
「少しは誇れる特技かもね」
セレネはそう言うと俊哉を置いて歩き始めた。俊哉は思わずその後を追った。少し思うところがあったからだ。
「で、なにか用があったから俺の前に現れたんじゃねぇのか?」
「あら、わかる?少し......聞きたいことがあってね。立ち話もなんだし、ちょっと座らない?」
その提案に乗った俊哉はセレネの後をついていき、近くの宿屋へと入った。そこで席に着き、軽く注文を済ませると話始めた。
「そんじゃあ、話を始めるが聞きたいことは分かってる」
「そうみたいね。私が聞きたいのは今の大輝と香蓮の現状よ」
実は大輝以外にも香蓮の違和感に気づいる者がいた。それがセレネだ。セレネはここ最近の大輝と香蓮の歯車が正常に噛み合っていないようなギクシャクした会話を少し不快に思っている。まあ、そうなった原因を知らないわけではないが、かといって介入立場でないことも確かだ。だから、近々俊哉か茉莉のどちらかにこのことで話そうと思っていだ。そして、たまたま近くにいた俊哉にこのような質問をした。
これを聞いた俊哉は浮かない顔をする。
「正直、それは当人同士の問題だからな~」
「それは分かってるわよ。というかあんた、知ってたの?」
「まあな、今に始まったことじゃねぇし」
俊哉はため息を吐くと果実水を一口飲む。セレネはその言葉を聞いて、頭を悩ませる。どうやら香蓮はこの世界に来る前から拗らせていたらしい。もともと苦労性の割には大輝に好きに動かせている節があったから疑ってはいたが......そのせいで自分自身に殻を作ってしまっている。
「あ~、なんにも言えないってもどかしいわね!」
「そうだな。どちらかと言うとセレネはズカズカ言って相手を従わせるタイプだしな」
「そんな酷いことするタイプじゃないわよ、私は。少し分からせるだけよ」
「それが怖いんだが......」
俊哉は思わず相手を踏んずけて罵声を浴びせるセレネの姿を想像してしまった。おそらくそう離れていないはず。そんなことを思いながら再び果実水を口に含む。どうやら俊哉は今は成り行きに任せるようだ。
一方、セレネはというとため息を吐いて「どうしようか」と悩んでいた。とはいえ何も浮かばないが。ああ、最近ため息ばっか。誰か幸せ分けてくんない?
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俊哉とセレネがお悩み中の宿屋を通り過ぎ去っていく二人の少女。
「このアイスクレープ、おいしいね~」
「そうね、こんな晴れた日にはよく合うわね」
大通りを歩きながら進んでいる香蓮と茉莉は手に持っていたアイスクレープを頬張りながら、様々な話をしていく。だが、ここ最近は専ら災悪討伐に関してだ。
「あ~、今でも不思議だよ~。こうやっていられることが~」
「そうね、私もよ。私も今という時間が楽しいわ」
災悪は強敵であった。全員の力を合わせて、ようやく倒したという感じであった。もちろん、レベルが全然足りないということもある、だがそれ以上にものを言うのは経験の差であろう。魔物と同じ感覚だと思っていたら、全然違う。災悪は災悪を対峙した人にしかわからない圧迫感と緊張感、そして恐怖感がある。これはいくら言葉にしようとも言い表せる言葉は今の自分には見つからないだろう。そして、その災悪に勝ち得た時の喜びもまた自分たちにしかわからないだろ。
「でも、まだ一体目なんだよね~」
「茉莉、それを言わないで。私も気が遠くなりそうだから」
そう茉莉の言う通り、これはまだ一体目。大輝のゲーム知識を借りて言うのならこの先の敵は段々と強くなっていく。そのことを考えるたびに大輝のあの時の光景がフラッシュバックして、思い出が壊れていくような感覚がある。そう考えないようにしなくても頭からその考えがこびりついて離れない......いや、そう思う前にすでに考えすぎてしまっているのだろう。
香蓮は思わずため息が漏れた。......それに、最近は......いや、あの時から余計なことをかんがえてしまっている。大輝のことを心配しても、真面目に答えてくれる大輝の言葉は疑ったことはなかった。あの言葉以外は。
『大切な仲間だと思ってる』
どうしてこの言葉に引っ掛かりを感じるのか。それは針でチクチクとほんの軽く突いた感じだが、それが妙によく感じる。あの時以来、大輝の言葉を素直に受け入れることが出来なくなってしまった。受け入れたら苦しく感じてしまうから。おそらく大輝も気づいているだろう。だけど、言えない。大輝の言葉が原因だなんて。これで私の大切な何かが壊れてしまうように感じるから。
香蓮の心に入ったヒビが少しずつ伸びていく。
......でも、きっと私に届く言葉を送れるのも大輝だけだ。だけど、大輝にはそんなことで悩んでほしくない。悪いのは私だ。私が考え過ぎるからこうなるのだ。だから、もう考えるのは止そう。これがきっかけで大輝との関係がおかしくなってしまわないように。
香蓮の心に別の個所からもヒビが入る。
「そうだね~、私も気が遠くなりそうだよ~」
「え?......あ、ああ、そうよ。だから今は、いや、今だからこそリフレッシュしましょう!」
「賛成~。それじゃあ、次何食べる?」
「そういえば、茉莉も意外と食べるのよね。......はあ、仕方ないわね。付き合ってあげる」
「ありがとう~」
そして、二人は新たに美味しいものを求めて歩き進む。ただ、香蓮の背中はいつもよりやや小さく映った。
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「はあはあはあ......速く!いそいで!」
「このままじゃ、追いつかれちゃうよ!」
「ま、まってぇ......私、体力ないんだってぇ~」
三人の少女は森の中を走っていた。ただひたすらに。
「バウ!」
「バウバウ!」
「ゴゴゴゴ――――――――」
後ろから追って来るのは二匹のオオカミの魔物と転がりながら追いかけて来るアルマジロの魔物。
なぜ追われるのかは知っている。仲間の一人が良しにつまずいてこけた拍子に咄嗟に木に巻き付いていた蔦を掴むとその蔦は大分丈夫だったらしく引っ張った瞬間、その蔦が巻いてあった枝が折れた。するとその折れた枝は近くに寝ていたアルマジロの魔物に当たり、睡眠を邪魔されたアルマジロは激昂して追いかけてきた。そして、逃げている最中に先ほどコケた仲間がアルマジロの魔物に向かって石をなげるとものの見事にはずれ、二匹のオオカミに当たった。
そして、現在に至る。正直、バカみたいな話だが全て本当のことだ。それもこれもその仲間のせいなのだが、他の二人は責めることはしなかった。
それから走ることしばらく、二人はどうにか逃げ延びた。
「はあはあはあはあ......」
「ひぃーひぃーひぃー......」
二人は荒れた呼吸を整えながら、追いかけてきた魔物の様子を見やる。すると三匹の魔物はどこかへと姿を消していった。
「「はあ――――――――」」
二人は思わず安堵の息を吐いた。これでもう追われることはなくなった。
「全く、ドジって範疇超えてるわよ」
「そうだね、もう少し気を付けてよ」
「「......あれ?」」
二人はもう一人の仲間に話しかけたつもりだが、その人物の声が帰って来ることはなかった。そのことに気づいた二人は思わず叫んでしまった。
「「どこ行ったのあのドジっ子~~~~~~~!!」」
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それではまた次回




