第46話 討伐後の宴#2
一味違ったエミュ回です。
時間は少し遡り、宴が始まって少し経った時の頃。エミュはちょっとした気合を入れていた。......今日は大ちゃんと大ちゃんと話そう。
「もぐもぐもぐもぐ.....」
そう思いながら、エミュは次々と目の前の料理を平らげ、そして新たな料理に手を伸ばしていく。ただ一心不乱に食べ続ける。だって、美味しいんだもの。
そんなエミュに近づいてくるエルフが二人。どちらともさすがエルフと言うべき、美男子で世の女性が歓喜し、世の男性が嫉妬に狂いそうな容姿をしている。そんな二人は言わばチャラいエルフ、すなわちチャラエルフである。そのチャラエルフAはエミュの隣に座ると気さくに話しかける。
「どう、僕らの料理は美味しい?」
「うん、おいしいよ」
「それは、良かった。実はね、それ。僕が作ったんだ」
「そうなんだ、美味しいからいっぱい食べれちゃうよ」
「ふふっ、それは良かった」
エミュの頑固爺でも頬を緩ませるような笑顔にチャラエルフAはまんざらでもない笑みを浮かべる。「よし、掴みはOKだ」チャラエルフAは同時にそんなことも思った。
すると次にチャラエルフBが話しかけてくる。
「なあなあ、『災悪』ってどんなやつだったんだ?」
「とっても大きいムカデだったよ......って今食事中だったね」
「ああ、別に気にしないから大丈夫だよ」
話の話題に失敗したチャラエルフBの肩を「何やってんだ」といった思いを乗せてチャラエルフAが殴った。チャラエルフBは「ごめん」といった感じで両手を合わせた。
二人はエミュに気づかれないようにやり取りしているのだが、エミュの感覚はエルフ以上に優れていて二人が現れた時点で嫌悪感を抱いていた。というか、そもそも容姿だけしか魅力がなく、誠実さに大いに欠け、興味は驚くほどにない。やはり、大ちゃんには負ける。嫌悪感を丸出しにして、おざなりな返事をしないだけマシだと思ってもらいたい。
だが、そんなエミュの気持ちを二人のエルフは知ることもなく。またしても話しかけてくる。
「そ、そうだ。この旅辛くない?」
「そんなことないよ、楽しくやってるよ」
「でもほら、君、可愛いし、勇者のパーティには男もいるけどほとんどが女性だしでなんか変な扱いとか―――――――」
「ないよ、それは絶対にない」
エミュは強い口調でスパっと言い切るとそのまま立ち上がる。それは、丁度大輝が宴の席から離れたからだ。まあ、二人ともう話すこともないと思ったのも事実だが。
そして、エミュは大輝の後を追ってその場から離れていった。そのエミュの後ろ姿を見るチャラエルフ二人は口喧嘩を始めた。
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「大ちゃんはどこかな~♪」
エミュは鼻歌交じりの声を出しながら、陽気に歩く。話す前から随分と嬉しそうな笑みを浮かべている。そして、宴が催されている広場から森の入り口に向かっている大輝の存在を見つけた。
エミュは大輝のところへ向かおうとするがすぐに立ち止まる。それは、大輝がなにやらキングトレントと話していたからだ。そして、話し終わると大輝はどこか哀愁を感じるような表情をしていた。
エミュはその表情が気になり、大輝に近寄って話しかけた。
「大ちゃん、少しとなり.....いい?」
「......ああ、エミュか。いいぞ」
「ありがとう」
そう言ってエミュは大輝の隣に座る、少し間を狭めて。
「何話してたの?」
「俺たちが倒した『災悪』に関してだ」
「あー、あの魔物は怖かったね」
「.....エミュ」
「どうしたの?」
「ありがと、助けてくれて」
大輝はそっと感謝の言葉を告げた。エミュはその言葉の意味を理解していた。おそらくあの魔物の必殺技のような攻撃を受けた時のことだろう。あの時の大ちゃんは震えていた。だが、同時にその気持ちに抗おうとしていた。抗うことは悪いことじゃない。けど、恐怖は時に抗ったら克服できない時もある。自分はそれを少し助言したに過ぎない。だから、この気持ちを克服したのは大ちゃんだよ。
「私はなんにもしてないよ」
「そんなことはない。エミュの助言があったから、俺はこうして生きている」
「......わかった。どういたしまして」
きっとこのまま否定し続けても大輝は言葉を譲らないだろう。なら、素直に受け取った方が大ちゃんのためになる。そう思ったエミュは大輝に笑顔で返事をした。
すると大輝が自分を誘ってきた。
「なあ、エミュ。もう少ししたら、この森ですごい光景が見られるらしいんだ。......俺は、エミュにずっと感謝している。だから、一緒に見ないか?」
「......!」
大輝の提案は物凄く魅力的であった、あのチャラエルフの数十、数百倍にも。エミュは心が飛び跳ねるのを感じ、すぐにでも「行きたい」と言いそうになったが、ふと視界の端に香蓮の姿を捉えた。香蓮は辺りをキョロキョロと身ながら、何か、いや、誰かを探している様子であった。その誰がわからないエミュではない。
なにも答えないエミュに大輝は「どうした?」といった表情を浮かべる。そして、大輝がその言葉を言おうとした時、エミュが先に発言した。
「ごめんね、大ちゃん。ちょっと用事を思い出しちゃった」
「......そうか。なら、仕方ないな」
エミュは立ち上がり大輝にそう言うと来た道を返し始めた。そして、そのまま進み香蓮のもとへ歩く。
「こんなところでどうしたの?」
「あ、エミュ。そうね、ちょっと美味しい空気が吸いたくてね」
「わかるよ、ここ森の近くだから美味しいよね。それに、私の国も森に近かったからこの木の匂いって好きなんだ」
「良かったわね。なら、帰る前に存分に吸っときなさい」
「はーい」
エミュと香蓮は気さくな会話をした。互いに笑顔が溢れている。
だが、エミュは気づいていた。香蓮の笑顔に若干の陰りが見えることに。だから、エミュは言う。
「そういえば、さっき森の入り口の方で大ちゃんを見かけたよ」
「......そう、なんだ」
「なんか少し休憩したら、またお腹空いてきちゃった。それじゃあ、私は広場に戻るね」
「ええ、わかったわ。存分に食べてきなさい」
「はーい」
エミュは元気よく返事すると歩みを進めた。終始、香蓮が大輝の方向へ向かっているのを確認しながら。そして、香蓮が自分から相当離れると独り言ち始める。
「こうした方がいいんだよ、香蓮ちゃんのためにはね。香蓮ちゃんはね、気持ちを押し殺し過ぎるんだよ。だから、私が背中を押してあげた。.......少しだけね」
そう言いながらエミュはある一点を見つめる。そこは何の変哲もない民家、否、その後ろに隠れている人物に。
「ねぇ、一体いつから気づいてたの?」
そう言って出てきたのはセレネであった。セレネは存在がバレたことになんともない表情を浮かべている。そんなセレネの顔を見て、エミュは無邪気な笑みを浮かべる。
「私の感覚をなめちゃダメだよ」
「......はあ、そうね。私が間違っていたわ」
セレネはもう一度大きなため息を吐く。するとセレネはエミュに問いかけた。
「背中を押す必要はあったの?不利になるんじゃない?」
「そんなことないよ。前にも言ったけど、言いたいことはちゃんと伝えないと後悔しちゃうから。私は香蓮ちゃんに後悔してほしくないんだ。香蓮ちゃんのこと好きだし。だから、気持ちを抱えている香蓮ちゃんに大ちゃんの居場所を教えたんだよ」
「それがどんな結果になろうとも?」
「......そうだね。だから、私も後悔しないように行動してるんだ」
「......そう。ということはエミュは香蓮の気持ちに気づいているという訳ね」
セレネはそう言うとまたまたため息を吐いた。このパーティは大丈夫なのだろうか、特に香蓮とあの勇者に関して。不安しかない。
その時、エミュがセレネの気持ちを読み取ったかのように発言した。
「そうだね。でも大丈夫だよ、同じ気持ちでも個々には違うから。それに―――――――――」
エミュは言葉を続けながら、人差し指を一本だけ立てるとその指を唇に当てる。そして、今までのエミュには想像もつかないほど妖艶な笑み浮かべた。夜空から刺す月の光がさらにエミュの魅力を高めていく。
「――――――竜は狙った獲物は逃さないんだよ。」
「......!」
「......なーんてね」
そう言いながら、エミュはセレネに背を向けると広場に向かって歩き出した。
一方、セレネはと言うとエミュの今の言葉が冗談には聞こえなかった。そして、あの人差し指を唇に当てるポーズ、あれはきっと他言無用というメッセージなのだろう。
「あ、そうそう......」
エミュはそう言って顔だけ振り返るとセレネに告げた。
「セレネちゃんも後悔しないようにね」
そして、今度こそ広場に向かって歩き始めた。そんなエミュの後ろ姿を見て、どっと疲れたようなため息を吐いた。
「あの子......ただの元気っ子じゃないわね」
セレネはある意味得体の知れないエミュに若干の恐怖を感じた。
それから、自分が隠れていた民家に寄り掛かると小さく呟く。
「後悔......ね」
もちろんしたくない、できることならば。だが、エミュが何に対してそのようなことを言ったのかわからなかった。そもそもエミュと香蓮の話を聞いたのはたまたまだし、咄嗟に隠れてしまったが、言いふらすようなつもりは一切ない。ただ......
「ある意味おめでたい奴らね」
エミュに関しても、香蓮に対しても、あの勇者に関しても。この旅で三人の関係性はどうなるのか。どうなってしまうのか。
「はあ......なんてところに首突っ込んだのよ、私は。......全部、あのバカ勇者のせいよ」
セレネは深く考えることは止め、ただ夜空の星々を眺めた。
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それではまた次回




