第41話 迷走する心
ヒロインの心情を書くのに苦戦しています(笑)
大輝たちは次々とまるでSA〇KEに出てくるようなアスレチックを突破するとついに聖樹の根元まで辿り着いた。
「でけぇ.....」
大輝の言った通り、聖樹を真下からみて見るとその大きさがよりはっきりわかる。顔を上に上げ過ぎて、首がもげそうだ。
「それじゃあ、今日はここで休もう」
時間はもう夕焼けで空が赤くなる頃。まあ、聖樹の葉のせいでほとんど夜にしか感じないが、それでも無理をしないことは大切だ。
大輝は土魔法で簡易的なテーブルと椅子を作る。そして、空間宝物庫から調理器具を出した。......なんか、ここ数日こんなことしかやってない気がする。料理を作ってくれてありがたいので何も言わないけど。
女性陣が料理の方を担当してくれている間、大輝と俊哉は周囲の警戒なのだが、基本的に周囲の警戒は精霊がしてくれているし、魔力練度を高めた土魔法で簡易的な柵を作っているが、それだけでも普通の魔物は壊すことができない。つまり何が言いたいのかと言うと......
「「暇だ~」」
大輝と俊哉は木に寄り掛かりながら、だらけていた。やることがない。料理を手伝うとか声をかけただけで怒られる。もうどうすればいいのか。
すると俊哉が口火を切った。
「なあ、この世界に来た時どう思った?」
「そうだな、興奮......するよりも先に『ここどこだ?』ってなった」
「まあ、お前の場合はそうだろうな」
「なら、お前は興奮したのか?」
「いや、お前と同じ感じだ。『あれ、大輝いなくね?』ってなった」
大輝と俊哉は懐かしそうに語った。この世界に来てから早4か月が経とうとしていた。大輝は冒険者として、俊哉は勇者一味としてこの世界を知っていった。地球という環境を知り過ぎているとどうにも慣れるのに時間かかった。
この世界の常識
この世界の環境
この世界の生物
生物を切る勇気
生物を殺す覚悟
その他にも細かいことを上げればキリがないほど、この世界はなにもかもが違った。来たばかりは後悔することもあった。だが、この世界は知れば知るほど楽しい世界であることが分かってからはあまりそうは思わなくなった。
「この世界、楽しいか?」
大輝は唐突に尋ねたくなった。俊哉の意見が聞いてみたくなった。
「今のところはな。......お前は?」
「似たようなもんだ」
「......なあ」
「なんだよ」
「帰りたいか?」
大輝はすぐには答えなかった。答えられなかった。王様と話して帰れることが分かってから、どこか踏ん切りがつかない自分がいる。それほどまでにこの4か月が濃すぎたから。それでも......
「帰りたいと思っている」
「......そっか、俺もだ」
大輝と俊哉はしばらく無言の時間を過ごした。しかし、不思議と悪い空気にはならなかった。香蓮の次に長い付き合いだ。悪くなろうはずもない。それに、もうすぐ討伐が始まるという実感を二人は少しづつ感じていたから。
しばらくして香蓮がやってきた。そして、夕飯が出来たというので大輝と俊哉は移動した。
食事を終えると大輝、俊哉、エミュ、茉莉が先に休んで、香蓮とセレネが念のための夜番をしている。するとセレネが口火を切った。
「香蓮も大変ね、あんな勇者と幼馴染なんて」
「そう?気づけば、慣れてるもんよ」
「全然、慣れる気しないわ」
セレネはそう言いながら嫌そうな顔をする。一方、香蓮はどこか懐かしい表情を浮かべていた。
「そうそう、あの時は自分勝手な行動してごめんなさい」
「いいわよ、無事であれば」
あの時とはセレネがワニの魔物に食われかけて、大輝に間一髪助けられた時のことだ。あの時は自分の立場を完全に忘れていた。それほど案外、居心地が良かったのだ。でも、これからは気を付けなければ。
するとふとセレネは大輝に言われた言葉を思い出した。
「香蓮、あの勇者と同じ言葉を言うのね」
「そ、そうかな」
香蓮はあまり気にしていないような反応を見せるが、いつもより笑みが柔らくなっている。しかし、それを気づいているのは話しているセレネだけで、セレネは思わずため息を吐く。エミュも香蓮もあの勇者のどこがそんなに気に入ってるのか。
「そういえば、幼馴染って言ってたけど、昔からあんなんなの?」
「セレネも気になるの?大輝の昔......」
「バカ言わないでよ。ただの興味本位よ。それに、あの勇者と一番話したがっているのは香蓮だってわかってるしね」
「わ、わたし、そんなこと思ってないわよ!」
香蓮は慌てて否定した。だが、その割には反応がしどろもどろのような気がする。目が泳いでいる。
「そんな否定することないじゃない。実際、話せてないのはホントでしょ?」
「まあ、それは......その.......」
「少し、エミュに遠慮しすぎなんじゃない?」
「そ、それは......エミュが大輝に用があるからで.....」
「本当にそれだけだと思っているの?」
「......」
香蓮は思わず表情を暗くした。......分かっている、用が無くても話してることぐらい。話している時のエミュは本当に楽しそうに笑っている。
自分も仲間が楽しそうに笑っているなら嬉しい。嬉しい......はずなのに、時よりそんなエミュを羨ましく見てしまう自分がいる。自分とエミュの位置が逆だったら、なんてどうしようもないことを考えてしまう。
妬んでいるわけではない、それは確か。でも、時より心になにか違和感を感じている。チクチクするような小さな痛み。気にしないようにすれば出来ないこともないけど、その痛みが何かを訴えるように主張してくることがある。......一体、これはなんであろうか。やはり、気にし過ぎであろうか。
暗い表情を見せる香蓮にセレネは慌てて話題を変える。これは香蓮個人の問題だ。浅はかに踏み込むべきではない。
「ね、ねぇ、香蓮と大輝の馴れ初めを聞かせてくれないかしら?」
「な、馴れ初め!?そ、そんな深い関係では......」
「あら、幼馴染なんでしょ?だったら、いろいろあるんじゃない?」
香蓮はさっきの表情とはうって変わって恥ずかしそうな顔をした。これにセレネは隠れてガッツポーズした。よし、これで下手に地雷を踏むことはなくなった。
少しして、香蓮は話始めた。エミュの時とは違い、口はすんなり動いた。
「昔の大輝は無鉄砲だったわよ。私の意見なんて聞きやしなかったわ」
「なんとなくわかるわ。きっとその時に今まで続く苦労性が鍛えられたのね」
「全くよ。でも、この世界に来てからか、大輝の生活リズムが良くなったのよね」
「え、何?そんなことまで考えてるの!?」
「さすがにそこまでは。私が言いたいのは、昔はよく寝坊助の大輝を起こしに行ったなと思って」
「え?今も変わらないわよ?ここ最近はエミュが起こしに行ってるみたいだけど」
「......え?」
香蓮の柔らかい表情は石のようにピタっと止まった。なにか信じられないようなものを見たような顔をしていた。そして、思わず「嘘......」と言葉が漏れてしまう。
なぜかたったそれだけで「なにか」が音を立てて崩れた。だが、その「なにか」はわからない。しかし、少なくとも衝撃的だったのは確かであった。
心の反発する音が聞こえる。しかし、香蓮は気づかないことにした。そして、セレネに気にしてないような表情をする。
セレネはその明らかな作り笑顔にやってしまった感が否めなかった。こんなところで話をする内容ではなかった。完全に地雷を踏んだ。
ただの世間話程度のつもりだった。だけど、それが相手にとって同じかどうかわからない。あまりに軽率な発言だった。
セレネは思わず唇を噛む。自分自身が嫌になる。すると、香蓮がセレネの肩にそっと手を置いた。
「気にしないで、セレネは悪くないわ」
「でも!」
「私自身もここ最近おかしくなっているのは分かっているの」
あの村で大輝......いや、エミュに出会ってから。
「でも、もしかしたら、大輝がより近くにいるように感じて苦労が増えているだけかもしれないわ」
「......」
「だから、そんな悲しそうな顔をしないで。私までも悲しくなってしまうわ。」
「うん......わかったわ。過ぎた言葉を言ったわ、ごめんなさい」
「うん、いいわよ。許してあげる。それに、私は切り替え上手なのよね」
そう言うと香蓮は笑みを見せる。それは先ほどとは違って作り笑顔ではなかった。しかし、その笑みに「寂しい」とか「悲しい」という感情がちらついているように見えた。
「時間よ。そろそろ、エミュと茉莉を起こしましょ」
「そうね、分かったわ」
そして、香蓮とセレネはエミュと茉莉を起こしに行った。
香蓮とエミュは数分だけ会話をした。たったそれだけなのにセレネからはその光景に違和感が感じて見えた。あんな話をしたからだろうか。だが、香蓮が言ったようにこれ以上気にしても仕方がない。二人の気持ちの行く先がわからない以上、下手に言葉にすれば先ほどのような失敗を繰り返す。それに、明日はついに討伐の日だ。もう一度迷惑をかけているから、自分が足を引っ張るわけにはいかない。
リリスは深く考えないようにしながら横になると眠りについた。
一方、香蓮はなかなか寝付けずにいた。リリスには「気にしてない」とは言ったが、それを受け止めきるにはもう少し時間がかかるぐらい香蓮にとっては大きなことだった。
香蓮はふとステータス画面のある部分に目をとした。そして、何とも言えない表情をする。
『職業 剣士 / 勇者の保護者』
「保護者......ね」
最初、見た時はなにかの間違いかと思った。それに書いてあっても気にすることは無かった。ただ、今となってはその意味が良く分かってしまう。
自分はいつまで経っても近づけないのか。やがて、離れていってしまうのか。自分は大輝に近づきたいのだろうか。それともこのままの程よい距離感でいたいのか。わからない。自分の気持ちがわからない。
「切り替え上手って言ったものね」
香蓮は小さく独り言ちると静かに目を瞑った。
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それではまた次回




