第35話 セレネとの約束/気持ちの行方
「主様、今日は鍛錬はしなくてもいいのじゃ?」
「ああ、今日はオフの日だ。前までは欠かさずにやってたんだが、たまには休むことも覚えろとクリスさんに怒られてからは一日ぐらいはオフの日を作るようにしてるんだ。」
「おーい、勇者様ー!だったらこれ買ってってくれよー。」
「しゃあねなー。」
「へへへ、まいどありー。」
そして、大輝は声をかけてきた店主の店でドネルケバブのようなものを買うとそのまま食い歩き始めた。「ロリコン勇者」と思われているはずには意外と声をかけられることが多い。大輝はその声に手を振って応えたり、少し話に付き合ったりとしながら街を練り歩いている。なんだかアイドルにでもなった気分だ。それだけ、自分が勇者であることが浸透してきたのか。
今日は珍しく幼女二人がいない。他の場所で誰かと一緒かエミュに拉致られてるかもしれない。剣が無くて大丈夫なのかと思われるかもしれないが、契約者特権で命令すればすぐに光の粒子状になって手元にまで飛んでくるので別に手元になくても問題ない。加えて、やはり勇者という職業柄かステータス値が他よりも高いらしい。だから、よっぽどの相手でなければある程度は素手で対処できる。
大輝が買い食いを続けていると丁度こちらに向かって歩いてくる人物がいた。......あれはセレネか?
セレネはこちらに気づいていないらしく、手に買い物袋を持ちながらなにやらため息を吐いて暗い顔をしている。大輝はそんなセレネに自分の存在をアピールするように手を大きく振った。するとそれにはセレネも気づいたようで、こちらに近づいてきた。
「あんた、こんなところでなにやってるのよ。」
「見ればわかるだろ?買い食いだ......一つ食うか?」
「一つだけとはケチね。」
「それは言葉の綾というやつだ。」
大輝とセレネは互いに一歩も引かずに言い合う。これはセレネと話すとまずこんな形で言い合い、そして本題に入るのがいつもとなっている。大輝が気にしてないとわかっているのかセレネの言い方は日を増すごとに少々きつくなってきているが。
大輝は空間宝物庫からフランクフルトのようなものを手渡すと代わりに買い物袋を渡された。
「ほら、どうせいるなら持っててくれないかしら.......荷物持ちさん?」
「......はいよ。」
大輝は仕方なさそうに受け取るとそれを空間宝物庫にしまった。これは出会ってすぐに付けられたあだ名である。どういう理由でかというと単純な話で大輝以外<空間宝物庫>というスキルを持っていなかったのだ。なので、いっぱい持ち運べる大輝に集中的に荷物が集まるということだ。最近は便利道具のように使われている気がするが.......いや、気がするじゃない。使われているのだ。
「それにしてもこんなところでなにしてたんだ?」
大輝がそう思うのも訳がある。それはセレネが歩いてきた方向だ。大輝が今いるのは東の商業区だが、セレネが歩いてきたのは南の少し治安の悪いところからだ。正直、よっぽどの用がない限りそこに行くことはない。だが、そこから来たってことは用があったのだろう。セレネが用がある理由と言えば.......
「もしかして――――――――――」
「その先は言わなくてもいいわよ。きっとあんたが察している通りだから。それに......あんたには聞きたいことがあるのよ。」
「......聞きたいこと?」
「ここじゃあ、話しにくいから」と大輝はセレネに連れていかれるままに近くにある広場のベンチへと座らされた。そして、セレネも大輝の隣に座ると一つ呼吸をおいて口火を切った。
「わたしの目的......知ってるわよね?」
「確か、母親を探してる.....だったな。」
「そう、わたしの母様はね、可愛いもの好きなのよ......特に子供が。母様が出ていく最後のセリフが『もうこの場に私が欲する癒しがない!もうセレネも、可愛げがないし、私は癒しを求めて旅に出るわ!』っていうものだったから。」
「へ、へ~~~~~~。」
「まあ、そういう反応になるわよね。私たちもそうだったから。母様は魔王に愛想をつかしたって言ってたけど、実際には私に対してもだったのよね。......というかあの無類の子供も好きの母様にも問題があると思うんだけどね。」
「ほ、ほう。」
「私は正直すぐに終わる帰って来ると思っていたんだけど、全然半年経っても帰ってこなくてね。心配になったのもあるけど、母様がいなくなったことで国全体に影響がちょっとづつで始めたのよね。それで、魔王が軍を率いて探しに行こうとしたから、かわりに私が探してるのよね。」
「......ナイスファインプレー。」
「私もそう思うわ。あの感じはこの世界自体を敵に回そうとしてたから。......ほんと説得には苦労したわよ。私の護衛を巻くのもね。」
セレネはその時の苦労を思い出したのか実に疲れたように両手で頬杖をついてため息を吐いた。そんなセレネに大輝は苦笑いを浮かべる。というか先ほどから苦笑いしか浮かべていない。反応に困るのだ。
大輝はこの話題は分が悪いと思うとここに来る前にセレナが言っていた聞きたいことについて尋ねた。
「そういえば、さっき言った聞きたいことってなんだ?」
「ああそれね......単純な話よ、あんたに関することでね。」
「俺に関すること.......。」
セレネは一呼吸おくと俯きながらも大輝にはっきりと聞いた。
「あんた......魔王を殺すの?」
魔王......つまりはセレネの父親だ。やはりセレネといえどいくら嫌っているとはいえ大事なたった一人の家族が死ぬことは望んでいない。だが、この世界の常識としては人族と魔族は敵対関係だ。それは昔からずっと続いている。聖女が言っていた『災悪』には魔王討伐も含まれているかもしれない。そう持っているのだろう。そして――――――――――
「安心して、私は恩を仇で返すようなことはしないわ...........信じて。」
セレネは大輝の目にしっかりと目線を合わせて告げた。この目は暗く、悲しく、寂しく、しかし確固たる覚悟の炎を宿していた。きっといやほとんど確信をもって俺たちが魔王と戦うと思っているんだろう。だけど......
大輝はセレネに笑ってみせる。優しく、出来るだけ優しく。セレネは大輝の笑みに思わず固めたはずの覚悟が霧散した。
「まだそうと決まったわけじゃねぇだろ?」
「でも、あの聖女が『災悪』って――――――――」
「確かに言ったな。だが、言っただけだ。その言葉に『魔王』っていう単語を聞いたか?」
「それは......聞いてない......けど。」
「なら、まだわからないじゃないか。それにセレネが居れば戦うこと自体防げるかもしれないし。」
「いや、それはむしろ私のせいで戦いになるかも......。」
「あ......うーん......そ、そん時はそん時だ。」
「........。」
なんだろう一気に説得力が消えたような.......。そんな気持ちを読まれたのかセレネにジト目を向けられる。大輝は一つ咳払いをすると続けた。
「と、とにかくそんなわからない先のことを考えるよりは母親探しの方に焦点を当てた方がいいんじゃないか?それに......もし理不尽な理由で戦いになるんだったら俺が抗議してやるよ、女神様にな。」
「......はあ、勇者のくせに罰が当たるわよ。」
そう言いつつも大輝の言葉にセレネは嬉しそうな笑みを浮かべる。大輝の言葉が喜ばしく感じる。......いやいや落ち着きなさい私!これは弱った心につけ込む悪徳手口と一緒よ。
セレネは思わず大輝を睨みつける。睨みつけられた大輝はなにか失言したのかと思ってあたふたし始めた。そんな大輝の行動にセレネは笑ってしまった。そしてベンチを立ち上がると小さく呟く。
「......ありがとね、勇者。」
「お、感謝された。」
「......!き、聞いてんじゃないわよ!ロリコン勇者!」
「理不尽!?!?」
大輝はセレネに思い切り腹部を殴られ、悶える。セレネはそんな大輝に勝ち誇ったような笑みを浮かべると大輝に「さ、帰るわよ」と一言だけ言い放つと歩き始めた。大輝は腹部の痛みに堪えながらセレネの後についていった。
**********************************************
香蓮がセレネと鉢合わせてから同時刻、大輝がいた場所とは違う場所に二人の少女が歩いていた。
「香蓮ちゃん、買い物付き合ってくれてありがとうね。」
「いいわよ、私も丁度買うものがあっただけだし、それにまだこの街の隠れスポットとかは知らないでしょ?」
「うん、教えてくれると嬉しいな。」
エミュは煌びやかな笑みを浮かべる。ま、眩しい。眩しすぎる。大輝に対しての疲れが吹き飛んでいくようだ。そして、こちらも自然と柔らかく笑える。ま、魔性だ。香蓮はエミュの存在に慄きを隠せなかった。
「それにしてもなにを買うの?」
「普段着をね。さすがに何もない日に戦闘服を着ていてもどうしようもないし、人族に合わせるだったらあった方がいいと思うしね。それに......。」
「それに?」
「大ちゃんにも見て欲しい......から。」
「......そうね。」
エミュの言葉は段々と尻すぼみになっていき、先ほどの元気溢れる笑みとは違ってしおらしい笑みをした。その笑みを見るとなぜかすぐには返答できなかった。そして、心がほんのわずかな抵抗を見せたような気がした。
「香蓮ちゃんは何を買うの?」
「ああ、私はね、いつ女神様からのお告げが来てもいいように大輝からあった方がいいものをリスト化してもらってそれを買おうかなって。」
「わざわざ香蓮ちゃんが買いに行く必要もないんじゃない?」
「大輝は昔からやる気がないことにはめっぽうめんどくさがりなのよ。そうでなくても忘れっぽくて。」
「え、そうなの!?私が一緒のときにはそんな姿見たことないなー。」
エミュは少し羨ましそうな顔をする。しかし、すぐに気を取り直すと大輝の話に食いついた。
「ねぇ、香蓮ちゃん。昔の大ちゃんを少し教えてくれない?」
「昔の大輝.......。」
エミュの言葉を聞くと香蓮の頭の中ですぐに小さい頃の大輝が思い出された。だが、それを話す気にはなれなかった。口が抵抗した。心が抵抗した。今までの大輝と積み上げてきた大切な記憶。しかし、香蓮はなぜ自分の体が、心がこうなるのかわからなかった。だから香蓮は重々しい口を開き、ゆっくりと語りだす。
「小さい頃の大輝は本当にやんちゃでね、私は困らされたものよ。」
大人も登れないような高い木に登ったり、私が虫が嫌いなの知ってて虫を持って追いかけてきたり、橋から川へとダイブしたり、他にも危なっかしいことばっかりしていた男の子であった。一時期、嫌っていたこともあった。だけど、いつも楽しそうな顔をしていて、楽しいことを教えてくれて、面白いものを見せてくれて、いろんなことを一緒のなって体験させてくれて、危ない時には後先考えずに助けてくれた。
香蓮はふと自分が笑っていることに気が付いた。この際、どれだけ困らされたか言ってやろうと思ってたら、いつのまにか自分が幸せだった思い出を語っていた。なんだか無性に恥ずかしく感じる。そんな香蓮にエミュは優しい笑みを浮かべた。
「嬉しそうだね、香蓮ちゃん。」
「な、何言ってるのよ。は、恥ずかしいだけに決まってるじゃない。」
「ううん、そんなことないよ。少なくとも私にはそう見えたかな。」
「.......うぅ。」
香蓮の羞恥がさらに高まり、さらに顔が赤くなる。エミュはそんな香蓮を横目で見ながら、ふと空を眺める。
「......私はやっぱ羨ましいな。大ちゃんとの間にそんな小さな頃の思い出ないから。」
「それは仕方ないわよ。」
「そうは思ってもね.....。」
「ならこれから思い出を増やしていけばいいんじゃない?」
「.......そうだね。うん、そうだよね。」
エミュは再び元気な笑みを見せる。やはり、あのしおらしい笑みは大輝との話題だけらしい。そのことが妙に引っかかるのだが、どうして引っ掛かるのか、どこらへんに引っ掛かっているのがわからない。それにこの引っ掛かりはそこまで強い引っ掛かりでなないし、あまり気にすることではないか。
「ねぇ、ちょっとあそこのお菓子食べていかない?」
「いいね~。」
そうやって二人は楽しそうにぶらつき始めた。そして、香蓮がこの引っ掛かりに疑問を感じ始めるのはもう少し先の話である。
評価、コメント、ブックマークどしどし募集中です。
それではまた次回




