第30話 実は〇〇だった少年と〇〇の娘
第2章の始まりです。最初の数話は小話が少し多くなります。
「わ~~~~気持ちいい~~~~なの~~~~!」
ドリィは風に髪を靡かせながら、笑顔で叫んだ。大輝はそんなドリィを「良かったな」という思いをしながら見る。
現在、大輝たちは馬車に揺られている。そしてその中で、香蓮、茉莉、謎の少女と大輝、エミュ、ドリィといった感じで向かい合っていた。最後の一人の俊哉はというと馬車の前で馬を操作していた。
香蓮は大輝が無事で安心すると何があったのか説明を求めるとそれについて大輝は簡単に説明した。
「――――――――――ってわけだ。だが、なんで俺だけハブられたのかはわかんねぇ。」
「はぁ、まあ良かったわ、とりあえず無事で。エミュも大輝を支えてくれてありがとう。」
「どういたしまして。でも、私は大したことしてないよ。」
「それでも、大輝一人だと心配だったから。ほんとに助かったわ。」
「おい、香蓮。俺は何歳児扱いだ。」
大輝は香蓮の言葉に思わずムスッとする。香蓮はそんな大輝を流し目で見ながら、話を進めた。
「それでだけど、私たちもどうして大輝だけが別の場所に飛ばされたのかわからないわ。」
「えーと、女神様が言ってたんですけど。なにか卑猥なものがあって、それで手元が狂って月島君だけ召喚する場所の座標がズレちゃったらしいんだよ。」
「.....卑猥なもの。」
なにやら横からの視線が痛いが、大輝はその言葉を頭の中で反芻してなにか該当しないか探った。そして少しの間考えてるとふと横以外の視線を感じ、その視線の先を見ると俊哉と目が合った。俊哉は大輝を申し訳なさそうな見ている。大輝はその瞬間、頭の中で今も地味に持ち続けているあの本のことを思い出した。......てめぇが渡した聖書のせいかぁぁぁ!
大輝の怒気を込めた目を見るとビクッとしながらススッと目を逸らしていく。だが、怒るに怒りきれない。なぜならこれがあったおかげで別の場所に飛ばされて、エミュに会え、クリスさん達に会え、他の冒険者に会え、そしてドリィに会えたのだから。大輝はやり切れない思いのため息を吐くと香蓮達に話を進めた。
「......ってことは、勇者は俊哉なのか?」
大輝がそう思うのも無理はない。なぜかというとそれは香蓮達の恰好にあった。俊哉は全身を薄いエメラルド色をした板金鎧で身を包み、茉莉は高級そうな魔導服に、香蓮は見た目は一番軽装だが質のいい素材でできている服を着ている。これは精霊の瞳からの情報なので確実だろう。だが、三人は頭を盾には振らなかった。
「勇者はお前なんだよ、大輝。」
「...........は?」
「そんな顔されても困るのよね。私たちを召喚した人たちも『勇者がいない!』っててんやわんやだったんだから。」
「いやいやいや、それはおかしい。だって、俺がこの世界に来てステータスを見た時、職業欄に『勇者』なんて書かれていなかったぞ!?」
「なら、今見て見れば~?」
腑に落ちない顔をしながらも大輝は茉莉に促されるままステータスを見た。
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名前 月島大輝 LV58 職業 勇者
攻撃力 630
防御力 583
魔力 605
魔法防御 559
スキル 属性魔法 (火)LV1~46 解放済み
LV47 アンロック
(風)LV1~46 解放済み
LV47 アンロック
(地)LV1~46 解放済み
LV47 アンロック
無詠唱
空間宝物庫
異世界言語理解
気配察知
魔眼 聖霊の瞳
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......あれ?しばらく確認して無かったけど、職業欄が変わってるような。......確か、前に書いてあったのは魔法剣士(?)だったような。いつの間に俺はこんな職業に成り代わっていたんだ!?
大輝はただ目を点にしながらしばらく呆けていた。そして、意識を取り戻した後、他の三人のステータスについて聞いてみた。
「私は剣士ね。レベルは46。属性魔法は雷と氷よ。」
「私はね~、魔術師だよ~。でも、どっちかというと回復・支援系に近いかな~。レベルは42。」
「俺は精霊騎士だ。レベルは53で、精霊魔法と光魔法が使える。」
「精霊?それに光?」
「......どうした?」
大輝は思わず俊哉の言葉に反応した。あいつが精霊騎士.....ふっ、似合わな。まあ、それは別にいいんだけど、問題はどうしてあいつが光魔法を使えるんだ?光魔法って言ったら普通は勇者の特権魔法だろ。......ってことは普通俺じゃね?
「なあ、なんでお前が光魔法なんだよ。」
「んなこと言われてもなぁ。適性があったとしか言いようがないし。まあ、言いたいことは分かるぞ?俺だって『それ普通勇者のじゃね?』って思ったし。」
「......ちなみになんだが、俺は大精霊に会ったって言っただろ?」
「え!?そうなのか!?すまん、さっき運転に集中してて聞いてなかった。......それで?」
「俺、その人から『精霊の瞳』っていう魔眼をもらった。」
「......え?それ職業的に俺のじゃね?」
「「........逆じゃね?」」
大輝と俊哉は見事に意見が一致した。お互い腑に落ちない顔をするが、久々の会話を楽しんでるようにも見えた。そんな大輝を見てエミュは自分事のように嬉しそうな顔をする。一方、香蓮はそんな二人の距離を推し量るように見ていた。
大輝は一先ず俊哉との議論を置いておくと先ほどから不自然にフードを被った少女のことについて聞き始めた。
「それじゃあ、そろそろ触れたい話題があるんだが、そいつは誰だ?」
「あ、彼女は――――――――――」
「いいわ、自己紹介ぐらい自分でする。」
少女はそういうと被っていたフードをとった。ありていに言って美少女であった。赤い髪に赤い目、そして攻撃的な猫のような釣り目。うん、ツンデレ属性にピッタリだ。
「私はセレネ・ロウ・ミスティリア。セレネで構わないわ。そして......私は魔王の娘よ。」
「.......は?今、なんつった?」
「魔王の娘。一回で聞き取りなさいよ。」
「わ、悪い。」
大輝はその言葉を聞いて押し黙った。当然と言えば当然だろう。多くの勇者を主人公とした冒険は最終的に魔王を倒して話が終わる。それがたとえ魔王の娘であっても、自分たちが敵対関係にあるということは変わらない。もちろん、この世界の常識がはっきりと分かってないので確定的ではないが言うほど離れていない可能性もある。なので、その魔王の娘とともにいる香蓮達は一体どういうことなのか。大輝はそれがひどく気になった。
セレネは大輝の考え込んだ顔を見ると軽くため息を吐いた。
「......はあ、そりゃあそういう反応になるわよね。やっぱ、あんた達の反応がおかしいのよ。」
「まあまあ、セレネ。そう判断するのはまだ早いわよ。とりあえず、私たちに説明したように大輝にも説明してみたら?」
香蓮は早計な判断を下したセレネに話の続きを促した。セレネは「そんなものわかりよく見えないけれど」と呟きながらも説明を始めた。
「私は今、私の目的を手伝ってもらう代わりに香蓮達の勇者活動を手伝ってるの。」
「その目的って?」
「私の母様を探すことよ。あの飲んだっくれの魔王に愛想つかして出て行ってしまったのよ。私は1年も探し続けてけど、私の行動力には限りがあるの。だから、ダメもとで誰かに手伝ってもらおうとしたらその相手が勇者だったってわけ。」
「......なるほど。」
セレネもいろいろと苦労してそうだな。今思ったんだが、上手くいけば魔王との闘いとか回避できんじゃね?セレネの容姿から判断すると魔王も人っぽいし、人は出来れば斬りたくねぇし。だから、もしそのセレネの母親を探せば、義理は何が何でも返すようなタイプに見えるセレネだったら何か魔王に口添えとかしてくれんじゃね?......まあ、まだ今の時点では判断できないが、ここで即決することでもないだろ。それに、人を見る目がある香蓮が割と気を許していることもあるし。
「まあ、別にいいんじゃね?手伝うぜ、それ。」
「ちょっと、私が言うのもおかしいけどそんな判断でいいの!?あんた、勇者でしょ!?」
「そうみたいだな、実感は無いが。だが、別に勇者であっても無くても変わらなかったと思うぞ?」
「........っ!」
「ほら?言ったでしょ?」
「そうね。相当のバカね。」
「おい、香蓮。何を言うか。」
「そこまでは言ってないわよ!ただ、ちょっとアホみたいなことぐらいよ......。」
「言うほど変わらんぞ。」
大輝は妙な裏切られ感を感じ口を尖がらせる。そんな大輝をなだめる香蓮。その光景を不思議にそうに見つめるドリィと楽しそうに笑うエミュ、茉莉、俊哉。
「こんなんで大丈夫なの?」という雰囲気を全開に出しながらセレネは大きなため息を吐いた。
それではまた次回。




