第26話 男の意地#5
大輝はそれから怒涛の一週間を過ごした。朝早くからクリシュナの修行に始まり、ライナ、ユリス、リズベットと続き、そしてその四人の修行が終わると次に冒険者の総組手が始まった。そして大輝はその組手を始めの四人から学んだことを活かしながらぶっ倒れるまで戦い続けた。そうして一日が終わる。また、修行のレベルは日を追うごとに大輝がその修行についてこれようとなかろうと強制的に上がっていった。大輝はそれに死に物狂いでついていった。
そして決闘当日運命の日はやってきた。大輝とラディウスは一週間前と同じように互いに向かい合っている。そして、周りは全ての冒険者が見つめている。エミュは心配そうな顔をしながらもに、しかし全てを託したような目で大輝を見つめている。
「逃げずにやってきたようだな。」
「はっ、何を言い出すかと思えば僕が自分よりも2ランクも下の雑魚虫に臆すると?」
「ああ、てっきりお前にとって全く利益にならないこの戦いをしないと思っていたからな。」
「ふん、そんな弱き者と一緒にしないでもらいたい。」
ラディウスは苛立ったように答えた。だが、大輝にとってはそのプライドの高さがありがたかった。このままとんずらでもされたらどうしようもなかったから。
大輝は木刀をラディウスに向かると宣言する。
「勝敗の約束は覚えているな?この一週間をお前がどう思おうが構わないが、前回の俺だと思っていると痛い目見るぜ?」
「忠告のつもりか?」
「そう聞こえたか?まあ、そう言ってるんだがな。」
「......なめやがって!」
ラディウスは一層怒気を浮かべた表情をする。挑発してかき乱すようなことはするつもりは無かったが、相手が勝手に苛立ってくれるなら好都合。大輝はそれに思わず笑みを浮かべる。ラディウスはそれを自分をなめているものだと勘違いしてさらに青筋の数を増やしていく。しばらくしてラドフがしゃべり始めた。
「審判は前回と同じで俺が務める。もちろん、公平な目でな。......それじゃあ、準備はいいか?」
「早くしろ!」
「顔が怖いぞ?.....俺もいける。」
「......決闘始め!」
開始の合図とともに大輝は一気にラディウスのもとへ駆け寄った。それに対し、右手を大輝に向けると魔法を放つ。
「氷の矢」
大輝に向かって多数の矢が射出された。大輝は焦ることなく軌道を見ながら、躱せるものは躱し、弾くものはしっかりと弾いた。そして確実にラディウスとの距離を詰めていく。そのことにラディウスは舌打ちした。
「山針」
大輝が左手を向けるとラディウスの足元から地面が盛り上がり数本の針がラディウスを襲った。ラディウスは咄嗟に後ろに下がって直撃を避け、大輝の攻撃に備える。
「風乱舞」
「......がはっ。」
ラディウスは突如として現れた背後の存在に気づいた。だが、気づくのが遅すぎた。ラディウスが振り向いた時にはすでに自身の脇腹に大輝の木刀が振り抜かれていた。そしてそこから大輝の追撃のヤクザキックが刺さる。さらに大輝はダメ押しとばかりに<火針>をかましていく。
「氷槍......ああああぁぁぁ!」
ラディウスは大輝の攻撃を防ごうとするが、その全てが悉く撃ち負けて被弾した。ラディウスは火傷の痛みで思わず叫んだ。
クリシュナから教わった無駄のない剣筋、ライナから教わった視線誘導と気配の消し方、ユリスから教わった魔力練度による魔法スキルの向上、リズベットに鍛えてもらった体力と魔法に頼らない膂力。全部実践で活かせている。大輝はその実感の喜びを噛みしめていた。......いかん、気を緩めては。
「だから、忠告しただろ?たとえ相手が弱くても、油断しないのは上級者としての心構えじゃないのか?」
「雑魚虫がぁぁぁぁ!いい気になりやがってぇぇぇ!!」
ラディウスは激昂すると木刀を上段に構えるとそのまま振り下ろしてきた。
「氷凍撃!」
「......くっ!」
大輝は迫ってきたラディウスの攻撃を身を引くことで避けるが、振り下ろした時にできた氷の斬撃が鋭い氷柱のように飛んできて大輝を襲った。......くそ、二段構えってことか!
「氷連撃」
「!」
ラディウスは反撃とばかりに大輝に追撃する。大輝は目をしっかりと見開きその動きをとにかく追った。そして、ラディウスの四連続攻撃を見事に受け流した。だが――――――――
「紅氷閃」
「バキッ.........ゴハァ!」
「大ちゃん!」
ラディウスは木刀を居合切りをするように腰に構えると一気に大輝を切りにかかった。咄嗟に大輝は木刀を盾にしようとするが木刀はラディウスの攻撃によって折られ、大輝の右脇腹から左肩にかけて赤い氷が生えた。もちろん、この赤色は大輝の血である。あまりに悲惨な光景にエミュは思わず叫んだ。
「ふっ、これで終わり――――――――――」
「終わらせねぇぇぇぇ!!」
大輝は手にしていた木刀を投げると<追走の風>で急加速しラディウスの背後に回り込んだ。しかし、ラディウスはそれを読んでいたようで即座に振り返ると木刀を振り下ろした。
「同じ手を食うと思ったか!」
「ああ、思ってるね!」
「な――――――」
大輝はあえて自ら木刀に当たりに行った。大輝の頭から多くの血が流れてくるが、大輝は気にしない。むしろ、この絶好のチャンスを逃さまいとしていた。
大輝は雄叫びを上げながら、ラディウスの腹部を思いっきり殴った。
「ぐふっ」
「まだだぁぁぁ!」
「ごふ......ぐはっ」
大輝はそこから腹部を殴ったことで下がってきた頭を膝蹴りで跳ね上げると顔面に重い一撃を加えた。だが、ラディウスはそこで倒れなかった。
「調子に乗るなぁぁぁ!雑魚虫がぁぁぁ!......氷槍!!」
「......ぐふっ......。」
「大ちゃん!」
「大輝!」
「大輝さん!」
ラディウスは死に体から復帰すると大輝にいっきに詰め寄り大輝の腹部に手を当てると氷の槍が大輝の体を貫通した。大輝のもともと出血量から差し引いても死に至るほどの大ダメージ。エミュ、リューク、ユリスと他にも咄嗟に声を出してしまう冒険者もいたが、その多くがあまりの戦闘に言葉を失っている。
ラディウスはゆっくり氷の槍を引き抜くと大輝に告げた。
「ふん、雑魚虫のくせによくここまでやったと誉めてやろう。」
「.......。」
「......何を笑ってやがる。」
ラディウスは大輝の謎の笑みを見て、何も言えない恐怖に襲われた。奴になにか秘策があるのか、この攻撃は罠だったのか、それとも油断させるためのブラフなのか、これまでの戦ってきた経験をフル活用してその答えを探った。しかし、当てはまらない。自身と同等相手がこれに近いブラフを仕掛けてきたことはあるが、明らかな死に体のそれも格下相手にこのような行動をされたのは初めてだった。
答えからいうと大輝はただ笑っただけである。秘策でも罠でブラフもない。だが、強いて言うなら秘策に近いぐらいか。これは修行最終日にクリシュナに仕掛けて、初めての一撃を食らわせた時のやつだ。ただ笑う、それだけで戦闘経験豊富な上級冒険者は深読みする、否、しすぎる。それで行動がコンマ1秒遅れる。その一秒が時には致命的な一撃を打ち込む隙となる。
「おらああああ!」
「......!......ぐふっ!」
「ラディウス様!」
大輝はアドレナリンのせいで痛みを感じないうちにしゃがみ込んでラディウスの足を払った。ラディウスはりょう足が空中に浮き死に体となった。そこに態勢を立て直した大輝は渾身の一撃をラディウスの顔面に食らわせた。その光景を見たラディウスの取り巻きは思わず叫ぶ。
大輝に殴り飛ばされたラディウスは地面に落ちてもなお少し勢いに引きずられた。
「......お前の言う通り終わりにしようぜ。」
大輝はそう言いながらゆっくりとラディウスに近づく。ラディウスはぐったりとしたまま動かない―――――――かと思うと大輝がすぐ近くまで来たのを見計らって右手を向けた。
「おらあああ!死ねぇぇぇぇ!アイスラ―――――――――」
「......知ってた、こう来ることは。......うるせぇから、もう寝てろ。」
大輝はラディウスの右手をガっと掴むとそのまま顎を思いっきり殴った。するとラディウスの右手をぐったりと萎れた。どうやら完全に気絶したようだ。大輝は無言のままラドフを見る。ラドフは良い顔をしながら決闘終了を告げた。
「そこまで......勝者、大輝!」
「「「「「うおおおおおおぉぉぉぉぉ!!」」」」」
「大ちゃーーーーーーーん。」
ラドフが勝利者宣言を言うと大輝以上に周りにいる冒険者が喜びの叫びを上げ、そしてエミュは大輝のもとにいくとそのまま抱きついた。
「良かった......良かったよぉぉ。」
「心配と迷惑かけたな......エミュ。」
「ほんとだよぉぉぉぉ。」
エミュが大輝の胸で泣きじゃくっている。こんな姿を見るのは初めてだ。
大輝はどうしたものかと少し悩む。するとふと遠くにいたクリシュナがなにやらジェスチャーをしていた。......あれは頭を撫でろってことか?そう捉えた大輝はとりあえずエミュの頭を撫でる。するとエミュは少しずつ落ち着きを取り戻し始めた。
「エミュ、これでまだ冒険ができるな。」
「.......うん!」
大輝の言葉にエミュは最高の笑顔で答えた。エミュの背景に花が咲いているのが幻視出来る。大輝はその笑顔に安心感を覚えるとぐったりと身を委ねた。
「.....え?大......ちゃん.....?」
「........。」
「大ちゃん、しっかりして!」
「おい、みんな!喜んでる場合じゃねえ!このままだと大輝が出血多量で死ぬぞ!?」
リュークの言葉を聞いた冒険者は慌ただしく動き、そして最その後全員の最善の働きによって大輝は無事に助かった。
さて、いかがだったでしょうか。バトルシーンは結構練りました。ですが、まだいけると思うので今後の課題にしたいと思います。
それでは、また次回




