第25話 男の意地#4
「だいぶお疲れのようですね。」
「まあ、大体は察しの通りだと思うよ。」
「やはりそんな感じでしたか。二人、いえ三人とも気合が入ってましたもん。安心してください、私のは特に動くことはないですよ。」
......三人か。きっともう一人はあの残念な人なんだろうな。そうか......気合入ってるのか......怖いな。あの人だけは......あの人の指導だけパスできないかな。大輝は少し遠い目をしてしまった。まあ、それはともかく、動かないとはどういうことだ?外だからてっきり魔法の打ち合いとかだと思っていたが。
「それじゃ、師匠、これから何するんだ?」
「ふふん、よくぞ聞いてくれました。ですが、まずは体験してもらった方が早いでしょう。」
するとユリスは自分のもとに来るよう手招きする。
「大輝さんじっとしててください。」
ユリスはそっと大輝の腹部に手を当てる。すると大輝の腹部が熱くなったかと思うと目の前がぐにゃりと歪み始める。.....あれ?視界がおかしい。
そして段々と歪み方が大きくなって意識が遠くなって―――――――――
「......起きましたか?」
「おお、絶景だな。」
大輝が目覚めると目の前にユリスの顔があった。いい匂いがするし、頭に柔らかい感触が当たってる。どうやら膝枕をされてるみたいだ。何がどうなってこんな形になったのかあまり思い出せないけど、これはこれで悪くない、否、めちゃ良い。だが、付け加えるならもう少し胸もあって欲しかったが。そんなことを考えてるとユリスはなにやらジトっとした目をこちらに向けてくる。
「悪かったですね、絶壁で。」
「ハハハ、ナンノコトヤラ。」
「わかってますよー、大輝さんがえっちいことぐらい。」
「......。」
「沈黙は肯定と捉えます。」
「いや待て、それはおかしい。」
大輝は慌てて否定する。正直否定出来る要素は見つかってないが。最終的には「いいんですよーだ。この胸だってきっと需要ありますから。」と自己弁護する始末。このままでは収拾がつかないと思った大輝は急いで話題を変えた。
「そ、そういえば、あの時俺の体に何したんだ?」
「なんか無理やり話題を変えられた気がしますがいいでしょう。......私はあの時大輝さんに魔力を流したんです。」
「魔力?」
大輝の頭にはてなマークが浮かんだ。そもそも魔力はそんなに流動的に動かせるのだろうか。自身の体になんとなく魔力が流れていることはわかる。そして、一度魔力を操ってみようと思ったこともあったけど上手くはいかなかった。もちろん、俺が下手なのかもしれない。自身で魔力を扱えたと思う時は大体スキルを使用したときだけだ。そんな疑問が大輝の顔に書かれていたのかユリスは自慢げに解説し始めた。
「大輝さん、あのすかし野郎のことを思い出して下さい。」
.....すかし野郎って、師匠、なかなかに言うな。クリスさんも「あの男」って言ってたし過去になにかあったのか?
「大輝さんはあの時、すかし野郎の氷の矢を受けましたね?」
「ああ、受けたな。」
「ですがおかしくありませんでしたか?あの攻撃は本来ただ普通の矢を冷たくしたようなものです。」
「......確かに。」
大輝はユリスの言葉に同意した。確かあの魔法のことは師匠から借りてた「魔法大全集」とかいう小難しい本に書いてあって、師匠の言った通りの内容だった。だが、あいつの攻撃は凍てついた。なにか仕掛けがあると思ってたが、師匠のこの言い方的にやはりあったようだな。
「大輝さんももう気づいてますよね。実はあのすかし野郎は魔力練度が大輝さんに比べ高かったのです。」
「魔力練度って?」
「魔力練度とは簡単に言うと魔力レベルです。普通は魔力にレベルは存在しないのですが、これは私の里の偉大な方々が独自の修練法で編み出したものです。そして、それは本来その里の弟子たちにしか受け継がれないのですが......あのすかし野郎が知ってるということは私の里の女性を言葉巧みに操って聞き出したんでしょうね。」
まあ、それは案外自分の利益になることだからやってそうだな。それはともかく、魔力練度ってやつは上がらないスキル効果を上げるための裏技ってやつか。なら、あいつの魔力練度ってどのくらいかわからないけど俺はそれを超えなきゃいけないわけだよな。大輝はそう思うとユリスに話の先を促した。
「とにかく俺は魔力練度を上げるってことだな。」
「そうです!そして大輝さんにはあるポーズをしてもらいます。安心してください簡単ですから。」
「ポーズ?」
そう言ってユリスは指示をし始めた。その手順を順に説明していくとまず直立に立つ。それから腕を大きく曲げると胸の前で輪を作る......以上。なんと簡単なのか。だが、こんなポーズをってどうするというのか。
「それでは、まずは腕を循環するように魔力を流してください。」
「すまん、師匠。俺、魔力をうまく扱えねぇんだ。」
「そうですか。それはしかたありませんね。ならこうしましょう。」
するとユリスは再び大輝の腹部に手を当てる。
「それじゃあ、魔力を流すので、それを上手く循環させてみてください。」
「......うう.....うっ。」
最初の時同様、腹部が熱くなる。だが、視界が歪むことはなかったが、ものすごい気持ち悪さが込み上げてくる。やばい、吐きそう。
「これをとにかく耐えてください。これが私の修行です。」
そして時間が来るまで大輝は吐き気と戦った。
**********************************************
大輝は次の修行をしてくれる相手のところへ向かった。四姫の最後の一人だ。......正直、一番気が思いやられる。なんせ、修行を受けるためだけに女装しているのだから。そして、その相手リズベットのところに向かうとリズベットは鼻息を荒くし、やや......いや、普通に興奮していた。
「ハニー!やっと来たか!待ちくたびれたぞ!」
「いや、俺、ハニーじゃないし、そもそも男ですし。」
「安心したまえ。そろそろ伴侶の一人や二人を見つけろと師範から言われていてな。普通の相手は全然興味がわかないんだ。しかし、その相手が私のドストライクな女装男子だったら話は別だ。」
「どこらへんが安心できる要素が?」
「愛さえあれば問題ないよな!!」
リズベットは大輝に向かって気持ちのいい表情でサムズアップをした。大輝はもう暴走気味のリズベットに苦笑いを受けべるだけだ。
「それで俺はこんな格好で何をするんですか?」
「ああ、そうだな。単に私から逃げるだけだ。」
「それじゃ、俺は捕まらないようにすればいいわけですね。」
「そういうことだ。理解が早くて助かる。」
ちなみに大輝が格好について尋ねたところ、この恰好だとモチベーションが上がるとのことらしい。やる気があることは大変助かるのだが、それだけのために女装するのはやはりなんとも......うん、深く考えないようにしよう。
「それでは、大輝に20秒のハンデをやるから好きに逃げてくれ。制限時間はない。とにかく逃げろ。」
「20秒もですか!?」
「まあ、最初のうちの様子見だ。」
......様子見で20秒とはとんでもなく早いのでは?これは気を引絞めてやらなければ。
「魔法の使用は?」
「基礎の話になってくるから補助魔法の使用は無しだ。肉体のみを駆使して逃げろ。」
大輝はその言葉を了解するとリズベットの横に並び立った。そして合図とともに走り出した。ハンデは20秒、これは相当な時間の長さだ。だが、あの言い方から察するに俺の常識は当てにならない可能性の方が高い。なら、出来る限り距離を稼ぐとともに森とかへ逃げ込んで障害物の多いところへ行かなければ。
しばらくして、リズベットは軽く腕や足を伸ばして、準備運動する。
「......3......2......1......スタート.....ドンッ!」
「!」
後方からすごい音がした。大輝は思わず後方を見たが、人影は見えなかった。だが、遠くの方から噴煙が上がってるのだけは確認できた。......まさか、違うよな?
そう思いたい大輝であったがすぐにその考えはぶち壊された。
「ハアアアアァァァァ二イイイイィィィィ――――――――――――!!来たぞ―――――――!」
「ぎゃああああああぁぁぁぁ!」
大輝は昔死角からこちらに向かって飛んできた恐怖の大王の時のような叫びを上げると今まで以上に手足を動かした。だが、全然距離が詰まっている気がしない。速い、速すぎる!
大輝は目の前にある木に手を引っ掻けると走ってきた勢いを使って直角に曲がった。そして同時に土魔法で地面を凸凹にした。
「!」
リズベットは突然地形が変化したこと驚き咄嗟に速度を落とした。大輝はそれを見てしてやったりとした顔をする。リズさんは補助魔法の使用はなしと言った。だが、それ以外の魔法は使用してないと言ってない。しかし、大輝はこの後すぐにこの行動を後悔した。
リズベットは大輝の行動理由を探って、それが自分の言葉を逆手にとったような行動だと気づくととてもいい笑顔で、しかし目つきは獲物を仕留めようとする獣のような目をすると再び大輝の追いかけ始めた。
「ドゴンッ!!」
「!!」
段違いの速さで。まるで先ほどの速さはジョギングだったかのようなスピードの違いで大輝を追いかけて来る。大輝の顔は恐怖で引きつり、後方へノ―ルックで魔法をとにかくたくさん撃った。だが、当たってる感じはしない。それもそのはず、リズベットはその速さで巧みなステップで全て避けているのだ。それを知らない大輝は打ち続けたせいか魔力の使い過ぎでペースが落ちている。
「つ―――――かま―――――えた。」
「むふっ!」
リズベットは大輝の横を通り過ぎて、目の前に立つといい笑顔をしながら両手を広げた。そして、まるで大輝がリズベットの胸に飛び込んだような形でリズベットに突っ込むとリズベットはそんな大輝を愛おしそうに抱きしめながらスピードを徐々に落としていく。もちろん、大輝が愛おしく見えてるのは女装のである。胸の圧から脱出した大輝はもう少しばかりこの柔らかい感触を楽しみたいところであったが、相手はあのリズベットだ。先ほどの恐怖を思い出してすぐに離れようとした。
「ぷは......リズさん離してください。」
「お前は大輝じゃない!アシュリーだ!その声で話せ!」
「........!」
「アシュリー」って誰だよと思いつつも、自慢の声帯模写で女声にして頼んだ。
「リズさん......話してください。」
「!!......アシュリー!!!」
「......むふっ!」
リズベットは再び大輝を胸に引き寄せると強く抱きしめた。痛い痛い痛い!息が全然でき.....な......い......。大輝は「今日で何度気絶するんだか」そんなことを思いながら、ゆっくり目を閉じた。
修行後半戦です。
それではまた次回




