第23話 男の意地#2
冒険者ギルドは大概の場合修練場というところがギルド内にあるかもしくは隣接していることが多い。そして修練場とは文字通り冒険者が思い思いの修練をするところで、大輝がクリシュナ達に指導してもらってるのもこの場所だ。そしてまた他にも用途はあり、ここは冒険者同士の決闘の場としても使われる。
そして現在、ここでは二人の男による決闘が今にも始まろうとした。
「そういえば、名前を聞いてなかったね。本来なら聞く必要もないんだけど女神様の取り巻きだから一応聞いてあげるよ。あ、ちなみに僕はラディウス・オークレイだ。」
「......いちいち癇に障る野郎だな。俺は大輝だ。」
「そう雑魚虫君ね。それで決闘を仕掛けてきたってことは何かをかけるってことで合ってるよね?それ、勝負を仕掛けられた僕が決めるよ。」
聞いてきたくせにはなから覚える気がないときた。加えて、勝手に話を進めるときた。これには大輝も思わず青筋を浮かべる。だが、戦いを望んだのはこっちだ。それに、相手がそれで望むものなんて一つしかない。
「何をかけるってんだ?」
「雑魚虫君だってわかってるだろう?君のもとから女神様を開放するのさ。だから、僕が勝ったら女神様はこちらに来てもらう。君が勝ったら、女神様の意思にゆだねよう。」
「俺の意思ははガン無視かよ。」
大輝のイライラが募っていく。ここまでコケにされたのは初めてだ。こいつだけはぜってぇ許さねぇ。
大輝の気持ちが同調したのか、それとももとから嫌悪感を出していたのか。大輝とラディウスの決闘を見守っている冒険者たちの威圧が凄いことになている。だが、ラディウスはそんなアウェーの中でも涼しい顔をしている。そんな時、別のクエストでいなかった四姫が修練場にやってきた。そして、エミュが深刻な表情で決闘を見つめているのを横目にルナとシューレイから話を聞いた。
「――――――――――という訳なんです。」
「なるほでね。」
「チッ、またあいつか。」
「まさかここで会うなんて、なんて悪縁でしょうか。」
「たとえ、イケメンらろうとあいつらけは嫌らね。」
話を聞いた四姫はもれなく嫌悪感を溢れ出させた。あの人を何か知っている様子だ。ルナはそのことが気になり聞いてみた。すると詳しくは答えなかったがそれなりに面倒なことがあったらしい。すると大輝の方で動きがあった。
「それじゃ、そろそろ始めようか。」
「いいぜ。」
「それでは、俺が審判をやる。公平にやるから安心しろ。それでは決闘を始める。決闘をするのは大輝ととラディウス、武器は木刀で魔法の使用はアリだが殺すのは無しだ。そして決闘内容は大輝が勝てばラディウスは今後エミュには関わらない。ラディウスが勝てばエミュはラディウスのパーティに入る。」
ラドフが審判役を名乗り出るとそれぞれの決闘者の名と使用武器、賭け事を改めて皆にわかるように説明した。
「準備はいいか。」
「もちろん。」
「ああ、いいぜ。」
「それでは決闘......始め!」
「火針!」
大輝はラディウスに突っ込むと同時に魔法を放った。まずは牽制で距離を縮め、切りかかりたいところだが、ラディウスは大輝の魔法をことごとく切っていき近づく隙が伺えない。しかたない、無理を承知で行くか。そう思うと大輝は再び突っ込んだ。
「氷の矢」
「......!」
ラディウスは少しだるそうにしながら右手を大輝に向けると魔法を放った。大輝はその動きを見極め避けていくが、なぜか当たっていないのに大輝の頬を掠め凍り付く。この魔法自体は強い魔法ではないので当たっても凍り付くということはない。だが、それがあるというのは何らかの方法で強くしているのだろう。なら魔法の直撃は避けなければ。
大輝は<追走の風>で自身の速度をあげて、一気に間合いを詰めた。ラディウスは大輝の移動速度が上がったことに一瞬の焦りをみせた。
「おらああああ!」
「......くっ!」
大輝は上段から切り込むとそこから中段に構え直してラディウスに向かって木刀を突き刺した。だが、ラディウスはその攻撃を剣を横に構え初撃を防ぎ、次の攻撃は木刀の柄の先を当てることで大輝の攻撃の軌道を逸らした。そしてラディウスはそこからヤクザキックで大輝と距離を開けると木刀を横なぎに振るった。
「.......うくっ!」
大輝の脇腹に直撃する。すげー痛い。なにか嫌な音もした。だが、大輝は即座に態勢を立て直すとまた間合いを詰め切り込んだ。大輝は自身の体力が持つ限り切り込んで、切り込んで、切り込んだが、ラディウスは涼しい顔をしながら全て受け流していく。
「......まずいですね。」
その光景を見ていたユリスは静かに呟く。その声を聞いたエミュが理由を尋ねたが、その回答にユリスの代わりにクリシュナが答える。
「簡単に言うとね、対人戦闘の経験の差よ。」
「対人戦闘?」
「ええ、あいつはね。ああいう性格だからなにかとこういう形で戦いを挑まれることがあるのよ。その他にも私たちが行った盗賊団捕縛のクエストだってそういうのに入るのよ。」
「なら、大ちゃんだって、クリスさん達と稽古してますよね!?」
エミュの言い分に思わず暗い顔をしてしまう四姫。できれば言いたくない。だが、エミュはそれでは納得しないだろう。クリシュナは重たい口をそっと開ける。
「大輝がやってるのはね。私たちのランクからすれば初歩にも到達してないのよ。私たちがここに居られるのも限りがあるから、出来る限り早く上達するようにはしてるんだけれどね。」
「........。」
エミュはその言葉を聞いて顔を暗くした。エミュは竜人族で竜人族は言わば戦闘民族。そんな竜人族は感覚で相手の戦闘力が分かると聞く。そしてもしその相手が自身より強ければ、自身を犠牲にしてでも仲間を逃がすという性質があるとも聞く。おそらくエミュは戦う前から勝敗はなんとなくわかっていただろう。そして、自身を切り捨てでも大輝に傷ついてほしくないと思っていただろう。だが、エミュがここにいるということはその時の状況は分からないが、今戦っている大輝の気迫、大輝がエミュを思う気持ち、そして自分が信じたいという複雑な気持ちが絡み合ってここでこの戦いを見ている。
クリシュナは言ったことに対する罪悪感が生まれた。そうするしかなかったとはいえ、もう少し言い方があったのではないかと。そしてクリシュナはエミュに一言だけ言った。
「どんな結果になろうとも、大輝君を信じなさい。」
罪悪感からエミュの顔が見れなかった。エミュがどんな顔をしてそれを聞いていたかわからない。だが、エミュが大輝を思う気持ちは本物だ。すると大輝の方で動きがあった。
「.......へっ、どうだ。すかしてるからこうなるんだぜ。」
「雑魚虫が......雑魚虫がああああぁぁぁぁ!!」
なんとクリシュナが見ていた時に大輝はラディウスの顔面に一発お見舞いしていたのだ。そのことに対し、ラディウスは激昂した。そしてラディウスは木刀の先を大輝に向けると上段に構え、腰を少し落とした。大輝は気持ちを切り替え迎撃態勢にはい―――――――――
「氷連撃」
「!!」
大輝がその攻撃を認識するよりも早く大輝の四肢は穿れ、その場所からは氷のつららのような塊が生えた。ラディウスはそこからさらにヤクザキックで大輝を吹き飛ばす。大輝の四肢から生えた氷が紅く染まっていく。
「雑魚虫がああぁぁ!僕の顔になんてことを!なんてことを!」
「うはっ......うぐっ.......ごふっ。」
「大ちゃ......む~~む~~~。」
ラディウスは大輝の胸を踏みしめるとそのまま木刀で滅多打ちにした。感情のままに、力任せに木刀を振るう。段々と大輝の抵抗が弱くなっていく。エミュは見ていられなくて大輝のもとに駆け寄ろうとするが、それをクリシュナに止められる。
「む~む~~~......ぷは、何するんですか!?」
「言ったでしょ?どんな結果になろうとも大輝君を信じなさいって。」
「でも――――――――――」
「これはもはや男の意地をかけた戦いなのよ!......だから、私たち女が口出すべきことじゃないのよ。」
「..........。」
エミュはそれを聞くと静かに抵抗を止めて、押し黙った。竜人族にもそういう戦いがある。そのことがわかったエミュは思わず唇を噛んで感情の高ぶりを抑える。そして、ついに審判の声が響き渡った。
「そこまでだ。」
「このクソ雑魚虫がああああぁぁぁぁ!.............ふー、僕としたことが思わず野蛮人のように猛り狂ってしまった。すいません、女神様。お見苦しいところをお見せして。」
そう言うとラディウスはエミュの方を向き丁寧に謝罪した。だが、エミュにはラディウスの姿は目に入ってなかった。ラディウスの横に寝転がっていて、そこらから出血していて顔には多くの青あざを残している人物、大輝を潤んだ瞳で見つめていた。
「それでは、これは僕の勝ちでいいよね?」
「......ああ、そうだ。」
審判をしていたラドフは実に嫌そうに答えた。だが、ラディウスは気持ちの良い顔をしている。そりゃそうだ、欲しかったものが手に入ったのだから。
「それでは女神様、僕とともに―――――――――」
「ま......待て......よ......。」
「なんだ?死にぞこない。」
この場から去ろうとするラディウスを止めたのは大輝であった。ラディウスは煩わしそうに大輝を見る。大輝はあおむけだった体勢をうつ伏せに直すとそのまま這ってラディウスに近づく。
「俺と......もう一度......戦え。」
「その状態でか?」
「んなわけ......ねぇだろ......てめぇと戦うのは......一週間後だ。」
「なぜ僕がそんな利益のない戦いをしなければならない。」
ラディウスは「殴り過ぎて頭がおかしくなったのか」と思いながらやれやれといったジェスチャーをした。だが、これを見て大輝は笑う。
「......なんだ怖いのか。......まあ、俺に殴られたもんな。」
「はあ!?」
「勝てるならいいだろう?もう一戦してもいいだろ?」
大輝の言い分にラディウスの取り巻きが反応するが、リズベットがひと睨みで制止させる。今は大輝のターンだと言わんばかりに。
「ははは、ははははは......僕に一発入れたことがそんなに嬉しいか?僕を怒らせたことがそんな嬉しいか?調子に乗るなよ?クソ雑魚虫がぁ!いいだろう!受けてやるよ!」
「......交渉成立だな。内容はこの勝負と同じだ。」
ラディウスは大輝を路側の石のように一瞥するとエミュを連れて出ていく。その際にクリシュナと目があった。
「おやおや、こんなところで会うなんて運命ですかね。見ていただけました?僕の雄姿を。」
「ええ、見てたわよ。あなたの醜く怒り狂った姿を。」
「ははは、それはお恥ずかしいばかりで......今回はこれで失礼します。ですが、次こそは魅了して差し上げますよ。」
「ふふふ、楽しみね。」
そう言ったクリシュナはラディウスを見送るが、もちろんそんなこと思ってるはずもない。ラディウス以外の冒険者にはクリシュナの背後に般若が見えていた。
「おい、大輝。見事な噛ませ犬だったな。」
その声の主はリュークだ。リュークは腕を組みながら大輝に辛辣な言葉を浴びせた。他の冒険者もその言い方はどうかと思っているが、リュークには分かっていた。これで大輝の魂に火が灯ることを。リュークの思った通り大輝はにやりと笑った。
「噛ませ犬で何が悪い。俺はエミュとまだ冒険がしたいんだ。こんなところでこんな風に別れてたまるか。」
「ならどうすんだ?」
「この有様を見てわかるだろう。......俺は弱い。だから......」
大輝は体勢を変え、土下座の姿勢になった。恥ずかしさはなにもない。あるのは自身の弱さを呪う気持ち、戦いに負けた悔しさだけだ。
「俺を強くしてください!」
それは大輝の心からの叫びだった。しばらくの静寂が流れる。そして最初に口火を切ったのはリュークであった。
「......いいぜ、だが高くつくけどな。」
「ああ、終わったら必ずおごれよ。」
「そうだ―――――――――」
次々と冒険者の声が溢れる。「イケメンは敵だ!」とか「あのすかし野郎をぶっ飛ばせ!」とかの声も溢れるがこの場にいる全員が大輝に力を貸してくれるようだ。
「私たちも協力するわよ。」
「ありがとうございます。」
大輝のもとに寄ってきたクリシュナ達も大輝に助力してくれるようだ。いつの間に見ていたのだろうか。だが、大輝はそのことに安心感を覚えると意識が遠のき始めた。あれ?やばいな.......血を流し過ぎたか......。
「バタンッ」
「おい!どうした大輝!」
「おい、やばい血の量だ!」
「シューレイちゃん早く治療を!空いてるものは清潔な包帯と買えるだけポーションを買ってきなさい!」
冒険者のなにやら慌ただしい声が聞こえる。大輝はその声を聞きながらブラックアウトした。
それではまた次回




