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ぷるりんと異世界旅行に、  作者: wawa
断崖の牢獄~トラヴィス山脈
9/75

06 人体観測


 銀色の髪、肌にはキラキラのラメグリッター、白眼の無い青だけの瞳。虹色の膜が張る耳鰭、少し開いた口の中には細目の犬歯。でも背が大きくなったせいなのか、華奢なイメージしかなかったかっぱちゃんが、少し逞しくも見える。


 (本当に別人?でも顔も、少し大人びてるけど、どこからどう見てもかっぱちゃんにしか見えない)


 〈・・・・・・・・〉


 私と同様に盛大に困惑しているであろう彼の顔、だがやはり、銀色の眉は八の字になっていても、白眼が無い青だけの瞳からは感情が上手く伝わってこない。


 〈〔アッパテャン〕て、何?〉


 〈なんだろうねー、〉


 『・・・・』


 やはり別人のようだ。


 本当にかっぱちゃんならば、彼に意味が可愛いことだと嘘を教えた〔かっぱちゃん〕を言うと、かっこいいへ訂正希望にムキになって怒っていたのだから。


 ならば別人の彼は何者か?


 (おそらくかっぱちゃんの親戚か、同じ種族の仲間なのか、・・・でもなんか、)


 一年ほどだが成長過程を見守ってきたかっぱちゃん。魚の習性なのかぺたぺたと私の周囲に纏わり付き、近くに居ればくるくると周囲を回って頭をぎゅんと押し付けてくる。喜怒哀楽はわかりにくいが目が合うと、青だけの瞳が嬉しそうに細められ、こちらを笑顔で見ている事はわかった。


 〈・・・・・・・・〉


 だが目の前の別人は、同じ顔で無感情にこちらを観察している風。中性的というよりは、青年だとはっきりと分かる雰囲気に、妖精枠で捉えていたかっぱちゃんの、可愛らしいイメージが薄らいでいく。


 青眼のガン見。


 好意的では無いガチの監視。


 こんな気まずい時にはタッチ一つでぷるりんに交代したい気分なのだが、一度しゃしゃり出てしまった私が『はい交代ー!』と、彼にスイッチしてくれる操作は残念ながらどこにも無い。


 〈ヒエ〉


 テンションの低いかっぱ青年は私の観察に飽きたのか、短い声かけでファーン尾長を呼び会話をし始めた。ドローンの国ではあまり聞くことの無かった〈イェ〉、これはおそらく南国の呼びかけの方言か何かかもしれない。疑惑のかっぱ二号が〈イェ〉と発すると、ファーン尾長の尾がぴくりと動き話し始めるのだ。


 動物たちの反応は、我が星でもこの異世界でも大体同じなのである。


 呼びかけると、声に出しての返事の代わりにしっぽがピクリピクリと動いたり、耳だけが対象を向いているなど丸わかりなのだ。


 (アピーちゃん・・・、)


 大きな耳を、いつも私に傾けていたアピーちゃん。途中で別れたあの子の事が心配だが、もしかすると、あまり存在感の無かったマスク代表が、実は彼女を助けてくれたのではとか、安易な希望的観測を抱いている、祈ることしか出来ない私である。


 それはそうとこの場で完全に蚊帳の外の私だが、ぷるりんに入れ替わることも出来ずに気まずく室内を見渡してみた。


 南国の個室ホテルには、ウェルカムフルーツは用意されていない。むしろドリンクも何も無い。中央が低く数段の階段があり、真ん中にはどんと一枚板の大きなテーブル。そして周囲には個室と思われる扉が三つ。


 (なんか高級コテージって、こんなかんじ?)


 空きスペースがのびのびと広がる、外国風の大きな部屋。この異世界は、島国の中で所狭しと建物がひしめく我が国とは、建築様式が根本的に違うのだ。どちらかといえば横に広く、背の高い彼らに合わせて天井もすごく高い。


 高くて広いと高級感を感じてしまう庶民派の私は落ち着かず、思わずきょろきょろと周囲を見上げてしまうがその間も、二人はひそひそと会話中。


 その会話の内容はところどころ聞こえるのだが、意味はさっぱり分からなかった。


 見知らぬ人々との初めての場所は、時が経つのが長い。おそらく彼らの立ち話は数分だったのだろうが、私の体感では三十分以上に感じた頃だった。会話が終了しファーン尾長がかっぱ青年に私のことを何やら説明し始めたので、再び彼らに注目してみる。


 〈メイ、行くよ〉

     

 見上げる私は結局自己紹介も無いままに青年と別れる事になったのだが、会話の合間にファーン尾長が呼んだ、彼の呼称に更に疑惑は深まった。


 ーーじゃあね、スアハ。


 (え?)


 ファーン尾長は、確かに銀色の彼の事をそう呼んだのだ。否定もせずに私たちを見送る銀色の青年。


 (スアハ?スアハって呼んだ?スアハは、かっぱちゃんの名前なのに、)


 幼い頃の同級生、小学校では友達だったけど、中学校では学区が違ったり親の転勤つごうでバラバラにされる友人ネットワーク。その中で、繋がりの浅い人から疎遠になっていくのだが、高校在学中や卒業後にたまに道やお店ですれ違うと、お互い『あれ?』と目だけは合う。


 別にケンカ別れでも無く、自然とフェードアウトした場合、ここで社交的か否かの選択肢が現れる。


 『久しぶりー!』


 だがこの社交的選択肢『久しぶりー!』の成功には、認知度ゲージの残存数値を確認しなければならない。お互い『久しぶりー!』を言い合えるほど認知度が残っていれば良いのだが、片方のゲージが『見たことあるけど誰だっけ?』ラインまで下がっていると『久しぶりー!』は会釈か無視でかわされて、気まずくなってもやもやを残して終わるのである。


 突然に疎遠感を表した知人に対し、それまでの認知度や親密度に温度差が生じるのだが、ここで稀に連続技を繰り広げる猛者も現れる。


 『久しぶりー!』からの、

 『番号交換しよ』で、ある。


 親密度は保たれていなかったはずなのに、それを乗り越えて新たに親密度を上げてくるキャラには気を付けなければいけないと、自分の経験を踏まえて私に釘を刺したのは、未婚歴を更新し続けている叔母である。


 叔母さんが社会に出たばかりの頃に、同じ様に認知度ゲージが低い知人からの『久しぶりー!』からの『番号交換しよ』に、商業目的が含まれていた事があったらしいのだ。


 『え?誰だっけ?』という怪訝を完全スルーした元同級生キャラは、実はブラッキーな職種にジョブチェンジしてしまい、ブラックノルマを達成するために、手当たり次第に元同級生に『番号交換しよ』を繰り返し、ブラックノルマねずみ算式拡大を強要されていたらしい。


 中には懐かしの同級生と再会し、学生時代にはすれ違っていた友好を社会に出て深めたり、同窓会での出会いから結婚した人も居るなどの、母の友人との長電話を耳年増している私。再会には、いろいろなケースがあるのだろう。


 親密度、認知度ゲージが低めのキャラの突然の出現は、恋愛ゲームにおいても分かりやすいクリア妨害工作なのだと例を述べ、ゲームに置き換えてこれから社会に出る十九歳であった私に注意喚起をしてくれた頼もしい叔母。


 ロープレゲームでは攻略ガイド否定派の自力自由冒険家の私だったが、いつまで経ってもエンディングを迎えない、そんな私を後ろから眺めていた叔母は、恋愛ゲームに関しては自分のようになるなと攻略サイトを強く勧めてくれた。彼女のおかげで、私は恋愛ゲームだけはまるまるカンニングという卑怯な手段により、エンディングにたどり着く事が出来ていたのだ。



 それはそうと叔母さん、昨年は結婚、出来ましたか?



 毎年結婚を熱望していた叔母が、私の失踪というネガティブなイベントによって、これ以上野望が先延ばしにならないことを祈るのみである。


 この異世界に落とされた私には、この疑問は心で投げかけるだけで終わるのである。けして言葉で投げかけて、焦るアラフォーの叔母さんを傷付けたり、追い詰めたりはしていないのである。

 

 話しを戻すが、あの銀色の彼は、やっぱりかっぱちゃんだったのだろうか?


 ファーン尾長は彼を〈スアハ〉と呼んでいたけれど、本当に彼がかっぱちゃんならば、先ほどの異物を目撃したような観察眼は一体なんの為なのか?


 記憶喪失?それとも最近のゴウドの流行は、知ってる人を知らない態で観察眼?


 (感じ悪いな。そんな流行りは流行らない。知らないふりの観察時間が誰の得にもならない、人間関係に亀裂を入れるだけの悪ふざけ)


 しかしここは、未開の田舎国の入り口。方言がきつい動物たちの流行は、我が星から異世界に赴任して一年ほどほどの新米の私には、推し量る事は出来ない。


 疑惑のかっぱ二号と別れて、ファーン尾長と繰り出したカップルが彷徨く南国商店通り。だが再び港を訪れたファーン尾長は船員に話しかけて、私に北方行きのチケットを手配してくれた。


 (・・・え?どういうこと?)


 しかも何故か、ファーン尾長も私に同行してきそうな雰囲気に、ここで待たなければならない人々の事を考える。「プルム港で」と別れ際に言ったエルビーと、本当にマスク代表が、アピーちゃんを助けて連れて来るかもしれないのだから。


 (いやむしろ、マスク代表はきっとアピーちゃんを連れて来る。そんな予感がする)


 今回の逃亡では頑なに行動を共にしていないマスク代表は、表立って前にしゃしゃり出たりはしないが、実はとても強いのである。


 喉元まで覆う、刺繍入りの高級黒色マスクを愛用するマスク代表。褐色の肌にヘーゼル色の切れ長の瞳の彼は、偽マスク着用者ではなく本物のアレルギー性鼻炎の持ち主だ。ところどころ外はねる髪の毛は、毛先だけが白く色が抜けているところがお洒落にも見えなくは無い。


 (本名はトラーさんと言うマスク代表。彼は北国エスクランザで、なんとオゥストロさんやフロウ・チャラソウと同じ立場の役職らしいし)


 もしかすると、ぷるりんと同じく、ヒエラルキーの上から庶民を睥睨するポジション?


 にわかには信じられないが、実際にマスク代表は強めの権力者であることを、私は理解出来ている。彼は黒子のように顔を隠し、自分を置物だと宣言し、女子個室トイレの侵入を無表情でやり遂げる。そんなマスク代表は、痴漢を皇子として崇める、北国の国家公務員の上層部に位置するのだ。


 痴漢と個室トイレ侵入を並べてみると、なるほど納得の彼の地位の高さなのだが、一般的に考えると、そんな彼が国の国家防衛に関わる国家公務員ということが、にわかには信じられないのである。


 (にわかには、・・・そもそも、にわかにはとは、どういう意味だっけ?)


 マスク想像中、なんとなく使ってみた我が国の言葉に、自信の持てない今の私は、スマホで辞書を検索する事もままならない。


 (ままならない?、まま、間々?ママ?・・・やめよ、きりがない。)


 そのマスク代表がもしや傍に居ないかと、きょろきょろと周囲を確認していた私だったが、ファーン尾長に呼ばれてしまい、渋々と彼の後に着いていく。


 なぜ今の今まで自己主張せずに、得体の知れない尾長青年に従っているのか?


 (それはぷるりんが、彼を警戒していたからである)

 

 未だぷるりんと入れ替われない私が、カップルだらけの南国観光地に逃亡し走り出したところで、あの尾の長い南国青年に足で勝てる自信は無い。


 そもそも、走り出した私を、なぜファーン尾長が追ってくると思うのか?


 (これは自意識過剰ではない。予防対策である)


 例えばファーン尾長が私を追って来なかったとして、それは全然問題ないのだが、例えば尾長が私を追って来た場合は、私の置かれる立場が格段に不利になる。


 〈メーイー、こっちー、〉


 今は未だあの間の抜けた声かけが、私が彼に着いていかなかった事により、突然早口になって無表情に舌打ちされても困るのである。かっぱちゃんも魔人も、鳥男もそうだったのだが、フリーダムな動物たちの怒りのスイッチは何処にあるのか分からないのだ。


 そして彼らの常人では無い運動能力は、計り知れない。


 (魔人はすごく遠くから、ぴょんと飛んだだけで背後に音も無く着地する。かっぱちゃんだって、信じられない速度で川をさかのぼる)


 にこにこと私に纏わり付いていたかっぱちゃんだったが、以前彼は、去り際に大泣きして私を突き飛ばしたのだ。もしかすると、さっきのかっぱ二号は本当にかっぱちゃんで、数ヵ月前の大泣きを忘れていないのかもしれない。


 だから私を知らない態で観察眼?


 『・・・・』


 少し離れていた間に大きく逞しくなった彼の成長を喜ぶべきなのだろうが、もうあの青目の笑顔が見れないのかもしれない。それを思うとなんだか寂しく、船上から離れる南国の森を眺めていた。




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