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ぷるりんと異世界旅行に、  作者: wawa
断崖の牢獄~トラヴィス山脈
13/75

理性と本能 06


 

 〈お食事用に、見える?〉


 『・・・・・・・・』


 プルムの港の領域では、南方人以外の無人ハグと呼ばれる他大陸のものを許可無く食する事は禁じられている。そして南方大陸全域においても、犯罪者しょくようとして送致されるもの以外は、基本的に口にしてはいけない事になっていた。だがそれは、あくまで他大陸の別種族〔無人ハグ〕に対する体面で、つがいとして連れられて来たものが、森の深淵で食料に転じる例も少なくない。


 (変な子)


 目の前で自分が食用だと話題にされているのに、強気で見上げる黒目を蒼い瞳で見返してみた。大抵の無人ハグは、自分が食料とされる話題になると青ざめ焦り出すのだが、片方の眉毛を上げたまま、少女はじろじろと二人の真存在から目を逸らさない。


 (まさかこの子、蛇魚メアハ無人ハグを、食べない種族だと思ってるとか?)


 海の守護者とされる一族の蛇魚は、港の管理人の役を持ち、漁業管理の組合で無人ハグと接することの多い種族の一つだ。彼らの主食の多くは海藻類だが、基本は雑食で無人ハグと大差はない。そして無人ハグ犯罪者しょくようも手に入れば肉類として食すのだが、少女から観察されている少年は、今まで犯罪者以外の無人ハグを食用として見たことはなかった。


 〈・・・別に、ヒエのお土産かと思っただけ〉


 彼らの中では、〔食用〕と〔そうではないもの〕の線引きが、個人の捉え方により違う。〔無人ハグ〕を食用としてしか捉えない種族もいれば、〔無人ハグ〕を決して食さない種族も中にはいる。そしてつがいとして生涯を共にするもの、愛玩用に飼うものなども、それも個人の考え方に寄るのだ。


 これは交流のあるガーランド国と、北方大陸の住民にも共通の認識として伝わっている。なので無防備に、真存在に一人で走り寄ってくる無人ハグの子供は珍しい。真存在ゴウド無人ハグも、子供は異種族にむやみに近寄るなと、周囲から教え込まれているのが普通なのだから。


 (アッパティヤン?て、何語?)


 『・・・・・・・・』


 見た目にも柔らかそうな無人ハグの子供。大猿族のヒエが連れてきた、不審な少女の理由を考える。だがじっくりと黒髪の少女を観察していると、ふとあることに気がついた。


 〈ヒエ〉


 〈君にも感じた?〉


 〈この子、ぶれてる〉


 〈え?〉


 〈ぜんぜん美味しそうじゃない〉


 再び疑惑に見下ろすと、生意気な表情で二人を観察していた無人ハグの少女は、それに飽きたのか興味を室内に移動し、周囲を見まわしながら勝手に彷徨き始めた。


 〈聞いたことがあるよ、たまにいる、精霊レリレウトに見放された無人ハグ。この子もなんか、いないってゆうか、ぶれてる気がする。不自然なかんじ〉


 自然精霊は真存在の友人であり、この世を守護する大切な存在である。優しい自然精霊は、身体的に真存在に劣る無人ハグの存在を助けるために、力を分け与えてもいるのだ。だが力の付与は受け取る側の人により強弱があり、無人ハグではあるが、生まれついて精霊の宿らないものを真存在は自分たちと同じく強者と扱う事もあるが、途中から精霊に見放されたものは、無価値として蔑み嫌う。


 〈・・・あー、かもね。このブレは、本当の不自然。〉


〈じゃなくて、今日は守護者ハリアーの情報交換でしょう?お仕事の場所なのに、なんで無人ハグを連れて来たの?・・・まだ見習いだからって、侮ってるの?〉


 〈え?違う違う。君は若いのに優秀だよ。そうじゃなくて、あのねー、まあ、えーと、とりあえず、あの子を見ての、感想を聞きたかったんだー〉


 〈もともと無人ハグは、あまり食べたいと思ったことないからね。精霊レリレウトがぶれてる子は、特に食べたくない〉


 〈・・・なんて言ったらいいのかな、えーと、他に、君はあの子見て、なんかもっと、別にいろいろ感じない?〉


 〈少しも味見もしたくない。そんなことより、西は大丈夫なの?その話で呼んだんでしょう?〉


 〈うん。まあ、そうだよね、守護者しごとの話しようか。トアルのケヘラさんがね、嫌な予感がするかもって。南方から来た商人が天上人エ・ローハの情報を村に持ってきて、カウスさんが騒いでるんだ。だから、そっちに変化はないのか、聞いて来てって〉


 (天上人エ・ローハ?それって、去年、大騒ぎした問題の無人ハグ?)


 昨年南方大陸に現れて騒ぎになった、三部族の監視が付いた特殊な無人ハグの少女。その無人ハグは、北、南、東大陸の人々、更に飛竜を巻き込んだ大きな厄災を鎮め、天上人と呼ばれる存在であった。それに何かを思い出した少年は、蒼い瞳を嫌悪に眇める。


 〈〔海の壁〕は別に、特に何も変化なし〉


 〈・・・そう。ならやっぱり、ケヘラさんの考えすぎだといいんだけど〉、

 (僕もこの道中に、まさか注目の天上人エ・ローハに遭遇したことで、ちょっと気にしすぎてるのかな?・・・そもそもこの子、本当に天上人エ・ローハだよね?・・・うん。それは間違いない)


 船の中、〈天上人エ・ローハ〉と呼びかけた瞬間の、身体の強張りを見過ごさなかった。だが海の守護者見習いの少年は、未だ天上人だと見抜けないでいる。


 (そういえばカウスさんも、商人の二人は、あまり天上人エ・ローハに興味を持ってなかったって言ってたな。うーん、このゾワゾワ感、皆が分かるわけじゃないのかな?)


 〈トアルケヘラの考えすぎって、西の番人ハリアーとしての感なの?〉


 〈うーん、そうかもね。僕たちは、けっこう感も参考にするからね。・・・ねえ、やっぱり気にならない?あの子のこと、もう一回よく見てみて〉


 〈えぇ?・・・しつこいな。美味しそうには見えないよ。愛想なくて、生意気そう〉



 『・・・・・・・・』



 〈いや、えーと、うーんと、もっとこう、何て言うかー、内から込み上げてくる、モヤモヤーとか、ムラムラーとか、しない?〉


 〈ムラムラ?何言ってるの?猿族レンのくせに、言葉の使い方がおかしいよね?ムラムラって、つがいに感じるみたいな、アレのことでしょう?あの子に?あるわけないよね。それを言うならぐうぐうでしょう?〉


 〈ぐうぐう・・・?、うーん、えーと、・・・まあ、もういいか〉

 

 〈なんなの?それも感?〉


 〈まあ、そんなかんじ。メイ、行くよ。じゃあね、スナハ〉


 ヒエの後を追って部屋を出たが、戸口まで振り返り振り返り自分を見つめる黒髪の少女。それに首を傾げたスナハは、一年程前からあまり姿を見かけなくなった兄弟を思い出した。


 (ムラムラ?・・・つがい?そういえば〔あの子〕、無人ハグつがいにするとか言ってたよね?)


 スナハと同じ日に生まれた対の兄弟は、今や一族から追われる犯罪者と成り下がった。名前を口にしたくもない弟が、先ほど話題となった騒動で、自分の代わりに大役を任されていたのだ。


 三部族の長の監視の一人。精霊を身に纏う黒髪黒目の無人ハグが、この世に〔厄〕を呼び込まないか見張る役目。そしてスナハの弟は、その無人ハグつがいとするために地と空の部族と張り合ったのだが、振られて逃げ帰ったという事実。


 自分と同じ顔の弟が、無力な無人ハグに選別された事も意味が分からなかったが、何よりも、獲物を仕留めず逃げ帰った情けない行為が憐れだと思った。更にそれだけではなく、その後は賊に加わり、黒髪の無人ハグを襲うという愚かな行為を繰り返している。


 (天上人エ・ローハ、黒髪、黒目の、小さな無人ハグ・・・、)


 今までスナハは、自分よりも遥かに劣る存在である無人ハグに全く興味が無かったのだが、弟をそこまで惑わせた、その少女だけは見てみたいと思った事があった。


 (三部族のセオトの目がついた、空から落ちてきた天上人エ・ローハ。〔あの子〕を惑わせた無人ハグ


 大陸でも有名な強者の二人。年若く、海の守護者として一人前ではないスナハが、今は未だ勝てないと、一目置く存在である大獅子の地長の弟ヴェクトと空の守護者のフェオ。


 その二人と弟は無人ハグの少女を奪い合い負けたのだが、風の噂ではヴェクトとフェオも、無人ハグを部族に連れ帰っていないらしい。三部族を弄んだ無人ハグは、どれほど魅力的なのかと、少し前に仲間たちの話題にもなっていた。


 (さっきの無人ハグは、一応雌だったけど、違う)


 先ほど見た、無人ハグの少女の生意気な顔を思い出してみる。おかしな言葉を口走り、初対面のスナハの顔を見て明らかに憮然としていた。その後は愛想笑いを浮かべることもなく、品無く部屋を観察し、遠目から再び疑惑の瞳でヒエとスナハを観察していた。


 〈・・・・〉


 プルムの港では無人ハグたちに、美しいと常に付きまとわれる蛇魚族。他の部族よりも、自分が見た目に美しいと自信のあるスナハから見て、先ほどの黒髪の少女は魅力的に映らなかった。なので自分の血族も、一族を敵に回しても手に入れようとは思わないだろうと結論づける。だがなぜか、スナハは自分の美しさに関心を示さなかった、生意気な黒目が気になった。



 (確かに。今思えばモヤモヤする。ヒエが聞きたかったのはこのこと?・・・食欲もわかない変な子だものね。でもきっと、〔あの子〕が興味を持った天上人エ・ローハは、ものすごく、見た目が奇麗な無人ハグだよね。あんなぶれてる、生意気な子じゃないよね)





***


ーーープルムの港、案内所(商業組合)。





 〈なんでなんでー、なんで僕の荷物だけ、検閲されるのー!?〉


 〈あんただけじゃない。北から船で来る大猿レンの荷物は、ここで全て検められる〉


 〈なんでえ!〉


 そんな決まりは前回までは無かったはずだと、力強く不満を語るが相手にされない。ヒエか背負っていた大きな袋は取り上げられて、底まで中身は漁られた。その中で、鮮やかに赤いものが詰められた、大きな瓶に検閲官の注目が集まる。


 〈・・・これ、これは何だ?〉


 〈ただのお土産だよ!みんなが気に入ったら、北方セウスからもっとたくさん買ってくるの!なんなら、少し食べてみてもいいよ、美味しいの!〉


 〈没収〉


 〈なんでえっ!??〉


 〈猿族レンの他大陸物品持ち込みは、プルムの組合に一任されている。我々が危険だと判断した物は、森への持ち込みが許可出来ない〉


 ヒエの目的の人物は鼠猿族のミュイ。少女が渡航の手続きを済ませていないか確認のために立ち寄ったプルムの港町の案内所で、なぜか手荷物の半分を没収された。それを受け容れがたいと青年は、苛立ちを顕わに職員に立ち向かう。


 〈組合の不当な荷物強奪に、地長グートの裁決を要求する!〉


 〈不当では無い。プルムの組合は、常に三部族のセオトの裁決に従っている〉


 〈うぐぐぐ、〉


 観光や商業で訪れる無人ハグを、決まりを守らない森の住民から護る役割も担っている。屈強な三部族のものたちが集う案内所で、まさかの事態に陥ったヒエは、がっくりと深い溜め息に背後の少女を振り返った。


 〈皆に喜んでもらおうと思ったエスクランザのお土産、盗られたー。〉


 『・・・・』


 〈はあ。なんか、地長グートへの挨拶、行きたくなくなった。しかもミュイ、もう北方セウス行きの船に乗ったみたいだけど、鼠猿族エレンの旅の邪魔をするなって、どの船か教えてくれなかったー。〉


 『・・・・』


 恨みがましく案内所の熊牙族を睨み付けた。だが浅黒い巨漢は目の前でいじける青年を完全無視し、次の旅客の案内に地図を広げる。


 〈ミュイにも会えないし、なんだかもう、やる気がなくなっちゃった。・・・まさか、これが〔厄〕?〉


 見下ろした先には、天上人だと呼ばれる異質な少女。無人ハグの実験で精霊を身体に入れられたという悲劇の存在。精霊を害するものは厄災を呼び、それに関わるものたちも厄を呼ぶとの迷信が南大陸にはある。大人しく自分の後に付いてくる無表情な黒目に、無言で検閲の様子を観察されていたヒエは、少女と北方の不気味な魔除けの人形を重ねてみた。


 〈・・・なんてねー、無人ハグみたいに、上手く行かない現状に不満を持って、疑心暗鬼で他人の所為にしてみました〉


 『・・・・・・・・』


 〈笑ってくれないんだね。無人ハグにありがちな冗談言ってみたのに。笑いってー、地域や部族や種族によっても違うから、難しいよね〉


 『・・・・・***?』


 〈・・・・・え?天上語?〉


 無表情に自分を見上げる黒目からは、どこか侮蔑を感じ取れる。それは年老いた学者が観察するように、片方の眉が上がっていた。


 (生意気な顔ー・・・。ほんと、スナハじゃないけど、この子見てると、食欲失せる。他の物も食べたくなくなってきた気がする)


 『?』


 〈うーん、なんでだろ。造りは同じ無人ハグなのにね〉




**


 


 スアハによく似た魚人がメイを食用だと呟いた事に、獣人との距離感を見誤っていたとオルディオールは考え直す。そして書物で得た曖昧な猿族の食人知識に戦慄したが、少女が味見をされる事はなかった。


 (・・・今は未だ。だがこのクァモン、しきりにメイをあのソイに勧めてた)


 〈よく見てみて〉と、何度もメイの肉付きを調べさせていた。そして間抜けにも、危機感無しに彼らに接近したまま見上げる少女。それをオルディオールは冷や汗に眺めていたのだ。


 (ここまで来ての収穫は、あまり聞き覚えのないハリアーという言葉。そして現在まで何も接触が無いということは、本気でトラーはこの港にはいない。あの目障りな数字持エルヴィーちも)


 少女メイを守れるのは自分しかいないのだが、身体の主導権を握れない。先を歩く猿族の青年は、見るからに戦闘に特化した体格ではなく、長い尾さえ隠せば見た目にはファルド帝国内でも、流民の商人として通るだろう。天上人であるメイに貸しを作って歩き回る、ヒエと呼ばれた獣人の魂胆を探ろうと思ったオルディオールだったが、隙だらけの青年から逃げるそぶりもなく呑気に後を追うメイの中、じわじわと苛立ち焦り始める。


 (俺の懸念は勘違いだった。成り行きでここまで来たが、この胡散臭い猿族レンのガキの、後を追う必要はなくなった)


 天上人だと見抜かれて、案内された先に居たのはスアハではない魚族だった。オルディオールとしては、正体を見抜かれた先には、大獅子のヴェクトか鷹豹のフェオが居ると考えていたのだ。


 メイを伴侶にと考えたらしい、彼ら獣人がどこまでが本気なのかは不明だが、トライドの森から抜け出た後、アピーやトラーからの報告では、獣人の追っ手は全く無いとの事だった。


 (奴らの考えは、読めない。あいつらが、このメイに執着していた理由も読めない。だがこの港内で接触出来れば、南方人やつらの立ち位置も探れると思ったが、)


 獣人の恋愛行動は、種族により違うらしい。過去にファルド帝国で奴隷として扱われていた彼らには、人権は無くファルド人の愛玩用だった。そのために、彼らの意志を剥奪して性行為や擬似恋愛を強いていたのだ。


 奴隷制度を廃止すると公言したオルディオールだが、制度の改革に重きを置いて、実際に被害者と関わり合う事は資料の上がほとんどだった。


 (このまま行けば、危険性が増すだけだな。獣人の、人数が増える前に、なんとかこの港から移動しなければならない)


 危険から逃れるために情報収集が必要な異国の港町。だが焦るオルディオールに反して、身体のメイの瞳は常に猿族の青年の揺れ動く尾を追う。そしてたまに余所見をすれば、露店の串焼きや薄毛の通行人の頭を数えていた。

 



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