83sa1
無数に届けられた手紙の内の一つを改めて読み直し、私は自分の顔がほくそ笑むのを感じた。
獲物が、この国一番の大物が、私の広げた網の中に誘われてやってきたからだった。
あとは、力勝負。
私の網を引き揚げる力が勝るか、大物の膂力が勝るか、単純な力比べだ。
網を張るにも時間と金がかかっている。
なんとしてでも、引き上げなければ、それらはほとんどすべて無為な出費に早変わりする。
このローマでも指折りに業突く張りの商人が、そんなことを許容できる訳がない。
思いつくすべての用意をしよう。
奇跡のような幸運で得た機会、これを逃しては商人失格。
ならば、最高最大の利益を上げなければ嘘だろう。
ああ、心が躍る。
頭のいかれた勝負師の顔が、出てしまいそうになる。
勝ちの決まった勝負はつまらない。
敗色濃厚の博打に勝つのが最高だ。
なんてなんて、私は幸運なのか。
勝ち目の薄い大舞台を、ただ偶然で得られるなんて。
この勝負で心が躍らないなら、商人などになりはしない。
今や最大最強の帝国ローマ。
その第一人者とはどのような人物か。
曰く、若くして才気あふれる万能の天才。
曰く、世間を知らぬ絢爛豪華な貴族の申し子。
曰く、大して才能もない癖に第一人者にまで祭り上げられた哀れな凡人。
さっぱりわからん。
わからないからこそ面白い。
けれども私は決して商人の笑顔を絶やさず。
我が人生最大の難敵よ。
あなたは、何をお求めか?
この商人サウロスが、どんなものでもご用立ていたしましょう。




