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サムライフローマ  作者: いぬっころ
第一章 気がつけばローマ
38/122

38

 手を引かれたまま外に出る。すでに二輪車に乗っていた女性が身を乗り出しながら何事かを言うと、ティベリアは慌てて俺の手を離した。

 二人の会話は、激しい口論の様な様子に変わった。周囲に居る武装した男たちは、心なしか呆れた様な、微笑ましいものをみるような、何とも言えない表情で二人の女性の様子を眺めていた。

 しばらくして、ティベリアが二輪車に乗り込む。

 二輪車は総勢十人にもなった武装した男たちに守られながら進みだす。

 さて、俺はどうすればいいのだ?なんでここまで連れてこられた?部屋の中に戻った方がいいのだろうか?いや、そんな事をするくらいならば、いっその事このまま逃げ出すべきか。


「ロー!」


 ティベリアが動きだした二輪車から上半身を乗り出して、俺に向かって手招きしている。

 ついて行けばいいのか、なるほど。良くわからないが、どこかへ行く当ても無い。ティベリアがついてこいと言うのなら、ついて行こう。

 どこが目的地かはわからないが、しばらく二輪車の後を追う。時折ティベリアが頭を出して、俺の様子を覗く。

 そんなに心配しなくてもついて行きますとも。だから、そんな危ない真似はやめてくれ。落ちたら怪我をしてしまう。

 どう伝えたらいいのかわからず、彼女が二輪車から落っこちないように祈る事しかできない。距離を詰めようにも、護衛らしい集団の視線が痛い。俺をにらむぐらいなら、ティベリアに危ないからやめろ。と注意の一つでもしたらいいのに。

 どうにも危なっかしい子だ。

 二輪車は橋に差しかかった。川に架かった石橋だった。その向こうには城壁と、通用門。それに見張りの兵士がいる。

 すごく、通りたくない。

 だが、ティベリアは俺について来て欲しい様子だった。二輪車は止められる事も無く通用門を通り抜ける。俺も覚悟を決めて、その後を追う。

 堂々としていれば、きっと大丈夫だろう。

 けれども、見張りの兵士らしき男たちに意識を集中させてしまうのは、剣術家として武器を手にした相手の事を無視できないと言う理由があるのであって、決してビビってるとか、そういう事ではないのだ。

 左側の兵士が動く。まさか。

 槍を手にしたまま背伸びなんかするんじゃない。

 何事かと思って一瞬身構えそうになった。こっちは心底ビビってるんだからちょっとくらい気を使ってくれ。

 兵士はのんきに欠伸までしている。俺の方に視線を向けても、特に気にした様子も無い。そんなので見張りが務まるのか?いや、俺の勘違いで、実は見張りじゃないのか?

 どうでも良いか、もうさっさと通ってしまおう。

 街は極めて平和な様子だった。俺だけがビクビクしていて、なんだかバカらしい。

 門をくぐると、街の様子が、がらりと変わるのは面白い。今までの場所は木造と煉瓦造りの建物ばかりだったが、ここは煉瓦作りの建物と、立派な石造りの建物がたくさんある。

 ここと比べると、橋の向こうは随分とみすぼらしいように感じる。

 門から今までいた場所を眺める。今までいたあの場所は貧民街だったのだろうか。川と城壁で隔たれた別世界。何となくそんな気がする。

 川面に反射した太陽光が眩しい。大きな川だった。

 中州が一つあって、両岸に橋がかかっている。沈みかけの太陽が川面に不思議な形の影を作りだしていた。あれは、もしかすると、俺が目覚めた場所なのではないだろうか。

 いけない。二輪車を見失ってしまう。

 道路は多くの人が行き交っていて賑やかだが、馬車や二輪車はティベリアが乗っている物以外は見かけなかった。もしかするとティベリアはすごい偉い人だったりするのだろうか。

 失礼かもしれないが、とてもそうは見えない。外国人の外見は年齢を読み難いらしいが、どう見ても俺より年下の普通の女の子にしか見えなかった。一緒に馬車に乗っていた子も、何となく雰囲気があったけれども見た目は幼さを残しているように見えた。背が低いからだろうか。

 街の様子が、また少し変わった。煉瓦造りの建物がほとんどなくなって、周りはとんでもなく大きな石造りの建物ばかりになる。大型重機も無いだろうに、どうやって建てたのだろう。

 三階建ての建物や、十メートル超えの建物がたくさんある。煉瓦なら、一つ一つは小さいから積み上げればどうにかなりそうだが、大きな石材はどうやって上の方に上げるのだろう。

 今まで目にしなかった円柱状の建物の前で、二輪車が止まった。

 すぐにティベリアが降りて、やけに急いだ様子で俺の名前を呼びながら手招きをする。

 そんな様子を見せられては、急がない訳にもいかない。

 駆け足でティベリアの所へ向かうと、ティベリアは体格の良い男性と話をしている。

 しかしその男性は、かなりの高齢者である事が深いしわまみれの顔からわかった。

 それと、特徴的な円柱状の建物の隣にある石造りの集合住宅の様な建物から、穏やかな雰囲気を纏った女性と、幼いと断言できる程の少女が近付いて来ていた。

 その二人は、どうやらティベリアを目指して歩いて来ているようだが、ティベリア本人はその事に気が付いていないようだった。

 ティベリアが俺の方に振り向いて、何かを言う。俺の後ろには二輪車が止まっていて、気の強そうな女性がちょうど二輪車から降りてくる所だった。

 聞き覚えのない声がした。穏やかそうな女性が、ティベリアに声をかけたらしい。

 なぜわかったかと言えば、見ていて面白いぐらいにティベリアの両肩が跳ねたからだ。かなり驚いたらしい。

 ティベリアが驚いている間にしわまみれの男性が何かを言ったが、俺にはやっぱり意味がわからない。

 そのまま女性たちが話を始めた。

 穏やかそうな雰囲気を纏った女性は、ティベリアや、同い年くらいと思われる気の強そうな女性よりも年上なのは間違いなさそうだ。その傍らに控えている様な少女は、明らかに年下だとわかる。

 話に区切りがついたのか、一番年上であろう女性が、ティベリアたちを先導するように建物の中へと入って行く。

 ティベリアたちもそれに続いて、建物の中に入るようだ。

 俺もティベリアの手招きに従って、ついて行く。

六月七日、加筆修正

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