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絵の中に在る  作者: 中野あお
2.行動する人
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2-4

 新入部員が女の子ばかりだ。


 そんなこと友達に言うと『よかったじゃん。彼女でも作れよ。』などと流されて真面目に取り合ってもらえなかった。

 専攻も中等英語なので男女比が女性に傾いているので、サークルでは男の友達を増やしおきたかった。

 それなら運動系のサークルに入ればよかったのかもしれないが、そこでできる知り合いとは仲良くなれない気がするのだ。自分とはあまりにもタイプが違い過ぎる。

 学校全体の人数が少ないので同じタイプの人は少ない。まあ、教師になろうとなってもいいと思っている人しかいないわけだからある点では皆似ているのかもしれない。その点だけで仲良くなるのはよほど教育について熱のある人間だけだ。

 大学で友達を作るのに一番良いのはサークルだと聞く。少なくともそれをやりたいという人が集まる場所なので、仲良くなりやすい同じタイプの人に会えるからだろう。


 別に女の友達が欲しくないわけではない。男女間の友情が成り立つのかという議論はこの際置いておくとして、同性の知り合いと異性の知り合いとでは当然話せる内容が変わってくる。そこを考えると大学内に男友達が欲しいのだ。

 さすがに大学に入って一ヶ月近くたつ今、友達がいないというわけではない。高校からの友達が国語専攻にいるし、専攻が同じ奴や第二外国語が同じだった奴とか、友達と呼んで差支えないような相手はできた。

 特に専攻が同じ人たちとはよく話す。男の少ない専攻なので全員の顔と名前くらいは把握しているし、女尊男卑になりがちなこの人数比で生き延びるための術を探している。

 そんな奴らの中でも篠原という変わり者とは仲が良い。彼に関しては既に語りだすと終わらないほどの笑い話が積み重なりつつあるので省くが良い奴だ。


 段々話がそれてきてしまっているが、最近の悩みはサークルでのことだ。このままでいくと俺の立場はどうなるのかわからない。こういう場合、おそらくあまり男として扱われなくなり自分自身も相手を女として意識することがなくなるのだろう。

 男として意識されたいとか好かれたいとかそういう意図があるわけではなく、ただ単にそうなった時に人づきあいが変わってしまいそうで嫌なのだ。

 現状、芹沢や部長に変な冗談を食らい続けているのだ。これ以上、こういうことが増えてしまったら自分の立ち位置はいじられるというものになってしまう。それは避けたいところだ。


「ところでさ、サークルの子たちって可愛いの?」


 フランス語の授業終わりにそう聞いてきた稲川とは高校からの付き合いがある。


「それは個人の感覚に寄るから俺には答えられないな。」

「いや、何か言えることあるだろ。朝居が可愛いと思う子とかでもいいからさ。」


 俺がサークルで一番気にいっているのは当然、絵の中の彼女だがこいつに言っても理解されないだろう。


「可愛いというか美人で言ったら杉下さんとかじゃないかな。美術専攻の子なんだけど、画になるというかただ座っててもそれが綺麗に感じるくらいには整った人だし。あとは中等英語の芹沢とかも大学生って感じで可愛らしいのかな。」

「そういう子いるならいいじゃん。」

「バドミントンには可愛い子いないの?」

「いないわけじゃないけどなんか違うというか。活発な可愛い子はいるんだけど大人しくて可愛い子ってのがいるのが美術部っていいなって思うよ。」


 言い分はわかる。


「でも、いたからって何かおこるわけでもないんだぜ。サークル全体的に女の人が多い上に新入生の男女比はこんな感じだし。」

「同回生が女の子ばかりってのは案外悪くない状況なんじゃないかな。」

「それはどういうこと?」

「朝居がどう思ってるかわからないけど、女ばかりの環境ってのは高校の頃もそうだっただろ?美術部もそうだし、グローバルコースも女子の方が多かったじゃん。ある点ではそういう環境の方が慣れてるわけだし、今まで通りの感じでやっていけるんじゃないの?」

「そういうところじゃなくてさ。大学生って今までと環境変わって当たり前なわけじゃん。なのに今までと同じ環境で安心ですっていうのは拍子抜けなわけで。俺としても環境が変わって新しい友達でも作りたいなって思ってたわけだし。」

 自分でもまとまらない意見だなと思いながらも話す。具体的な不満が何かあるわけではないのでこのような内容になるのだろう。

「なるほどな。でも、まだ新歓終わったわけじゃないんだし男の部員が増える可能性はあるだろ。」

「それを願ってるんだけど。未だに俺以外の男が見学にすら来てないって話なんだけど。」

「詰んでるかもな。」


 諦められた。


「俺もここ二日くらい諦めだしてるよ。もう一個くらいサークル入ろうかなって方向でも考えてるし。」


 ただ、見学に行こうにもあてもなければ興味を持つような場所もなかった。


「そう難しく考えずにいこうさ。学科の方で友達とか作って、サークルは趣味を行う場所。それでいいんじゃないかな。」

「そういうもんかな。」


 いくら相談しても悩みは解決しない。

 仕方ない。本気で困ってはいないのだから。元々、女の人だらけなことは覚悟して入ったわけだし。


「それこそ、その中から彼女でも作ったらいいんじゃないかな。」

「みんなそう言うよ。」


 高校の頃はそうは言われなかったのに、大学生になってから急に女所帯のサークルに入っていると言うと口を揃えたように勧めてくるのだ。


「最後の青春だからな。そっちの方向に考えが良く人が多いんだろうな。特に今まで部活とか勉強の方に力入れてきた人たちが。」

「まあ、わかるけどさ。なんか焦りすぎじゃないの?」


 彼女が作りたいという気持ちはわかるが、何でもそこに結び付けるのはいかがなものだろうか。


「朝居みたいに高校の頃に彼女がいた人からしたらわからないかもしれないけどさ。なんか二十歳が近づいてきて、そこまでに彼女いないとヤバいんじゃないのって気持ちが強くなってくるわけ。でも、それを一人むき出しってのはカッコ悪い気がするから他人も彼女を探してるんだと考えて、実際にその前提で発言してるんだろうな。」

「そこまで考えたうえでさっきの発言してるとしたら、大学生ってのは総じて策士だな。」

「まあ、そういうこと抜きにしたってさ、彼女が欲しいと思うのはなんかあるじゃん。それに適した状況が朝居の前には用意されてます。どうしますか?ってくらいで考えたらいいんじゃないかな。最初からガツガツ行くのはお勧めしないけどな。」

「言われるまでもなくそういうタイプではないわ。」

 でも、そういうことならこの状況は一般的に見て悪いわけではないのか。それとも女だらけの部活を経験したことがない人がそういうのか。

「同性の友達は割と作りやすいし出会う機会も多いけどさ、異性の友達とまではいかなくても知り合いですら作るのってやっぱり難しいじゃん。そう言う意味でも良い機会に恵まれてるんだと思うよ。最終的には朝居の考え方次第だけどさ。」


 彼の言いたいことはすごくわかるし同意ができる。

 結局は俺がどう考えるかでしかない。

 部長との関係も芹沢との関係も他の同回生二人との関係も。難しいことではない。今まで通りにやればいいのだ。まずはそれを心掛けるしかない。


「彼女出来たら教えてくれよ。」

 そう言い残して朝居と別れる。

 お互い、今日も新歓だ。稲川の所は今日が新入生の確定日らしいので授業前に話した時も楽しみにしている様子だった。

 美術部としては最後の新歓日だ。少し早いけど、男が来ることを願いながら部室に向かうことにした。


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