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結果から言えば、昨日の新歓は成功だった。
来てくれた六人のうち、美術専攻の子二人が入部を決めてくれた。これで新入生は四人になった。ここまでくればある程度安心だ。
美術領域の子たちは部室を使えるという事は専攻の課題や勉強をこなすことにもつながるため、やる気のある部員として活動してくれることに期待だ。
去年、一昨年よりも良いペースで進んでいる。できれば、あと一人か二人は美術専攻の子に入ってもらいたい。昨日までなら高望みだったかもしれないが、同じ専攻の子が入っているということになれば他の子も入りやすくなったのではないか。
純ちゃんの言う通りなるようになるものだ。
それもそうだ。そんなに簡単にサークルの危機などにはならない。美術専攻の受験者が年々減ってきているとか、絵をパソコンで書く人が増えてきてアナログ媒体の美術がピンチだとか、話は聞くけれどまだ深刻ではないのだろう。少なくとも私の周りでは。
受験者が減ってきているというのは安定志向の人が増えて教育大とはいえ「美術で大学に行く」ということに抵抗を感じる人が増えたからだろうし、パソコンで絵を描くような人が元々アナログの美術に興味があったかどうかは怪しい。
それらによって地方の小さな教育大学の小さなサークルが受ける影響など大きいはずがないのだ。
部長という役職を軽く考えることはないが、新歓における全責任を負うとかそこまで重く考える必要もない。昨日の私が見たら驚くほどの考え方の変化だ。
それくらいに気持ちが晴れやかなのだ。
「部長どうしたんですか?何かいいことでもあったんですか?」
テンションがおかしくなって部室で実際に小躍りしているところを千夏ちゃんに目撃される。
先輩としての威厳とかに関わる問題ではないか。
「あぁ、千夏ちゃん。こんにちは。」
あくまでも平常を装って挨拶をする。何事も起きていないように見せかけるのだ。
「こんにちは。部長、誤魔化してもちゃんと見てましたから遅いですよ。部長が謎の踊りを踊ってたの。」
「そこは先輩のメンツを立てて『何も見てません』みたいにするのが良いと思わない?」
「いいじゃないですか、嬉しそうだったんですから。」
理屈が通らない。ただ単に面白がっているだけだ。
「まあ、千夏ちゃんも喜んでくれるようなことだよ。千夏ちゃんは昨日の新歓には来なかったよね?」
「はい。バイト行ってました。」
「何のバイトしてるの?」
「塾講師です。」
「個別?」
「はい。集団はさすがに難しそうだなと。」
「教育大に入って言う言葉ではないと思うけどね。」
ちなみに私も個別指導塾の講師だ。学校柄、このバイトについている人は多い。子供と接する練習にもなるし、習ったことを実践できる場でもある。
「私もそう思います。それで、私も喜ぶことって何ですか?」
「ごめん。話それちゃった。実は…」
大したことでもないのにためる。
「新入部員が入ってくれました。それも二人。女の子。」
「やったー。どこの専攻ですか?」
「二人とも美術。」
「まあ、サークル柄そこが多いですよね。」
「同じ専攻の子に入ってほしかった?」
朝居はいるが友達という感じではないだろうと考えそう質問をする。
「そうでもないですよ。人数が多くもないので既に大半知り合いですから、サークルで知り合う必要もないですし。むしろ、他の専攻の人たちと知り合う機会が少ないですから普段接点がない専攻の方が面白いかなって。」
「まあ、それも考え方の一つだよね。」
こうやって千夏ちゃんと朝居抜きで会話していると普通に話せるというのに何故彼女は朝居といる時だけ私に突っかかってくるのだろうか。二人きりの時には何も朝居について言及しないというのに。
彼女が私と朝居の関係を誤解しているのも、その原因が朝居にあることにもわかっている。朝居の前ではあんなに色々と私を挑発してくるというのに一対一ではその素振りすら見せない。
あれはただ朝居をからかっているだけの行為なのだろうか。私は毎回それに付き合わされているだけなのだろうか。
「部長さんはそんに嬉しかったんですね。美術系の子って。」
「それもあるけど、最低目標の四人に達してよかったなって。」
それは本当だ。それだけではない。
千夏ちゃんと朝居が早々に入ってくれたことは嬉しいが、二人とも少しだけ私を悩ませる。だから、今回の追加の二人は私にとって安心材料なのだ。
「あっ、次のコマあるからもう行くね。お疲れ様。」
時間が迫っていたので部室を出る。
そして、千夏ちゃんを振り返り思う。
後輩と話しているのは楽しい。けど、今はどこか気を張っている。
ねぇ、千夏ちゃん。あなたは何を考えてるの?それとも私の考えすぎ?