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絵の中に在る  作者: 中野あお
1.考える人
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1-4

 俺が絵を描き始めたのはいつだっただろうか。


 物心がついた時からトールペイントが趣味だった母親の影響で絵を描いていたし、小学校の頃は漫画を模写するのが好きだった。

 そこまではまだ本当のお遊びの範囲だった。


 中学に進学した時、美術部に入ろうとしたが、親の反対を受けしぶしぶ軟式テニス部に入部。中学生くらいはい運動部をやっておけというのが理由だった。

それでも絵を描くことが好きだったので、この頃から自分で絵を勉強するようになった。


 両親ともに普通のサラリーマンである我が家の中に、自由に絵を描けるアトリエ的なスペースなどはなかった。描けたとしてもリビングに新聞紙を広げて木を塗装する程度のことだった。

 だから、今みたいな水彩画をきちんと始められたのは高校で念願の美術部に入った後だった。部室という、絵を描ける大きなスペースができたのだ。


 水彩に興味を持ったきっかけは、父親が十四歳の誕生日プレゼントにくれた水彩色鉛筆。美術に興味のない父親は一緒にキャンバスもくれたが、そちらは使う機会はしばらくなかった。

 父親は俺が絵を描き続けること自体には反対ではないのだとわかったのもその時だった。


 それ以降、俺は水彩画を中心に書き続けている。


 だからというわけではないが、俺があの水彩画 ― 彼女に目も心も奪われてしまったのは当然かもしれない。


 美術系の学部のあるこの大学だからこそ、上手な絵を描く人間はいっぱいいるがあの絵だけは特別だった。単に技量の問題だけではない。モデルの美しさ、構図の素晴らしさがあるのだ。

 水彩画でありながら写真のように風景を切り抜いたような印象を抱くのは、その筆の正確さ故か色使い故か。


 絵に描かれる彼女はとても美しい。腰近くまであろうかという長い髪は光を受けて輝くほど黒く、その白い肌との差がまた美しい。えんじ色の縁をした眼鏡、その下から見える目は真剣そのもの。集中して手に持った本を見つめている。

 このような特徴を持った人物は今の美術部にはいない。(先輩たちに聞いても教えてくれないが)もしモデルとなった人物がいたとしたら、俺はすぐに求婚してしまうかもしれない。それほどに彼女を愛している。


 芹沢が俺と部長の関係を疑っている(彼女の中では確定)が部長の容姿は彼女とは程遠い。それを芹沢はわかっていない。

 部長の髪は短く、眼鏡もかけていなければ、黒髪でもない。これでモデルが部長なのだとしたら盛りすぎではないか。どちらかというと芹沢の方が容姿の条件としては満たしている。初めてあった頃はコンタクトだったが眼鏡に代わり、髪も最近は伸ばしているようだ。


 しかし、似た人物に会いたいわけではなく、会えるのならば本人に会いたい。

 暇があれば部室に足を運んでいるのは彼女を眺めるためだけではなく、モデルとなった人物画来ないかと待っているのだ。その人物に心当たりがあるから。

 部長にはストーカーみたいだと言われたが、絵に対してストーカーは成立するのだろうか。後でK大の法学部に言った友人に聞いてみるか。

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