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絵の中に在る  作者: 中野あお
8.行動する人
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8-2

「朝居と付き合ってるんですか?」

「へ?」


 予想もしてなかった質問に思わず情けない声が出た。

 内容もタイミングも質問者も全く予想していなかったパターンだ。

 そもそも私と朝居が付き合っているというのは、目の前にいる彼女―芹沢千夏が私たちをからかうのに使っているネタであって、他の部員からはそんなことを思われていないはずだ。そんなことを言っている本人にしたって、真実だと思って話していないと考えていた。

 今更、一ヶ月近く経った段階で彼女から確認が入るということは想像もしていなかったし、部室に来て二言目がその台詞だとは夢にも思っていなかった。


「付き合ってないけど。急にどうしたん?」

「急にってわけでもないですけど、この際はっきりさせておこうと思いまして。今は部長の言葉信じますので。」

「そもそも私と朝居なんて春にあったばかりのなのに、この段階で付き合ってるってのは早すぎるでしょ。」


 口にしてから、その言葉の不用意さに気づいた。

 そもそも彼女がそんなことを気にしているのは千夏ちゃん自身が朝居のことが好きだからではないだろうか。そうだとすれば、今の言葉は二つの失敗をしたことになる。


「人を好きになるのに時間の長さなんて関係ないですよ。」


 その不安を肯定するかのように千夏ちゃんの言葉が飛んだ。

 この二ヶ月で聞いた彼女の声の中でも一番感情のこもった声。

 いつも笑っていて軽い調子で話を振ってくる彼女からは想像もできないような、怒りではなく自分の気持ちを正面に打ち出した、そんな言葉。


「それは確かにそうだね。好きになる時って付き合いの長さとか関係なく、気づいたら好きになってるって感じだもんね。」

「そうです。付き合いの長さが全てじゃないんです。」


 一つ目の失敗は千夏ちゃんが朝居のことを本当に想っているのにも関わらず、いつも通り軽く答えてしまったこと。二つ目は私なんかよりも彼に近く、彼女よりも彼との付き合いの長い人間を考慮していなかったこと。

 背中から下した鞄を机の上に置くことを止めてまでも私にそう言ったのは、ここにはいないあの人への対抗心故なのか。

 千夏ちゃんが私の真正面に座る。

 普段、椅子のないそこにパイプ椅子を置いてまで。


「私しかいない時を狙ってきたってことは私に用事があったんでしょ?その様子だとさっきの質問だけじゃないってことかな。」

「最初はさっきの質問だけできたらいいかなって思ってたんですけど、部長さんの言葉聞いて気づいたというか思いただしたんです。朝居が好きな絵の中の『あの子』が部長さんなら私が気にするべきは貴方だって思ってましたけど、もっと気にするべき人がいたんですね。」

「それって燈子さんのこと?」

「そうです。部長さんはモデルだから似てて当たり前ですけど、どことなく燈子さんもあの絵に似てるじゃないですか。」


 後ろを振り返り、絵を確認する。

 言われてみればそうだ。自分自身がかかれていると思っていたからそういう風に見たことがなかったが、あの少女は初めて会った頃の燈子さんに似ていないこともない。私と燈子さんを足して八対二で割ったらあんな感じになったかもしれない。


「雰囲気は似ていないこともないけど、あれを見て燈子さんだって思わないと思うけど。」

「でも、朝居は部長さんよりも燈子さんの方が良く知っていますから、初めて見た時、どう感じたかはわかりませんよね。昔からの知り合いみたいですし、仲も良さげでしたから。」


 自分で言いながらショックを受けたのか後半になるにつれ声は小さくなっていった。

 今、千夏ちゃんが考えている可能性がないわけではないだろう。

 私には否定してあげられる材料もなければ、何より朝居に詳しくない。燈子さんについても部活の先輩として仲良くしているが、プライベートの踏み込んだ話などする機会はそうない。


「気になるんだったら、私から燈子さんに聞いてみようか?」

「何をですか?」

「千夏ちゃんがさっき私にした質問をそのまんま。」

「気持ちはありがたいですけど、それは私の仕事です。」


 そういう彼女の目は部室に入ってきた時と変わらない、強い決意のようなものが浮かんでいた。

 私を見て離さなかった真っ直ぐな瞳が、ここにはいない恋敵(候補)に向けられている。

 でも、今の彼女は見ていて不安だ。

 その若さともいう猛進する恋心は判断を誤らせることもあるだろう。このまま燈子さんの下へと駆けていき、質問をぶつけてしまうほどの勢いは彼女のためにならない。


「話は少し変わっちゃうんだけどさ。」

「なんでしょうか?」

「どうして朝居を好きになったの?」


 今までの凛々しい表情が嘘かのように、千夏ちゃんの顔に朱がさす。この一ヶ月私には色々と言っておきながら、攻められると弱いタイプなのかもしれない。

 そこまで初々しい反応をされると余計に聞きたくなるだけだ。


「ここまで話しちゃったんだからさ、最後まで教えてよ。まあ、最後というか最初の話なんだけどさ。」

「このタイミングで聞きますか?」

「このタイミング以外にいつ聞くのさ。」


 私の方も見ていた顔もうつむき、恥ずかしそうに体をもじもじとさせる。

 一通り恥ずかしさを全身で表現した後、千夏ちゃんは口を開いた。


「笑わないでくださいね。」

「笑わないよ。どうしてなの?」

「それは―」

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