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大学生になったからといってすぐに高校の頃の縁が切れるわけではない。大学から知り合った人との付き合いなど一ヶ月もない。すぐに意気投合した人がいるというのならまだしも、少し仲良くなった程度なら休みの日まで会うことはない。
何が言いたいかというと、顔合わせの翌日―土曜日、今日は高校の部活仲間と会うことになっている。地方の大学に行った人もいるので全員が集まるというわけではなく、今回参加するメンバーだけで言うと私たちの学年とその一つ上だけではあるが、先輩後輩問わずに集まる。特に例年の習わしとか集まりというわけではないが、今年はたまたまそうなった。
中心となったのは私ではなく一学年先輩の巴月先輩だ。後輩との仲も非常によく、面倒見の良い人だったので大学生になった私たちを心配してくれているのだと思う。それに一つ上の学年は浪人していた人も多いのでこの機会にお互いの安否を確認してしまおうということでもあるのだろう。
参加するのは九人。私たちの学年が四人と一つ上が五人。男女比は十対零で女性に傾かざるを得ない学校柄、食事をしようと言ってもがっつり食べるというわけにはいかない。そういうこともあって夕食はバイキングに決まっていた。もちろん大学生になりたての私たちのお財布事情を考慮したような場所にはなっている。
食事会の集合時間は十八時だが『せっかく集まるんだったら夕食だけじゃなくてどこか遊びに行きたいよね』という鞠花の発言により同学年だけで午後一から集まることになった。
昼の集合時間より早めに待ち合わせ場所についたつもりでいたが、既に鞠花はそこに立っていた。
改札から出た私を見つけるなり笑顔で手を振ってくるのでこちらもすぐに彼女を見つけることができた。
「千夏は変わらないよね。」
「むしろ一ヶ月やそこらで大きく変わるってのも変じゃない?」
「いや、大学デビュー的な。今まで男日照りだった反動みたいな。」
「鞠花のその髪の色は男日照りの反動ということなのね。」
一ヶ月ぶりに会った友人は髪の毛を脱色し、金髪に近いまでの明るさになっていた。元々、色素の薄い彼女がそんな恰好をあるものだから日本人離れが進んでしまっている。ただ、変わったのはその外見だけで一言話せば依然と変わらない彼女が覗く。そう簡単に人は変わらないのだ。
「その言い方だと私が男漁りしてるみたいにも聞こえかねないんだけど。」
「鞠花って初めて会った頃からそんな感じじゃなかった?」
「違うって。勝手にそういうイメージを抱かれること多いけどさ、私はいたって真面目に生きてきたんだけどな。うちの学校が少し堅すぎたから私だけ浮いて見えたのかな。って大学に入ってから思ったけどね。」
「私たちが堅かったってのも少しはあるだろうけどさ、なんかそういう言動多い気がするからさ。定期的に彼氏欲しいとか漏らしてたしさ。染髪禁止の学校で茶髪だし、スカートも短いし、胸大きいのにシャツを第二ボタンくらいまで開けてて谷間覗いてるし、口調も少し荒いし、胸大きいし、完全にヤンキーとか頭の緩い子みたいな見た目だったからね。」
そのことを思えば今日の彼女の服装は落ち着いている。フリルのついたミントグリーン上着は胸元を完全に隠しており、膝下まである白いスカートを履いているなんて先月までの彼女の服装からすると大人しくなっている。
彼女がどこまで意図してなのかわからないがこちらの方が男受けは良さそうだ。特に隠しているのに逆に目立ってしまっている大きなそれが様々な視線を集めている。
「まあ、そこら辺については反省しているというかイメージチェンジ兼ねてやめたのよ。というか、なんで胸のこと二回も言ったの?千夏だってないわけじゃない癖に自分のこと棚に上げてさ。」
「いや、鞠花のは異常に大きいからさ。それがああいうイメージにつながったんじゃないかなって。」
「好きで大きくなったわけじゃないって。これのせいでまともに運動もできなくて困るしさ。この話するの久しぶりな気がするわ。前はことあるごとに私の胸を弄って来たからさ。大学だとまださすがにそんなこと言いあえるような友達はいないし。」
彼女の自身が気にしていることを茶化すというのはある程度信頼されているからできることなのだ。同じ女として触れてはいけないデリケートな部分には触れない。鞠花だってその容姿で解くばかりしてきたというわけではないのだとわかっているから。
現に多くの人の行きかうこの改札口で、彼女には多くの視線が集まっている。同性からも異性からも彼女の容姿に、綺麗な顔立ちに、大きな胸に、視線が刺さるのを横にいる私ですら感じるのだ。当人は尚更だろう。
「昼はみんな来るんだっけ?」
「そうそう。二人ともしばらく会ってなかったから楽しみ。」
「双葉は大阪の市内の方だし、未菜は浪人中だから二人とも気軽には誘いづらいよね。」
「そうそう。なんか遠慮しちゃうよね。あっちはあっちで楽しんでるかもしれないし、忙しいかもしれないしさ。」
彼女たちの様子が何もわからなければ会って話すこともあるかもしれないが情報は少しは知っている。それも本人発信のもので知っているのだ。そういったSNSで繋がっている時代だからこその遠慮なのかもしれない。リアルの縁が薄くなっても繋がりが切れてしまわない。
ふと彼女の顔を見ると目が合った。少し照れくさくなってお互い笑う。その笑いが懐かしいなと思っていると鞠花が切り出す。
「ところでさ、千夏は最近どうなの?彼氏とかできた?あまり大学のこと呟いてないから気になってさ。」
「まあ、順調だよ。大学でも美術部に入ったし、純花先輩も同じサークルだし楽しくやってるかな。彼氏はできてないけど。まあ、それは追々かなって。」
「気になる人はできたっていう言い方だよね、それ。恋愛とか興味なさそうだった千夏にもようやく春が来たわけか。私は嬉しいよ。」
「そうとは言ってないでしょ。」
彼女の鋭さにはドキッとさせられる。そう言った気づきが彼女の特徴でもあり、彼女があんな見た目であっても皆から好かれていた理由の一つでもある。
「いや、あんたがそういうはぐらかし方をするって時は何か言いよどんだ時だったり、隠し事がる時なんだって知ってるからさ。肯定も否定もしないってのはそういう事だよね。」
「はいはい。鞠花に隠し事なんて無理だよね。そうですよ、そうですよ。できましたよ、好きな人。春が来たかどうかは別にして私だって元々そういうこと興味ありますからね。」
「認めたね。あぁ、今日の話題はこれで決まりだね。」
「えっ、二人に話すの?」
「当たり前じゃない。私たちの間に隠し事は少ない方が良いに決まっているじゃない。」
そう言いながらゲラゲラと笑う彼女には勝てない。でも、そうやって相談に乗ってくれると暗に言ってくれる仲間がいることが今は何よりもうれしい。
「あっ、あれ未菜じゃない?」
改札の中に友人の姿が現れたのを楽しそうに迎えている彼女が眩しかった。
そして、この後、さんざん朝居のことでいじられたのだった。




