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私自身は自己紹介の順番を気にする人ではないので何も考えずに時計回りになるように指名した。先にこちら側から名乗るのがいいかとも思ったが、新入生のことが知りたい人が多いだろうと思い千夏ちゃんを指名した。
新歓の参加回数も一番多い彼女なら当たり障りなく、緊張せずに話してくれるだろうなと言う意図があったかもしれないが、何よりも彼女の座っている席がちょうど端だったからだ。
まさか自分に飛んでくるとは思っていなかったのか、名前を読んだときビクッとなっていたものの、いたって模範的な自己紹介をしてくれた。
「言い忘れてたけど何か聞きたいことある人はその都度聞いてあげてね。新入生同士も質問しても構わないから。」
ただ、それでは面白くなかったのだ。
新入生に無茶ぶりをしたくはないが、ただ単に一方的な紹介ではわからないこともあるし、ここに知りたいこと聞きたいこともあるだろう。そう考えての発言だ。
その意図を汲み取ってくれたのか燈子さんがニヤニヤしながら手を挙げた。この人は興味の向くままに話をするのでこういう場にはもってこいだ。
「千夏ちゃんは純ちゃんの高校の後輩って聞いたけど、高校の頃の純ちゃんってどんな感じやったん?」
燈子さんは私たちの入部当初からとても純ちゃんを気に入って可愛がっていた。本人曰く『祖国の妹に似ている』とのことだが燈子さん生まれも育ちも京都の日本人だ。
「えーと。部活自体は半年くらいしか一緒にやってませんけど、その頃の印象と一年ぶりに会った印象はあまり変わらないですね。昔からなんでも手短にやっちゃうような人でしたし、見た目も高校の時からあまり変わってないというか年を取ってないような感じです。」
確かに純ちゃんは高校生から年を取っていないというか年齢の割に幼く見える。身長が低いこともあるが、顔つきがまだ幼い上に化粧を嫌がって薄く(女から見てもしてるかはんだんできないような薄さだ)しているため成人しているようには見えない。
新歓時期に歩いていると必ず声をかけられるらしいし、初対面の人からは必ず一回生と思われる。飲み会に行くと毎回年齢確認をされるし、年齢確認されない場合は未成年と勝手に数えられていることが多い。
急に話題に挙げられた純ちゃんは少し怒ったようだ表情で投稿さんと千夏ちゃんを交互に見ている。こう言うと純ちゃんに申し訳ないがリスみたいで可愛らしい。
まあ、上回生を中心に気になっていた質問をしてもらえてよかったが、個々はもう少し美術部らしい質問が欲しいところでもあった。だからと言って部長である私がそんな堅苦しいことを聞いてしまったら他の質問を抑圧することにもなりかねない。
そんなことを考えながら左隣にいる七海に目配せをする。少し(というかかなり)早い就活をしている彼女なら質問にも慣れているだろうと思ったからだ。
純ちゃんを笑ってみていた彼女と目が合う。七海はニコッと微笑むとウインクをする。伝わっていない気がするが仕方ない。
「他に質問ある人。」
誰かが美術部らしい質問をしてくれることを期待しながら他の質問を募る。
すると、先ほどのアイコンタクトをしっかりと受け取ってくれていたのか七海がピシッと手をあげる。
「七海、どうぞ。」
「高校でも美術部入ってたって言ったけど何をやってたの?」
そうそう。そういう質問を待っていたのだ。美術部らしく定番のようなものを。
「メインでは水彩やってました。水彩鉛筆で描くことも多かったですし、絵の具の方も年に何枚かは書いてました。油の方は全くです。」
淡々と答えたようで何故か水彩画というのを躊躇ったように感じた。先輩の前で、それも純ちゃんのことを知っているからこそ水彩をやっていたなどと言う事を躊躇ったのかもしれない。
質問をした七海はというとその回答に少し残念がっているようだ。彼女は美術部の中で同じことをやっている仲間がいないことを悩んでいたので今年こそはと思っていたのだろう。
周りの反応を一通り見たのち私は口を開く。
「他にない?大丈夫そうだし、座っていいよ。ありがとう。これからよろしく。」
少しオドオドしていた千夏ちゃんがゆったりと座る。緊張が解けて落ち着いたのだろう。
そのまま私は特に気にせずに朝居を指名する。
私の指名にはっきりと返事をして、落ち着いて立ち上がる。
「英語領域中等英語専攻の朝居です。出身は大阪で、高校でも美術部に入っていました。まだ未熟ですので、いろんな方の作品を見て勉強したいと思ってます。よろしくお願いします。」
千夏ちゃんの時と同様に拍手が鳴る。
唯一の男子に皆がどんな発言をするのか気にしていたのだろうが、彼らしくなくあの絵に触れることもなく無難に終わった。私が勝手に彼のことを変わり者だと思っていただけで案外普通の人なのかもしれない。
「男一人で肩身狭いかもしれないけど頑張って。」
そう声をあげたのは二回生の本庄だ。二回生は男が二人いるが片方は兼部で今日も来ていないため肩身が狭いのは彼の方なのかもしれない。
「ありがとうございます。」
「じゃあ、何か質問ある人。」
「さっきと同じ質問だけど、高校の部活ではどんなことやってたの?」
手を挙げた七海は指名する間もなく質問をする。
「芹沢と同じですけど水彩画です。本格的なものじゃなくて、水彩色鉛筆が好きなのでそれでちょこっとしたもの書いてることが多かったです。」
「今年もやっぱり水彩多数かなぁ。」
確かに水彩色鉛筆はとっつきやすくて人気だ。ぼかしたりすることの楽しみを覚えるにはいいきっかけになる。
七海はやはり悲しそうな表情だ。
彼女が悲しもうとも場の空気としては良い感じになってきている。この質問しやすい花際やすい状況で、次はだれが質問するのかと思い見回すと一人手を挙げている人がいた。
「由々先輩どうぞ。」
すっかり油断していた私は何のためらいもなく、数時間前に先輩と交わした会話を忘れて質問をあててしまったのだ。
「朝居君、あの絵が好きだって聞いたけど本当?」
その結果として場が凍り付いた。




