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案内されて開けた扉の向こうに待っていた新入生が全員女の子だったことは予想の範囲内であり、同時に少しがっかりした気分になった。
金曜日は抽選の関係で最後のコマしかあたらなかったため、五コマ目の授業をきっちりと受けてから美術部の部室に足を運んだ。
俺は部室の前で待っていた茅野先輩が「他の子たちは来てるよ」などと言った段階で、新歓にきていた女の子たちばかりなのだろうとは思っていたが、そう覚悟したうえで開けても肩身が狭いものだった。
高校でも男女比は圧倒的に女性に傾いていたが、高校ではクラスという集団が別にあったがために同性の知り合いには困らなった。しかし、うちの大学にはクラスなどというものはない。
そもそも、このようなサークルを選んだ段階でそうなるのは仕方がないと思ってもいたが実際、目の当たりにすると少しばかり迷うところだ。
「遅れました。」
入ってすぐ目が合った部長に謝る。
開始時間には遅れていないと思うが、みんな集まっていたのでそう言ったのだ。
「大丈夫だよ。朝居以外にもまだ来てない部員もいるし。最後のコマまでやった後に一般教養棟からここまで来るの時間かかって当然だしね。」
「間に合ってるなら良かったです。」
「まあ、好きな席に座って新入生同士仲良くなってよ。女の子ばかりで少しやりづらいかもしれないけどさ。」
「高校の時もこんな感じだったので慣れてますよ。」
とりあえず、促されるままに空いている席に座る。
座った席は芹沢と杉下さんの間だった。二人とも新歓で面識があってまだ話せるほうだ。
「遅かったね。何の授業受けてたの?」
座るなり芹沢が話しかけてくる。
「『都市と環境』っていうやつ。」
「あー。割と大変だって聞くけど。」
「まあ、他の一般教養に比べるとレポートとか毎回の授業まとめ提出とかあるから大変かもしれないけど、話に聞くほどではないかな。教授の話は面白いし。」
こうやって話せる相手がいるなら女性だらけでも問題ないのではないかと思ってしまう。
「そうなんだ。不人気なのは最後のコマだからなのかな?それとも一般教養は簡単なもののほうが良いからかな?」
「知らないけど両方じゃないの?俺だって好きでこの時間の授業取ってるわけじゃないから何とも言えないし。」
芹沢は俺の方をじっと見たまま話をする。話相手の目よりも口元を見て話すのは彼女の癖だろう。確かに他人と目を合わせ続けるということが苦手な人も多いが、芹沢もその一人だろう。
ふと視線を彼女に向ける。先輩方が場の空気をにぎやかにすべく新入生に話しかけている中、彼女は隅の方で一人本を読んでいる。いつもと変わらない。
「また、あの絵を見てる。」
横からいつものように問いかける芹沢。
「いや、こんな時でも飾ってあるんだなって。」
「そりゃ、飾ってあるでしょ。額縁に入れてある絵を大事に保管してるだけなんて博物館でもないんだから。」
「そうだけどさ。美術部的なものが少ないこの場で唯一っていいって言いほど存在感を放っているなって思うからさ。」
「美術部らしくないかな?この部屋は十分美術部らしいと思うけど。」
「いや、今日に限った話だよ。普段、転がっているような画材とか文房具とかがなくてきれいに整頓されてるし。」
「そりゃ新入生迎えるわけだし散らかったままの部室ではいけないでしょ。片付けも掃除もいつもより入念にやりましたからね。」
横から部長が話に入って来る。
「さすがですね。」
「部長ってそういうところ厳しそうですよね。しっかりとした手順とかそういうの。」
芹沢が部長に問いかける。
二人は何故か険悪な、というと言いすぎかもしれないがお互い相手のことが苦手そうな雰囲気を漂わせることもあるが今日は大丈夫なようだ。あって日も浅いというのになぜそのような空気なのだろうか。
「厳しくないといえば嘘になるかもしれないね。部長としてしっかりとするところは決めているつもりだからね。」
「例えばどんなとこですか?」
「そうだね。作品をふざけて描くような人は許さないとかかな。本気でやれとかは言わないけどふざけるのだけは許せないよ。もし、朝居がそんなことしたらどんな罰が待っているやら。」
笑いながら冗談として言う部長だがその目は笑っていない。ふざけようものなら本気で罰を与えるのだろう。
俺たちの間に立っていた部長が付けていない左での腕時計を気にするような仕草を取ったかと思うと移動する。といっても彼女自身の席であろう場所に戻っただけだ。
席に戻ってきた部長に戸田先輩が何か耳打ちをする。
それも聞いてか部長が少し笑う。そして、こちらを向き直り口を開く。
「はーい。注目。」
その通る声に皆が視線を向ける。
「時間になったし、大方の人が来たので今から顔合わせをはじめます。」




