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絵の中に在る  作者: 中野あお
4.出会う人
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4-1

 顔合わせと聞いて最初は何をするのかわからなかった。

 わからないというと言いすぎかもしれない。言葉の意味はわかる。ただ、本当に会うだけではないと思ったのだ。


 部長に聞いたところ自己紹介と活動紹介をするのがその場でのメインであり、終わった後の懇親会という名の食事会で個々にはもっと仲良くなろうということらしい。

 確かに現状、入部を明らかにしている新入生の中で知っているのは朝居だけという状態なので他の新入生と仲良くなれるというのは嬉しい場だ。それに朝居とも仲が良いと言えるか怪しい状況なのだ。一気に距離を詰めてしまえるなら願ってもない。


 一回生同士も初対面の人が多い中、朝居とある程度話せる私がいるなら、自然と彼は私の近くに来るのではないだろうか。もし、少し早めに行って会えたらお互い話さざるを得ない状況になるのではないか。


 そんな思惑もありつつ、時間をつぶすためにいた図書館を出て、部室棟Cの三階にある美術部部室の前に着いたのは十七時三十分。

 少し早く来すぎた気もするが、新歓でも見かけた二回生の先輩がすでに扉の前に立っていたので安心した。軽くパーマを当てたセミロングの茶髪に丸渕の眼鏡が特徴的だったので覚えている。


「千夏ちゃんだっけ。来てくれてありがとう。一応、十八時に入れることになってるからもう少し待っててね。」

「わかりました。」


 早めに来る人を予測してか用意されていた椅子に座り待つ。

 待っている間、受付の茅野先輩が色々と話しかけてくれる。こういうのが得意な人なのかもしれない。


 時間が経つにつれ人がやってくる。そのほとんどは部員で、準備をしに中に入っていく。

 新入生としてやってきたのは女の子が二人。その度、お互いにどこかぎこちない挨拶をして会話をする。共通の話題は限られているので、専攻や一般教養についての話がほとんだ。


 二十分経った。

 最後のコマの終わりを告げるチャイムが鳴る頃に、扉の前には新入生の女の子が五人集まっていた。朝居の姿はない。

 見た目で決めつけるのは良くないが、仲良くやっていけそうな雰囲気の子ばかりでよかった。こういうサークルにやってくる人の中にはぶっ飛びすぎて合わない子も稀にいるので心配していたのだ。特に美術専攻の子たち。


「みんな緊張してるね。そんなにピシッとしなくてもいいよ。リラックスリラックス。取って食うわけでもないんだから。」


 人数が増えたからと言って話が弾むようなメンバーでもなかったようで、先輩がこうして場を保つようなことを言ってくれないと何とも言えない空気が流れるだけであった。


「そうだよ。ちょっと早めに来たんだから一回生同士で自己紹介でもしておきなよ。サークルの友達は割と今後重要だぞ。」


 もう一人、名前の知らない金髪の男の先輩がそう言う。美術部って感じの見た目ではなく、少しチャラい。


「たぶん、あんたが何言っても見た目で新入生はビビるわ。怖いよね。」

「い、いえ、そんなことないですよ。」


 話を振られた隣の子がテンパりながら答える。綺麗に切りそろえられたショートヘアがお嬢様らしさを醸し出している。


「優しいね。まあ、なかなか怖い人の前 で『あなた怖いですね。』なんて言えないからか。」

「新入生に変な印象与えるの止めてくれる?俺の好感度最初からだだ下がりじゃん。」

「元々、ゼロなんだから下がるも何もないでしょ。」


 ゆるふわな見た目とは裏腹に男の人を弄っていく茅野先輩。それに反応して笑う一回生の面々。

 部室棟の廊下で椅子に座って待機しているというだけでも変な状況だが、お互いの名前をきちっと知らないのにこのように談笑しているというのは何とも不思議だ。何というか仲良くなれそうな空気が作り出されている。


 私も彼とこのように話すことができたら、と考えそうになった所で止める。

 まるで恋する乙女のようで嫌気がさしたからだ。

 恋しているのは確かかもしれないが、こんなに純粋で乙女チックな発想をしかけるほどに恋愛経験がない自分が馬鹿らしくなったのだ。

 女子校だったから仕方がないではないか。


「どうしたの?千夏ちゃん。ぼーっとして。大丈夫です。」

「大丈夫です。なんか先輩方見てると面白いなって思ってただけです。」

「面白いかな?うちのサークルみんなこんな感じだよ。」


 咄嗟に出た誤魔化しからまた話が続く。すごいな。

 再び感心しかけたところで部室の扉が開き、中から部長が現れる。あまりにも勢いよく開けるので外側のドアノブが壁に当たり鈍い音がする。


「お待たせしました。今から顔合わせを始めます。」


 何故か、いつもと違い眼鏡をかけている部長が宣言する。


 朝居はまだ来ていない。

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