3-②
顔合わせというのは本当に簡素な自己紹介と今後のスケジュールを説明して終わるものではあるが、このサークルのイベントの中では多くの部員が集まる日である。この場で一年ぶりに姿を見かけるなんて人もいるくらいだ。(大概そういう人でも作品だけは提出してたりするのだが)
四コマ目が終わるころには新入生を除いた各回生十二人が部室に集まっていた。狭くはないはずの美術部の部室が手狭に感じるのも年に数回である。
この時間に集まってこれるのは三回生以下のまだ比較的忙しくない人がほとんどで、四回生はなんとか時間をこじ開けたような人も多い。大学柄、ほとんどの人が教師になると言っても就活をする人がいないというわけではない。
この大学に入って教育実習などを通して初めて、やっぱり教師は理想とは違うかもしれないと感じる人も少なくない。実際にこのサークルの四回生でもそういった思いをもって就職活動に励んでいる人もいる。
「葵ちゃん久しぶり。元気にしてた?」
「お久しぶり。七ちゃんこそ元気にしてた?作品がだんだん病んできているようなものになってたけど大丈夫?」
「そんなに病んでた?暗い作風にはしてしまった気がしてたけど、心配されるほどだったかな?」
伊勢七海、彼女は先ほどまで上げていた例に全て当てはまる人物だ。
サークルを掛け持ちしているがゆえにあまり美術部には顔を出さず、作品のみ年に一、二個提出している。また、教育実習などには卒業のため参加しているが教員免許をもらっても教職に就くつもりはない。そんな例だ。
「わかる。七海の絵は年々病んでいってる様子だった。向こうのサークルが大変なのかなって心配になる程度には。」
「純花ちゃんまでそんなこと言うくらいかぁ。向こうも大変は大変だけど、就活に比べたらストレス少ないし。」
「ということはこれからもっと病んだ絵になっていくという事か。」
彼女らはサークルの中心的な回生である三回生で、今日は全員参加らしいが今のところ三人しかやってきていない。
一番集合率が良いのは二回生で五人中四人が来ている。美術部においては基本的に二回生が新歓の中心になることになっているので、二人は部室に残り他の回生と共に部室のセッティングを行っており、残りはお菓子などの買い出しに行っている。
「葵先輩どこに座りますか?」
「部長は毎年、真ん中なんじゃないの?私の時はそう聞いたけど。」
「桃さんがそう言うならそこで。」
「何時から新入生来るんだっけ?」
「十八時です。」
「部長、買い出し班から電話です。」
「わかった。」
部員は十七時集合で準備となっているため、少し早いが皆動き出しているのだ。狭い部室の中で十人が動いているのでてんやわんやといった所である。
おしゃべりをしながらも手だけは動かす。
机の配置を変える人、邪魔なものを収納する人、掃除をする人。普段から部室を片付けていればそういう羽目にならなくて済むのに、と皆が毎年感じながらも日々の行動には反映されていない。
「葵ちゃん。席はいくついる?」
「余裕を見て二十六個でお願いします。」
スマートフォンに目を落として確認しながら答える。
「多いね。」
「毎年そんなもんじゃない?」
「覚えてない。」
四回生が覚えていても良いはずの昔を語る。
皆が同じ目的で動いているはずなのにどこか整然としていない。部長として久嶋が統制すべきなのかもしれないが、彼女の先輩もいる以上強くは出られない所もある。何より、新歓に関して二回生に大部分を任せている以上、下手に口をだしたくないというのが彼女の本音であった。
十七時三十分にもなると部室はきれいに片づけられ、買い出しに行っていた二回生も戻って来た。机の上にはお菓子や紙コップも用意され、各々が自分の回生の席に座り始めていた。
二回生は最終の準備に回っているため不在だが、部員参加者の半分以上が揃い大事な会議でも始まりそうな雰囲気になっていた。
様々な感情を胸にこの部屋に集まって来た彼らの待ち方も多様だ。スマートフォンをいじる者、談笑する者、デッサンをする者。この光景が、このまとまらなさが美術部なのかもしれない。
ここまでくれば後は主役を待つのみだ。
新入生が来るまで間もなくといったところである。




