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3,再開

先週はテストだったの。許して_(:з」∠)_


 ステージの隅に横たわる二体の『奴等』。ピクリとも動かなかったそれが急に立ち上がった。その顔は、まるで何も無かったかのようにニタニタと笑っている

 

「……再起動まで思いの外時間がかかりましたねぇ……それだけあの雌に食らったダメージが大きかったということですかー」

 

 元々起きていた三体目は腹をさすりながら無表情でそう呟く。

 

「私の金縛りが破られるなんて久し振りですねぇ……さすがにもう一度かけるのは難しいですか。ま、位置は全員把握してますし、どうにでもなるでしょう。しっかし……」

 

 無表情だった顔が、さっきまでと同じ生理的嫌悪感を催す笑みに覆われた。

 

「ケケッ、久し振りの極上の餌だ。あれほどの『魂』、取り込むことが出来れば我々の戦力も更に大きくなるでしょう……ケケケケケケケケケッ!」

 

 がらんとした体育館が、その笑い声で満たされた。

 

 血溜まりや肉片は、いつのまにか綺麗さっぱり無くなっていた。

 

「さぁ、精々脅えて、命乞いをして、絶望に呑まれて、無様に死になさい!」

 

 

 

 同じ頃

 

 

「早く持ってこい!」

「わかってるよ!」

「なるべく静かにな」

 

 幾人かの男が教室の入り口に、机や椅子を使ってバリケードを作っていた。

 

「しかしあんた、よくカッターなんて持ってたな」

「最近物騒ですし、いつ何があるかわからないから、いつもポケットに入れてるんです。お役に立ってよかった」

 

 彼らはカーテンを裂いて、固定する紐の替わりにしていた。そうして、入り口を塞ぐバリケードが完成した。中々に立派なもので、そう簡単には突破されないだろう。

 

「やっとできた」

「よし、これでここは安全だ」

「後は助けを待つだけだな」

 

 ここはもう大丈夫だ、そう感じた彼らは腰を下ろして一先ず休息をとることにした。

 しかし、

 

 ぐちゅり ぐちゅり ぐちゅり

 

 その音が聞こえたのは彼らの背後、部屋の中からだった。

 

「? 何だ、今の音」

「音? ……え?」

 

 音に気づいた者が振り返り、そこに在るものをみて茫然とした。

 残りの者もそれに気づいて振り返り、それを目にして絶望した。

 一人の上げた悲鳴はそこにいる全員の恐怖を助長した。

 逃げようと後退りした者の背に触れたのは、自分たちが築き上げたバリケード。

 

 彼らは気づくべきだった。出入り口を塞ぐという行為は外からの侵入を防ぐと同時に、内で何かが起きた時に外に逃げることができない、ということに。

 

 数分後、最早その部屋には誰も生きていなかった。

 

_____________________

 

 

「作ったって……何処にそんな設備と材料と時間があったんですか?」

「あー、そういう正規の作り方じゃなくてだな……創造の『造』じゃなくて『創』の方の創るだ、多分」

「はい?」

 

 ますます意味が解らない。

 

「えーっと……あの気持ち悪いのがやってみたいに、ですか?」

 

 そう聞いたのは美奈だ。

 

「多分そうだと思う。消そうと思えば消せるしな」

 

 高木さんがそう言ったそばからバットの色が薄れ始め、遂には空気に溶けるように消えてしまった。

 

「おお……」

「な、何がどうなって……」

「原理はさっぱりわからん。けどこんな風に──」

 

 今度は先程の光景を逆再生するようにして金属製のバットが現れた。

 

「──創れるってことは確かだ。……うん、良い感じだ」

 

 高木さんはバットの感触を確かめるように二、三度素振りをした(勿論、私たちに当たらない程度に距離はとっている)。ブンッ、と風を切る良い音がした。

 

「……それ、触らせて頂いても?」

「ああ、良いぞ」

 

 高木さんからバットを受けとる。バットに触ったことはあまりないが、その重量も感触も本物と変わりないように感じた。

 

「あ、もしかしてあの時のボールも」

「ああ。野球ボールが有ればって思って、野球ボールを想像したらできたんだ」

 

 と言うと高木さんは今度は右手に野球ボールを創り出した。

 

「すごいすごい! 私にもできるかな? ううん、そもそもどう言った原理なんだろう。何らかの方法に寄って粒子を集めてる? それとも……」

 

 美奈は目を輝かせながら考え込み始めた。科学部だからこういう物理とかで説明できそうにない訳のわからないものには拒絶反応を示すかと思ったが、寧ろこの現象についての考察を始めたようだ。

 

「……夢でも見てるみたいです」

 

 バットを返しつつ、ついそう呟いた。正直私はまだ目の前のものが信じられない。

 ……そういえば、初めは私も明晰夢だと思っていたのだった。だが、あのとき飛び散った肉片は単なる夢で片付けるには生々しすぎた。

 

「夢か……ここが何なのかさっぱりだが、少なくとも俺にはこれがただの夢には──」

 

 思えない、と高木さんは言おうとしたのだと思うが、それは続かなかった。

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「悲鳴!? 何処から……」


 詳しい場所は解らないが、廊下の方から悲鳴が聞こえた。声がそこまで大きくなかったことから近くではない。

 

「……まだここに居ますか?」

 

 聞いたのは私。ここに留まって様子を見るか、すぐにでも移動するか、それを訪ねたかった。

 しかし、誰かがこの問いに答えるより早く状況を動いていった。

 

 ぐちゅり

 

「え?」

 

 美奈が呆けたような声をあげる。本棚の方から変な音が聞こえた。私は美奈を背後に庇うようにして本棚の方を見る。高木さんも音に気づいたようで、バットを構えて音の方を注視していた。

 

「……移動しよう」

 

 高木さんが言った。音の発生源は恐らく本棚の裏。何があったのかはわからないが、だからこそ離れた方が良いだろうと、そういう判断らしい。

 

 が、

 

 ぐちゅり

 

 今度は私たちの背後から同様の音がした。みると入り口の外の廊下の床で拳大程の赤黒い塊が蠢いている。その塊の付近だけ、真っ赤な水溜まりができていた?

 

「何、あれ……血……?」

 

 美奈が怯えたように呟く。次の瞬間、

 

 ぐぢゅぐぢゅぐぢゅぐぢゅぐぢゅぐぢゅ……

 

 と嫌な音を立てながら、それは急速に膨張し始めた。

 

「このっ!」

 

 入り口を塞がれる、そう考えたのか高木さんはその塊にバットを降り下ろし──

 

「なっ!?」

 

 ──バットを掴まれた。塊からは腕のようなものが生え、それが高木さんのバットをガッチリと掴んでいた。力を入れてもびくともしない。

 その間にも、肉塊の変化は進んでいた。大きさは2メートル程まで巨大化し、接地している部分は二つに裂け、足のような形になった。そして天辺には頭。形だけ見れば人とよく似ている。違う点をあげるなら、全身が血濡れた肉のように赤黒く、顔には目や鼻がなく鋭い牙が何本も生えた大きな口だけがついていることだ。

 高木さんはバットを取り戻すのを諦め、消滅させて一度距離をとった。

 私たちは美奈を真ん中にして、背中合わせの向きで構えた。

 

「やっぱりこっちもですか」

 

 振り返ると、本棚の陰から同じやつが現れた。

 

「挟まれた……さっさと移動しとくべきだったか」

 

 再びバットを生成しながら高木さんがそう呟いた。

 

「廊下じゃどちらにせよこうなった気がしますが」

 

 さっきから何度も悲鳴が聞こえて来ている。声の種類も方角も色々。恐らくあちこちで何か良くない事態が起きているのだろう。

 

「あちこちに出てるのか……とりあえず、こいつらなんとかしないとだな」 

 

 他がどうなっているかはよくわからない。しかし今は自分たちの現状をどうにかするのが最優先だ。入り口は塞がれ、部屋の奥へも進めない。

 ……こいつらをどうにかしない限りは

 

「高木さん」

「何だ」

「ものの『創り方』教えてください」


 この状況で生き残るには、戦う以外に道はない。

 

 

 

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