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村人Aの異世界叙事詩  作者: ユッケ=ビビンバ
第五章 闘いの詩〜大統合武闘祭編〜
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第99話 構え

 七日続いた大統合武闘祭、それも今日が大詰め。

 残すは三つの個人戦と、最後の華として用意された団体戦のみ。





「ハァァアアアーーーーーッ!!!」

「セリャァアアアーーーーーッ!!!」


 今、二人の男が互いに渾身の大技を放った。

 金髪碧眼の男―――マックスが放った斬撃は白銀に輝く奔流となり、相手を呑み込まんと押し寄せる。

 対し、蒼銀の鎧に身を包んだ男―――ゲオルゲが放つは、先の試合でも使用した暴風を纏った突きの一撃。

 二人が放った絶技と絶技は束の間の拮抗の後、舞台を巻き込み大きく爆ぜた。


 二人の姿は舞台を覆う土煙に阻まれ視認できない。

 だがその静寂も一瞬。一陣の強風が吹いたかと思うと土煙は晴れ、二人の姿が露わとなる。

 観衆の目に写ったそれは、ゲオルゲの槍が空を衝き、マックスの剣がゲオルゲの首元に添えられた光景だった。


「―――、参った」


 ゲオルげの口から降参の言葉が告げられたことにより、マックスの勝利は確定した。


「そこまで! 勝者、マックス・フォン・ラインハルト!!」


 絶叫のごとき歓声と割れんばかりの拍手が勝者を称える。

 だが勝者は驕るでもなく、ただ目の前の好敵手に手を差し伸べる。


「まだ奥の手があったのではありませんか?」

「使ったところで試合が長引くだけだ。結果は変わらなかった。それは貴殿のほうがよく理解しているであろう?」


 ゲオルゲは自嘲気味にそう言うと、差し伸ばされた手を握る。

 マックスはというと肯定するでも否定するでもなく、ただ爽やかな微笑を崩さず握り返した。




「―――第二試合は、まあ予想できてはいたが、キャメロス側の勝利。残ってんのは……」

「モーラ神国と我らがフルーランスとの試合、だけですね」

「キュキュ、キュイ!」


 観客席ではゴウラとクリス、モフが軽食をつまみながら、そのような会話を交わす。


「モーラとウチかぁ。アリス、今フルーランスとモーラってどのくらいポイント差があったけか?」

「確か……フルーランスが26pt、モーラが43ptだから、17pt差ね」

「この個人戦で勝って、団体戦で一位をとっても順位は変わんねぇか。こりゃ三位入着を期待するしかないか?」

「それが自国を応援する態度ですか。まったく……」


 はぁ、とクリスが一つ溜息を吐き、食べかけのサンドをもう一齧りしようとしたその時、第三試合の開幕を告げるファンファーレが轟いた。


「まあまあ、二人とも。もうすぐ次の試合が始まるわよ。応援しなくちゃ」

「そうだな、俺たちにできることっつったら応援することくらいだろうしな。ところでよ、次、誰が出場すると思う?」

「それは当然! ユーリ様に決まっています!」


 ゴウラの問いに、自信満々に答えるクリス。

 その碧眼には一分の曇りもなく、宝石のようにキラキラと輝いていた。


「お前は相変わらずぶれねえな。アリスはどうだ? 誰が出ると思う?」

「まあ順当にリンじゃない? 英雄級だし」

「当然っちゃあ当然か。俺はルイ王子が出ると踏んでる。あの王子様なら他の奴ら押しのけて出場するんじゃねえか?」

「「あー……」」

「キュー……」


 ゴウラの予想に二人と一匹は納得と呆れが入り混じった声を漏らす。

 あの人ならやりかねない。いや、間違いなくやるだろう。そのような考えが彼らの頭を通過した。


 そうこうしているうちに、入場口に誰かしらの影が映る。フルーランス側の入場口だ。

 三人は、否、その場にいたすべての観客は、一体だれが出てくるのかと胸を膨らませて舞台に現れる選手を迎え入れた。


 現れたのは、三人の予想に反した意外な人物だった。


 艶やかな黒い髪。朱に染色された和装。

 舞台に上がったのは、センダ・ヒイロという名の少年であった。


「ヒロじゃない!? 意外な人選ね」

「ええ。ですが……」

「ああ、そうだな。アイツの顔……」


 舞台に立つヒロの顔には、一分の怯えも余分な緊張もない。

 ただまっすぐと覚悟を据えた瞳で向かいの入場口を睨みつけている。


「へっ、良い顔してるじゃねえか」

「……うん、そうね」

「あれでも私達のパーティなのです。無様な戦いなどしないでしょう。というより、もししたら私が殴ります」

「キューーーイ!!」


 俺様の一番の子分が負けるんじゃねぇぞ、と言わんばかりにモフが激励のような雄叫びを上げる。

 次第に観衆の声援に飲まれていくそれは、聞こえずともヒロには届いたことだろう。



 ―――――――――



 姿勢はそのまま、鼻から空気をゆっくりと、そしてたっぷりと肺に入れる。

 限界まで詰め込んだなら、その状態で一瞬だけ止まる。

 そして先程吸った空気を余すことなく口から吐き出す。


 首の血管がピクピクと動いている。取り込んだ酸素を体中に運ぼうと、心臓がいつもより強く脈打っているのが自分でもよくわかる。

 良い緊張具合だ。


「……よし」


 視線は目の前の入場口から離さない。

 あの暗闇から誰が出てきてもいいように、頭の中でこの後の展開を予想する。


 最後の個人戦。出てくるとしたら最強格と目されるソテルか、それともエルピダと呼ばれるハン族の女剣士か。

 誰が出てくるかを予想していると、入場口の奥から人影が動くのが見えた。


 あの人物は……そうだ、知っている。

 確か3日目の団体戦―――戦車競争のときに共に出場していたモーラの選手だ。

 名前は、カルキ、だったはず。終始こちらに敵意を向けていたからよく覚えている。

 そういえば初日の個人戦のあとも、睨みつけるようにこちらに視線を向けていたか。


 直接の面識は……無いはずだ。

 もしかしたらただ忘れているだけかもしれないが、それでも親の敵のように恨まれるようなことはしていないと誓える。


 心当たりがないかと必死に記憶の引き出しを漁っている間に、カルキは互いの声が十分届く距離にまで近づいてきていた。

 眉間に刻まれた皺は深く、はっきりと数えられるほど。その目玉は今にも零れ落ちんほど見開かれている。

 これが相手を萎縮させるための威嚇目的であるのならば、その効果は絶大だ。なにせ先程までの闘争心が三割ほど減っているのだから。


「あ、あの……どこかでお会いしたことって……」

「ッ……!」

(こ、こええぇぇぇーーーーー!!)


 カルキの眉の角度が尚更つり上がった気がした。

 これ以上は何を言っても悪手だろう。

 ならば今は目の前の相手に勝つことだけ頭に入れよう。


 そう気合を入れ直した矢先、横一線に結んでいたカルキの口が解けた。


「……センダ・ヒイロ」


 まだ幼さの残る、声変わり前の高くきれいな声だった。

 そんな声で突然、自身の名前を呼ばれたものだから、心臓が僅かに飛び跳ねた。

 悟られないように平静を装いつつ返事をしようとした瞬間、被せるようにカルキが言葉を発す。


「お前は…………()()


 体の奥底から熱が失せるような、純然な殺意。

 これまで何度か殺意を向けられたことがあったが、これほどまでに強烈なものはあっただろうか。


 しかし、ほぼほぼ初対面の相手から『お前は悪人だ』などと言われて素直に受け取れるほど、ヒロは素直ではない。

 自らを奮い立たせ、目の前の人物を敵として睨みつける。


「両者、準備はよろしいでしょうか?」


 睨み合ったまま膠着状態となった二人の様子を見て、審判が試合開始の意思を確認する。


「早く始めろ」


 カルキは視線を外さず、ぶっきらぼうに催促する。

 それほどまでにヒロと戦い、そして完膚なきまでに叩きのめしたいのだろう。

 だが、対するヒロはふっと何かを思い出したかのように顔の緊張をほどき、視線をカルキから審判に移す。


「あ、そうだ。審判さん、ちょっと聞きたいことがあるんですけど」

「なんでしょう?」

「試合開始前の準備……えぇっと、身体強化とかってどこまでオッケーなんですか?」


 なんだ、そんなことか。と審判は僅かに肩を下げる。


「規定にもありますように、私が『構え』と言った際には、相手に干渉する類のもの又は舞台に影響するもの以外は何をしても構いません。強化魔術の重ねがけも、本人の実力として認められています」


 審判の言うとおり、大会の規定においては相手及び舞台に干渉する魔導・魔術・それらに準ずる何かしらの使用を禁止するのみで、本人に干渉するエトセトラを禁止・制限してはいない。

 しかし、目の前でそれらを明かし使用することはメリットよりもデメリットのほうが大きい。そのため多くの場合は戦闘中に隙を見てかけることが鉄板だ。


 だが、ヒロが知りたかったのはそこではない。


()()()()()良いんですね? それを聞ければ十分です」

「……? 解決したのならよろしいのですが……ヒイロ選手、個人戦への準備はよろしいですか?」

「はい! いつでも始めてください!」


 ニヤニヤと不敵な笑みを浮かべるヒロに対して怪訝な表情を見せつつも、審判は恙無く試合開始の儀式を進める。


「それでは……構えッ!!」


 審判の号令に合わせ、カルキは腰の短剣(グラディウス)をスラリと引き抜き、左腕に装着した小盾(バックラー)を相手に突きつけることで臨戦の態勢を取る。

 片やヒロは、構えることなく腕を力なく下げ、弛緩しきった態勢を取っていた。

 観客席から野次と非難の声が飛ぶ。審判も続くように注意を促そうとするが―――止めた。

 魔導士や魔術使を始めとして一部の者は、ヒロの思惑に気付いていた。


 彼の内に魔力が練り上げられている。それも影魔導による武具の生成程度という半端な量ではない。

 開幕と同時に大技を見舞う魂胆なのだろうか。もしくは“鬼人モード”とやらや“竜気駆動(ドラゴンドライヴ)”などの身体強化に回すつもりなのか。そう思い、カルキは警戒を強める。

 だがしかし、そのどちらでもなかった。


 ヒロが自身の影に手を翳す。

 すると影は平面から立体の世界に侵食していき、見る間に膨らんでいく。

 一呼吸もしないうちに、影はヒロと同程度の、まるで巨大な卵の様な楕円球となっていた。

 なるほど、そうか。これほどの体積に増やすのならば、先程の魔力量にも納得がいく。

 だが、この影を一体何に使うつもりなのだ。そう思った矢先、今まで膨張を続けていた卵は逆に、急速に萎み始めていた。


 その姿かたちはシンプルな楕円球から複雑な生物のそれへと変わっていく。

 五本の指先。直立した脚。頭部と思われる部分からは体の中心付近にまで無数の糸状の―――髪が伸びている。


 それは人だった。

 影で作られた人形。男とも女とも取れるような体躯に、黒一色でも豪奢と感じる衣服を纏っている。

 影の人形は、ゆっくりと動き始める。人間と寸分違わぬ可動域で、まるで黒く塗りつぶされた瞳の奥に意思を感じさせるように、ヒロとともに構えを取る。




「さあ、やろうぜ。()()

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