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村人Aの異世界叙事詩  作者: ユッケ=ビビンバ
第五章 闘いの詩〜大統合武闘祭編〜
98/120

第98話 決意、表明

ユニオス連合帝国で開かれる四年に一度の力の祭典、“大統合武闘祭”

主人公“泉田緋色せんだひいろ”―――通称“ヒロ”は、自身が身を置くフルーランス王国の代表選手として、他四人の選手とともに熾烈な戦いに挑んでいた。

 大統合武闘祭六日目。

 ルイとエレーナによって無茶苦茶になった個人戦は、何とも言えないムードの中、第三試合が執り行われた。

 出場するは、アイゼンラントの“剣聖”ジーク、そしてシュラーヴァの“女蛮族(アマゾーン)”アバシン。

 勝敗の結果は、当然のごとく英雄級にして勇者候補の一人であるジークの圧勝。アバシンもアマゾネスとして戦士の誇りに恥じない戦いぶりを見せたが、それでもなお英雄級の力量には遠く及ばなかった。


 これにて長く続いた大統合武闘祭も、残すはあと一日。

 戦士たちは明日の戦いに身を投じるべく、夜のとばりの下、身を休める。






 ―――フルーランス代表宿舎。


「六日目も終わり、残すは明日の一日のみ。我らの総得点は26pt。他の国の得点は上からキャメロス46pt、モーラ43pt、アイゼンラントが我らと同じ26pt、ケルティン23pt、憎きリドニックが18pt――ざまあない、そして最下位にシュラーヴァ13pt。我らフルーランスの順位はアイゼンラントと同率三位……決して低い順位ではないが、二位のモーラとは10pt以上、キャメロスとは20ptの大差ができている。仮にうまく事が運んだとしても、逆転の目はない……。

 それもこれも貴様らが不甲斐ないせいだ! たわけ者め!!」

「お前が言うかァ!!?」


 渾身の怒りを乗せた、お手本のように見事な飛び蹴り。

 だがしかし、これまた華麗に避けられる。


「貴様ッ! この我に対して飛び蹴りとは、不遜に値する!! しかし美しいフォームだったので許そう!!」

「うっさいバァーーーカ! 今までやればできると思って我慢してたけど、団体戦では最下位、個人戦では降参するとか、傲慢を通り越してただのバカだよ!」

「フハハハハハ! 不敬! だが言い返せないな!」


 ユーリの怒りは尤もであった。

 このルイとかいう王子おとこ、さんざ人の敗北をコケにしておいて当の本人は、団体戦では堂々の最下位、個人戦では本来の力を十全に発揮せず舐めプした上で途中棄権。戦績で言えばこの場にいる誰よりも酷い結果を残しているのが、このルイ王子だ。


「ま、まあまあ。落ち着けユーリ。最終日にはこの大統合武闘祭のMVPがいるチームに得点が加算される習わしがある。まだ総合一位になる可能性が消え去ったわけではないんだ。だからそう苛立つな」


 エピーヌはそう言って、機嫌の悪い仔犬を宥めるかのようにユーリを押さえつける。

 それでもまだユーリは腹の虫が治まらない様子で、「ウーッ」と低い唸り声を出していた。


「まあ、エピーヌの言う通り、優勝の可能性は低いけれども確かにある。ただそれにはキャメロスやモーラの勝敗も関わってくるけど、まず第一に明日の個人戦と団体戦、どちらも勝利する必要があるわ。団体戦の攻略は後で練るとして、初めに()()()()()()()()()()()()、決めなくちゃいけないんじゃない?」


 リンのその一言に、どこか緩んでいた場の空気が引き締まった。

 優勝を目指すのならば、どうあれ明日の個人戦は勝たねばならない。

 その責務を担うのはこの場にいる五人の内の誰かである。


「そこはやはり! 最初から決めていた通りこの我が―――」

「ない」

「ない!!」

「申し訳ありませんが……ありえません」

「フハハハハハ! 流石に傷付く!!」


 素質はあるものの、不安点が多すぎるあまりルイの出場は民主主義の名のもとに却下された。

 残された選手は四人。その中で最も勝利する可能性があるのは……

 リンはそんなことを思い、頭を掻きながら誰にも気付かれないように小さく息を吐いた。


「しょうがない。やっぱりここは私が―――」

「僕にやらせてくれないか?」


 一人の少年の声がリンの言葉を遮った。

 声のした方向に全員が目を向けると、そこには右手を高々と挙げたヒロの姿があった。


「ヒロ……?」


 その場にいた全員が困惑した表情で硬直した。

 当然だ。彼を知る者なら周知の事実だが、ヒロは自分から重責を負うタイプではなく、不特定多数の観衆の目に留まることを激しく嫌う。それに彼はルイとは全く真逆の性格―――自己肯定感が低く自身を過小評価するタイプだ。

 だからこそ、この場で声をあげること自体考えてもいなかった。


「ほう……ヒロ、貴様が名乗りを上げるとは。この我でも思ってもみなかったぞ。して、なぜそこまで出場したがる?」


 静寂を破り、皆が抱えていた疑問を代弁したのはルイであった。

 その瞳は先程とは打って変わり、背筋が凍るほど冷たいものであった。

 それはまるで、正当な理由がなければ今ここで切り捨てんと言わんばかりに。


 その冷ややかな視線を浴びてなお、ヒロの表情には一分の緩みもない。

 ヒロは用意していた回答を述べるかのように、一呼吸おいてから淀みなく答える。


「……明日の試合、闘いたい相手がいる」

「明日の試合相手となると……モーラ神国か」


 重い空気がさらに一段階、重量を増した。


 モーラ神国。今思えば、得体の知れない相手だ。

 代表選手の半数近くが無名であるにも関わらず、その戦績は、聖十二騎士(ゾディアック)の主力が揃うキャメロスに次ぐ二位。

 それも個人戦では四日目の棄権を除けば全戦全勝。実力者であることはまず疑いようもない。


「私は賛成できないわ」


 そう言ったのはリンだった。


「まず第一に、各個人戦の最後の枠は団体戦と同じように直前まで公表されないのよ。アンタの言う闘いたい相手っていうのが出てくるのかどうかも分からないのに、任せられるわけがない。それに……はっきり言うわ、アンタには役不足よ。“鬼人モード”や天帝竜の“竜気駆動(ドラゴンドライヴ)”、それにその二つを組み合わせた“鬼龍モード”とかいう奥の手は確かに強力だけど、ヒロの素の戦闘能力から考えて、モーラの代表選手には一歩及ばない。それも、手の内を見せているから対策は取られているだろうしね」


 正論が突き刺さる。

 確かに彼女の言う通り、ヒロに出場させるには実力不足は否めない。

 そんな分の悪い賭けをするくらいなら、リンを選出したほうが得策だ。それは誰しもが至る結論であった。


 しかし―――


「ボクは、ヒロの出場には賛成だよ」


 一人の少女は異を発した。


「ユーリ……」

「確かにさ、リンちゃんの言うように、ヒロには厳しい戦いになるかもしれない。でもさ、そんなことはヒロだって承知のはずだよ。そのうえで出たいって言っているんだ。だから、ボクは、同じパーティの仲間の意思は尊重したい」


 夏の突き抜けるような空に似た青い瞳が、ヒロに向けられる。

 根拠はない。論理でもない。ただ底抜けの信頼がその瞳に込められてあった。


「……は。なんだそれ」

「なんだよ、笑うなよ。いいじゃんか、信頼しあうのが仲間ってもんだろ?」

「ああ、そうだな。お前はそういうやつだった」

「ちょっとぉ? それってどういう意味ー?」


 先程の重苦しい空気はどこへやら。

 にこやかに話し合う二人を中心に、辺りはすっかり和んだ空気となる。


「ユーリの意見には、私も同意する」

「エピーヌ、お前まで……」

「ヒロは、正直に言うと自分に自信は持たないし、実力よりずっと低い評価を自分に付けるし、たまにうじうじしすぎているところはあるが―――」

「オイ」


 言い過ぎではないかとツッコミを入れるヒロの傍らで、ユーリがこくこくと頭を上下に振っていた。


「それでも、自分の実力を過信し見誤るようなことはしない。それは短い間と言えど、一時共に背を預けあった私が保証しよう」


 ポン、とエピーヌの手がヒロの肩に置かれる。

 勇者と称される二人からこれほどの信頼を寄せられることなど、そうそうあるまい。

 そう為せるのはひとえに、彼の人徳あってこそだろう。


「……ハァ……」


 和気藹々とした雰囲気を、重い溜め息が切り裂いた。


「お願い、リンちゃん。ヒロの出場を止めないであげて」

「ユーリ。なーんか勘違いしてるみたいね。確かに、私はヒロの出場には反対よ。でもそれを決めるのは私じゃないわ」


 そう言って開かれた片目の先には、彼らの国の王子が黙して座していた。


「ルイ……王子……」

「そ。私達がどれだけ議論しあおうと、結局決めるのはこの王子の一存にかかってるわけ。まあ勝手に決められるのは癪だから、こうして自分の考えは主張させてもらってるわけだけど」


 そう。つまるところ、ヒロが次の試合に出られるか否かはこの男の判断次第。

 勇者候補二人の推薦があったとしても、総合的に考えればリンの考えが正しいのは火を見るよりも明らかだ。


 思考に耽っているか、ルイは俯いたままその顔を彼らに見せようとしない。

 長く続く沈黙に耐えきれず、ヒロが噛み締めた下唇を離し訴えかけようとした、その時―――


「―――一国の王として、」


 俯き、表情を見せないまま、ルイはゆっくりと言葉を紡ぎ始めた。


「得るべきものは“盤石な勝利”。なればこそ、ここはシャオ・リンの意見に同意すべきだ」


 ヒロの指がピクリと跳ねた。

 指はゆっくりと丸まり、握りしめられた拳はフルフルと震えている。

 だが、ほんの少しもしないうちにそれは解かれ、力なく手の平から垂れた。


「……そうですよね。やっぱり、僕なんかじゃ―――」

「だがしかし」


 ルイの言葉がヒロの言葉を遮る。

 それは、ヒロが言おうとしていた言葉の続きを否定するかのようだった。


「共に闘ってきた代表選手の仲間として」


 王子はにわかにすっくと立ちあがる。


「貴様の世話になった二人の妹の兄として」


 そのまま迷いのない足取りで、一歩一歩、着実にヒロのもとへと歩んでいく。


「そして何より我個人として!」


 そして、ヒロの眼前で立ち止まると、


「ヒロ! 貴様の出場を認めよう!!」


 鼓膜が張り裂けんほどの声量で、そう宣った。

 キィンとなる耳鳴りが治まるころには、驚愕に引き攣っていたヒロの顔には、どこか間の抜けたように綻んだ笑顔がうっすらと浮かび上がっていた。


「―――てなわけで、負けんじゃないわよ! 明日の主役!!」

「う、わわ。り、リン!? お前、反対してたんじゃ!?」

()()()()なら、まあね。でも、私個人としたら反対するわけないじゃない! 頑張ってきなさいよ!」


 驚きと喜びの感情が渦巻き言語化ができないヒロの体は、リンの剛腕に軽々と持ち上げられる。

 次から次へと襲い来る想定外の事態に頭が整理できないまま、為す術もなく子供に遊ばれる人形のように上へ下へと体を弄ばれる。


 彼の参戦を祝う熱はそのまま激励会へと変わり、それは時計の針が天上を指すまで続いた。



 ―――――――――



「まあそんなわけで団体戦の対策が全くできていなのだがなッ!!」

「「「「何やっていたんだ僕(私)たちッ!!?」」」」


 時は既に七日目の朝。

 今からどうあがいても間に合わない時刻であった。


「ま、まだあわあわあわてるような時間じゃあわわわわわわ」

「落ち着いてリンちゃん!? 今まで見たことのないような慌て方してるよ!?」

「そ、そうだ! 落ち着くのだ! 今回の団体戦は最終日の特別企画として既に競技は決まっているのだ! それに準備のために今回に限り午後の開催なのだ! 時間はまだあるのだ!!」

「エピーヌも落ち着いて!? 語尾が面白かわいいことになってるよ!?」

「…………」

「ああっ! ヒロ! 大丈夫だから! 作戦とかはこっちで考えとくから! だからヒロは個人戦のことだけに集中して! 今にも消え入りそうに小刻みに震えるのは止めて!!」

「ハハハ。これがパーティをまとめるリーダーの素質というわけか。傍目から見たらリーダーというより初めての子育てに奔放する母親だな」

「お前は見てないで手伝えぇッ!!!」


 まだ冷たい朝の空気に包まれた闘技場に、ユーリの絶叫が木霊する。

 これをもって運命の七日目、開幕!!!!

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