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村人Aの異世界叙事詩  作者: ユッケ=ビビンバ
第五章 闘いの詩〜大統合武闘祭編〜
96/120

第96話 唯我独尊×2

 盛り上がりを見せたユニオス連合帝国の力の祭典、大統合武闘祭も残すところあと二日となった。




 大統合武闘祭、六日目。本日の団体戦は、全員参加式の早押しクイズバトル!!

 ルールは単純明快。全100問の問題を他の国よりいち早く答え、最も多く答えたチームが優勝となる。

『国を代表する戦士には力だけでなく知識も必要』と始まったクイズバトルではあったが、その戦況(?)は一方的であった。


 次から次へと高難度の問題が回答かれていく。

 その内容はその道のプロを引っ張ってきても頭をひねるような専門的なものから、知識だけでなく柔軟な思考力を必要とする捻くれたナゾナゾまで幅広い。

 しかしそれらの殆どは、問題を言い切る前に二人の知識人によって真夏の氷のように消え去っていく。


 一人は錬金院の若き秀才、モーラ代表ヘルメス=ソフィア・ホエナイム。

 彼の溢れ出る知識の泉は専門とする錬金術のみに収まらず、魔術・占星術・神働術・医学・数学……とあらゆる分野についても尽きることはない。


 対するもう一人は探偵淑女騎士、ケルティン代表シャーロット・フューリアス。

 保有する知識こそホエナイムには遠く及ばないが、特筆すべきはその知能―――()()()()()()()だ。

 計算や謎掛けなど、ただ詰め込んだだけでは解けないような考えを必要とする問題に対して彼女は無類の強さを発揮する。

 時には問題文の最初の数文字だけで回答を導き出すことさえあった。


 そんなこんなで用意されていた百の難問は、この二人によって一時間とそこらですべて答えられてしまった。

 結果としては、モーラが48問、ケルティンが46問、最後まで諦めず食らいついていたキャメロスが6問を正解して終わった。




 続く午後の個人戦。一回戦は団体戦にて二位と三位に収めたケルティンとキャメロスの代表選手による試合だった。

 ケルティン王国からは、女王の御側付きであるジェームズ・A・アーロン。

 帝都キャメロスからは、帝国騎士団中央主力部隊の参謀役であるレイシャ・ディカプラが出場した。


 双方とも貴き身分の者に仕える身であるためからか、その戦いぶりは“正道”という他ない。

 しかし試合の運びは決して“単調でつまらない”なんてことはなく、剣による撃ち合いのみならず体術や技能(スキル)能力(アビリティ)を織り交ぜての展開は、むしろ観客を大いに歓ばせた。

 勝敗は午前の屈辱を晴らすかのようにレイシャが勝ち星を取り、見事帝国騎士の誇りを守り抜いた。


 こうして今日のここまでの武闘祭は愉快ながらも平穏に進んだ。

 個人戦第二試合に出場する二人が現れるまでは―――



 ―――――――――



 大統合武闘祭、六日目。個人戦、第二試合。

 この対戦表を見た数人の者は、重苦しい溜息を吐き続けながらこの日を待っていた―――いや、待ってはいなかっただろう。

 できれば何か重大な事件事故によって有耶無耶になってくれればいいと思っていたに違いない。

 それでも、この運命の日は、残酷に、冷徹に、時の流れという人の力ではどうしようも為せない絶対の力によって訪れてしまった。


 個人戦 第二試合。

 フルーランス代表 ルイ=ジョルジュ・ド・フルーランス

 VS

 リドニック代表 エレーナ・イヴァノヴナ・アレクサンドロヴァ


 高慢。傲慢。傍若無人。天上天下唯我独尊。我儘。なんだっていい。

 この二人を表すのに何も間違いなんてないのだから。



 闘技場は騒然としてた。

 その騒めきはいつものものとは毛色が少し違う。


 期待。それはある。不安。それもある。

 何しろ、一国の王子と指導者の子女。どちらも高貴な身分の存在であり、彼らもそれを見せびらかすかのように普段から尊大な態度を取る二人だ。

 そんな彼らが一体どのように戦うのか。『関心がない』なんて言う人間がいれば、それは大嘘つきに違いない。


 それと同時に、彼らを深く知る者にとっては今世紀最大と言っても差し支えないほどの不安の種でもあった。

 現に彼らの父であるフルーランス国王とリドニック国首相は顔面を蒼白に染めながら、胃に穴が開きそうな痛みに耐え忍んでいる。


 どちらも国を振り回しかねないほどの弩級トラブルメーカー。

 そんな二人がぶつかることによってどのような化学反応が起こるのか。考えもよらないし考えたくもない。


 そしてついに、(特定の人にとっての)審判の時は来た。




 向かい合った入場口。そこから、示し合わせたかのようにその二人は現れた。

 彼らはそれぞれ従者を侍らせて、自信に満ち満ちた足取りで、戦いの舞台へと赴く。


 黄金の鎧を身に着け、緋のマントを風に靡かせ、向けられる割れるような喝采が当然とばかりに悠々と歩く青年―――フルーランス王国第一王子 ルイ=ジョルジュ・ド・フルーランス。

 豪奢なコートを肩に羽織り、まるで今から社交ダンスの会場に赴くかのようなドレスを身に纏い、いかにも歩き辛そうなハイヒールを訳もなく鳴らす金の髪の美女―――リドニック国首相子女 エレーナ・イヴァノヴナ・アレクサンドロヴァ。

 彼らの傍らには各々の従者―――赤い髪を揺らす女騎士と白い髪を固めた執事が控える。


 金色の竜虎、相見える。

 彼らの双眸はまっすぐと相手を見据え放さない。その表情からは、互いを同種のものであることを認め、故にこそ敵として相対することへの気概が見受けられる。


「……」

「………」

「「…………………」」


 沈黙が場を支配する。

 二人は互いを睨みあったまま、一向に口を開こうとしない。

 流石に心配になり審判が声をかけようとした、その時―――



「「まずは名乗りを上げよ(なさい)ッッッ!!!!!」」



 二人の大声が沈黙と審判の鼓膜を劈いた。


 そう。この二人、威嚇のために黙っていたわけではなく、互いに相手が名乗りを上げるのを待って()()()()()のである。

 否。待ってあげていたのではない。彼らは王族と首脳の娘。相手から挨拶をされるのは二人にとっての日常だ。

 だからこそ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「貴様、言うに事欠いてこの我から名乗りを上げろと言うか!」

「当然! 私を誰だと思っているの?」

「知らんな、貴様のことなぞ。貴様こそ、この我を誰と心得る!?」

「それこそ知らないわ。私のことを知らないばかりか、自分のこと知っていて当然とばかりのその態度! 不敬にもほどがあるわ!!」

「それはこちらとて同じこと! この我に向かい臆面もなく噛みつくその振舞! 無礼極まりなし!!」


 始まってしまった。彼らを知る人物は起きてしまった運命の瞬間に諦観を露わにしていた。

 こうなってしまったらもうどうしようもない。どちらかが相手の我儘を認めない限りは決して止まることはない。だが彼らが互いを認めるなど、到底考えられない。

 どうしたものかと頭を悩ませていると、ピタリと二人の口論が収まった。


「……ク」

「……フ」

「「ハーーーーーーハッハッハッハッハッハッハッハ!!!!!!」」


 言い争いが収まったかと思いきや、今度は二人そろって高笑いを奏でる。

 これは一体何事かと観衆がどよめく中、彼らの親たちだけは事の顛末を理解していた。


「ああ、これは……」

「ええ、でしょうな……」


 二人の首相は相変わらず眉をひそめたままではあったが、その声色はどこか優しげであった。


「気に入ったわ、ルイ=ジョルジュ・ド・フルーランス。お父様から聞いていた通りの男よ」

「やはり我が名を知っていたか、エレーナ・イヴァノヴナ・アレクサンドロヴァ。貴様の父の言う通り、中々どうして面白い女よ」

「貴方こそ。私の名前を知っていた上で存ぜぬふりとは、食えないわね」

「許せ、王の戯れだ。なにせ、こうやって冗談を言い合える立場と覇気のある者はそうそういない故な」

「同感ね。でも……」


 静電気のような乾いた緊張感がエレーナの体から発せられる。

 それを受けてルイも他者を圧倒する覇気を醸し出す。


「そうだな。王とは絶対が故に孤高であるもの。すなわち共に並び立つ者などあってはならぬ」

「でもここには互いに同格と認める二人がいる。その二人が出会って行われるはただ一つ……」

「「今この場でどちらが上か決める他なしッ!!」」


 二人の咆哮に続き、闘技場に再び歓声が沸き起こる。


「エピィーーーヌ!」

「はっ!」

「セバスッ!」

「ここに」


 二人の従者が主人の呼び声に反応し、彼らの一歩後ろで跪く。

 主人のどのような命令であろうと忠実に遂行する。それが従者としての己の役割。

 それを理解したうえで、二人の従者は主人の言葉を一音一句聞き逃さまいと、聴覚に意識を集中させる。


「貴様が戦えッッ!!」「貴方が戦いなさいッッ!!」

「「ハッ!………………は?」」


 彼らが放った一言により、歓声は一転、ざわめきどよめきへと変貌する。

 これには両国それぞれの代表選手も口をあんぐりと開けて固まっていた。


「……お、お待ちを! 大会の規定上、個人戦の選手は代理出場や交代が認められません! もし交代なさると言うのでしたら、両者棄権となり―――」


 彼らの横暴に待ったをかけたのは、この試合の審判であった。

 いかに相手が王侯貴族であろうと怯むことなく職務を全うとするその姿は素晴らしい。


「「黙れ(りなさい)ッッ!!!!!」」


 だがそれも二人の前では無意味。

 彼らの雷を受けた審判は、もう四十は超えているであろういい大人にもかかわらず、瞳に潤ませて狼狽えている。

 困り果てた審判は自分ではこの二人を止めることはできないと早々に悟り、この催事の主催者―――皇帝アルトリウスにその目尻に溜まった涙を向ける。

 湿った視線に気付いた皇帝はすっと立ち上がり、広い広い闘技場の隅にまでその言葉を届けんと声を張り上げた。


「本個人戦! ユニオス連合帝国皇帝の名の下に! リドニック国代表シヴァステャン及びフルーランス王国代表エピーヌによる“模擬戦(エキシビションマッチ)”を特例として開催する!!」


 皇帝の宣言を聞いたルイとエレーナの二人は、自分の思惑通りに事が進んだことに口の端をニヤリと吊り上げる。

 対して渦中のエピーヌは状況の整理が追い付いていない様子であった。


「エキシビション……マッチ?」

「なんだ、エピーヌ? 貴様、よもや未だに我の考えに気付かないのか? それでも貴様は近衛騎士団長か?」

「うっ……。それは……」

「たわけめ。だが許そう。この我の高尚なる思考など、たとえ貴様でも読めるものではなかろうよ」


 そうエピーヌをたしなめるルイ。

 一方で、リドニック側でも同じようなやり取りが行われていた。


「お嬢様。これは一体……?」

「なによセバス。まさか貴方も分からないのかしら?」

「……面目次第もありません」

「そう。まあ予想の範囲内だわ。貴方、性根が野暮くさい戦士だものね。仕方ないから説明してあげる」


 そう言うと、ルイとエレーナは今から闘う敵同士であるにも関わらず、互いに肩を並べ、己がしもべに自身の思惑を声高に告げ始めた。


「我らが刃を交えれば観衆が沸くのは必至!」

「でもそれだけでは私たちが求める賛美には遠く及ばない!」

「「故にッ!!」」

「己が従者を先に戦い合わせることで!」

「場は温まり、我ら本命の試合もさらに熱が上がる!」

「「というわけで! 戦えッ!!」」


 相も変わらずの我儘っぷりに赤髪の女騎士は硬直し、白髪の老執事はこめかみを押さえる。

 そんな二人の態度を気にするような素振りもなく、ルイとエレーナは揃って高笑いを上げる。その姿は兄妹もしくは双子のようである。


「……まったく。うちの王子ときたら……」

「まあまあ、エピーヌ殿。私どもの主君の横暴は今に始まった話ではないでしょう」

「そうかもしれませんが……しかしセバス殿―――」


 ここは断固として止めるべき。誠実な彼女はそう思い、セバスに反論しようと彼の方を向く。

 途端、背筋を氷の剣で貫かれたような感覚がエピーヌを襲った。


「それに……」


 そこには依然、柔和な表情を崩さぬ初老の男がいた。

 しかし、その手は腰に帯びた剣の柄に置かれており、薄く開いたその瞼の隙間からはギラギラと白い瞳が光り、彼女を狙っている。


「私も、貴女と初めてお会いしたその日から、戦いたくて疼いておりました」


 エピーヌは言いしれない恐怖から身を強張らせる。

 そこにいたのは見た目通りの老紳士ではない。


 獣。

 血と闘争を求める荒々しき巨大な銀狼がその場にいたのだ。


「っ……!」

「おっと、失礼いたしました。フフ、私もまだまだ若いようだ。強者を目の前にして落ち着いていられないとは……、お恥ずかしいところを見せてしまい申し訳ない」


 その瞬間。ふっと銀狼の気配は失せ、先程と同じように落ち着いた初老が立っていた。


 優しく笑うセバスの雰囲気に緊張が解かれたところで、さて、とエピーヌは考える。

 議題は『模擬戦をするか否か』だ。


 当然、普段の彼女なら『否』と即答する。規定(ルール)という絶対遵守の存在には従うべきだ、と誠実の勇者たる彼女は言うに違いない。

 しかし、今回はそうもいかない。

 というのも、その“規定”自体を決定する存在――皇帝陛下自らが模擬戦の開催を認めたのだ。

 これまでの通例に準じるか。皇帝の特例に従うか。エピーヌは腕を組み、うんうんと唸る。


「……随分と、お悩みのようですね」

「申し訳ない、セバス殿。実のところ、この模擬戦には未だ納得し切れていなくて……」

「ふむ。誠実の勇者と呼ばれるほど真面目なあなたのことだ。そう思うのも無理はない。ならばこの老いぼれから一つ、若人へアドバイスをいたしましょう」

「アドバイス……?」

「ええ。と言っても、簡単なものなのですけどね」


 困ったように眉をひそめてふっと笑ったと思うと、その表情は子どもを見守る父親のような優しげなものへと変わる。


「もし君が迷い、どちらも正しいと思うなら、君がやりたい方に――君の心に従いなさい」


 その言葉を聞いた瞬間、エピーヌは目から鱗が落ちるような感覚に落ちた。

 自分のやりたいこと。そんなもの、決まっていた。


「……それは、ご自身の経験でしょうか?」

「残念ながら、受け売りですよ。ですが、効果は覿面のようですね」

「ええ。おかげで迷いは晴れました」


 エピーヌはすらりと腰のレイピアを鞘から抜くと、その切っ先を迷いなくセバスに突きつける。

 彼女のその瞳は、その手に持つレイピアの如くまっすぐと相手を捉えていた。


「フルーランス王国近衛騎士団“紅薔薇の騎士シュヴァリエ・ド・ラ・ローズルージュ”団長、エピーヌ! この模擬戦、受けて立とう!!」

「リドニック国首脳専属戦闘執事(コンバットバトラー)、シヴァステャン! 同じくこの模擬戦、受けて立つ!!」


 予定外のカードに、観客は戸惑いを見せるどころか歓喜に沸いた。

 どちらも――勝ち星をあげることはできなかったとはいえ――先の試合で大いに活躍した戦士だ。

 紅白の騎士、そのどちらが勝つのか、誰にも予測はつかない。

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