表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
村人Aの異世界叙事詩  作者: ユッケ=ビビンバ
第五章 闘いの詩〜大統合武闘祭編〜
94/120

第94話 豪傑の二重奏

 五日目を迎えた大統合武闘祭。

 午前の団体戦の演目は、なんと料理対決であった。


 帝国各地から集められた一級の食材の山から使用するものだけ選び、そこからお題に沿った一品を作り、審査員である各国の首脳に試食してもらう。

 審査員は出されたその料理を1〜10点で審査し、その合計が高い者がこの団体戦の勝者となる。


 出されたお題は『代表国の郷土料理・名物料理』。選手はそれぞれ自国の料理を作ってもらうことになる。




 まず始めに調理を終えたのは、試合前に『料理は錬金術だ』と宣っていたモーラ代表のヘルメス。彼が作った料理は魚をふんだんに用いたパスタであった。

 見栄えや火加減など完璧に近しい出来ではあったが、味のほうはというと、どことなく薬品臭がするため点数は大きく伸びなかった。


 次に完成させたのは、『料理は魔法』と豪語していたシュラーヴァ代表のアリーナ。彼女の料理は“チョルバ”と呼ばれる具材を煮込んだスープである。

 こちらは先程の一品とは違い普通に美味という評価を得た。が、大鍋を煮込む調理風景はまんま絵本に出てくる魔女そのものであり、料理の見た目も毒々しい色の汁の上に煮込みすぎて原型を失った謎の具材が浮いており、お世辞にも食欲がそそられるとは言い難いものであった。


 二回連続で微妙な料理を出され審査員たちが今団体戦に対して後悔し始めた頃、三品目の料理が出来上がる。

 審査員たちに皿を運んできたのはリドニックの代表、執事のシヴァステャン。メニューは黒宝魚卵ジュエルキャビアを豪勢に乗せた薄いクレープ、“ブリヌイ”。

 本場リドニックでも僅かにしか獲れない黒宝魚卵の味は舌の肥えた各国の長であっても唸るものであり、暴力的なまでの素材の味をあえて残したこの一品は高い評価を得た。


 続くはキャメロス代表のアスト副団長。出された料理は今朝一番で仕留めた巨大猪の腿肉を使ったロースト。

 甘くとろける程よい脂と歯ごたえのあるしっかりとした赤身の黄金比は豪快かつ繊細で、シンプルな調理法でありながらも首脳たちを満足させる一品となった。


 次なるはアイゼンラント代表、ドワーフのガザン。出したのは再び肉料理、牛肉を香味野菜と一緒にビールで煮込んだなんともワイルドな一品。

 香り立つビールの風味と柔らかい肉の味は酒豪であるドワーフにとっては良いツマミとなろう。しかし残念ながら肉料理の後の肉料理とあってはどうしても比較され、思うように点数は伸びなかった。


 審査員たちのテンションもピークを迎えたその時、今団体戦の大本命、美食の国フルーランスの代表エピーヌの料理が完成する。

 だが審査員らの目の前に出された料理は彼らの予想を裏切るものであった。彼女が用意したのはフルーランスでは一般的な野菜のスープだった。

 困惑しつつも一口だけ口にしてみると、不思議と美味い。立て続けに肉料理を出され脂ぎった口の中を繊細な味わいの温かい汁が洗い流してくれる。どこか懐かしさを思い出させてくれる優しい味に審査員らの好評を得た。


 最後の一品はケルティン代表シャーロットによる渾身の作、“星空を見上げるニシン(スターリー・ゲイジー)パイ”。以下略である。

 あえて感想を抽出すると「味も見た目も臭いも食感でさえもこの世のものではない」「ケルティン料理の味とメシマズの破天荒さを混ぜ合わせるな」「これを自国の料理だと思いたくない」「各国友好の祭典を暗殺現場にするつもりか」などなどであった。




 こうしてすべての選手が各々の料理を振る舞い、彼らの料理に対する順位が発表される。


 三位は素朴な味わいの田舎風スープを出したフルーランス。料理を出した順番が功を奏したが、やはり期待度が高かったぶん大きな伸びを見せなかった。


 二位は巨大猪のローストを出したキャメロス。アスト自身が獲ってきた新鮮な肉は高い評価を得た。


 そして栄光の一位は、超高級素材をふんだんに用いたリドニック。帝国中で評価される食材の味は当然強く、為政者たちの胃袋を掴んで離さなかった。


 いつもと様子の違った団体戦は波乱を伴いつつも無事に終わり、午後の個人戦を迎える―――



 ―――――――――



 個人戦第一回戦。皆が期待する対戦カードは、キャメロス代表“殲滅の獅子宮”レナード・ライオンハート VS フルーランス代表“破壊僧(デストロイヤー)”シャオ・リン!

 聖十二騎士の豪傑と英雄級の豪傑。共に怪力自慢である二人の一対一(タイマン)に闘技場の熱気は自然と高まる。




 ―――両雄、並び立つ。広大な闘技場の中の僅か十数メートル四方の小さな空間に筋骨隆々の男女が向かい合う。

 彼らが発する闘気は凄まじき暴風となって、舞台の中央でぶつかりうねりを上げる。


「久しぶりだな、シャオ・リン殿! 双竜大戦以来か! 英雄級の中でも武術最強と謳われる貴様と戦えること、嬉しく思うぞ!!」


 黄金のたてがみをなびかせる獅子が如き風貌の男は、獅子の咆哮が如き声量で眼前の対戦相手に激励を送る。

 その激励を受け、中華風の武闘服に身を包んだ女武闘家は奮い立ち、膨らんだ筋肉をさらに強張らせ、瞳をギラギラと輝かせてこれに応える。


「私もです、レナード殿。鍛えに鍛えたこの技、あなたの鋼鉄の肉体にどれほど通用するか、試させていただきます!」

「うむ! 良い心意気だ!! ならばこの獅子も全力を以て応じよう! さあ、遠慮なく打ち込んでこい!!」


 レナードは獅子の意匠が込められた大剣をリンの目の前に突き出す。それは暗に『先手をくれてやる』という意味を含んでいた。

 その意思を読み取ったのか、リンは僅かに微笑むと左手の甲を大剣に触れるか触れないかという位置に置き、全力の一撃をすぐさま放てる構えを取る。


「両者、準備はよろしいでしょうか?」

「「応ッ!!」」

「構え……はよろしいですね。ならば始めてください!」


 審判の合図とともにリンの左手が大剣を弾いた。同時に彼女の最速の初撃がレナードの腹を貫く。


「秘技の壱“空子カラシ”ッ!!」


 目に映ることを許さぬ神速の一撃。音すらも置いてきぼりにするそれがレナードの鳩尾を的確に穿った。

 試合開始からコンマ二秒。たったそれだけの時間で決着がついてしまったのかと思われた。しかし……



「―――言ったはずだ。遠慮なく打ち込んでこいと」


 獅子レナードには効いていなかった。


 初撃が不発に終わったことを理解すると、リンはすぐさまレナードと距離を取る。攻撃の後が一番隙が大きいと理解しているからだ。

 だがレナードからの反撃はない。それどころか彼は腕を大きく開き、次の攻撃を待っているかのような素振りを見せていた。


「先程の高速の正拳突き、見事であった!! 並の者なら今ので沈んでいただろう! しかしこの獅子には通用しない!! 安心しろ、小手調べなど使わずとも俺は避けるなど姑息な手は使わない! 貴様の全力全霊を俺は受け切ってみせよう!!」


 この言葉にリンは思わずぞっと冷や汗が噴き出す。


 彼の言った通り、大概の相手ならばリンの“空子”を受ければ倒れてしまう。

 一対一の対面ならばなおさらのことだ。戦いの火蓋が切られたとともに放てばその一瞬で決着がつく。


 空子を受け切った者のほとんどは事前に防御力を上げる何かしらの措置を取っているか、運良く避けることができた者のみだ。

 それでも喰らったとなると無傷で済むはずがない。


 それを、奴は、正面から受け切ってなお平然としていた。その上で、空子を()()調()()と言ってのけたのだ。

 その姿はまさに鋼鉄の怪物そのものであった。


「これでも結構手加減なしで撃ったつもりなだけどね……。それじゃあ―――」


 リンは即座にレナードとの距離を詰め直し、そして渾身の力を込め奥義を放つ!


「奥義“七連閃弾”ッ!!」


 空子の強化技である“トウ空子カラシ”と防御不能の七連撃の“漆蛇シチミ”を組み合わせたリンの奥義――“七連閃弾”。

 絶対必中の全力が躊躇なくレナードの急所七ヶ所――鼻、顎、喉仏、胸骨、鳩尾、右脇腹、左大腿――を抉る。

 先程の空子よりもさらに強力な打撃が急所に、それも七ヶ所も同時に打ち込まれた。これには鋼鉄の肉体を持つレナードとはいえ動けようも―――



「今のは効いたぞ」



 レナードは衝撃により数歩分だけ吹き飛ばされ、鼻からは赤い血を滴らせていたが、倒れること自体はなかった。


 リンも倒し切れないことを想定していたか、反撃を与える余地も与えず次の秘技――大岩をも砕く掌底“虎掌”をレナードの体に叩き付ける。

 またさらに数歩分吹き飛ばされた彼にリンは続けざまに秘技を浴びせかける。


 高速の歩法から繰り出される蹴撃ソバット――“馬迫ウマゼリ”。

 猪の突撃が如き正拳――“猪頭シシトウ”。

 鍛えた五指から放つ斬撃技――“斬猩サンショウ”。

 獣のような低姿勢からの連続技――“狩狗ガーリック”。

 最後に龍の顎を模した両手から魔力砲を繰り出す秘技――“喰龍(タラゴン)”を次々に放つ。


 リンの手から放たれた龍の形をした魔力波はレナードに齧り付き、呑み込み、そして大きく爆ぜる。

 彼女が持つ十二の秘技のうち六つも組み合わせた混成連続技、リンにとってもこれ以上の攻撃はないだろう。


(……やったか……?)


 手ごたえは確かにあった。だが相手は不動の獅子レナード。どの程度効いているのか予測できない。

 今、砂煙の幕からレナードの姿がゆっくりと露わになる。



「―――クゥゥ~~~ッ!! 効いたァッ!!」


 姿を見せた彼の纏う鎧は原型を留めていないほどに破損しており、彼の素肌にはいくつもの切り傷や痣ができていた。

 だが、それでもなお獅子はピンピンとしていた。


「今の連撃はかなり良かったぞ! 流石は英雄級と持て囃されるだけのことはある! さて……お礼、と言っては何だが……」


 そのとき、レナードに纏わりつく空気が張り詰めたように変わった。


「俺からも全力の一撃を見舞ってやろう」


 そのことに気づいた瞬間、リンの背筋は今まで以上の寒気を感じた。まるで獰猛な獣をに出くわしてしまったかのような危機感に彼女の体は一瞬硬直する。


 レナードが大きく、大きく息を吸い込む。まるでこの場に吹く風の全てを啜り尽くさんばかりに、膨大な空気を口から肺へ送り込む。


 数拍遅れて直面した危険から逃れるべく恐怖という本能を振り払ったリンが防御の態勢を取る。

 全身に魔力を通わせ全体のパラメータを向上させる秘技“牛纏(ゴマ)”を発動させ、彼女が待つ秘技の中で唯一の防御の技“未守(メース)”の構えを取った。


 次の瞬間、彼女の一連の行動が終わるのを待っていたかのようにレナードの攻撃が放たれる。



「“獅子一喝”ッッッ!!」



 轟音。爆風。いや、これは王者の咆哮に違いない。


 彼が取った行動は一つ。ただ、()()()だけ。

 だというのに、肺で圧縮された空気とともに吐き出されたその咆哮は巨大な砲弾のように明確な指向性と絶大な破壊力を秘めていた。


 レナードの口から放たれた魔力を帯びた空気の砲弾は舞台を削りながら音速でリンへ迫っていく。


「秘技の捌“未守(メース)”ッ!!」


 リンが獅子の咆哮を受け止める。

 だが、なんということだろうか。牛纏で硬化した肉体と全方位型防御術である未守をもってしても、轟音の空気弾を相殺しきることはできなかった。


 大嵐のような暴風と地鳴りのような振動がリンの体を押し流す。

 身が砕け突風に舞い上げられたチリ紙の如く吹き飛ばされることはないが、踏ん張った両脚は床に二本の傷跡を残しながら着実に後退していく。


「ぐぅッ……ぅおおおおおおおおおお!!!!」




 叫ぶ。目の前の獅子に負けじと、喉を潰さんばかりに大きく声を張り上げる。


 国のため? 違う。


 仲間のため? 違う。


 これは()()()()()だ。


 絶対的な強さを誇る英雄級としての矜持のため。

 より強きを凌駕せんとする武闘者としての性のため。

 勝利を願う自分自身のために、彼女は力を振るうのだ!




 ―――リンは舞台の縁の際で立っていた。場外へ吹き飛ばされることなく、力尽き倒れることなく、レナードの攻撃を耐えきったのだ。

 これにはレナードも驚嘆の表情を見せる。


「ほう、この獅子の一喝を耐え抜くとは! 受け止めながらも身一つで耐えきったのは貴様が初めてだ!」

「伊達に力自慢を名乗ってはいないわよ。まあ危なかったけど」


 そう言いながらもリンは涼しい顔で服にこびりついた埃を払う。


「にしても、困ったわね。このままじゃどう足掻いても勝てないわ」


 リンは顔色を変えず、さも当然のようにそう言ってのけた。

 さすがのレナードも、彼女がまさか自身の敗北を認めるかのような発言をするとは思ってもみなかったようで、ポカンと呆けたような表情を見せて絶句していた。


「……なんと! まさか貴様がそのような弱音を吐くとは! ではこの勝負、俺が勝たせてもらうとしよう!!」

「皆には悪いけど、そうなるわよね。ということで、ちょっと()()()()()()()()()()()

「…………なに?」


 リンの発言にレナードの表情が余裕の笑みから怪訝なものに変わる。

 そんな彼を放ってリンは何やら準備を始めた。


 腕を顔面の前で交差させ、大きく呼吸を繰り返し、全身に力を込め始める。

 それもただ単純に筋肉を硬直させ膨張させるような具合ではなく、丹田や体の髄に集中するような、じっくりと静かな調子で。


 すると彼女の体に変化が起き始める。

 交差させた腕をゆっくりと腰まで持ってくると、その動作に合わせるかのように山脈を彷彿とさせる自慢の筋肉は徐々に萎みだし、彼女の丸太のような四肢はレイピアの細い刀身を思わせるようなサイズにまで縮んでいった。



闘法(モード)変更(チェンジ)。―――柔の型“神写(ジンジャア)”」



 変貌したリンのその見た目は、先程までの巨大な羆の如き筋骨隆々の姿とは違い、まるで野生の狼や鷲のような洗練された肉体美を誇る長身の女性になっていた。

 あまりの変貌ぶりに、レナードは目を丸く見開き口を半端に開けながら放心してしまっていた。


「私が身に付けるこの腕輪――“ターカタバル”による肉体変化。その応用よ。普段は筋力を増強しパワーとディフェンスに特化した形態“鬼怨(オニオン)”になっているけど、“神写(ジンジャア)”はその逆。速さと身の柔らかさに特化し、相手を翻弄して凌駕する形態。前半までの私とは一味違うわよ!」


 そう言いながらリンは戦闘の構えを取る。

 向けられる闘志に反応してレナードは正気を取り戻し、気付け代わりに自身の頬を数度軽く叩く。


「なるほど! 確かにこれまでとは様子が違うようだ! だがそれでもこの獅子の肉体に傷をつけることなど―――」



 瞬間。前方の女性が姿を消した。否、自身の目の前、腹部へと潜りこんでいた。

 なんというスピード。その足の速さは旋風竜の竜石保持者に迫るもの。

 反応が遅れた。武器や腕でのガードは間に合わない。だが問題はない、身に纏うは鍛え上げられた鋼鉄が如き筋肉の鎧。いくら速かろうとこの防御を貫けはしな―――



「ハァッッッ!!!!」



 リンの掌底が獅子を打つ。それは奇しくも試合開始と同時に放った空子と同様にレナードの鳩尾に食い込んだ。

 リンの腕がレナードの腹から伸びる。この状態のまま二人の沈黙が続いた。


「……ゴハァッ!」


 レナードの口からドロッとした血液が噴き出し、リンの顔を赤く塗る。

 これにはレナードの強さを知るキャメロス代表の面々だけでなく、選手や観客一同が驚愕した。


 鋼の剣で切りかかれようと無傷である究極の肉体を持つレナードにダメージを与えた、そのカラクリは一体何なのか?

 その答えは攻撃を受けたレナード本人が一番理解していた。


「なる……ほど……。()()()()、とやらか……!」


 レナードが出した答えにリンはにやりと微笑んで応える。


「遥か大陸の東、陳帝国に伝わる技術。魔法や超能力じみたその技は発生させる運動量を最大限にまで効率化し、最小の動きで最大の力を発すると聞く。また、中には水を伝う波紋のように気功を体内に送り込み内側から破壊する技もあるという。今のはそれか」

「ご明察。そのとおりよ。加えて私のはオリジナルでね、魔力もブレンドしているのよ。お味はどうだったかしら?」

「肉体の内から攻撃されるこの感覚……。内臓が傷つくというこの刺激……! いずれも初めてだ! もう受けたくないな!!」


 下顎を自分が吐き出した血で染めながらも呵々大笑するレナード。

 彼のその様を見てリンは呆れと恐れの入り混じったげんなりとした表情を浮かばせつつも、再び構えを取る。


「ならば今度は躱してみせなさい。できるものなら、だけどね!」

「笑止!! 聖十二騎士(ゾディアック)一の剛の者と自負するこの獅子が、攻撃を避けるなど愚昧の極み! 全て受け切ったうえで貴様を叩き潰す!!」


 レナードは大剣を両手で構え、力一杯にそれを振り下ろす。縦に放たれた大剣の一閃は魔力を孕んだ衝撃波とともに舞台を割りながらリンへと猛進する。

 だがリンはこれを容易く避け、目にも留まらぬ足の速さで距離を詰め、怒涛の五連撃を見舞わせる。

 “発勁”を受けたレナードは鼻や口から鮮血を垂らしながらも倒れることなく立ち続け、衰えることのない怪力を振るう。


 リンが発勁を放つ。レナードがそれを受ける。このような攻防を何度か続けているうちに二人は気付きを得る。


(こいつ……ただ防御力(DEF)が硬いだけじゃなく体力(HP)まで異常に多い! マジモンの化け物ね!?)


 リンが得た気付きは、レナードの無尽とも思える体力。

 鋼を彷彿とさせる肉体に目が行きがちだが、彼の耐久力は圧倒的な防御力だけではなく、不屈の体力にこそある。

 攻撃は通るようになったが、まるで山を殴り続けているかのような現状にリンは焦りの色を見せていた。


(確かにハッケイは強力だ。しかし、それは緻密な体運びによって初めて得られる力! やつの体力が尽きる、もしくはこちらの体力が尽きる前に一撃でも浴びせれば勝機はある!)


 一方レナードが得た気づきは、発勁の欠点。

 長い修行の果てにようやく習得することができる発勁は、そう簡単に連発できるものではない。今のリンでも大地という盤石な支えに両足をつけ、掌底や拳骨によって初めて技として昇華している。

 もし地に足をつけずに攻撃すれば、もし掌底ではなく手刀や足での攻撃ならば、その攻撃は発勁という魔法のような力を失いレナードの肉体に阻まれることだろう。


 また、神写(ジンジャア)によってこれまでのレナードの攻撃に耐えうる防御力を捨てたリンにとって、彼の攻撃を防ぐ術がなくなってしまった。それすなわち、一発でも攻撃を受けようものならその場で雌雄が決するということ。

 リンの体力も無限ではない。

 高速のスピードで猛襲し、発勁を放ち続け、必死の攻撃を避ける。これらの行動を繰り返していればいつしか体力も底を尽き、彼女の動きにも()()が出るだろう。恐らくその時が運命の分かれ道となる。


 この勝負……



((体力が保ったほうが勝つ!!))



 リンがさらにギアを上げる。韋駄天が如き速さと阿修羅が如き力を以てして、徐々にではあるが確実にレナードの体力を削っていく。

 レナードとて黙って耐え忍ぶわけではない。隙を見ては反撃し、発勁の無力化や体力の消費を狙っていた。

 必殺の技を使い高速で飛び回るリン。圧倒的な体力と膂力を振るうレナード。彼らが戦うさまは雀蜂とネメアの獅子との争いのようであった。


 だがこの激戦もそう長くは続かなかった。

 幾度もの打撃音の後、二人の動きは目に見えて鈍っていた。体力の限界がもうすぐそこまで近づいていたのだ。


 レナードは満身創痍の体に鞭打って、これが最後の一撃と言わんばかりに残り少ない体力を込め大剣を薙ぎ払う。

 しかしその一撃はあえなく無に帰す。リンが彼の腕を打ったことにより既に限界を迎えていた腕回り全体の筋肉は力を失い、握る力すらも喪失した手は大剣を彼女に当てることなく明後日の方向へ投げ飛ばしてしまった。


 攻撃が無力化されたその一瞬の間隙、そこを狙ってリンはさらにレナードへ迫る。

 人体の総てを司る臓器、脳。それを内包する頭部において最も薄い箇所であるこめかみへ全力の発勁を打ち込まんとする。

 だがレナードもそのままやられるわけではない。麻痺しているほうと反対の腕を振るい、カウンターの拳をリンへと向ける。



「「うおおおおおおおおおおお!!!!!!」」



 腹から、その奥底に眠る魂から、雄叫びを上げる。


 直後、鈍く大きな打撃音が連続で響いた。




 地を滑るように吹き飛ぶ二人の肉体。彼らの体は闘技場の舞台を跳ね、転がり、場外になるギリギリのところで止まった。


 二人は倒れこんだまま微動だにしない。


 このまま両者戦闘不能かと思われたその時、レナードがふらつきながらも身を起こした。


 客席から感嘆の声が上がる。

 文字通り身骨を砕く激闘を経て、それでもなお獅子は立ち上がる。その姿を見る者は喝采や称賛を忘れ、ただ立ち尽くすのみであった。

 そして今、その獅子の口が大きく開かれ、勝鬨の咆哮であろう一言を発さんとする。




「―――流石なり、英雄級!!」




 彼の口から上がったのは、対戦者であるリンに対しての言葉であった。

 誰も彼もがその言葉に戸惑いを覚える間もなく、レナードは直立の姿勢のまま後ろへぶっ倒れた。


 観客たちの瞳が倒れるレナードの次に捕らえたもの。

 それは、いつの間にやら立ち上がっていたリンの姿であった。


「……アンタこそ流石よ。殲滅の獅子宮」


 聞こえるか聞こえないかという程度のか細い声でそう言うと、リンは息を大きく吸ってから、かの獅子を沈めた黄金の拳を天を突くように掲げる。


「この試合……私の勝ちだあああああああああ!!!!」


 彼女の勝鬨によって、静寂に包まれた闘技場は一転、喝采の叫びに満たされる。




 聖十二騎士(ゾディアック)“殲滅の獅子宮” 対 英雄級“破壊僧(デストロイヤー)”。

 激闘を制したのは、“破壊僧”シャオ・リン!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ