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村人Aの異世界叙事詩  作者: ユッケ=ビビンバ
第五章 闘いの詩〜大統合武闘祭編〜
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第83話 マックスVSリンVSソテル!!

 会場は異様な緊張感に包まれていた。


 激闘を経て残った三人の戦士。

 一人は帝国最強と名高い聖騎士、マックス。一人は武道の達人である破壊僧、リン。そしてもう一人は雷の刃を振るう謎の戦士、ソテル。

 三人は適度な距離を保ちつつ、警戒と牽制の意味を含んだ視線を交わす。


(……さて、私はどうしたものかしら?)


 リンは熟考する。

 自分以外の二人は恐らく自分より遥かに格上だ。マックスは当然のこと、ソテルも実力者三人を倒した実力がある。油断してかからない方が吉だろう。


 考えられうる最も有効な策は、マックスと再び共闘しソテルを打倒することである。

 しかし、マックスの方はというと、久しく会えぬ強敵と一対一で闘いたいという感情が表情を通して漏れ出ている。共闘を申し込んだところで、断られるのがオチだろう。


(三位確定だし、いっそのことリタイアしちゃおうかしら)


 馬鹿な、と即座に一蹴する。そんなことをすれば英雄級としての威厳は失墜する。何より、自分自身がそのような戦士の誇りを欠いた愚行を許すはずもない。

 戦いの決意を改めると、再度リンはどちらから仕留めるか考えを巡らす。


 だが、リンの考えがまとまるより二人の痺れが切れる方が早かった。

 マックスの剣とソテルの刃が轟音を立てて激突する。

 吹き荒れる剣戟の嵐。技量と技量がぶつかり合う鍔迫り合い。言葉の通り、火花散る激闘が広い闘技場のほぼ中央で演じられる。

 あまりに激しい闘いぶりに目を奪われていたリンも、自分も負けていられないと遅れてその渦中に身を放り投げる。


 強者たちによる三つ巴の闘い。電撃の刃が空気を焼き、直剣が空間を裂き、剛拳が地を穿つ。

 その激しさに観客は言葉を忘れ、獣のように声を上げる。


 しかし、この熱狂も長くは続かない。定められた終わりの刻が確実に近づいていた。

 制限時間は九十分。表示された時計の針は既に八十分近くを指していた。

 そのことをマックスは目の端でチラリと確認する。


(残り十分……。リンの的の枚数は二つ、ソテルは私と同じ残り三つ。このままだと時間切れで私とソテルの同率一位か)


 大会のルールとして、同率となった場合は双方に同じ点数が加算される。つまり、キャメロスとモーラ両方に10ptが入ることとなる。

 団体戦の二位とこの後に行われる個人戦の勝利ポイントが5ptであることを踏まえると、可能ならば同率は避けたい。


 リンの方もこのままでは三位になってしまうため、マックスかソテル、どちらかの的を破壊したいと思ってるに違いない。

 マックスはリンの攻撃を躱しながら、最優先でソテルの的を破壊しなければならない。

 それがどれほどの難行であるか、言葉にするまでも無い。だが、不可能ではない。この男に限っては。


「余所見してる暇はないわよ!!」


 リンは拳法独特の足取りで瞬時にマックスとの距離を詰め、速度を相乗させた拳を叩き付ける。

 だが、必殺の一撃はあえなく避けられてしまった。

 とはいえ、その威力は凄まじい。拳の風圧や砕かれた大地の礫を剣で防いでも、そのダメージは防御を貫通してマックスの体に傷を負わせる。


 痛みで怯んだ僅かな間隙を衝き、ソテルが漁夫の利を得ようと雷撃を降らせる。

 網のように二人を逃さまいとする電撃の雨霰。これを避けるなどほぼ不可能な芸当だ。

 しかし、マックスは降りしきる雷を自慢の勘で次々躱していく。リンも同様に常人からかけ離れた身のこなしで、稲妻の檻から脱出する。もうこれには笑うしかない。


 だが、彼らの体には所々に電撃を受けた跡が残っていた。

 当然であろう。光より断然遅いとはいえ、電撃は人の目で追える代物ではない。避けると言っても限界は存在する。

 幸いなことに、どちらの的も無傷だ。一網打尽にしようとしていたソテルにとっては残念極まりないだろうが。


 電撃の雨から抜けると、マックスはすぐさまソテル目掛けて走り出す。

 リンは先程の雷に撃たれ、体に麻痺が残っている。暫くの間、邪魔をされずに済みそうだ。

 残り時間はもうあと僅か。これが正真正銘、最後の決着となる。


 既に戦場に言葉はなく。金属音と衝撃音が繰り返されるのみ。

 剣技、魔法、武術、スキル。使えるものはすべて使い、目の前の戦士を斃さんとする。


 その中でマックスは不敵にも笑みを浮かべていた。普段見せるような優しい笑みとは全く違う、喜びに歪んだ恍惚に近い表情。

 久しく得られなかった感情。そうこれは、あのハン族の族長(エイリッタ)と戦った時以来―――それ以上の興奮。戦う事への悦びだ。

 まさか。ユニオスにおいて並び立つ者なしと謳われた自分がまさか、()()()()()()()()()()

 これは認めるを得まい。(ソテル)自身(マックス)をも上回る実力者だ!!


 残り時間が一分を切った。しかし、未だ決着の気配はない。このまま放置しておけば、一昼夜は戦い続けるだろう。

 誰もがこの勝負、引き分けに終わると思った。


 ―――ただ一人、そうはさせまいと異を唱える者がいた。



「秘儀の参“兎魂(ウコン)”ッッッ!!」



 感電による麻痺から回復したリンが大地に向かって正拳を振り下ろす。地面に与えられた衝撃は地中を伝い、マックスたちの足元まで伝わる。

 遥か東国に伝わる拳法の奥義の一つ、発勁の応用―――“遠当て”である。

 彼等の足元に溜まったエネルギーは、地中からアナウサギが飛び出してくるかのように一気に爆発し、無数の礫の弾丸を二人に浴びせる。


 先程まで足場だったものが牙のように襲い掛かる。まさに地雷が爆発したかのような衝撃に、会場は土煙で覆い隠される。

 同時に試合終了のベルがけたたましく鳴り響いた。


「……あ、やっばやりすぎた」


 リンの無我夢中の一手により、勝敗の行方は完全に分からなくなった。

 果たして優勝したのはマックスかソテルか、それともリンか。

 その答え合わせをするように、土煙が晴れていく。


 マックスとソテルは、どちらも立っていた。不意打ちギリギリの一撃をどうにか躱していたのだ。

 だが、重要になってくるのは彼らの持つ的の残り枚数。現在、リンが二つで確定。どちらかが三枚残していればそのものが優勝、二つ以下ならリンが優勝となる。

 さて、その結果は如何に―――




 フルーランス代表シャオ・リン 残り枚数……二枚


 モーラ代表ソテル 残り枚数……二枚


 キャメロス代表マックス 残り枚数……三枚


 キャメロスの勝利であった。



『うわああああああああああああああ!!!!!』


 壮絶な戦いの果てに勝利したマックスへ多大なる称賛と喝采が送られる。

 割れるような拍手と大歓声にマックスは大きく手を振って応える。


 かくして、大統合武闘祭初日午前の部はこれで幕を引くのであった。



 ―――――――――



 一日目の団体戦を終え、選手たちは午後の個人戦が始まるまで束の間の休息を満喫していた。

 とはいえ、狭い控室の中で、他の選手と睨みあいながらの休息であるので、本当にリラックスできるかと問われれば疑問ではあるが。

 しかし、観客の多くが昼食を取りに闘技場から出ていっているので、衆目に晒されるプレッシャーがないという点においては肩肘を張らずに済む。


「おかえりリンちゃん! お疲れ様!」


 一勝負を終え控室へと生還したリンにユーリが労いの言葉をかける。

 帰ってきたリンは一目見ただけでも満身創痍であることがわかる。全身に土埃を付け、数多の擦り傷と青痣を引っ提げ、歩く姿はどことなく歪であった。

 彼女の立ち居振る舞いは、それほどまでに先の戦いが苛烈であったことを証明してくれる。

 リンは自身の消耗をおくびにも出さず快活に笑ってみせると、感謝の言葉と一緒にユーリの頭をガシガシと強めに撫でる。


「あんがと。流石に疲れたわ」

「同率とはいえ、二位に入ったことは素直に称賛すべきだろう。褒めてやる」

「ありがとうございますわ。王子殿下」

「うむ。しかし、思わぬ伏兵がいたものよ。なあ? ヒロよ」


 ルイの言葉で全員の視線がヒロへ向く。

 当のヒロ本人は自身に注目が集まっていることなど気づく様子もなく、ただじっと一点のみを見つめていた。

 その視線の矛先はモーラ代表の控室、その中にいるソテルへと向けられていた。


「……ヒロ?」

「…………」

「おーい。ヒロー? ヒロってばー!」

「えっ?」

「やっと気づいた。どしたのさ? モーラの方ばっかじーっと見て」

「あ、ごめんごめん。ぼうっとしてただけだよ。なんでもない」


 なんでもない、なんでもないと連呼しながら、手をひらひらと振る。

 その行為は誰が見ても何かを隠しているように写った。

 とはいえ、問い質したところで素直に答えるような雰囲気でもなし、追求するだけ野暮というものだろう。


「もー……。今日はフルーランス(うち)の個人戦がないからって、気が抜け過ぎじゃないの? しっかりしてよねっ」

「あはは、ごめん」


 ヒロは苦笑いで話を切り上げると、すぐさまモーラの方へ視線を戻す。

 ヒロの考えは他の誰もが理解できる。と言うより、自身も同じ心情であるのだろう。


 此度のモーラはダークホース。実力不明と承知していようが、ここまでの番狂わせを起こすとは誰も予想だにしていなかったはずである。

 警戒するのは当然の帰結だ。


 しかし、ヒロの脳裏に浮かんでいるのはそれだけではなかった。


(……なんか、()()。あの男……ソテルは、ケルティンの代表のときは瞬殺したのに、他の二人―――ジークとマックスさんのときだけ、なんとなく手を抜いてるような動きだった。それに、あの武器から出る雷……どこか覚えがあるような、嫌な感覚だった。あれは一体……?)


 胸に沸々と湧き起こる不思議な感覚に、ヒロは疑問を抑えきれない。

 紅蓮に問おうと思ってみても、あえて無視するかのように静寂しか帰ってこない。

 ただ拭えられない疑問と底知れない不安が積もっていく。




 ヒロと同様にソテルに不信感を抱く人物がもう一人。

 ソテルと最も近くで戦った騎士、マックスである。


 最も近くで戦っていたからこそ、理解る。ソテルの隠された実力の片鱗を。


 リンが兎魂を放ったあの時、マックス自身は的を守るのに精一杯であった。

 迫りくる礫はまさしく逆さに降る雨が如く。全てを避けられるはずがない。

 当然、的を優先させれば体に多くの礫を浴びることになる。

 流石のマックスと言えど、多少のダメージを受けることとなった。


 しかし、ソテルは服に傷すらいってない。

 否、それどころかマックスが一瞬瞳に写した彼の姿は避ける動作すらしていなかったように思える。

 まるで礫の方から避けていったようにも見えた。

 偶然といえばそれまでだが、どうも引っかかる。今まで幾度となく己が身を助けた勘が、注意喚起を促す。

 ソテルはもしや()()()()()()()()()()、と。


「……アスト」

「どうかしましたか? 団長」

「……いや、なんでもない。久しぶりに充分に戦えて少し疲れてしまったようだ。少し休ませてもらうよ」

「? はい、ゆっくり休んでください」


 とはいえ、勘は勘。ソテルが、そしてモーラの選手全員が七つの美徳の構成員、などと考えすぎである。

 彼はあくまで特別強い()()。それだけで言えば、自身も含め英雄級全員に当てはまることだ。


 断定するには早計すぎる。しかし、警戒するには十分だ。

 選手の中に構成員や幹部が潜んでいる可能性も捨てきれない。

 今はただ各国の首脳が襲われないことを祈るばかりだ。




 モーラへの警戒はヒロやマックスだけではない。ソテルと相対した戦士や一部の人間もモーラへの不信感を僅かばかりに募らせる。

 疑念を含んだ視線を一身に浴びながらも、ソテルはそんなことなど微塵も気にせず涼しい表情を崩さない。


「少し、暴れすぎたんじゃないのぉ?」


 モーラ代表の一人、黒縁眼鏡と白衣を身に着ける学者然とした黒髪の男がからかうようにソテルに声をかける。

 彼の名はヘルメス=ソフィア・ホーエンハイム。七賢が一つ、錬金院の院長にして、若き大天才。

 そして、七つの美徳では“知識(ウィズダム)”の名で呼ばれる者だ。


「強者との戦闘で熱がついたことは認めよう。しかし、これで我々の威を知ら示すことはできた」

「いずれ来る戦いのための布石ってことか。でも負けてるではないか」

「華を持たせた、と言ってほしいな。英雄級最強と名高いあの聖騎士を倒したというのと一歩及ばなかったというのでは、与えるイメージが違うからな」

「騎士団長を倒したと言うならば、それはこの国で最も強いということ。そんなやつが今まで燻っているはずがない。名前が知られていないのは()()()()()()()()()、ということになる。当然、我々が噂の“七つの美徳”かもしれないって疑問が強くなるわけだ」

「事実、その通りではあるが。だが今は名を明かすときではない。今はまだ、な」


 これから起こる出来事を脳裏に描き、ソテルは静かに笑みを零す。

 邪な意図を孕んだ横顔はあまりに美しく、あまりに恐ろしい。

 ソテルから放たれる冬の夜のような緩やかで冷ややかな空気は、ヘルメスと残るモーラ代表三人の身を震わせる。


「さて、次は個人戦だ。頼んだぞ、カルキ」


 そう言ってソテルはカルキと呼んだ少年へと顔を向ける。

 少年はまだ十三そこらのような見た目の歳であり、髪は白馬のたてがみのようである。左の頬には回路のような青白い模様が入っており、その刺青は首の方にまで伸びている。陶器のような生気のない肌と同じく生気のないガラス玉のような瞳から、まるで西洋人形を彷彿させる。


 彼は自身の名を呼ばれるとすぐさまひれ伏し、声変わり前の高い声をしずしずと奏でた。


「必ずや、貴方に勝利を」

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