第81話 英雄たちの祭典
ついに開幕した大統合武闘祭。その第一日目、団体戦が始まろうとしていた。
団体戦の競技は平等なくじ引きのもとで行われる。
二十余の誰が考えたのかもわからない競技が書かれた紙を箱に入れ、皇帝陛下自身がその中から無作為に一つ選ぶ、一般的なくじ引きだ。
とはいえ、箱には対魔術用の特殊な加工が為されている。外部から意図的に競技を選ぶことを避けるための措置だ。
そして今、ドラムロールとともに、その箱から一日目の競技が引き抜かれた。
「第一日目は―――ライフ制のデスマッチゲーム!!」
皇帝の宣言の後、競技のルールが表示されたディスプレイが空中に出現する。
ルールは以下の通り。
一つ、各出場選手は配布される三つの盤形魔道具を体の何処かに装着する。
二つ、各選手は制限時間九十分以内にそれぞれの魔道具を狙い、破壊する。全て破壊された者は死亡扱いとなり、退場する。
三つ、最後に生き残った者、もしくは的をより多く残した者を一位とし、それ以下を二位及び三位とする。
「それでは、皆の健闘を祈る」
―――――――――
観客席のすぐ下、闘技場を一望できるところに各国の特別観覧席がある。
その特別観覧席では、既に各々作戦会議が始まっていた。
「的である三つの魔道具はそれぞれの急所。それを全部破壊されたら死亡……擬似的な殺し合いと言うことか」
「この三つのルールと殺害禁止以外のルールはなし。凶器を持ち込んでも、瀕死の重症を負わせても、基本オッケー。本格的なバトル形式だね。……それじゃ、最初は誰が出る?」
ユーリの一言で、フルーランス代表の間にピリピリとした空気が流れる。
一番に闘いたい。国に一番貢献したい。一番目立ちたい。それぞれの思いは違えど、一番最初の試合に出たい気持ちは同じだった。
ただ一人、ヒロを除いては。
ヒロは元より争い好む性格ではなく、必要に応じて戦闘は行うが、できるなら平和に生きていたい人種だ。加えて、国のために頑張るほどの愛国心もない。最初に出て目立つなどもっての外だ。
ヒロはとにかく息を殺し、可能な限り存在を消し、対岸の火事を眺めるような気持ちで目の前の静かな諍いを傍観するのみであった。
誰でもいいから早く行ってくれ。不貞腐れ気味にそう思った次の瞬間、どこかの特別観覧席から会場へ飛び降りる影を眼に捉えた。
その影の正体は、キャメロス代表のマックスであった。
選手や観客の一部が、会場に彼が現れたことに気付きはじめる。そして全員の注目が彼に集中するのに、そんな時間はかからなかった。
全員の視線が自身に集まったところで、マックスは剣を掲げ、どよめきを掻き払うかのように高々と声を立てた。
「各国の猛者たちよ! 良い機会だ! 今この場で誰が真の強者か決めようではないか!!」
それは最強と謳われる騎士からの挑戦であった。
瞬間、どっと歓声が沸き上がる。観衆は求めているのだ。本当の最強を決定する至上の闘いを、心の底から渇望しているのだ。
それは選手たちも同じだった。自分が闘いたい。しかし最高の勝負をこの目に焼き付けたい。
そう思ったとき、彼らの目は帝国最強の五人、“英雄級”へと向けられる。
フルーランスも例外ではない。
フルーランス代表の中で最も強いであろうと目されるリンは、期待にも近しい眼差しを向けられ、それに応えるように口の端を吊り上げる。
「騎士団長様からのお誘いじゃ、断るわけにもいかないわね」
そのようなことは言っていても、その表情から断るはずもないことは明らかだ。
彼女はほんの一秒すら惜しいのか、マックス同様、特別観覧席からそのまま会場へ降りていった。
リンが姿を現すと、観客は再び歓声の嵐を巻き起こす。その追い風を受けてか、次々と各国の猛者と呼ぶに相応しい戦士たちが出場してきた。
リンに次いで現れたのはアイゼンラントの英雄級、“勝利の勇者”ジーク。ケルティンからは“猛狼”と称される槍術士、セタンタが名乗りを上げる。続いてシュラーヴァの“竜騎士”ゲオルゲ・バラウレスク、リドニックの“狂戦士”バルザークと残りの英雄級が次々と登場する。
その度に、鼓膜が破れそうなほどの歓声が何度も何度も沸き上がった。
そして、最後にモーラの選手が現れる。
「あの人は……!」
瞬間、最高潮にまで高まったボルテージが僅かばかり冷えた。
初出場ばかりのモーラ代表。その中でも異彩な雰囲気を放つ存在。包帯で覆われた左手に独鈷杵のような黄金色の小さな武器を持つ、おおよそ戦士とは言い難い風貌の、白金のローブを纏った金髪碧眼の青年。
それはヒロが街で会った青年だった。
名は、ソテル。
「知り合い? ヒロ」
「知り合い、ってほどでもないんだけど……街で話しかけられたんだ。名前も昨日初めて知った」
「モーラ代表ソテル。素性や経歴は一切不明。噂では、ジューダス教皇がこの日のために用意した人材と言われてはいるが……」
「いずれにしろ、腕に覚えがあるのは確かだろうな。……まったく、食えん老獪よ」
そう言って、ルイは首脳が座る貴賓席を見上げる。
貴賓席においても、謎のモーラ代表についての話題が飛び交っていた。皇帝であるアルトリウスも彼を興味深く感じたようで、隣に座るモーラの首脳、ジューダスに質問を投げかけていた。
「見慣れん男だが……ジューダス、彼は何者だ?」
「数年前、このモーラで出会った友人だ。普段の生活は私も知らないが、崇高な信念を持つ青年だよ」
「強いのか?」
「ああ、強いぞ。とても」
ジューダスは笑って答える。それは、彼に対して絶対の信頼を預けているかのように見えた。
対して、アルトリウスは謎の青年に訝しげな視線を向ける。
確かに一見ただの好青年だ。しかし、強者としてのオーラとともに、どこか怪しい雰囲気を感じる。
彼を信用してはならない。そう胸の奥底で何かが忠告する。
「……君が選んだ代表なのだ。良い試合を期待している」
とはいえ、古くからの親友が呼び寄せた人間だ。
アルトリウスは自身の感覚を気のせいだと言い聞かせ、疑念を抑え込んだ。
「それは是非彼に聞かせてやりたい言葉ですな」
―――――――――
会場では、それぞれの選手が入念な準備を行っていた。
ストレッチをする者、精神統一をする者、知略を巡らせる者。その誰もが万全の態勢で、この競技に挑もうとしていた。
「姐さん。破壊僧の姐さん」
「ん?」
リンが軽いストレッチをしていると、後ろから彼女を呼ぶ声がする。振り返り誰かと確認すると、それは同じ英雄級のジークであった。彼は周りの目をはばかるかのように、声をひそめリンに近づく。
「どうしたのよ? ジーク」
「ちょっと聞きたいことがあってな……あのモーラ代表のアイツ。姐さんは何か知らねぇか?」
そう言ってジークが指をさした先には、ソテルの姿がある。
「……さあね。私も彼の名前は初めて聞いたわ」
「だよな。他にも数人に話を聞いたんだが、誰も知らねえって」
「誰にしろ、英雄級が全員集まったところに出てくるなんて相当の実力者か、相当の自惚れ屋よ」
「そうそう。英雄級と言えば……」
ジークの視線が別の標的に移る。その後を追って、リンもそちらへ顔を向ける。
そこには、拘束具で身動きの取れない英雄級バルザークと、もう一人。うんうん唸りながらバルザークの頭へ手を伸ばす金髪の少女がいた。
「ぐ、ぬ、ぬ、ぬ、ぬぅ……。もう少し、屈みなさいよ、このぉ……!」
少女の正体はバルザークと同じリドニック代表であり、リドニック首相の子女であるエレーナであった。
彼女の手には的である盤形魔道具が握られており、それを必死にバルザークの頭部に付けようとしていた。
しかし、悲しいかな。バルザークは二メートルを優に超す巨体を持つ。
長身であるエレーナでさえ、その頭に手を届かすことはできない。
「なんでいるんだ? あの女」
「狂戦士のお守りか何かでしょ。……にしても、まさか本当に出場するなんてね」
「バルザークのことか? 今は拘束具のおかげで大人しいが、試合では外すだろ。まったく、いつ暴れるかわかんねぇってのに……」
「あら? 随分と弱気ね。勝利の勇者の名が泣くわよ」
「ハッ、冗談だろ」
リンの挑発に対して、ジークは軽く笑い飛ばす。その瞳には、ギラギラと勝利への欲望が宿っていた。
それを見ると、リンも不敵に笑ってみせる。
二人が火花を散らす一方で、エレーナは未だ唸りながら背伸びを続けていた。
そこへ一人の男が歩み寄る。
「失礼」
その一言だけ発すると、その男―――ソテルは彼女の手から的を掠め取り、頭部の適当な位置に付ける。
「このあたりでよろしいでしょうか?」
「え、ええ。助けてもらうつもりはなかったけど、感謝するわ。貴方、モーラの代表の……」
「ソテルと申します。そういう貴女はリドニック代表のエレーナさん。なぜこの場に?」
「答えるまでもないわ。私はこの肉だるまの謂わば飼い主みたいなもの。なら、多少の世話をするのも私の義務でしょう?」
恐れ多くもエレーナは英雄級を足蹴にし、あまつさえペット扱いをする。
その胆力には呆れを通り越して、逆に感心してしまう。
「その恐れを知らない心の強さはどうあれ素晴らしい。しかし、一流の英雄である彼をそう扱われるのは、あまり気持ちのいいものではないな」
二人の会話に突如第三者が割り込む。
誰かと声のした方に振り向けば、マックスがしっかりとした足取りで歩み寄る姿があった。
「あらあら、これは騎士団長様。ご機嫌麗しゅう」
「お目にかかれ恐悦の至です、エレーナ殿。そして、はじめまして。ソテル殿」
「……ああ、はじめまして」
一瞬、ソテルの視線が鋭いものに変わったような気がした。
しかし、そう思ったのも束の間。彼は先程と寸分の違いもない、二枚目な笑顔を浮かばせている。
きっと、さっきのは何かの見間違いだろう。そう思うことでマックスは深く考えないようにした。
「こうしてユニオス最強の騎士と戦えるとは、光栄極まりない。今日はよろしくお願いします」
「こちらこそ。良い試合にしよう」
互いを鼓舞しあう言葉を投げかけ、二人は握手を交わす。
その光景を、少し離れたところから見つめる影がある。
「あれがモーラ代表の……。タッカスがいなくなってどんなやつが出てくるかと思ったら、なんだ、ただの青二才じゃねぇか」
その影の正体はケルティンの勇士、セタンタであった。
柿色の混ざった灰色の髪。琥珀色の瞳。槍を携え、肩当てなどの必要最低限の防具を纏ったその姿は、騎士でありながら野生児のような印象を与える。
(ある程度予想していたとはいえ、やっぱりケルティンとモーラ以外は英雄級を出してくるか)
セタンタは首をぐるりと回し、選手一人一人を注意深く観察する。
(一番に気をつけるべきはやはりマックス。次点でバルザークだな。他の三人も強敵だが、所詮は道具頼りの力。慎重に戦えば勝てない相手ではない。だが―――)
彼の狼のように鋭い視線は、自然とソテルの方に向く。他の選手同様、セタンタも実力が未知数の相手を無視できないのだろう。
ただ一つ違うのは、その瞳の中には軽んじるかのような色が宿っていることであった。
(初登場のあの金髪……。他のやつらは警戒しているようだが、やつは本当に強いのか? 今まで無名だったやつが強いとは思えないが……)
考えを巡らせる。まず誰から倒すか、獲物を品定めする獣のようにじっくりと考える。
それは案外早く決まった。
セタンタは舌なめずりとともに、牙のような八重歯をにっかりと見せつける。
(決めた。まずはソテルからだ)
―――――――――
各々の準備が整うと、選手たちは円陣を組むように並び立つ。
その様子を見ながら、観客達は試合が始まるのをまだかまだかと期待に胸踊らせる。
そして、そのときは来た。
「これより大統合武闘祭第一日目、午前の団体戦を開始します」
運営の放送を聞き、選手はそれぞれの得物を強く握り締める。同時に、会場の魔素がうねりを上げて渦巻き始める。
それは全員が戦闘態勢に入ったことを意味した。
「それでは―――はじめッ!!」
瞬間、六人の選手が一斉にマックスに襲いかかる。そこに一切の躊躇はない。躊躇って勝てるような相手ではないからだ。それはマックスも承知のこと。
襲い来る六つの攻撃。それはまるで砲弾の雨あられのよう。到底躱せるようなものではない。当然、防御などできようはずもない。
観客の誰一人も反応できない僅かな間隙に、マックスはフッと笑った。
「スキル“迅雷走法”」
それは一陣の風が通り抜けたようだった。否、風というより雷だ。激しく、そして疾いそれが砲弾の雨の間をスルリスルリと駆け抜ける。
それが過ぎ去ったあとには、破壊された的だけが残った。
誰かがあっと言い終わる前に、一連の動作が終わる。これには観客も、首脳陣も、他の選手でさえ目を見張った。
「……し、シャオ・リン、ジーク、セタンタ、ゲオルゲ・バラウレスク、バルザーク。各一枚ずつ的の破壊を確認!」
戸惑いながらも、運営が結果の報告を行う。その直後、鼓膜を割るような歓声が轟いた。
強い。圧倒的に強い。これがユニオス最強と言わしめんばかりの強さを見せつけられる。
そう、これが英雄級。これが聖十二騎士団長。これがマックス・フオン・ラインハルトの実力なのだ。
残り二枚となった選手たちは規格外の強さに驚嘆するとともに、闘志に今一度火が灯される。
確かに彼は強い。ならば自分はそれさえ超えてみせよう。誰もがそう瞳で語っている。
一方で、称賛の雨が降りしきる中、当の本人であるマックスはどこか嬉しくなさそうだった。
それは彼が見つめる人物が原因であった。
モーラ代表ソテル。唯一、マックスの攻撃を防いだ男だ。
(今の攻撃を防ぐか……。これは、改めて気を引き締めないとね)
剣を持ち直し、その切っ先をソテルに向ける。
ソテルもそれに応えるように、独鈷杵を構える。
秒針が進むたびに、緊張感が高まる。まるで張り詰めた弓のような剣呑とした膠着状態。
それを破ったのは、マックスでもソテルでもなく、暴虐の嵐のような介入者であった。
「Grrraaaaaaaaaa!!!!」
獣のような雄叫びを上げ、空から黒い巨大な筋肉の塊が二人のもとに降ってくる。
二人の青年はその存在に気付くや否や、大きく飛び退き直撃を避ける。
しかし、その威力は流星の如く、着地とともに暴風と衝撃が巻き起こり、大地を縦に振動させる。
二人の間に水を差した流星の正体。それはリドニック代表のバルザークであった。
左目と足、右手以外を拘束具に縛られていてもなお、暴威は衰えることはない。彼の精神はすでに狂気に侵されている様子で、瞳には正気の欠片すらなかった。
それでも本能ゆえか最優先で倒す相手は理解しているようで、ソテルに脇目も振らず、マックスに襲いかかる。
マックスの方も虚を衝かれたからか、先程一撃を加えた相手にもかかわらず、多少苦戦している。
残されたソテルはと言うと、膠着が唖然へと一転し、何をするでもなくただ立ち尽くしていた。
そして、それを狙う獣の視線がソテルを貫く。
(ヤツは今、バルザークの横槍が入ったせいで隙だらけだ。やるなら今か……!)
好機と捉えたセタンタが、ゆっくりと槍の穂先をソテルの背中に向ける。
まだ気づかれた様子はない。ならば、気づく前に速攻を仕掛けるほかあるまい。
すでに自身の的は一枚破壊されている。残り二枚とはいえ、ここで対戦相手の的を減らしておくことは勝利につながる。
息を整え、足腰に力を込める。
そして、バネが弾け飛ぶように、一直線にソテルへと襲いかかる。
「貰ったァッ!!」
十数メートルはある距離を、わずか一息で詰め寄る。
流石“猛狼”と呼ばれるだけはある。その超人じみたその獣のような身体能力を余さず使い、ソテルを仕留めるために全力を振り絞る。
今、セタンタの槍が肩にある的を貫こうとした―――
―――瞬間、ソテルの手の中にあった法具が黄金色に光り輝く。
それは、刹那にも満たない一瞬の出来事であった。
法具が光に包まれたその直後、セタンタの残りの的がすべて破壊され、猛狼が黒い煙を吹きながら倒れたのだ。
その光景は、まるで雷霆が彼を撃ったとしか思えなかった。
「せ、セタンタ選手の的の完全破壊を確認……。ケルティン敗退、です」
余りのことに、運営側もただありのままの事実を報告することしかできない。
観客たちも何が起こったのかわからず口をポカンと開けるほかなかった。
しかし、英雄級をはじめとする数人の選手だけが、事の顛末を理解していた。
「なんという速度の連撃だ……。この私ともあろうものが、残像を追うのがやっととは……」
エピーヌが思わず零した言葉に、ユーリが疑問を示す。
「連撃? 今のは放電とか雷系の魔法じゃないの?」
「いや、違う。確かに今のは連撃だ。……いや、それも違うか。あれは黄金の武具から作られた雷の刃での二連撃。感電したのはその余波だ。……恐ろしく速く精確な攻撃だよ」
エピーヌの読みは事実であった。
セタンタの攻撃を察知したソテルは、独鈷杵に雷の魔力を込め刃と化し、精確無比な攻撃でセタンタの的を破壊したのだ。
セタンタを撃破したソテルは次なる相手に狙いを定める。
その相手とは、勇者候補の一人“剣聖”ジークであった。
「次は君だ、勝利の勇者候補」
「美青年系は範囲外なんだけどなぁ……ま、四の五の言ってられねぇか!」
―――――――――
ソテルとジークが火花を散らす一方で、マックスとバルザークの両者が激しい攻防を繰り広げていた。
戦況は五分と五分といったところか。
マックスは相変わらず寸分の狂いもない完璧な立ち回りと、背筋が凍りつくような太刀筋を存分に発揮する。
しかし、それでもなお狂戦士を倒すまでに至らない。
(まるで嵐のような怪力による加減のない攻め。そして培われた武芸による踊り子のような繊細な守り。狂気に堕ちながらもこれほどまでの技量とは……厄介な相手だ)
マックスには、他の追随を許さない機動力と判断力がある。それが彼を最強言わしめる所以だ。
だが、バルザークは強さのベクトルが違う。
彼は限界までに攻撃力を極めた、謂わば“STR全振り”としての最強。自分の数倍はある大岩を持ち上げ、剣を持たせれば鋼鉄をバターのように切り裂く。その剛力は当たればマックスでさえ一撃で沈めることだろう。
加えて、マックスにも負けるとも劣らない技量を兼ね備える。
間違いなく、マックスと並び立てる存在であろう。
長期戦になることは必至。己の的もいくつか差し出すことになるだろう。
マックスの脳裏にそのような考えがよぎったそのとき、相対していたバルザークが真横へ吹っ飛んだ。
代わりに、また別の巨体がマックスの視界を塞ぐ。
「……闘いに水を差すなんて、褒められないな。シャオ・リン」
「あら、ごめんあそばせ」
不服そうに放たれた言葉を、狂戦士を殴り倒した破壊僧は軽く受け流した。
「それで、次は君が私の相手かい?」
「まさか。これでも貸しを作ったつもりなんだけど?」
一瞬だけ肩をすくめると、すぐにバルザークを睨み牽制する。
バルザークの方も標的をリンに変えたようで、獣のように唸りながら攻撃の機会を狙っている。
「アンタとコイツの相性は悪いでしょ? だから私が代役を務めてあげるって言ってんじゃない。生憎、私とコイツの相性は良さそうだしね」
「……ふぅ、わかった。ここは君に譲るとしよう」
「感謝いたしますわ。騎士団長様」
会話を終えると、すぐさまリンはバルザークのもとへ赴く。
二回も連続で邪魔されたことに若干のやるせなさを感じながら、マックスは次の相手を探し始める。
その相手はマックスが思ったより早く現れた。
蒼銀の鎧に群青の髪。顔は心労により痩せこけており、頬骨が突っ張っている。右手にはパルチザンを握り、手甲を外した左手には白く輝く指輪が薬指に嵌められている。
彼こそは旋風竜の竜石保持者。東シュラーヴァ代表、ゲオルゲ・バラウレスク。
彼は槍の穂先を地面に掠らせながら、ゆっくりとマックスに近付いていた。
「旋風竜の竜石保持者、ゲオルゲか。相手にとって不足ないな」
「かのマックス・フォン・ラインハルト殿にそう言われては恐悦至極。然れば、我が決闘の申し出、受けて頂きたく」
「承った。その意、その力、存分に使い給え」
「有り難し。なれば、旋風竜から賜った風の竜の力、それを我がものとした妙技、とくと御覧じろ!!」
ゲオルゲの魔力を喰い、竜石がさらに輝きを増す。
すると、ゲオルゲを中心に風が集まりだす。風は突風となり、渦を巻いて強烈な旋風へと変わる。
ゲオルゲを守るかのように取り巻くその風は、まさに竜の巣と形容してもよかろう。
吹き荒ぶ風に金色の髪を揺らしながら、マックスも戦闘態勢を取る。
最強の英雄級“聖騎士”と最速の旋風竜の力を継承した“竜騎士”。その二人の対決が今まさに始まろうとしていた。
「「……征くぞ!!」」
かくして、英雄同士の戦いによって、大統合武闘祭の幕は上がった。
一体誰が栄光を掴むのか。それは勝利の女神にしかわからない。




