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村人Aの異世界叙事詩  作者: ユッケ=ビビンバ
第五章 闘いの詩〜大統合武闘祭編〜
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第78話 帝都キャメロス&モーラ神国

 大統合武闘祭まで残り一週間を切った。

 各々の国の調整は滞りなく進んでいる。どの国も勝利の栄光のため、そして七つの美徳の襲撃に備え、万全以上の態勢を整える。


 それは優勝候補筆頭である聖十二騎士(ゾディアック)とて変わらない。



 ―――――――――



 キャメロス城内部、修練場。そこに木剣を打ち鳴らす音が響く。

 試合を行っているのは、大剣を振るう大男と二刀流の青年。

 二人の打ち合いは拮抗していた。青年はスピードと手数で大男を翻弄する。大男は鈍重ながらもこれを耐え、力任せの攻撃で青年を追い込む。

 数多の剣技の応酬。パワーとスピードのぶつかり合い。実践さながらの真剣勝負がそこでは繰り広げられていた。


 かれこれ三十分は打ち合っているのだろうか。

 それでも、未だ決着の兆しは見えない。


 その様子を閲覧席から覗く三人の影があった。


「ネロ君もだいぶ力をつけてきましたね。あのレオと正面から渡り合うなんて」

「驚異的な成長率だ。流石は勇者候補といったところか」

「彼はまだまだ成長するさ。彼の潜在能力は未知数だからね。いつかは私さえ追い越すかもしれないな」


 カラカラと笑うマックスに、アストとレイシャはそれないだろうといった表情を見せる。

 日和った雰囲気が僅かに流れるも、コォンという音によって掻き消された。

 どうやら、ついに決着がついたようだ。


「ッ〜〜〜! レオさん、もちっと手加減してくださいよ。頭割れるかと思った」

「ガハハハ! すまんすまん。あまりに手こずったもんでな、つい力が入りすぎてしまったわ」


 涙目で額を抑えるネロと笑いながら詫びるレオ。勝敗の結果は言うまでもない。


「とはいえ、ネロよ。お前は多少固有能力(ジ・イージス)頼り過ぎの嫌いがある。確かに、お前の盾は我が鋼鉄の肉体より強固ではあるが、あらゆる方向から防ぐ鎧にはならない。ましてや、そのアビリティは消費魔力も高い。使いどきを考える必要があるな」


 レオは戦ったときの感想・ダメ出しをつらつらと述べる。

 それにネロはなるほどと感心する。

 すると、今度はネロが戦ってみた感想をレオに伝える。


 己の弱点とは、案外自分では見つけにくいもの。

 彼らは試合を重ねることで己の力の研鑽とともに、弱点を教え合おうというのだ。


 大統合武闘祭まであと僅か。

 彼らの肩には帝都の威信と、国民を守り“七つの美徳”を倒すという騎士としての責務がのしかかっている。

 そのためにはより多くの鍛錬に励み、より強くならなければならない。


「お疲れ様。レオ。ネロ。一回休憩を挟むかい?」


 試合を終えた二人に、閲覧席からマックスが声をかける。

 二人の息はすでに上がっており、汗も滝のように滴り落ちている。

 しかし、二人はその質問に笑いながら答える。


「いえ! まだまだいけます!」

「この獅子、未だ疲れを知らず。俺もまだいけるぜ。なんなら、お前さんが相手でも構わないくらいだ」

「本当かい? それは好都合だ!」

「「え?」」


 予想外の返答に目を丸くするレオとネロ。

 彼らを差し置いてキラキラした瞳を宿したまま、マックスは閲覧席から飛び降りる。

 数メートル下の試合場へと鳥のごとく舞い降りると、彼は何事も無かったかのように無垢な笑顔を見せる。


「私も君たちの戦いを見て血が滾っていたところなんだ。誘ったのはそっちなんだから、私の挑戦、受けてくれるね?」

「……レオさん、俺は今だけあなたを恨みますよ」

「……いやぁ、すまなんだ。まさか乗ってくるとは……」


 ニッコリと笑うマックス。

 傍から見れば好青年の美しい笑顔だが、二人の目には悪魔の笑みに見えた。


「アスト! レイシャ! 君たちも降りてきなよ! 皆で戦ったほうが楽しいぞ!」


 振り返り、閲覧席の二人にも参加するよう催促する。

 アストは「そう思うのはお前だけだろ」と悪態をつきながら、マックス同様、試合場へ飛び降りる。

 レイシャもため息を吐きつつ、その後を追う。


 役者が揃ったところで、全員が木剣を手に取る。

 マックスを除く四人はすぐさま自身の団長を取り囲むと、各々剣を構える。


 一対四。圧倒的数的格差。しかし、そうでもしないとこの男には勝てない。

 ―――否、それでも勝つ見込みは限りなくゼロだ。


 ゆっくりと、マックスが構えを取る。

 それに合わせ、四人の身体に緊張が走る。

 マックスは小さく笑みを浮かべ、はじまりの合図を口ずさんだ。


「さあ。試合開始だ」


 直後、木剣が頭を捕らえる音が、四連続で試合場に響いた。



 ―――――――――



 所変わって、モーラ神国。いくつかあるうちの大聖堂の一つ。十字聖教の総本山であり、モーラの官邸としての機能を持つその場所に、彼の姿はあった。


 モーラ神国首相、十字聖教教皇、そして“七つの美徳”幹部“信仰の徳(フェイス)”の顔を持つ男―――ジューダス。


 彼は今この時だけそれらの身分を捨て去り、一人の十字聖教徒として、聖教のシンボルである十字架に祈りを捧げる。


「熱心ですネェ。いつ如何なる時モ、神への感謝と祈りを忘れなイ……流石は信仰フェイスの名を戴いた御方でス」


 突然背後から飛び込んだ声に、ジューダスはゆっくりと立ち上がり振り返る。


節制(テンパランス)か。謹慎は解けたようだな」

「エエ、おかげ様デ。ソレよりモ、大統合武闘祭の準備の方は順調でしょうカ?」


 挨拶も早々に、節制は本題を突きつける。

 それに対してジューダスは「失敗続きのお前とは違う」と言わんばかりの皮肉めいた薄笑いを浮かべる。


「当然。既に選手の登録は済ませておいた。節制、今回は君にも出張ってもらおう」

「ハイ、勿論でス。なにセ、此度の武闘祭は我らにとっても記念すべきもノ。そのような特別な場への招待を断ろうはずもありませン」


 節制の静かな笑いが大聖堂内に反響する。

 その笑い声はこの先の混沌を祝福するものなのか。


 彼らが目論む“最重要作戦”。その決行の日は大統合武闘祭当日。

 各国が彼らのために入念な対策をしていようと、それは些細な問題だ。

 変更はない。するつもりもない。

 狂った正義は留まるところを知らない。


「ところで、彼の調子はどうだ?」

「カレ? ……あア、新型のホムンクルスのことですカ。今は知恵(ウィズダム)さんが最終調整を行っていまス。武闘祭には間に合わせると仰っていましたヨ」

「そうか。では当日を楽しみにするとしよう」


 その後、いくつかの連絡と情報の共有を終えると、節制は軽く会釈してから踵を返し足音もなく来た道を戻る。

 その後ろ姿が聖堂の物陰に消えると、ジューダスは再び祈り始める。


「―――我が御主よ。主の分け身たる善なる神よ。我らが正義を祝福し給え。悪を滅する我らが行いを称賛し給え。全ては正義に満ちた世界のため―――!」

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