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村人Aの異世界叙事詩  作者: ユッケ=ビビンバ
第三章 災いの詩〜双竜覚醒編〜
57/120

第57話 落とし穴大作戦

タイトルが適当な気がしますが、気にせずどうぞ

「ハァッ!!」


 一人の騎士が目の前の巨大な岩の柱に向かって剣を振るう。冴えた一閃は頑丈な柱に深い傷を作る。

 しかし、その刻まれた傷は瞬く間に周りの岩に包まれ、元の傷一つない状態に戻ってしまった。

 これに桜色の髪を風になびかせる騎士の青年、アスト・ヴィルギンは苦い表情をした。


(破壊しても再生する鋼鉄の外骨格か……。これを打ち破らない事にはどうしようもないな)


 彼が上を見上げると、そこには悠然と揺れ動く巨大な尾があった。

 彼、アストがいる場所は巨巌竜の右後ろ脚。彼が切り付けていたのは巨竜の脚であった。

 全長三百メートルほどの竜は自身の周りを蠢く人間たちを気にも留めない様子で、帝都キャメロスへ歩みを進ませている。

 人間たちはそれを阻止すべく奮闘しているのだが、この体格差ではまともな攻撃は通用しなかった。

 遠く前方では、砲撃部隊が巨大な砲門に相応の巨大な弾を装填しては、巨巌竜に撃ち続けている。魔法を使える者はありとあらゆる魔術・魔導を用いて、巨巌竜の体に攻撃を仕掛けている。

 だが、そのどれもが巨巌竜の厚い外骨格に阻まれている。

 果敢にも脚を登っていった冒険者が居たが、それも途中で体力が尽き、竜に一太刀も浴びせずに墜落した者もいた。

 現状、巨巌竜を倒すことは不可能に思われた。


「やはり、竜を倒すなど……」

「あら。聖十二騎士とは思えない発言ですね、兄さん」


 ふと、彼の肩越しに声が飛び込んでくる。

 聞き慣れた声に若干の苛立ちを持って、アストは振り返る。

 彼の視線の先には、彼と似た顔を持った女性――彼の妹であるライアが剣を携えて立っていた。


「ライア、お前まだ避難していなかったのか」

「ええ。これでも、私は西方部隊隊長であるケイロンさんの補佐を努めているので。それに、同期ジャンも『ケイロンさんだけ残して傍観する訳にはいかない!』と言って戦っていますし、ここで逃げる訳にはいかないと思って」


 ライアはつかつかと巨巌竜の脚に歩み寄り、剣が届く距離まで近付くと、剣を振り上げ、叩き付けるように脚にぶつける。

 だが、当然剣は巨巌竜の外皮に阻まれ、傷一つつけられない。


「……硬いですね」

「当たり前だろ。そうじゃなかったら、ここまで苦労しないっての。お前はその同期とやらと一緒に下がってろ」

「いいえ。断ります」


 再びライアが剣を振るう。今度は先程と違い、実に冴えた、そしてアストの斬撃によく似た太刀筋であった。

 ライアの剣は巨巌竜の外皮を断ち、アストが作った傷より僅かばかり浅い切り傷を付ける。

 これにアストは驚嘆し、ライアは鉄面皮を薄い笑みで歪ませる。


「私も、ジャンも、普段からケイロンさんに鍛えられています。足を引っ張るだけの失敗はしません。それに……」


 ライアは自身の兄の顔をじっと見つめ、そして自信のこもった顔で言い渡す。


「私は、私の憧れである貴方を超えたいと思っています」


 その言葉に、アストは溜息で返す。


「……上司として、兄として、カッコつけろと言いたいのか」

「まあ、端的に言えば」

「分かり辛いよ。ったく、ならこれだけは聞いてくれ。副団長命令だ、危険と判断したなら即撤退せよ」

「……ハッ!」


 兄の命令に妹は敬礼で返す。それに兄は少し安心したような、落ち着いた笑みを零す。

 その時、二人の脳内に念話が飛び込んできた。


『地上にいる全戦士に通達する! これより巨巌竜を進行方向より一時の方向に誘導せよ! 繰り返す! 巨巌竜を一時の方向に誘導せよ!』


 声の質から、念話の主は騎士団長マックスだと判断できる。

 この命令に兄妹は言葉は交わさず、ただ一度頷き、行動を起こす。

 為すは人間の勝利のために。



 ――――――――――



「体力、魔力はともに温存せよ。砲撃部隊は一時砲撃を中断。これから言う地点へと速やかに移動せよ」


 空中を浮遊するマックスが通信用魔道具に矢継ぎ早に命令をしていく。

 それに応じて地上の兵は速やかに行動を開始し始めていた。多くの兵が巨巌竜の左側へ回り、どうにか方向を変えようと攻撃や魔法を仕掛けている。

 それを確認すると、マックスは巨巌竜の前に躍り出る。自らが囮となり、巨巌竜を()()()()に誘導するためだ。

 巨巌竜はその意にまんまとかかり、目の前の人間を屠らんと追いかけ始めた。


(しめた。これで後はヒイロ君が指定した場所に誘導するだけだ)


 〜〜〜〜〜


 時は少し遡る。

 巨巌竜の遥か上空では、マックス、ユーリ、ライディン、そしてヒロが対巨巌竜の作戦を練っていた。


「「「落とし穴に落とす?」」」


 ヒロを除いた三人が声を合わせて疑問を作戦の発案者にぶつける。

 その疑問にヒロは自信有りげな顔を縦に振って応える。


「ライディン、巨巌竜は脚より胴の方が“鎧”は薄いんだよな?」

「あ、ああ。確かにそうだとも。とはいえ、それでも砲弾を防ぐまでには堅牢だがな」

「それだけ聞ければ十分だ。それに、あんな距離から撃っても巨巌竜には大したダメージにはならないしな」


 ヒロは遠目に今なお砲撃を続けている黒い線を眺める。


 魔法が存在するこの世界――平和となったユニオス連合帝国において、大砲は無用の長物となっている。

 火薬より効率の良い火の魔法がある上に、個人の強さが軍の強さとなっているからだ。そして何より使う機会が少ない。

 その中で、大砲は“こちらの世界”より発展が遅れている。

 とはいえ、大質量の砲弾が飛んでくるとなれば、一般的な兵は蹴散らせ、もしもの際には有効な手段となり得る。その為、未だ置いてあるのだ。

 しかし、普段から使っていないとなると使い方は忘れられ、発展していないために威力や射程は現代のものと比べ遥かに劣る。

 それが災いし、巨巌竜にはまともに効いていないのだ。


「今まで見ていて分かったけど、砲撃より近距離の攻撃の方がまだ通じる。実際、マックスさんとリンが付けた胸の傷やライディンが“雷霆”で砕いた部分はまだ塞がらずに残っている」


 見ると、彼の言う通り、巨巌竜の胸には二本の巨大な傷が刻まれていた。

 既に血は止まっており、大分塞がれてきてはいるが、それでも完治していない。


「思うに、再生可能なのは外骨格の傷まで。それ以上の大きなダメージは確実に効いているはずだ」

「そうだとしても、まず攻撃を当てなければ意味がないよ。胴の守りが薄いとしても、あの高さだ。普通の人間なら攻撃が届くはずがない」

「心配すんな、ユーリ。そこでさっき言った“落とし穴”だ」


 ヒロが手の平を上に向ける。するとその上に巨大な空間を模した映像が浮かび上がった。


「これは僕の能力アビリティ“地理理解”を表示させたものです。今、写しているのは、ここから大体東南東へ二キロの地点の地下にある“地底湖”です。この地底湖はそこは比較的浅いですが、巨巌竜が丸ごとすっぽり入るほど広い空間になっています。ここにヤツを落とせば……」

「帝都への進行を阻止し、胴への攻撃も可能となる」

「その通りです。加え、穴に嵌って巨巌竜の方は攻撃できない。まさに知恵を得た原始人によるマンモスの狩りですよ。名付けて“落とし穴大作戦”!」


 〜〜〜〜〜


「……彼の言っていた“マンモス”とやらの言葉の意味は不明だが、確かにこの作戦には勝機がある。私にここまで言わせたのだ、違いない」


 現在、巨巌竜は北方に広がる山脈に沿って、東へ行進している。

 それの進行方向を変えるのは容易ではなかろう。

 しかし、マックスには確かな自信があった。


「節制は巨巌竜に『()()()()()()()()()()()帝都を目指せ』と命令した。つまり、帝都侵攻と並行して()()()()()も遂行せよ、ということ。それならば、私が常にヤツの視界に入っていれば良いだけのことだ」


 巨巌竜の双眼はしかとマックスに焦点を合わせている。

 その瞳には感情や理性というものはなく、ただ目の前の羽虫を叩き潰さんとする執念しかない。

 今、その巨大な頭が少し動いた。


「……二度の噛みつき」


 巨巌竜が突如その口を大きく開く。先端が天まで届いたという伝説の巨狼(フェンリル)の如きその顎は今まさにマックスを飲み込もうとしていた。

 しかし、彼はそれを見越していたかのように振る舞い、後ろに大きく退く。

 目の前の空間が閉じられる。マックスの僅か三センチ手前で巨巌竜の口が閉じられたのだ。

 安心するのも束の間、巨巌竜が再び噛み付く。

 だが、これをマックスはひらりと躱す。


「角での薙ぎ」


 噛み付きが躱されたことを知ると、巨巌竜はその巨大な鼻の角を横一文字に振るう。

 マックスは急上昇してこれを避ける。


「礫による迎撃」


 またもや躱されたことをその理性なき瞳で確認すると、今度は直径一メートルほどの礫を宙に浮かせ、それらを頭上のマックス目掛け撃ち放つ。

 しかし、無駄。無数の砲撃を比類なき剣技をもって切り伏せる。


 巨巌竜が仕掛け、マックスが軽くあしらうという光景が幾度か続く。

 その最中、巨巌竜はまんまとヒロの策に嵌まり、身体の向きを僅かに帝都から南に逸していく。

 その先に落とし穴があるとも知らずに……。



 ――――――――――



 空中でマックスが巨巌竜を誘導している一方、地上では多くの兵が微力ながらもその手助けをしていた。


「ゥオラァッ!!」


 牛頭の騎士、ブルーノがその両拳を地面に叩きつける。

 すると、彼の前の土が盛り上がり、瞬く間に巨巌竜の胸の辺りまで届く岩石の壁が形成される。それは微妙にカーブがかかり、地底湖の方に誘導していた。

 しかし、強大な巨巌竜にとって土塊の塀(こんなもの)など何ら大した障害にはなり得ない。

 文字通り一蹴しようとした、その時―――


「“天王の盾(ジ・イージス)”!!」


 壁に無数の六角形のシールドが張られていく。

 シールドで補強された壁は巨巌竜の蹴りなどものともせず、逆に弾き返した。


「ナイスだぜ、ネロ!」

「へへっ。あとはお願いしますよ、先輩方!」


 ネロは岩壁の上の方に声をかける。そこには三人の騎士の姿があった。


「頼られたとあれば、応えぬ訳にはいかないな。なあ、ケイロン先輩・・

「茶化さないでください、シーザー先輩。あなたそういうキャラじゃないでしょ」

「まあな。それはそれとして、キッドさん、ヤツの弱点は見つけたのか?」

「テメエらがくっちゃべってる間にとっくに終わってるよ。あいつの弱点は……あそこだ」


 ディカプラが銃を構え、引き金を引く。撃ち出された弾丸は真っ直ぐと飛び、巨巌竜の脇腹にあたる外殻を穿つ。

 小さく開けられたこの穴こそ、鉄壁強固である外殻の中でも最も脆い部分なのである。


「あの一点を突けば、まず間違いなくダメージが通るだろうよ。少しでも外しゃ、その殻で弾かれるだろうがな」

「失敗は許されない、という訳か。中々の難題だな」

「だからこそ“燃える”というやつでしょう? 抑えていますけど、声が浮ついていますよ」

「……ふん」


 ケイロンとシーザーは各々の武器を構える。ケイロンは重々しい突撃槍(ランス)を、シーザーは持ち手が輪になった巨大な紅い双刀を手に持つ。

 彼らの瞳はただ一点、先程付けられた銃痕を捉えている。

 二人を取り巻く魔素マナがうねり、渦巻き、彼らの武器に収束していく。それは特大の攻撃が放たれるということを暗に意味していた。


「スキル“チャージスラスト”!!」

「スキル“十文字飛翔斬”!!」


 二人の強烈な攻撃は空を飛び、重なり、巨巌竜の弱点へと一閃翔けていく。

 彼らの技術は実に精密であり、針の穴に糸を通すが如く、攻撃はディカプラが付けた傷に撃ち込まれた。

 轟音が響く。この世界の大砲をも凌ぐやもしれないそれは、見事難攻不落の鎧を打ち破ってみせた。

 砕かれた岩の鎧は音を立て地表に落ちていき、そこから覗く肉は痛々しいまでに抉られていた。

 これには巨巌竜も痛みに思わず足を壁から反対方向へと向けた。


 だが、痛みによる逃亡より闘争本能が勝ったのか、巨巌竜は顔を壁の方に向け、その上にいた三人を怒気の籠もった眼で睨みつける。

 巨巌竜が反撃をしようとしたその時―――咆哮が轟く。


「ウオオオオオオオオオオッッッ!!!」


 突如響いたその雄叫びに、巨巌竜はそちらへ顔を向ける。

 瞬間、無数の“紐”が巨巌竜の長い首に纏わり、束なり、巨大な注連縄しめなわのような首紐として竜を捕らえた。

 首輪に繋がれたリードは地表へと続き、その先には三人の騎士と一人の武道家がいた。


「よし。よくやった、レイシャ」

「しかしアスト副隊長、いくら切れぬ絆(アルレシャ)が千切れることがないとはいえ、いつまで抑えておけるか私にも判りませんよ」

「大丈夫だ。この首輪は抑えるためものではないからな。あとは頼んだ、レオ、リン」

「ウム、任せおけぃ!」

「竜と力比べなんて、腕が鳴るわね……!」


 リンとレナードはリードを体に巻き脇に抱え込むと、一心にその綱を引き始めた。

 巨巌竜に繋がれた首輪の意味は、アストの言ったように行動を抑えるためではなく、犬の散歩のように行動を()()するためだ。

 引かれた綱はピンと張る。が、そのまま拮抗した状態となる。

 それもそうだろう。いくら二人が怪力だとしても、人間と巨巌竜ではその力の差は圧倒的だ。巨巌竜が少しでも抵抗し、首を大きく動かせば、彼らなど何もできずに空中へ放り出されるだろう。

 そして今、巨巌竜がその頭を大きく動かそうとした。


 ―――ドガァァアン!!


 再び砲撃のような音が鳴り響く。再度、ケイロンとシーザーが攻撃を放ったのだ。

 穿たれた傷は更に深く抉られる。

 二度も攻撃されたとなれば、巨巌竜も本能に従うしかない。竜は首を引っ張られるまま、まっすぐと歩いていく。



 ――――――――――



 巨巌竜の誘導は驚くほど滞りなく行われた。お陰で被害は考えうる限り最小にとどまっている。

 暫く代わり映えのない光景であったが、マックスが後ろを振り向いた時を境にそれは瓦解する。


「……この程度でいいだろう」


 彼が見つめる先に金色に輝く物体が浮遊していた。それに巨巌竜も気が付いたようだ。

 この距離において、その金色の形はよく分かる。人間のような四肢が生え、背には蝙蝠の翼、全身に黄金の鱗を纏い、甲殻で覆われた眉間に一本の角を伸ばし、数多の牙を有した口を軽く開いている。

 それは雷を操る裁きの竜、天帝竜ライディンであった。

 彼女は巨巌竜が自身に気付いていると知るや否や、不敵な笑みを浮かべ、『かかってこい』と言わんばかりに人差し指を曲げて挑発する。

 これに巨巌竜は憤怒を孕んだ咆哮で応える。


「総員、速やかに離脱せよ!!」


 マックスが通信用の魔道具にそう叫ぶ。すると地上の兵士達は蜘蛛の子を散らすが如く巨巌竜から離れていく。

 彼らが完全に避難するのが早いか、巨巌竜は今まで見せたことのない速度でライディンへ走り出す。

 鼻の角をまっすぐとライディンに突き付け、地を揺るがしながら駆け抜ける。その様はまるで巨犀の突進だ。

 双方の距離は見る間に縮んでいく。

 そして、巨巌竜の一角がライディンに突き刺さろうとした。


「……キシャアッ!!」


 ライディンが短く活を入れると、迫り来る巨大な角を脇に抱え込んだ。角に爪を食い込ませ、翼を大きく速く羽ばたかせ巨巌竜の突進に必死の抵抗をする。

 両者の力は天帝竜が僅かに上か。山々を砕かんばかりであった突進の勢いも次第に減衰していく。そして遂には、二頭の竜は完全に静止した。

 その光景は移りゆく時の流れから切り取られたかの様に静かであったが、空気だけは世界が揺れているように荒ぶっていた。




 ―――ピシリ、と音がした。

 それは針が落ちるような小さな音だったが、地平の果てまで聞こえるような確かな音だった。

 見れば、巨巌竜の足元の大地には漆黒のインクで線を引いたような深い亀裂が入っている。


「……ゥゥウオオオオオオオオオッッッ!!!」


 今、天帝竜が雄叫びを上げ、角を掴む腕に力を込める。

 すると、巨巌竜の体は徐々に浮き上がり、遂には完全に持ち上げられてしまった。


「ラアアアアアアアアッッッ!!!」


 槌を振り下ろすように、持ち上げた巨巌竜を地に叩きつける。

 その衝撃は凄まじく、立派だった巨巌竜の角は根本からへし折られ、地は陥没し大きな穴が口を開ける。

 そう、ここが巨巌竜を落とすための穴、目指していた“地底湖”の直上であったのだ。


「や……やった!」


 誰かがそう言った。

 巨巌竜は落とし穴から胸から上だけ出し、先程の衝撃により昏倒していた。

 頭を無様に地に付けぐったりとしている巨巌竜を眼下に、天帝竜は口に魔力を溜めていく。

 十二分に溜まった魔力は雷電に変換され、そして今、“雷霆”として巨巌竜に落とされる。

 雷音が轟き空気を揺らし、熱せられた風が爆風のように駆け抜け、雷光は目が焼け爛れるかと思うほどの輝きを放つ。

 溜めに溜めた雷霆は山のように隆起した巨巌竜の背中を穿ち、音を立てながら砕いていく。

 気付きつけ代わりのそれに巨巌竜は堪らず目を覚ます。


「……目は覚めたか? 巨巌竜グラン・ガイアス」


 ライディンの問に巨巌竜は理性なき咆哮で返す。

 この猛々しき返答にライディンは憂いを帯びた瞳を一瞬だけ見せるが、すぐに冷徹な瞳に戻る。


「…………そうか、結構。ならば我は裁きの竜として、そして貴様の同胞として、我らが全力を持って愚かなる竜を打ち砕こうッ!!」



 気が付けば、既に巨巌竜の周囲には多くの兵士が包囲していた。彼らは各々の武器を手に取り、勇猛なる眼差しで巨巌竜を睨む。

 前方には、砲門の穴さえ見えるほど近くに大砲が列をなして並んでいる。

 巨巌竜を倒す絶好の機会であるのは言うまでもない。


 緊張が場を包む中、天帝竜が地上に降り立つ。

 降り立った先には英雄級が二人、マックスとリンが歓迎するかのように立っていた。


「上手くいったようだね、ヒイロ君」

「まったく。巨巌竜を落とし穴にかけるなんて作戦を彼から聞いたときには驚いたわ。こんなことを考えつくなんて、異世界人はホントにモノの考え方がおかしいわ」

「うっさいな。結果上手くいったんだからいいだろ」


 黒髪の少年がそう言いながら天帝竜の背中から降り、その後に続いて同じく黒髪の少女も背中から降りる。


「あら、アンタもいたのユーリ」

「うん、ちょっとね。それよりも……」


 ユーリが顔を巨巌竜の方に向ける。それにつられ、三人と一頭もそちらに視線を向けた。

 巨巌竜は穴に嵌まりながらも、首を伸ばし、彼らを食い殺さんともがいていた。

 口からは怨嗟を伴った唸り声が漏れ、その瞳からは未だ狂気の焔が消え去ることなく灯されていた。


「……マックスさん」

「ああ。言われずとも」


 マックスは懐から再度通信機を取り出し、息を一つ吸ってからそこに命令を下す。


「総員、心して聞け。今が好機だ。ここに命令を下す。己の全力をもって、帝国に仇なす悪竜を討ち取れッ!!」


 歓声とも絶叫とも取れるような大きな雄叫びが沸き立つ。それに負けず劣らずの砲撃音が遅れて轟く。

 今の彼らを例えるなら、まさに水を得た魚。

 頑強な巨巌竜の外殻を砕き、その下にある肉へ一撃必殺の攻撃を見舞う。外殻の再生も間に合わず、反撃することもままならない巨巌竜は苦悶の悲鳴を上げることしかできなかった。


 この波に英雄級の二人も続く。

 マックスは光背(ハロ)を出現させ、その眩いばかりの光を目の前に掲げた己の剣に纏わせる。一方、リンは両の手を野獣の牙のように構え、それを後ろに下げ“気”を溜めるかのような姿勢を取る。

 二人を中心に空気が渦巻き出す。剣は何物をも灼き切らんばかりに光り輝き、両手は気を纏い本当に一つの生物のような迫力を見せる。

 永遠のような数秒をおいて、二人の全力が放たれる。


「スキル“正義なき剣フォース・オブ・ジャッジメント”ッ!!」

「秘技の伍“喰龍(タラゴン)”ッ!!」


 大地を二分するかのような斬撃と龍の形を取った打撃が空を翔ける。

 双方は打ち消し合うことなく、それどころか互いに強め合い、巨巌竜の胸を撃つ。

 先の雷霆に負けるとも劣らないそれは巨巌竜の胸を穿ち、砕き、灼き、破壊し、胸全体に及ぶ巨大な傷跡を作った。

 巨巌竜は叫び声を上げる。地鳴りのようなそれは無敵に思えた彼が弱っていることを確かに示していた。


「「英雄級を舐めるなよ」」




 戦う者たちの心には、知らず知らず勝利の余裕が満たしつつあった。それは聖十二騎士であろうと英雄級であろうと例外ではない。

 だがしかし、それは愚かなる人間の傲慢さが招いた“油断”であった。



 戦闘の激しさを表すかのように、膨大な量の砂煙が空間を包み始める。それは当然のことだと思っているのか、はたまた気にも留めないほど目の前の敵に集中しているのか、誰もがその事実に関心を寄せていない。

 騎士達は気付いていない。その砂煙が巨巌竜を中心に渦巻いていることを。

 兵士達は気付いていない。巨巌竜の瞳に未だ狂気と闘志が宿っていることを。

 戦士達は気付いていない。己の身が徐々に蝕まれていることを。


 決着は、未だつかず。

ものを書くときに一番悩むのが“名前”なんですよね。

特に必殺技の名前とか、センスが良くて、かつ奇抜ではないもの考えるのは難しいんですよ。

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