第56話 竜と天使
ここは戦場の遥か後方。簡易的なテントが大きめの馬車の荷台に張られた、言わば救急車の前身の様なものが複数台並べられている。
そこへ負傷した、齢三十程の傭兵風の男性が担ぎ込まれる。男は頭から血を流し、片腕は通常ではありえない方向へねじ曲がっていた。
これに老齢の看護師は見るに忍びないといった表情を一瞬だけ浮かべ、すぐにその男の元へ駆け寄る。
「酷い傷だ。待っていなさい、すぐに治療を開始しよう」
「いや、俺よりも先に、重傷の人間を治療してやってくれ。これでも幾ばくかの死線を潜り抜けてきた身。この程度、我慢できる範疇だ」
「救急馬車はまだたくさんある。あと三十人は担ぎ込まれても問題はあるまい。問題なのは、今私の目の前にいる悲観的で頑固な男をどうやって治療させるかだ。さあさ、早くこのベッドに横になり給え。強がっていても、痛いものは痛いだろう」
「……感謝する」
男は看護師のいう事を素直に聞き、備え付けの少しくすんだ白いベッドに横たわる。
看護師はすぐに治癒魔導を男にかけ始める。額の切り傷や腕の骨折はすぐさま治らないにしろ、男の顔に血の気が多少だが戻ってきた。
体のケアの次は心のケアだ。看護師は治癒魔導をかけながら、老人らしく、世間話でもするように男に話しかける。
「お前さん、前線で戦っていたのかね? 戦況はどうなっておる?」
「悪いが、俺はそこまで腕は立たねえよ。他と混じって雑魚の相手をしていた。戦況は……そうだな、何とも言えねえな」
「それはどういう意味かね?」
「そのままの意味さ。神のみぞ知る、ってな感じか。今、戦場では巨巌竜と聖十二騎士が正面衝突を起こしている」
「な、なんと……!」
老人が驚嘆する。
その事自体は誰もが予見し、そして覚悟していた事態だ。しかし、いざ目の前に突きつけられると驚かざるを得ない。
何故ならそれは、この戦いにおいて最悪の自体を意味するからだ。
男は看護師が問い質すよりも早く、独白のように話し始めた。
「巨巌竜が急に暴れ始めたんだ。こっちに運ばれながら聞いた話じゃ、例の鞭奪還が失敗したらしい。そんでキレた竜が地面をひっくり返しやがった」
「先程の轟音はそれか」
「ああ、だと思うぜ。そんで俺はこの程度で済んだんだが、大体三千人くらいか、そんぐらいの人間が今も土ん中にいる。俺が土の中から助けを借りながら出たときには、丁度に竜と聖十二騎士が戦い始めた時だったな。地面をひっくり返した竜も大概だが、たった十数人でそれと張り合っているアイツラも相当だな。俺は肩を借りながら歩いている最中、度々その戦いを見てたんだが、流石に最強の騎士と言われるだけある。特にあの団長さんは凄え。俺は清教徒じゃねえんだが、あれはまるで、天使が戦っているようだった……」
感傷に浸るような口調でそこまで話し終えると、男は頭だけ動かし幌の入り口から外を見やる。
その角度では当然、戦場は見えない。だが、彼にはその光景がはっきり見えているかのように、青い空と灰色の雲を見つめる。
その顔は一流の絵画を観た後のような、感動を孕んだ笑顔だった。
――――――――――
神々しい光の翼が羽ばたく。羽ばたきに合わせ、持ち主の体が宙に浮く。
光の翼を広げ、頭の後ろを中心に羽の付け根までの半径を持つリング状の後光を放つ。その姿は、剣を持ち服を血に濡らしている点に目を瞑れば、誰が見ても天使を想起するだろう。
光背と呼ばれるそれを展開させるのは、最強の一角であり騎士団長でもあるマックスであった。
彼は現実では有り得ないことに、重力に逆らい空中で静止している。
今、大空を制する鷲のように翼を大きく動かし、ほうき星の“尾”の如き光の残像を残しながら空を翔ける。
彼の向かう先はただ一つ。倒すべき強敵、巨巌竜の元だ。
両者の距離は見る間に縮まっていく。
巨巌竜の表皮が巨大な断崖と見間違うほどまで近づいた時、マックスは鍔に純白の意匠を施した刃渡り百センチの長剣を構え、その断崖に刃を力一杯振るう。硬い物質同士が打ち合わされる音が一度、重なるように振られた剣閃が八本、刹那の中に確認できる。
一般的なハンターが『必殺の一撃!』と自信満々で言うだろう、技能にも等しい威力と技術の攻撃が竜の長い首に放たれたのだ。
だというのに、剣は鉄板の様な表皮を裂き、そこにつながっていた毛細血管を破るまでしか至らなかった。巨巌竜にしてみれば、首元を紙で切ったときの不快感しか与えなかったことだろう。
それを確認してもなおマックスは諦めず剣を振り回す。
光背による機動力を活かし、高速の斬撃を頭から尾の先まで存分に見舞う。
これには巨巌竜も、致命傷ではないにせよ、堪ったものではなかった。全身を切れ味の悪い剃刀で少しずつ切られていくようなものだ。新手の拷問、もとい嫌がらせと言ってもよいかもしれない。
これに怒った竜は体を大きく動かし、自身の周りを飛び回る人間を撃墜させようとしてきた。だが、我々が体を揺さぶっても、真夏の蚊を叩き落とせないのと同様に、マックスには通じなかった。
しかし、巨体で暴れるとなれば、その被害は相応のものとなる。地震のように大地が揺れ、地団太を踏むたび足元の何もかもが破壊される。
大多数の騎士が自身との圧倒的な力量差を理解し避難しており、被害は地形の変化のみに収まっている。とはいえ、このまま看過することはできない。
既に巨巌竜に一キロメートル弱の行進を許してしまっている。これ以上好きにさせては、更に甚大な被害が起こることは目に見えている。
マックスは一度距離を取り、地上に舞い降りる。
「硬いな……。それにタフだ。対して、我々には決定打が足りんか……」
遠く巨巌竜を眺める。巨巌竜は他の戦士からの攻撃や砲撃を受けている。
そのどれもが強力無比であるのだろうが、巨巌竜を押し止めるまでには至っていない。
「やはり、キーマンとなるのは彼か」
マックスは少しだけ目を上に向かせ、巨巌竜の上空に視線を移す。
そこには陽光で黄金の鱗を輝かせながら、縦横無尽に空を飛び回る天帝竜の姿がある。天帝竜は時に雷撃を放ち、時に体当たりを繰り返しながら巨巌竜に攻撃を浴びせ続けている。
その竜の背中には小さな人影があった。
竜と少年は困り果てていた。
幾ら何でも硬すぎる。巨巌竜の鋼のように堅牢無比な外殻を破壊できたとしても、その下の膨大な肉を削ることまではままならない。
雷撃を浴びせようにも、その巨躯の前には静電気ほどの痛みしか与えられない。
「雷霆ッ!!」
膨大な魔力を溜め雷として放つ、天帝竜を最強と言わしめる絶技を惜しみなく行使しても、それで漸く有効打となる始末だ。
実際、既に何発も“雷霆”を放っているのだが、巨巌竜は一向にその歩みを止めようとはしない。
本当に山一つを相手に奮戦しているような感覚に陥る。
「これだけやってほぼ無傷か……。噂以上に頑丈だな」
巨巌竜の攻撃も届かぬほどの上空でヒロがそう零した。
「頑丈なだけではない。主よ、あれを見よ」
そう言ってライディンが指差した先には、先程なんとか砕いた巨巌竜の外殻があった。
それを見てヒロは驚愕する。破壊したはずの外殻が再生しているのだ。外殻は、それ自体が一つの生物であるかのように、奇妙に動き、盛り上がり、傷を覆っていく。
そして暫くした後に、外殻は何事も無かったように塞がってしまった。
「うっそだろ……。あんなんアリかよ」
「奴の外殻は土や岩石で構成されている。それ即ち、構成している物質が有れば再生が可能という事。奴の足が地についている限り、奴の外殻は完全に破壊することはできん。そこがあの爺の厄介なところだ」
「クソッ……! ならライディン、奴の再生が間に合わないくらいに“雷霆”をブチかませ!」
「出来るのならやっておるわ阿呆が。我ら竜とて、魔力には限界がある。“雷霆”は絶大な威力を誇る代わりに膨大な魔力を消費する。日に撃てるのは五度までと思え。既に三発も撃ったからな、他の案を考えるしかない。対し奴の“鎧”は常に発動している為に、魔力の消費は小さい。それもそうだ。奴はあの鎧で自身の体重を支えておる。鎧が無ければ、彼奴は自身の体重で押し潰れていることだろう」
流石は長命にして個体数の極端に少ない竜同士と言ったところだろう。互いに手の内は知り尽くしている。
頑強にして無限の鎧。力は要らず、無敵の盾こそ戦いにおいて有利となる。
しかし、その巨巌竜にも弱点はある。
ライディンが先程にも述べたように、巨巌竜はその巨体に見合う体重を維持するのに、極太の骨や夥しいほどの筋肉だけではなく、節足動物のような外骨格にも頼っている。
逆にその外骨格を取り払う、もしくは巨巌竜が鎧を維持できなくなれば勝機はあるということだ。
そのことにヒロも気が付いたようだ。
「……ライディン。さっき“竜にも魔力の限界がある”って言ってたよな?」
「ああ、然り」
「なら巨巌竜を魔力切れにさせれば、自重で自滅できるんじゃないか? そうでなくとも、あの厄介な鎧を剥ぐことができるはずだ。違うか?」
「然り、然り。しかして主よ、どうやって魔力切れを起こす? 奴も莫迦ではない。怒りに狂うていても、自ら身を滅ぼすヘマはせん老翁よ。加え、彼奴は身を震わすだけで十二分な脅威となる。さあ、どうする?」
ヒロは頭を抱えた。見つけた光明は現実の問題によって覆われていく。
眼下に広がる光景を見下ろす。そこには、この高さにおいても巨大と思わざる得ない巨巌竜とそこに群がる豆のような人間達、そして光の翼と尾を持ち飛び回るマックスの姿だ。
戦況は思わしくない。同じ竜でさえその外殻に傷を作るのは難しい。人間であるのならば尚更だ。
その様子を見ながら、ヒロはある事に疑問を抱いた。
(足元より体の方が攻撃が通りやすいのか……?)
事実、マックスの負わせた胴体の傷と足元で懸命に付けた傷ではその深さが違っていた。
両者の技量の差もあるのだろうが、それを差し引いてもこの差は異常だ。
そこで、ヒロはある仮定を思い付いた。胴と足では外殻の厚さが違うのではないのか、と。
巨巌竜はその太い四本の脚で巨躯を支えている。太いとは言え、莫大な体重を支えるには骨と肉だけでは流石に足りないだろう。
しかし、脚の殆どがその外殻で構成されているのならば、これにも納得がいく。
この仮定が真実だとすると、なんとか胴体に攻撃を当てさえすれば戦局も変わるのではないのか?
そう考えたヒロは思考を巡らせる。自身に何かできることはないか、必死に考える。
(一つの足に集中攻撃をかけてバランスを崩させるか? いや、それは城塞戦の時にもうやった。足一つ潰すのにも相当の時間がかかる。なら全員をライディンに乗せて、上から奇襲を……ダメだ。振り落とされたらまともに済むはずがない。だけどこれ以外にもう手が―――)
“あなたの……土地を識る能力を使いなさい”
突如、聞き慣れない女性の声でそう言われた気がした。
天の啓示や幻聴と言うにははっきりと聞こえすぎたうえに、信心深くないヒロには、何者かが語りかけてきたものとばかりにしか思わせなかった。
周りを見回してみるが、声の届く範囲内に自身とライディン以外の人影は見当たらない。
不気味としか感じられなかったが、その進言に従うより他ならなかった。
ヒロは土地を識る能力―――“地理理解”を発動させ、範囲を自身が感じ取れる限界まで広げる。
ヒロの脳裏には周囲三キロ近くの地図が広げられる。平原が広がり、北方には山脈とその麓には森。それ以外には何も無い。
諦めかけたその時、導かれるように能力の範囲を地下にまで広げる。それによって、ヒロは新たな光明を見出した。
「ライディン! 今すぐ地上に降りてくれ! マックスさんに伝えたいことがある!」
叫ぶようにライディンに降下を命じる。
沈黙していた少年が不意に大声を出したことに、ライディンは一瞬喫驚するが、すぐにいつもの調子を取り戻し主命に応じる。
「何か考えついたようだな。相分かった。少し飛ばすぞ」
「頼む」
主の短い頼みを聞き入れると、すぐさまライディンは地上に向けてその頭を向ける。
向かう先は光の羽を広げるマックスの元だ。
戦場ではマックスを除いた聖十二騎士を中心に、義勇軍の如く蛮勇を奮った騎士やハンターが百人弱、巨巌竜との戦闘に身を投じていた。
当初の数と比べ随分とその数を減らしたが、百に満たない戦士達はその事を感じさせない働きをしている。流石は蛮勇を奮えるだけの者達だ。
勇気の勇者候補、ユーリもその内の一人だ。
彼女の強さは中堅と言った程か。決して弱くはないが、英雄級や聖十二騎士と比べるとやはり劣る。
だが、彼女はそれを持ち前の勇気で補う。
風の魔力を身に纏い、自身の速さを高める。十分に距離を取ったうえで助走をつけ、スピードを乗せた剣を巨巌竜の右前脚に振るう。
「スキル“疾風連斬”ッ!!」
ユーリの全霊の攻撃は巨巌竜の鋼鉄の鎧に数多の切り傷を付けるが、それも効果がなく、すぐに再生していく。
「チッ……! “突風徹甲槍”ッ!!」
次にまだ閉じ切らない傷口に剣を刺し込み、剣に纏った風を回転させ、ドリルのように掘削していく。
しかし、これも鎧を破るには些か威力が足りない。一時は有効かと思われたそれも、ある一点においてそれ以上進まなくなってしまった。
周囲には自身と同様に、その巨大な柱に挑む戦士の姿が傍目にだが見える。
その中の一人が突然叫んだ。
「動くぞッ!!」
だが、その警告は少し遅れたものだった。
叫んだ直後、巨巌竜はその場に人間が居ることを知ってか知らずか、右の前脚を大きく動かす。
周りにいた人々はその衝撃で吹き飛ぶ。前に居た者など特に酷い。前脚で蹴られ、十メートル弱も宙を舞い、そしてなんの抵抗もできずに地表に叩きつけられたのだから。
幸運にもユーリは前脚の側面付近に居たため、そのような残酷な結末に遭わず、尻餅程度に収まった。
しかし、それだけでは済まなかった。
ユーリがふと上空を仰ぎ見ると、自身の真上に巨巌竜の手の平があった。手の平はゆっくりと、だが確実にユーリに降りかかる。
尻餅をついた状態の彼女はこの体勢から立て直し、手の平から逃げることなど到底できない。
もう駄目だ、と目を瞑り、最低限の抵抗として腕で頭を覆う。
「スキル“インヴァイラブルシールド”」
男の声。瞼の上からでも分かる強烈な光。大地に巨大な物が落ちたかのような音と振動。それらがほぼ一瞬の合間にユーリの五感を刺激させた。
そして一秒以上の長い静寂が訪れる。
何事かと瞼を開くと、目の前には背から羽を生やした青年と自分達の周りを覆う光の壁、そしてその光の壁に掌を押し付けたまま動かない巨巌竜の姿があった。
その光景にユーリが呆気に取られていると、青年が顔だけ彼女の方に向けて話しかけてくる。
「無事かい? 勇者候補ユーリ」
「う、うん……いや、はい。えぇっと、助けくれてありがとう……ございます、マックスさん」
「なに、これでも帝国唯一の聖騎士だからね。窮地を救うのは当然さ。あと、無理に敬語は使わなくていいよ。自然体で話してくれれば、私としても嬉しい限りだ」
そう言ってマックスがニコリと笑う。それと同時にバギリ、と固い何かがへし折れるような音が響いた。
見ると、巨巌竜の腕から身を守ってくれている光の壁に亀裂が入っていた。
亀裂は時が増す毎に鈍い音を立てながらその数を、その大きさを増やしていく。
「ね、ねえ! この壁大丈夫なの!? さっきからミシミシ言ってるんだけど!?」
「んー、ちょっと厳しいかな。なんせ、ただの軽減の効果しかないスキルだからね。はは」
「ちょっとぉ!!?」
必死な様相のユーリとは対象的に、マックスは楽観的に短く笑ってみせる。
そうしている間にも亀裂は広がっていく。
更には、巨巌竜が光の壁を何度も踏みつけ始めた。それにより、亀裂の広がりは加速する。
「まあ心配することは無い。たとえこの壁が壊されようと、私達は無事であるはずだ」
「何を根拠に……?」
「勘!」
「誰か助けて!!」
ユーリの願いも虚しく、ついに亀裂が壁全体を覆う。
巨巌竜はトドメの一撃と言わんばかりに、腕を大きく振り上げ、そして光の壁に降り下ろす。
「―――何してんだオラァアア!!」
巨巌竜が光の壁を壊す直前、稲妻が竜の頬を穿つ。天帝竜がぶん殴ったのだ。
渾身の右ストレートは強烈の一言に尽きる。この体格差を持ってしても、巨巌竜を眩ませるのだから。
「マックスさん! 大丈夫ですか!?」
ライディンの背中から少年が顔を覗かせる。
その顔にいち早く反応したのは、ユーリの方であった。
「ヒロ!」
「ユーリ!? お前も居たのか! 二人とも無事ですか?」
「お陰様でね、ヒイロ君。それと、天帝竜殿も」
「フン。我はただ主に言われるがままやっただけだ。礼を言われる筋合いはない」
小恥ずかしいのか、ライディンはつっけんどんな態度を取る。
そんな彼女の背後に巨大な影が伸びる。殴られた巨巌竜が狙いをマックスからライディンに変更したのだ。
巨巌竜はライディンを一息に噛み砕かんと、口を大きく開く。その大きさたるや、竜であるライディンでさえも一口で頬張れるほどだ。
今、その歯牙がライディンに金の鱗に届こうとした。その時―――
「我が話しておるだろうが、この耄碌爺が」
雷が迸る。
巨大な体格を有し、岩石の鎧を身に纏う巨巌竜といえども、口内に電撃を流されてはたまったものではない。
脊髄反射により頭を仰け反らせ、暫し怯む。
「まったく……。悠長に話している暇はなさそうだ。優男、一度場を変えるぞ。その小娘も連れて来い」
「ああ、承った。さあユーリ君、私にしっかり掴まってくれ」
「う、うん」
マックスはユーリを抱きかかえると、翼を広げ上空へと飛翔する。
ヒロを乗せた天帝竜は既に天高く飛び去っている。
巨巌竜の砲撃が十分に届かない高度まで上昇したところで、二つの金の翼は静止する。
そのうちの一つ、マックスは下方にいる巨巌竜が追撃してこない事を確認して、ヒロの方に向き直り口を開く。
「……それで、ここまで呼び寄せて、どうしたのだい? ヒイロ君」
「はい。実は巨巌竜を倒せるかもしれない策を考えたんです」
ヒロのその一言を聞いた途端、マックスの目が確かに変わった。
「……ほう。それは一体どんな作戦なんだい?」
「それは……その前に、ユーリをこっちに乗せましょうか?」
ヒロの視線はマックスではなく、彼に抱きかかえられているユーリに向けられていた。
彼の瞳には羨望や嫉妬といった感情が渦巻いており、彼を取り巻く空気は“ジェラジェラ”としていた。
そんな彼の胸中を知っているかどうかはさておいて、マックスはその申し出を快く了承する。
「そうだね。それでは頼もうか」
ユーリをライディンの背中に乗せると、ヒロは気を取り直して、自身が考えついた作戦を話し始める。
「コホン……それで、その策についてなんですが」
いよいよ語られる作戦に、マックスは一言一句聴き逃さまいという気概がヒシヒシと伝わるほど真剣な顔をしている。
ヒロの横にいるユーリやライディンも同様に、食い入るように耳を研ぎ澄ませる。
ヒロの考えた作戦とは―――
「至って簡単かつ古代的で、だからこそ有効なはずです。落とし穴に突き落とすんですよ」




