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村人Aの異世界叙事詩  作者: ユッケ=ビビンバ
第三章 災いの詩〜双竜覚醒編〜
50/120

第50話 双竜大戦 開戦

キリが良いんで普段よりちょっと少ないですが投稿。

というよりいつもこんぐらいだった気がするんですよね。

 午前十時十分、セルーパ山脈から南東三キロ。そこには二万もの軍勢がただ静かに開戦のその時を待っていた。

 軍勢の最前線、そこには此度の総指揮官であるマックス・フォン・ラインハルト、万物粉砕“破壊僧(デストロイヤー)”の異名を持つ英雄級シャオ・リン、そして天帝竜ライディンとその竜石保持者となった異世界人泉田緋色が立っていた。


「……巨巌竜が現れるまで、あと五分」

「いよいよね。ヒロ、心の準備は良い?」

「当然! ……とはちょっと言えないかな。一度戦ったとはいえ、いざとなると緊張しちゃって……。それより本当に馬に乗らなくていいのか?」

「私が乗ったら馬の方が可哀想よ。それに、この脚で十分よ。そういうあなたは竜に乗ってくんでしょ?」

「まあ、ね。こいつが言うこと聞かなくて……」

「馬なぞに乗るより我の方が当然速い故な。折角の機会だ、畏敬の念を持って我が背に乗るが良い」

「ハハー」

「シッ! そろそろ気を引き締めるんだ、君達。もうすぐで来るぞ」


 マックスの忠告により三人は張り詰めた表情になり、ライディンは竜の姿へと戻る。

 再び静寂が包む。二万の兵士が見つめる遠く先には、ユニオス帝国を横断するセルーパ山脈が巨大な一つの壁のように堂々と佇んでいる。



 そして今、その壁に誰も気付かないほど僅かな亀裂が入る。

 その瞬間、山脈はかつてのモーセの奇跡の想起させるように、重い扉が開くように、薪を斧で割ったときのように、綺麗に真っ二つとなり巨大な渓谷が出来上がった。

 その渓谷の間にこれまた巨大な影が一つ。山を割った正体、巨巌竜グラン・ガイアスが姿を現した。


 その光景を見た誰もが思わず声を漏らす。目の前で神の奇跡と同格の現象が起こったのだ、無理も無い。

 同時に彼らの心の奥にほんの僅かな物怖じの感情が湧き出た事だろう。

 それは確かに小さな恐怖だった。しかし、誰か一人がそれに屈すれば、カビの増殖のように爆発的に増える事だろう。

 そしてどこぞの誰かが自身の恐怖を、絶望を口にしようとした。

 その時だった―――


「怯むなッッッ!!!!!」


 マックスが叫ぶ。皮膚を、地を、魂さえも震わせる声が轟く。

 大地の果てにまで届きそうな大きな声はこの地に集う遍く全ての者を覆った。


「打倒巨巌竜を掲げ集った(つわもの)達よ! 今こそ勇気を奮う時だッ!! 敵は余りにも強大だ! 無血の勝利など望めぬだろう! 隣で笑いあっていた友人が明日には消えるかもしれぬ、自身の命を落とすやもしれぬ。しかして逃げるのならば、貴様には死よりも恐ろしい後悔の枷が死ぬその時まで付けられるぞ! 臆すのならば、恥がお前の心を食い殺すぞ! 故に剣を抜けッ!! 己が矜持、己が友、己が妻子、己が祖国を護るため、いざ戦えッッ!!!」


 歓声が起こる。マックスの鼓舞は神風にも等しい追い風を起こし、臆病風を吹き飛ばしたのだ。

 水を得た魚のように活気付く兵士が雄叫びを上げる。

 士気は十分。あとはただ解き放つのみだ。




「……進めェッッ!!!」


 マックスの号令とともに号砲が鳴り響く。

 それと同時に歩兵が、騎兵が、重兵が鉄砲水のように駆け出した。


 その動きに合わせ、巨巌竜も行動を起こす。

 口を大きく開き、その先に塵を集める。塵は瞬く間に大岩へと形を変える。

 “巨人殺しの大岩(ジャイアントキリング)”が来る―――!


「シャオ・リン!!」

「分かってる!!」


 リンが軍勢の最前に躍り出る。

 十分前進したところで彼女は立ち止まり、右腕を大きく後ろへ下げた構えを取る。


「総員! シャオ・リンを避けて前進せよッ!!」

「「「「「はっ!!」」」」」


 騎士達は忠実にその命令を実行する。

 まるで激流に取り残された中洲のような空間にリンはただ一人、自身の感覚を研ぎ澄ませ静かに待つ。

 そしてその時は来た。


 巨巌竜が巨人殺しの大岩(ジャイアントキリング)を放つ。

 巨大な岩の塊は空気を押し退け、真っ直ぐと騎士団のもとへ向かう。

 このようなものを喰らえば、二万の軍勢であろうと如何な英雄であろうと潰されるのみ。

 それと相対して、リンは不敵な笑みを見せた。


「秘技の参!! “虎掌コショウ”!!!」


 リンが掌底を放つ。山をも穿たんとする強力な一撃。それにより空気は押し固められ衝撃波となり、まるで砲弾のような勢いで大岩へと向かっていく。

 ぶつかる。瞬間、大岩に虎の掌の跡が付けられたかと思うや、大岩は粉砕し元の塵へと帰す。

 これが最強の英雄級と謳われる者の一撃。万物粉砕“破壊僧(デストロイヤー)”が放つ一撃だ。


「ふん。良い準備運動だわ」




 彼女より少し進んだ先、進軍する集団の先頭ではヒロとマックスが先程の光景を走りながらに見ていた。


「すっげぇ……。やっぱリンって只者じゃなかったんだな」

「感心は後だ、ヒイロくん。これより予定通りに隊を四つに分ける。一つは支援のため後方へ、残りは右翼、左翼、そして中央から攻撃を仕掛ける。君は天帝竜とともに先行して節制から貪食の紐(グレイプニール)を奪取に専念してくれ」

「了解です、マックスさん」

「優男。主をその節制とやらに送り届けた後、我はどうする?」

「ライディンさんは好きに行動して下さい。貴女が思うまま、巨巌竜と戦ってくれたら十分です」

「承知した。中々に良い采配だ、褒めて遣わす。……さて主よ。チョイと飛ばすぞ、しっかり掴まっておれよ」

「え? ちょ、ま―――」


 ヒロの静止など聞く耳持たず、天帝竜は稲光が如き速さで巨巌竜の元へと飛んでいく。

 女のようなヒロの悲鳴が聞こえなくなったことを確認し、マックスは隊に合図を送る。

 すると軍勢は速やかに四つの旅団へと分かれ、巨巌竜を囲むように向かっていく。



 ――――――――――



 所変わって、巨巌竜と騎士団のほぼ間の上空。

 そこには高速で空を翔ける天帝竜とその背中に必死にしがみつきながら甲高い声を発するヒロがいた。


「ィィイイイヤアアァァァアアアア!!!!!」

「ええい、喧しいぞ!! 黙らんか!!」

「無理ぃぃいいーーー!!! 誰か助けてぇぇえええーーー!!!」


 悲痛な願いも届かず、ライディンは速度を緩めることのないまま巨巌竜との距離を詰めていく。

 しかし、巨巌竜とて傍観するほど優しくない。

 無数の岩を周囲に発生させ、それをまさに雨霰と撃ち出す。

 圧倒的高質量の砲弾による驚愕的高密度の弾幕。回避も防御も容易ではない。

 だからこそ―――


「ハッ! 難題であるほど燃えるというものだな!!」

「ギャァアーー!!! 死ぬーーー!!!」


 ライディンは立ち向かうべくさらにスピードを上げる。

 岩と岩との間をすり抜け、正面から来る岩を砕き、間一髪撃ち落とされずに岩の波を通り抜けた。


「た……助かったぁ……」

「情けない声を出している暇はないぞ。それ次だ」

「へ?」


 ヒロの眼前には再び岩石のカーテンが広がっていた。

 その光景に普段は温厚なヒロも許容量を超えたのか、額に青筋を立ててその怒りを顕にする。


「いい加減にしろや巨巌竜!!! テメエぶっ潰すッッ!!!」

「おお! 興が乗ってきたな、主よ! それでは飛ばすぞ!!」

「応ッ!!! …………あごめんちょっと待っ―――」

「往くぞォ!!!」

「逝っちゃう!!!」


 再度絶叫を上げながら岩の弾幕へ突っ込んでいく。

 悲鳴は遠く、セルーパ山脈の空へと響いた。



 ――――――――――



 四つに分かれた旅団の一つ。ケイロン・エイジャックスが率いる右翼側の部隊が地を駆ける。

 右の部隊にはケイロンをはじめ、同じく聖十二騎士(ゾディアック)のネロとアンジェラ。そしてユーリ達一行も加わっていた。


「ねー、ケイちゃん。そんなでっかい槍やら盾やら背負って重くないの?」

「あ、それ自分も気になってたんすよ。ケイロンさんったらどんな時でも剣を使わずに突撃槍(ランス)ばっか使うんですよね。ねー、何でなんですかー?」

「……お前ら、今がどんな状況か解って言っているのか?」

「「うん!」」

「……………………」


 勇者候補二人の元気の良い返答に、ケイロンは眉間に皺を寄せこめかみを押さえることで応える。

 その様子をポニーの上から見ていたアンジェラが見兼ねて彼のフォローに入る。


「まあまあ、ケイロンちゃん落ち着くのです。これくらいリラックスしていた方が実力は出せるのです」

「…………エラさん。勇者ってのは俺の頭を痛くさせる天才のことを言うのでしょうか」

「心中は察せるのです。ともかく、右翼部隊を率いる君がそんな調子じゃ皆も全力で戦えないのです。シャンとするのですよ」

「……はい。ありがとうございます、エラさん」

「うんうん。それと……」


 アンジェラは振り返り、勇者二人に顔を向けた。


「ネロちゃんとユーリちゃん。リラックスするのも良いのですけれど……時と場合くらい弁えろよ、クソ能天気共」


 可愛らしい子供の笑顔が一瞬にして冷たい氷の形相に変わる。

 巨巌竜より先に彼女に臆した二人はこれでもかと首を縦に振り、了解の意を示す。


「うん。それならいいのです。さ、気を取り直して行きましょー!」

「……前々から思ってたんだけど、エラさんって怒ったらおっかないよね」

「……この際だから教えておくと、彼女は普段は南モーラのマフィアとドンパチやってるから人一倍血を見慣れてるんだよ。噂では昔は拷問官だったとか」

「んー? 何を話しているのですー?」

「「いえ!! 何も!!」」



 そのような会話が終わった頃、一人の騎士がケイロンのもとへ寄ってきた。


「ケイロン隊長。前方に人影多数、戦闘対象かと思われます」


 前方に注意を向けると、確かに、森の方から人の形をした物体が迷いなく右翼部隊へと向かってきているのが伺える。

 そのことを確認したケイロンはほんの少しだけ考えた後に命令を下す。


「……どうやらそのようだな。総員、馬の速度を下げ様子見だ」


 彼はそう命令すると、懐から通信用の魔道具(マジックアイテム)を取り出す。

 それと同時に、その魔道具から音声が入ってきた。


『左翼部隊から中央部隊へ。前方の森から敵と思しき影を複数確認。指示を求む。どうぞ(オーバー)

「了解。同じく右翼部隊から中央部隊へ。こちらも同様の敵影を確認。指示を求む。どうぞ(オーバー)

『……了解。こちら中央部隊。こちらでもその影を確認した。同時に正体がピエロ面の集団と巨巌竜の使い魔と断定。挟み撃ちとなったら面倒だ。隊長格の者と数人はそのまま突破し、その他の者は各個撃破せよ。どうぞ(オーバー)

「了解。右翼部隊、命令を遂行します。以上」

『了解。左翼部隊、命令を実行します。以上』



 通信を終えるや否や、ケイロンは背負っていた突撃槍と大盾を馬上で器用に装備する。


「総員、聞いた通りだ。これより俺が道を拓く! 各隊長及び副隊長、そして勇者候補ユーリは後に続け! 残りは雑魚を倒してついてこい!」

「「「了解!!」」」


 敵との距離一○○余り。ケイロンが緩めていた馬の速度を上げる。

 槍を構え彗星の如く突撃する様は正に荒れる若犀の突進。止められる者などそうそういないだろう。

 敵との距離七○。森からは次々とピエロ面の人間や岩石兵(ゴーレム)のような使い魔が現れ、波のように押し寄せる。

 それでも彼らは臆さず、それどころかさらにスピードを増したようにも思える。

 敵との距離二五。既に言葉は要らず。数秒の後に双方が激突する。

 そして今、ぶつかる―――!


 正面から衝突した人間は為す術なく吹き飛ばされ、辛うじて直撃を免れた人々も後続の騎士達に討たれていく。

 ぶつかっては飛ばされ、ぶつかっては穿たれ、彼が通った跡はまるで竜巻が通った後のようでもあった。

 これにより道はできた。あとは突き進むだけだ。



 ――――――――――



 同刻。左翼部隊も迫り来る敵を薙ぎ倒していた。


「そこ退けそこ退けッ!! 牡牛が通るッ!!」

「ガッハハハハ!! どうした!? その程度か!!? そんなではこの獅子は止められんぞッ!!」


 高らかな笑い声を上げ、牡牛と獅子が敵を蹂躙していく。

 彼ら、ブルーノ・ヴァイスシュティアとレナード・ライオンハートは膂力で言えば騎士団でも一二を争う怪力同士。二人と真っ向から立ち会って数秒でも立っていられる者など、英雄級を除いて極少数。

 その様は一騎当千どころか二騎討万、暴虐の嵐の如し。

 ブルーノは巨斧を、レオは大剣を軽々と振り回し次々と屠っていく。


 そんな彼らを後ろから付いていく男が一人。赤い鎧を纏った彼、シーザーは二人を戒めるように話し掛ける。


「……サー・ブルーノ、サー・レナード。敵を倒すのは結構だが、目的を忘れるな。ここは他の者に任せ、我らは巨巌竜のもとへ向かおう」

「うん? おうおう、こりゃあちと暴れすぎたようだな」

「ぶふー……。準備運動にもならなかったが、まあ仕方ない。さて、向かうとするか! オメエラァ! ここの木っ端どもに騎士団の底力を見せてやれ!!」

「「「おおぉーー!!!」」」


 雄叫びを上げる騎士達を残し、三人の隊長は数人の騎士と共に巨巌竜へ馬を走らせる。



 ――――――――――



 中央部隊。この部隊には英雄級が二人もいる。

 彼らにかかれば烏合の衆など塵芥も同然。人や土塊の人形が面白いように宙を舞う。数時間も放っておけば敵を全滅し得るだろう。

 しかし、彼らにそんな余裕は無い。彼らの倒すべき目標はより強大な巨巌竜。少しの時間も体力も無駄にできない。


「―――って団長(アイツ)は言っていたけど、俺からしたら出来そうではあるんだよな」


 ボソリと副団長であるアストが呟く。

 その小さな独り言も聞き逃さず、レイシャがそのことについて言及する。


「見た限り、敵側の勢力は巨巌竜に頼り切りのようですしね。数もそれほど多くなく、その半数以上が土の使い魔。巨巌竜抜きではお二人の力があれば可能だとは思いますが……」

「言いたいことは分かるよ、レイシャ。一番厄介なのは巨巌竜だ。何しろ実力が未知数だからな」

「神話の通りなら、七日七晩かけて大地を踏み荒らし、山だらけだったユニオスを平らにしたと云います。所詮神話、どうせ尾ヒレの付きまくったほら話(トールテイル)だと思っていましたが、先程の偉業の見てしまったからにはどこまでが真実かわかりませんね」

「……古代の神話と現代の神話、どちらが勝つか。ここまで倍率すら分からない賭けは初めてだ」

「……賭け事、なさるんですか?」

「いや、しないけどさ。喩えだよ、喩え」


 彼らが話している内に英雄級共は目の前にいた敵を一掃し、進軍のための道を作り終えていた。


「アスト、レイシャ。前方の敵は蹴散らしておいた。彼らの援護が来るよりも早くここを抜けるぞ」

「了解です、団長。今向かいます」



 ――――――――――



 山脈を越え、広がる森の木々を踏み潰しながら巨巌竜は進む。

 その高く上げた頭部に人影が一つあった。

 その手に持つ“貪食の紐(グレイプニール)”を弄び、いつもの独特の話し方で節制(テンパランス)は独白を行う。


「……ふむふム。部隊は四つに別れましたカ。三つがこの巨巌竜を囲ミ、残る一つが救急、通信、援護射撃を行うわけト。そして予想通リ、隊長レベルの人達はあの包囲網を抜けてきますカ。まったク、止めることは無理でモ、もう少し頑張って欲しかったですネェ」


 ヤレヤレといった風に肩を小さく上げて首を横に振る。

 そして手を後ろで組み竜の頭から戦場を眺めると、再び独白を続け始めた。


「しかシ、アレはあくまで聖十二騎士(ゾディアック)や英雄級()()のための駒。本当の刺客はその先にいますかラ、彼らに期待しましょうカ。……それにしてモ、今回は本当に本当にワタシのポリシーから反する戦いですネェ。無駄を排シ、量より質を重視シ、時間かけずに殺すことこそワタシが求めるものなのですガ……マア、正義(ジャスティス)に頼まれたからには断れませんしネ。仕事は仕事、しっかりやらさせてもらいますヨ」


 彼は静かに嗤う。それは挑み続ける者達を嘲るように、この戦争を楽しむかのように。



 暫く声を押し殺して笑い続ける節制であったが、ある事にふと気付く。

 巨巌竜(こちら)に飛んできていた天帝竜の姿が消えていたのだ。


(……ハテ? もしやですガ、本当に撃ち落とされたのでしょうカ?)


 節制が辺りを見回す。しかし、地上にも空中にも黄金色の竜の姿はない。

 不審に思ったのか、彼が首を傾げる。その時だった。


 大きな影が巨巌竜の顔の下から飛び出し、節制を包む。

 その者は太陽を背に巨大な蝙蝠の羽を広げ、目を爛々と光らせ、その縁は日食の如く黄金に輝いている。

 その影の正体の名はライディン。天帝の名を冠し、この世に在る森羅万象を裁く竜である。


「カァッッ!!!!!」


 今、彼の者が口腔から雷の鏃を撃ち出す。

 そして有無も言わせぬ間に鏃は巨巌竜の頭を穿ち、大きな轟音を放ちながら爆ぜた。


「ッ……! やったのか!?」

「否。まだだ。あれを見よ」


 雷が炸裂した部分に目をやると、そこには巨巌竜がたんこぶを作ったかのような巨大な半球が出来上がっていた。

 その光景にヒロが不思議そうな顔をしていると、崩れるように瘤が開いていく。

 その中から現れたのは ―やはりと言うべきか― 節制であった。


「いやはヤ、危ない危なイ。少しでも反応が遅れていたラ、死んでいましたヨ」

「狸が。最速の旋風竜すら捉える我が御業が人間如きに対処できるはず無かろう。道化のふりをして誘い出しおったな、下賤の徒め」

「アララ、バレちゃいましたカ。それデ、どうしまス? ワタシとしてハ、アナタも捕らえるたメ戦闘も辞さないつもりですガ」

「その誘い、受け取ってやりたいのは山々だが、生憎ながら貴様と戦いたいと申す者がいてな」

「ホウ……?」


 ライディンが巨巌竜の頭部へと降り立つ。

 すると彼女の肩から一人の少年が飛び降りる。

 少年は着地するや否や剣を抜き、自身の影を鎧の様に纏った。


「貴様の相手は我が主、センダ・ヒイロがする」

「主……。まさかアナタが天帝竜の竜石保持者となっていたとハ。これには流石に驚きを隠せ得ませんネェ」

「言ってろ。今度こそ逃さないぞ、節制(テンパランス)

「何を妄言ヲ。アナタに対して逃げたことなド……そう言えばありましたネ」

「ッ……!!」


 節制の飄々とした態度に怒りを示すように、ヒロの体に力が入っていく。

 彼は今まさに火を点されたダイナマイト。その導火線が最後まで燃やされたとき、彼は怒涛の如く動き出すだろう。


「……ライディン、ここまで連れてきてありがとう。あとは好きに暴れてくれ」

「承った、我が主よ。……武運長久を祈ろう」

「ああ、こちらこそ」


 短いやり取りを終えると、ライディンは羽撃はばたきその場から去る。

 残された二人は巌のような角が数多生える頭の上、暫く悠久のような静寂を過ごす。




 さて、開戦の火蓋を切ったのはどちらの方か。

 二人は動き出し、そして得物がぶつかる。

 かくして、後に“双竜大戦”と呼ばれることとなる一大決戦がここに始まった―――。

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