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村人Aの異世界叙事詩  作者: ユッケ=ビビンバ
第三章 災いの詩〜双竜覚醒編〜
48/120

第48話 聖十二騎士、集結

最近投稿する感覚が長くなってきている……。

前は一週間で書きあがっていたのに、一回生後半に入ってから二週間に伸びてしまった。

まあそれはさておき、今回はタイトル通り聖十二騎士ゾディアックが全員集結するお話です。

 ―――目が覚めると、そこは“白い世界”だった。

 アクリルのような無機質な大地は、名前も分からない真っ白の花が所狭しと咲き乱れる花畑へと変貌していた。しかし、やはりそこは白い世界に変わりなかった。


「……なんか、随分と久々だな」

「そうだろうとも。なんせ君がここに来るのは……あれ? 何時ぶりだったか?」


 僕がふと零した独り言に、聞き馴染みのある声が応える。

 声のした方を見ると、そこにはいつも通り、二つある椅子の片方にどっかりと腰を掛け、机に片肘を置き頬杖をつく紅蓮の姿があった。


「よお、紅蓮。人間の姿(その格好)を見るのも久しぶりだな」

「やあ、ヒロ。元気そうで良かったよ。体は無事かい?」

「? まあ、絶好調だけど……。それより、なんで僕は白い世界(ここ)に居るんだ?」

「やはり覚えていないか……。君、天帝竜を呼び出したところまでは覚えているかい?」


 自身の記憶の糸を辿る。

 ……ああ、確か、巨巌竜の攻撃を受けて、そして咄嗟に天帝竜ライディンがくれた首飾りに魔力を流したんだった。そしたらライディンが現れて、攻撃を防いでくれて……そうだ、その後僕は急に意識が朦朧としたんだ。


「……うん、覚えている。もしかして、僕は倒れていたのか?」

「ああ、そうとも。君は天帝竜を呼び出し、その時膨大な魔力を使ったため一時的に魔力枯渇症状に陥ったんだ」

「まりょ……こか?」

「まあ、言うなれば脱水症の魔力版みたいなものだ。元々魔力値の低い君が、竜石の補助ありとはいえ、召喚などという大技を成したんだ。こうなるのも当然といえば当然だろう」

「ふーん」

「ふーんて、君なぁ……。異世界で平和に暮らしてきた君には分からないだろうが、魔力枯渇症状はとても危険な状態なんだぞ? 生命力と相互変換できる魔力がほぼゼロになるんだ。本来はそうなる前に自動でブレーキがかかるわけだが、今回は一気に消費したため振り切ってしまったのだろう。つまり、今の君の魔力量(MP)はゼロを通り越してマイナスなんだよ」


 紅蓮が長々と説明するが、僕にはその三割くらいしか理解できない。

 漸く理解できたことと言えば、その“まりょくこかつしょーじょー?”とやらが危険だということだ。


「えーと……要するに僕は危険な状態なのか?」

「さっきも言っただろう。危険どころか命に関わる状態だよ、今の君は」

「へぇー……ェェええええッ!!???」

「今更理解したのか……」

「え、ちょ、それ、ヤバくねえか!?」

「ヤバいよ。……まったく、私が魔力を分け与えてなかったら、今頃君はお陀仏だ」


 紅蓮のその言葉に、僕は確かな違和感を覚えた。


「紅蓮が、僕に魔力を……?」

「そうだ。お陰で君はあの世に逝かずに済んでいる。私に感謝しろよ?」

「いや、感謝はするけどさ……お前の魔力を寄越すってことは、それは擬似的に鬼人モードになるってことだろ? 僕の体(そっち)の方は大丈夫なのか?」

「………あー………」


 完全に失念していた、という表情だ。

 コイツ、偉そうなことをぬかしていたくせに一番重要なことを忘れてやがった。


「………紅蓮?」

「そんな胡散臭い人間を見る目で見ないでくれ。忘れていたことは素直に謝る。しかし魔力を分け与えていたとはいえ、ほんの少量だ。君の身体に問題はない……はずだ」

「曖昧じゃねえかッ!! どうすんだよ!? 『目が覚めたら鬼になっていました』みたいなノリ絶対嫌だぞ!!?」

「あ、もうすぐ君の目が覚めそうだー。いやー、もっと話していたいけどこれだけは仕方ないなー。いやー、仕方ない仕方ない」

「オイコラ、ナルシスト鬼コラ。話を逸らそうと―――」


 棒読みで話題を変えようとしている彼に抗議しようとした時、突然意識が朦朧とする。

 この感覚……間違いない。紅蓮が言った通りもうすぐ目が覚めるのだろう。


「くっ………紅蓮、テメエ………」

「心配せずともいいよ。君はまだ(・・)完全に鬼に変質したわけじゃない。それと、魔力枯渇症状についても心配いらない」

「それは……どういう………?」

「目が覚めたら理解するよ。それよりも、まあ、気を強く持てよ」


 紅蓮の言葉の意味など全く分からぬまま、僕の意識は深淵へと落ちていった―――――






 ―――そして、目が覚める。そして僕は『う〜ん』と唸りながら体を伸ばそうとする。

 ……体が動かない。そのことに若干動揺していると、女の声が飛び込んできた。


「あ、目がさめましたかぁ? 良かったですぅ」


 もう一度眠りにつけそうなほど緩くて甘ったるい声が耳をくすぐる。

 声がした方に目だけ動かすと、羊のような白く柔らかそうな天然パーマの女性がこちらを覗き込んでいた。


「大丈夫ですかぁ? 貴方、魔力枯渇症状で五日間も意識を失っていたんですよぉ。調子の悪い所はありませんかぁ?」

「え、ええ。特に、不調な所はなさそうですけど……。あの、貴方は?」

「あ〜、紹介を忘れていましたぁ! 私は聖十二騎士ゾディアックの一人、“白羊宮”のメイリィ・ゴールドフリースと言いますぅ。よろしくお願いしますねぇ」


 メイリィと名乗った女性は聖十二騎士ゾディアックの名に似合わないおっとりとした雰囲気を醸し出していた。

 モコモコとした長い白髪を後ろで三つ編みにし、目尻の下がった目の奥に宿る黄色い瞳は優しさを感じさせる。

 なにより特徴的なのはその“胸”だ。制服を着ていても分かるほど彼女の胸は巨大の一言に尽きる。

 グラマラスな体型のウィザも相当大きかったが、メイリィさんのそれはウィザを遥かに超えている。それでいて触れずして柔らかさも感じさせる。これこそ一種の究極の巨乳―――


「あ、あのぉ……ヒイロさん?」

「はい! なんでしょうか、おっぱ………メイリィさん!」

「い、いえ。ただぁ、ヒイロさんの目が怖いっていうか、鬼気迫る感じでぇ。私の胸に何か付いてるんですかぁ?」

「いえ何も! なんでもないですよホントに! ………あ、そういえば、一つ聞きたいんですけど」

「はい〜、何でしょうかぁ?」

「さっきから僕の体についているこの“フワフワ”は何なんですか?」


 僕の体には金色の毛玉のようなものが纏わりついている。それも顔以外が見えないほどビッシリと。

 第三者の視点から見れば、僕はでかい金毛のミノムシのような滑稽な姿に写るだろう。


「あ〜、それは私の能力アビリティによるものなんですよぉ。魔力で形成された羊毛みたいな繊維を怪我した部分に包むと、その部分を回復させる効果があるんですよぉ」

「へぇ、すごいですね」

「えへへぇ〜、まあそれほどでもありますよぉ」


 僕の言葉に彼女は頬を緩ませ照れ笑いを見せる。その笑顔は不思議と僕の気持ちを落ち着かせる。

 まあ、それはそれとして……


「ところで、いつになったら僕は動いて良いんですか?」

「えぇとぉ、ヒイロさんは魔力切れになったこと以外は特に体に異常はないので、すぐにでも動いていいですよぉ」

「はあ、そうですか。それじゃあ、移動したいんでお願いします」

「? はい、どうぞぉ」

「……………」

「……………?」

「……あの、できればでいいんですけど、この羊毛を取ってくれます? この状態じゃ一歩も動けないんで」

「! す、すみません〜〜!! 今すぐ取り除きますぅ〜!!」


 まさか、今まで全く気付いていなかったのか。

 この人、本当に聖十二騎士なのか? 到底そうは見えないが……。

 そんな疑いの考えが頭をよぎっている間に、メイリィさんは僕に付いていた毛玉を全て取り払っていた。

 自由となった体を起こす。そこで初めて気付く。


「身体が、軽い……?」

「そうでしょ〜。どうですぅ、私の羊毛はぁ? 疲れなんて吹き飛んじゃったでしょぉ? これは怪我を治すだけでなく、滋養強壮や疲労回復、血行促進、健康増進に万病予防。それに肩こり、腰痛、低血圧、高血圧、神経痛、筋肉痛、関節痛、痛風、冷え性、その他諸々に効くんですよぉ」

「万能温泉か何かですか」


 それにしても、彼女の羊毛の効果は本物だ。

 ここ数日の二体の竜との激戦の疲れや生傷の痛みがすっかり引いている。いや、以前より体の調子が良い。

 今なら竜との一騎打ちは無理でも、あの節制とも渡り合えるかもしれない。



 それはさておき、ここはどこだ? 寝起きのせいで気にしていなかったが、気を失った僕はどこへ担ぎ込まれたのだ?

 周りを軽く見回すと、先程から目に入っていた薄く汚れた布の壁や天井、僕が横たわっていた質素なベッド、そんな空間を照らす一個のランプが見える。

 どうやらどこかの野営地キャンプの一つのテントのようだ。耳を澄ませば、薄い壁の向こうからガヤガヤと人の往来が聞こえる。


「あの、メイリィさん。ここは一体どこなんですか? テントのように思えるんですが……」

「あぁ、はい、ここは……いえ、見てもらった方が早いですねぇ。ヒイロさん、ちょっとこっちに来てくださいぃ」


 そう言ってメイリィさんはテントの入り口に立って、おいでおいでと手招きをする。

 僕は彼女に従い、テントから顔を出す。


 そこには大きな町村ほどの規模の野営地が広がっていた。

 その場にいる騎士やハンター達は何やら話しながら忙しなく駆けていく。

 アンミュー戦で用いたものより数倍大きいバリスタが運ばれていくのが遠目で見える。

 野営地の喧騒はまるで町を起こしての祭りのように思えた。


「こ、これは……!?」

「ふふ〜ん、すごいでしょぉ? ここは帝都キャメロスから五十キロメートル地点に作られた野営地ですぅ。ここには我々、聖十二騎士全員をはじめ二万人以上の帝国騎士や凄腕のハンターさん達が集まっているんですよぉ」

「二万人!? それに聖十二騎士が全員揃っているんですか!?」


 この事実から、本気で巨巌竜を倒す意気が伺える。

 それはただの無謀な挑戦ではない。勝てる。この戦い、確実に勝利できる確信がある!



「あ、そうだったぁ! 君が起きたら見せたいものがあったんだったぁ!」


 急にメイリィさんが手を鳴らし、そう告げる。

 僕に見せたいもの? 一体何だそれは?

 その疑問を言の葉に乗せる前に、彼女は僕の手を強く引く。


「ほらほらぁ、ヒイロくんこっちこっちぃ」

「ちょっ!? 待ってくださいよ、メイリィさん! どこへ連れて行くんですか!? それに僕に見せたいものって?」

「まあまあ〜。それは着いてからのお楽しみだよぉ?」


 彼女はまるで聞く耳を持たず、言葉そのまま強引に僕を連れて行く。

 抵抗しようにも意外と彼女の力が強い。こんななりでも聖十二騎士というわけか。

 抗っても無駄だと漸く悟った僕は諦めて自身の行く先を彼女に預けることにした。






 メイリィさんに案内、もとい連行された先のテントで僕はありえないものを見た。

 その時の僕の感情を言葉で表すなら、驚愕ではなく呆れに近いものだった。


 そこは野営地の中心となる、非常に大きなテントであった。

 中には聖十二騎士など重役が集まっている。ここが巨巌竜討伐隊の中枢なのである。

 その中の一室に、“彼女”はいた。


 揺れる長い金髪を二つにまとめ、黄金色の瞳を輝かせ、んでもって目の前の料理をハムスターよろしく頬に詰め込み、美麗な衣服に食べかすを付けまくる齢十六ほどの美少女がそこには居た。

 彼女の名、正体は―――


「……何やってんですか。天帝様ライディン

「ん? あうひは。ほはっは、へはひゃへはは」


 ただの少女に見えるが、僕は一度会ったから分かる。彼女こそが伝説の竜の一体、天帝竜ライディンだ。

 彼女は入り口に顔が向くようにクッションが敷かれた椅子に座り、客間の中央に置かれた長机に並べられた豪勢な料理に舌鼓を打っていた。

 周りには騎士が壁に沿うように立っているが、その誰もが緊張を顔に表している。彼女が竜であることは承知のようだ。

 まあ、取り敢えず……


「何言ってんのか分かんないんで飲み込んでから喋ってください。あとちゃんとナプキンを付けてゆっくり食べてください。服にめちゃくちゃ汚れが飛んでますよ」

「ん、ほうは」


 そう言うと彼女は一息に口にあったものを呑み込んだ。

 端正な顔に戻ると、思い出したかのように上品にナプキンで口元を拭う。


「ふう……。美味であった。このように我が舌に見合う料理を作れるとは、人の世も捨てたものではないな」

「左様でございますか。それはそれとして……ライディン、どうしてお前がここにいるんだ?」

「何故かと問われれば、主君である貴様に呼ばれたからと答えておこう。よもや、忘れてなかろうな?」

「それは覚えているよ。僕が聞きたいのは、なんで帰らずに人間の姿でいるのかって話」

「寂しいことを言ってくれるな。我とて主が倒れたら心配も自責もする。人間の姿でいるのは貴様らに迷惑をかけまいと配慮してやっているのと、あとは趣味だ」


 ライディンはそう言うとカカッと小さく笑う。

 彼女のその人間を小馬鹿にした態度に軽く反感を覚える。

 しかし、その感情も彼女が次に見せた表情を認識した途端に払拭されてしまった。


「それに彼奴・・が関わっているなら放っては置けないからな」


 無表情。されどその面には形容するのも無粋な怒気が籠もっていた。

 恐ろしい。ただ恐ろしい。総毛立つとか、背骨が凍るようなとか、心臓が握りつぶされそうなとか、そんな恐怖じゃない。

 そんなものを超越した、認めること以外できないような恐ろしさだ。


「ッ……あ、彼奴って……グラン・ガイアスのことか? それとも、節制テンパランスか?」

「両方、と言っておこう。何方にも相応の因縁はあるのでな」

「そ、そうか……」


 あまりにも重苦しい空気がこの部屋を包む。下手なことを口走れない雰囲気だ。

 濃密な静寂が肌を撫でる。胃袋を直接握られたかのような嘔吐感を覚える。

 静寂に押しつぶされそうな僕に対し、ライディンは一言も発さず、黙々と料理を口に運んでいる。

 ああ、誰でもいい、何でもいい。どうか僕をこの苦しみから解放して下さい。



 気まずい空気に圧殺される直前、部屋にノックの音が飛び込んだ。


『ヒイロくん〜。入ってもいいかしらぁ?』


 その声はこの客間に入る前に別れたメイリィさんのものだった。

 しめた! と思うと同時に僕の口は彼女を中に入れるよう促す。


「はい、大丈夫ですよ」

「それじゃあ失礼しま〜すぅ。……あ、ライディンちゃ〜ん。どうぅ? うちのご飯、美味しかったでしょ〜?」

「うむ! 中々どうして美味であった。これほどまでに旨い料理を作る人間には尊敬の念すら覚えたぞ」

「あらぁ、それは良かったぁ」


 本当に良かった。彼女が来たお陰でこの部屋の空気は少なからず緩和された。

 ライディンには先程の張り詰めた表情はなく、実に美味しそうに料理を食している。周りの騎士も心無しか安堵しているように見える。


「ほほおで……ングッ、ところで女、ここへ何用か? 我が主を探しておったようだが」

「そうそう〜。ヒイロくん、ちょっと私に付いて来てほしいのぉ」

「……また『着いてからのお楽しみ』とか言うんじゃないんですよね?」

「もおぉ〜! 意地悪しないでよぉ! ……行く場所はこのテントの“作戦司令本部”、聖十二騎士が集まる我が隊の脳よ。君には“天帝竜の竜石保持者”として来てほしいの」


 メイリィさんの口調が変わる。それだけで彼女の真剣具合がわかる。

 天帝竜の竜石保持者。今まで気にしてこなかったが、字面に起こして初めて理解できるその重み。

 最強種である竜の力が込められた“竜石”。その中でも特段力の強い天帝竜の竜石を僕が手にしている。

 頬張るライディンを流し目で見る。今はあんなナリだが、あれでも僕達を死の一歩手前まで追い込んだ恐るべきドラゴンだ。

 敵であれば恐ろしい事この上ないが、その力を利用できるとなれば話は別だ。彼らが僕に協力を仰ぐのもそれを踏んでのことだろう。

 ならば―――


「勿論です。僕にできることなら、どのようなことでも」


 断る理由なんて最初から無い。彼女の力を持ってすれば、難攻不落の巨巌竜を倒せるかもしれないなら尚更だ。


 メイリィさんは僕の返答を聞くと、満足そうな笑みを浮かべた。


「良かったぁ。断れたらどうしようかと思ったぁ。それじゃあ付いて来てぇ」

「む? 話は終わったか。我も同行する」

「ライディン」

「主が行く所、我も付いていこう。それに此度の戦いには我が必要なのだろう? 主が決めた事とはいえ、当の我が話を知らんというのは納得いかんからな」

「って言ってますけど、ドラゴン同伴でも大丈夫ですか?」

「全然オッケーだよぉ。さあ、皆が奥で待ってるよぉ。行こ行こぉ」


 こうして僕はメイリィさんに連れられるまま、聖十二騎士が集まる司令本部へと赴くこととなった。






 作戦司令本部に着くと、そこには見覚えのある顔を含め十余人の男女が正方形の大きな机を囲うように座っていた。

 その座っている内の一人に僕の目は注目した。


「リン!? お前なんでここに!? それに、怪我は大丈夫なのか?」

「元気そうで何よりよ、ヒロ。あと怪我のことだったらお互い様でしょ」


 そう言って彼女は僕の隣、メイリィさんに目を向ける。

 ああ、なるほど。そういう事か。つまりはリンも彼女に治療されたって訳か。それならば合点がいく。

 横目でメイリィさんを見ると、彼女は照れ笑いで顔を歪ましていた。


「それと、何故ここに居るか、だったわね? そんなこと考えずとも分かるでしょ。私もこの戦いに参加するのよ」

「ッ!!」


 リンが、最強の英雄級の一角である彼女がこの戦いに参加する。それはこの上なく嬉しい事実だった。

 これでこちら側には聖十二騎士ゾディアック、英雄級、竜が揃った。この布陣で戦えぬ相手などそうそういないだろう。


 リンが無事だったこと、そして仲間として共に戦ってくれることに喜びを抑えきれない。

 そんな僕に“ある人”が話しかけてきた。


「感動の再会のところ悪いけど、もう少し私達にも気を掛けてほしいかな」

「あ、す、すみませんマックスさん」


 そこに居たのはもう一人の英雄級、聖十二騎士の中でも最強最優の騎士であり全ての騎士を束ねる騎士団長、マックス・フォン・ラインハルトその人だった。

 彼は人懐こい笑顔を浮かべ話を続ける。


「別段気にしていないよ。久しぶりだね、ヒイロくん。テッセンのゴーレム退治以来だね。そして、初めまして、天帝竜ライディン。ここに来られたのは、協力してくれるという見解で間違いないかな?」

「然り。人間に力添えをするのは実に不服ではあるが、我にも貴様等に手を貸す理由がある。此度だけはこの力、貴様等に分け与える栄光をくれてやろう」

「感謝極まりない。……さて、お二人とも立っていては疲れるでしょう。どうぞ掛けて下さい」


 彼に促されるまま僕とメイリィさんは各々の椅子に座る。

 ライディンはと言うと、『人間と同じ目線になるのは癪だ』と言って僕の椅子に片手を置いて立っている。




「ヒイロくん。君は既にこの場に集う半分とは面識があるんだよね?」

「ええ、まあ。……はい、そうですね」


 軽く全員の顔を見る。

 マックスさん。ケイロンさん。ディカプラさん。エラさん。レイシャさん。メイリィさん。聖十二騎士のちょうど半分と顔見知りか。

 今改めて考えてみるとすごいことだよな。ただの一般人が警察の上役の多くと知り合いになっているようなものだし。


「そこで、折角だからいっそのこと聖十二騎士全員を紹介しとこうか」


 彼はそう言ってニッコリと微笑む。

 そして僕に有無を言わさず紹介を始めた。


「メイリィの隣にいる亜人デミの彼。彼の名はブルーノ・ヴァイスシュティア。冠する称号は“金牛宮”。騎士団一の膂力の持ち主で、亜人種が多くを占める北方部隊、通称ワイルドナイトを率いる部隊長だ」

「紹介に預かった。俺こそワイルドナイトの頼れるリーダー、ブルーノだ。よろしく頼むぜ、ヒロとやら」


 そう言って立ち上がったのは、身の丈二メートルを超す茶褐色の毛並みを持った牛の亜人だった。

 その大柄の背と制服が張り詰めるほどの筋肉は、まるで伝説の迷宮の怪物ミノタウロスを彷彿させる。


「次に、そこの赤い鎧を纏った彼はシーザー・カルキノス。“巨蟹宮”の名を持つ武人だよ。素顔を見せたがらないたちの人だから、そこだけは気を付けてね」

「シーザーだ。東方部隊の指揮を務めている。以上だ」


 素っ気なく自己紹介をする赤鎧の青年。

 その頭から足の先まで全てを覆う鎧は茹でた蟹のように朱に染まり、所々凹凸が施してある。背には大きな双剣を携えている。


「悪いね。彼は少々人見知りがすぎるんだ。彼の隣に居るのが“獅子宮”レナード・ライオンハート。愛称はレオ。ライオンの亜人二世セカンドデミで、戦闘の苛烈さから“殲滅の獅子宮”の異名を持っている。総合的な実力で言えば、私の次に強い騎士だ」

「お前さんが天帝竜の竜石保持者か! ウムウム、若いながらに中々に強いらしい! どうだ、後で一戦手合わせしないか!?」

「い、いえ。遠慮しておきます」


 どうやら彼は過度の戦闘狂のようだ。

 たてがみのような金の髪、もみあげ、顎髭を揺らし、雄叫びが如き大声で笑う。

 その様はマックスさんとはまた違った強者の風格を見せる。


「私の右隣にいる彼は我等が騎士団の副団長、“処女宮”のアスト・ヴィルギンだ。彼と私は同期でね、私が最も信頼を寄せる人物の一人なんだよ。頭は固いが規律を重んずる殊勝な人だ」

「不要な説明が多いですよ、団長。改めて、ユニオス帝国騎士団副団長のアストです。団長や妹のライアから君の話は聞いています。なんでもその齢で影魔導を使い熟すとか」


 そう話すのは、一見女性と見間違えるほど整った顔と桜色の髪を持つ青年だった。

 目鼻立ちは妹のライアさんとよく似ている。流石は兄妹と言った所か。

 奏でる声も一般男性よりも高く、彼が女性であると言えば信じてしまうそうなほどだ。


「そして私の左隣にいる彼が“天蠍宮”スコール・ピアーズ。彼は技術開発部隊の隊長であるとともに、難攻不落の大監獄“ニブルヘル”の監獄長でもある。彼は人が好い性格でね、多くの騎士や荒くれ者である囚人からも信頼を置かれているんだ」

「初めまして、ヒイロさん。スコールと申します。見た目から敬遠されがちですが実は気の弱い性格でして、仲良くして下さったら嬉しい次第です。あ、これ私の妻と娘の写真です。可愛いでしょう」


 人一人を殺めてそうな外見とは裏腹に、彼の物腰は慇懃丁重そのものだった。

 制服の上から白衣を纏い、黒縁の眼鏡をかけ、蘇芳の後髪を蠍の尾のようにまとめている。

 見せられたロケットの写真には彼と妻らしき美しい女性、そして彼と全く似ていない少女が写っていた。


「最後に、そこの少年が“宝瓶宮”のネロだ。彼はうちのホープで水魔導を得意とする魔法剣士だ。それと同時に君の友人であるユーリくん同様、世界を救うと言われる勇者候補の一人、“明朗の勇者”でもある」

「はい! 自分は明朗の勇者にして聖十二騎士の一人、宝瓶宮のネロ! 自分のことは気軽にネロって呼んでくれ」


 金髪碧眼の勇者はそう僕に話しかける。歳は僕より少し上、ケイロンさんと同じくらいか。

 印象としては他の勇者候補と同じく、正義感に満ちた爽やかな好少年だ。

 彼の性格故か、話している間も肩に力を入れずに会話ができる。裏返せば、他の騎士と比べ威厳がないとも言えるのだが。




「それで、下らん自己紹介とやらは終わったのか? ならば早々に作戦会議も終わらせてくれ。我は飽きてきてきた。飯が食べたい」

「まあまあ、もう暫くお待ちください。何せ、この会議において“最も重要な方”が来られていません故」

「最も……」

「重要な、方……?」


 僕とライディンが怪訝そうにする中、部屋に一人の男性が入ってきた。

 彼の服装は騎士というより魔術師に近く、顔はフードで隠れている。


「マックス騎士団長、念話通信の準備が双方整いました」

「わかった。早速つなげてくれ」

「了解しました」


 魔術師風の男は懐から水晶を取り出し、それに魔力を流す。

 すると水晶から光が飛び出し、何やらホログラムを映し出した。

 ノイズだらけの映像は次第に鮮明になり、ある人物を映す。


 その人物はこの帝国に住む者なら誰もが知っている。かくいう僕も異世界人ながらにその顔は認知している。

 その者の名はアルトリウス。このユニオス連合帝国の“当代皇帝”である。


『……ん? これはつながっているのか?』

『はい、皇帝陛下。映像、音声共に良好です』

『そうか。……ンンッ! 待たせたようだな、我が誇り高き聖十二騎士達。そして仮初の声と姿で失礼する、天帝竜とその竜石保持者よ。我が名はアルトリウス。ユニオス帝国を統べ、執る者だ』


 目の前には――ホログラムではあるが――本物の皇帝陛下が座っている。

 彼が放つオーラは映像越しにでもビシビシと伝わる。これが皇帝の、人を統べる者の霊威か……!。

 皇帝は皺の寄った頬を歪ませ、宣う。


『役者は揃った。さあ、作戦会議を始めようか!』

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