第43話 獄炎揺動
この時間帯じゃ呼んでくれる人も少なさそうだなとか思いながら投稿。
漸くドラクエ11の表面をクリアできたので、今回は早く仕上がりました!
それにしても炎キャラって案外表現しづらい。応用利かせづらいし。
再び時間を遡って数十分前。
ヒロとイリスは溶岩道の中間で獄炎竜の対策のため、己の能力について教えあっていた。
「私は主にこの大剣、“巨神の短剣”で戦う。これは遥か昔、巨神族のキュクロプスが怪物の骨から造った武器。所持者の心を読み取って、それに適した形に変わる。私はこの大剣と私の固有能力“大剣聖”を用いて戦っている。技能はさっき見せた“千剣万壊”ともう二つ、奥の手を持っている」
「なるほどなるほど……。で、その奥の手って?」
「悪いけど、こればかりは……。もし獄炎竜との戦闘でやむを得ない状況に陥ったら遠慮なく使うけど、それまでは内緒にさせてほしい。あくまで、“奥の手がある”ということだけ覚えておいて」
「そうか。気になるけどしょうがないか」
イリスの言う奥の手。どのようなものか皆目検討が付かないが、下手に訊いて信頼を失う訳にはいかない。それはヒロも心得ていた。
「それで、あなたは?」
「ん、ああ。僕の武器はこのグラディウス。コイツは魔力伝導性が高く、様々な魔導を込めることができるんだ。他には着火とショック、それとショックを応用したショックインパクトとショックスラッシュ。あと、影魔導を応用した影の鎧“シャドウスーツ”。そして、強力な力を得る代わりに暴走の危険がある“鬼人モード”。これが僕にとっての奥の手だ」
「随分多いね」
「そうか? 知り合いには剣を千本使うやつや、あらゆるスキル、魔導を覚えているやつもいるけど」
「いや、普通その人たちの方がおかしい」
「ふーん、そんなもんか」
そこまで実感がないようにヒロは呆けた顔で生返事をする。
暫く埴輪のような間抜け顔でいたが、何を思いついたか、突如頭の上に電球でも点いたかのような閃いた顔に変わる。
「そうだ!! 早速作戦を思いついた!!」
「……なんとなく嫌な予感がするけど、一応聞かせて」
「聞いて驚くなよ? 先ず僕の鬼人モードと君の奥の手を使う」
「うんうん」
「そして、全力でヴァニファールを叩く。以上!」
「うんう……ん?」
「名付けて“ガンガンいこうぜ作戦”、プランGだ!!」
「……………」
子供でも考えつくような作戦の説明を終え、得意げな顔をするヒロ。
対象的にイリスは冷めた目で彼を見つめている。
「……まあ、すごく安直な作戦だけど、ドラゴン相手には案外いい作戦かもね」
「やっぱり? いやー、最初は搦手とか使ってーみたいな作戦を考えていたんだけど、やっぱ正面からの方が―――」
「但し、それはあくまでも最終手段。最初から奥の手を使っていたら、こっちの身が持たない。次は真面目な作戦を考えて」
「……ハイ」
肯定したものの、やはり彼女はこの力任せの作戦には抵抗があったようだ。
彼女に気圧されたヒロは已む無く他の作戦を考えることとなったのだ。
しかし、この時の二人はまだ、その“最終手段”を使うことになろうとは知る由もなかった。
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時間は戻り現在。
ヒロとイリスの目の前には怒髪天を衝くような形相の獄炎竜が立ち塞がっている。
そして、その怒りに応じるように、二人もその二つの瞳に赤を灯し、全力を曝け出す。
(奥の手其の壱“紅艶血相”。使うかもしれないとは思っていたけど、こんな早くとはね)
イリスの技能“紅艶血相”。これは彼女の一族、ハン族に伝わる秘技である。
元来、高い身体能力を有すハン族は、自身の身体を思いのままに動かすことができた。その中でも一部の才ある者は、臓器でさえ意識的に動かせたという。
我々の臓器、特に心臓は我々の意識の外で常に活動を続けている。我々がどんなに心臓を意識を向けても、心臓は遅くも速くもならない。
しかし、ハン族の限られた人間にとっては、そんなことは造作もない。
そう、つまり紅艶血相とは自身の心拍を意識的に速め、身体能力を底上げするスキルなのだ。
紅艶血相を発動した者は、目が充血し、虹彩の奥の血管が透けて見え、瞳が赤くなったように見える。体中の血管が浮かび上がり、皮膚は毛細血管の血の色で赤らむ。その見た目からその名がついたのだ。
しかし、この技にも欠点はある。
無理矢理心臓を動かすわけだが、心臓が速く鼓動すると当然苦しくなる。筋肉はいつもより何倍も酸素を供給され二酸化炭素を放出する。言ってしまえば常に全力疾走しているようなものだ。それで身体が持つはずもない。
加えて、体内の血圧値はグンと上がるため、毛細血管や臓器の破裂のリスクも高い。傷を受ければいつも以上に血は体外へ溢れる。
このスキルの欠点、それは持続しないということと反動が大きいということだ。
(この状態を保っていられるのは、長くても十分。それまでに決着をつけないといけないんだけど……)
チラリと横を向く。そこには影の甲冑で身を包んだヒロがいる。
今、彼は自身にとっての諸刃の剣“鬼人モード”を展開している。
今のところ荒ぶる感情に囚われ暴走していないが、それもいつまで続くかわからない。実際、今も自身から溢れ出る力と感情に飲み込まれそうなところを、なんとか抑えて立っている。
〔私がこう言うのもなんだが、本当に鬼人モードを解放してよかったのか?〕
(ああ、そうでもしないと獄炎竜には勝てない。それに、もし俺が暴走した時の善後策が、鎧だろ?)
ヒロを包む影。それは今までの“シャドウスーツ”とはまた違ったものだった。
影は彼の頭の頂から足の底までくまなく覆っている。その見た目は東洋の武者を思わせる。額から鬼を模した一対の角。肌に張り付いていたシャドウスーツとは違い、今度の物は立体感があり未然に攻撃を防ぐ役割を果たしている。
しかし、この鎧は身を守るためではない。本当の役割、それは暴走してしまった自分を抑えつけるための“拘束具”なのだ。
(これは衣とは一線を画す。言ったところ、“シャドウアーマー”かな?)
〔……前から思っていたが、君は少々ネーミングセンスが幼稚すぎる。影の鎧なんてそのままじゃないか〕
(むっ……。それならお前は良い名前を付けられるのかよ?)
〔勿論だ。そうだな………この鎧はまるで黒塗りの漆のようだ。そこから取って“黒漆甲”なんてどうだ?〕
(厨二病ネームじゃねえか!? 却下だそんなもん!!)
〔なっ!? それでもシャドウアーマーよりマシだろう!?〕
(いーや! クロウルシノカブト?の方が無いね!)
〔なんだと!? なら他の奴に決めて貰おうじゃないか!〕
(ああ、良いとも。絶対俺の案の方が良いと思うけどな!)
黙っていたヒロが突然イリスの方に首を向ける。
こっそりと見つめていた彼女はその行動にほんの少し吃驚した表情を見せる。
「イリス! この鎧の名前なんだけど、“シャドウアーマー”と“黒漆甲”、どっちが良いと思う!?」
「どうでもいいよ、そんなこと」
下らない漫才をする二人。すると、二人の間を割くように猛火が入り込んできた。
猛火が出てきた方向を見ると、心なしか先程より三割増しで怒りを表す獄炎竜が残り火をその口から漏らしていた。
「技の名前より、まず獄炎竜を倒す方が先決でしょ!?」
「それもそうだ」
獄炎竜が連続して火球を吐く。降り注ぐ炎の雨の中、二人は出来得る限りの身体能力を総動員させこれを避ける。
しかし、それも長くは続かないだろう。ヴァニファールの火球は岩をも灼き得る高熱の炎だ。そんなものが降り注ぐ中、気温は当然上昇する。その中を動き回るヒロ達は、言うなれば蒸し焼きにされるハンバーグの肉の様なもの。早急に何とかしなければ、死あるのみだ。
とはいえ、ヴァニファールもそう簡単に近付けるほど甘くはない。火球の弾幕は獄炎竜に近付くほど濃くなっている。怒りで我を忘れていようとも、本能に身を守る術は刻み込まれている様だ。
「クソッ! まともに近付けやしない! このままじゃローストされてお陀仏だ!」
「……ヒロ、ここは私が活路を開く。あなたは下がってて」
「ちょっ!? 待て―――」
ヒロの制止も間に合わず、イリスはまっすぐと火炎が降り注ぐ獄炎竜の元へと向かう。
幾つもの火球が彼女の真上に迫る。しかし、これを難なく躱す。
ヴァニファールも彼女の動向に気付いたのか、火球を吐くのを一度止める。そして大きく息を吸い込み、今度は火炎放射器のような炎の息を出してきた。
眼前に迫る炎のカーテン。大きく広がったそれは、上にも横にもイリスに逃げ場を与えてくれない。
誰が見ても次の瞬間には炭化した少女の姿を想像するだろうその光景。
だが―――一閃。夜の闇を切り裂く流星のような一閃。それが炎の布地の上を走る。
奇天烈なことに、炎はそこを境に真っ二つに両断された。
(炎を……切った!?)
〔恐らく彼女の固有能力によるものだろう。だとしても、これには流石に吃驚した〕
固有能力“大剣聖”
英雄級の一人であり勇者候補でもあるジークは、あらゆる武器を存分に扱える能力“剣聖”を持っている。“大剣聖”はそれ以上だ。
伝承にすら登場するこの固有能力は、全ての武器を使うことができ、剣を持てば切れぬもの無しと謳われている。
多彩な剣は必要ない。数多のスキルも必要ない。彼女の一族の身体能力、天性の固有能力、無双の大剣。これらがあれば竜など恐れるに足らず。
「喰らえっ!!」
「グオォオッ!!」
イリスの大剣とヴァニファールの爪がぶつかり合う。その時の衝撃たるや、下方のマグマが波打ち、彼らがいる位置まで雫が跳ねる程かと思えた。
その強力な競り合いに勝ったのは―――
「キャァッ!」
ヴァニファールの方であった。
吹き飛ばされた彼女はなんとか空中で体勢を立て直し、大剣を地面に突き立てスピードを殺す。
顔を上げる。その顔は額から流れる血でベットリと濡れていた。
(傷はその部分に力を入れることで止血できる。でも、このままだと正直持たない。活動限界時間はあと七分弱。躊躇している時間は、ない)
正面を睨む。そこには次の攻撃に備える獄炎竜の姿がある。
大きく開いた口の前には、先程より五倍近く巨大な火球が形成されていた。その温度も先程のものとは段違いに高いだろう。
イリスは迎え撃たんと大剣を構える。その時だった。
「ショックインパクト!!」
突如、砲弾が如き勢いで獄炎竜に向かう黒い影があった。その正体はヒロだ。
彼は自身の右の拳に光を宿し、それをヴァニファールの頬にぶつける。
光が破裂した。光とともに衝撃波が獄炎竜の頭を揺るがす。
形成されていた特大火球はヴァニファールの集中が切れたことによりその絶妙なバランスが崩れ、彼の目の前で暴発を起こした。世界を燃やし尽くせるという獄炎竜。彼の業火は己の身をも焦がすほどであった。
間一髪爆発から逃れたヒロは一度イリスの元まで後退する。
「っつー、やっぱ硬えな。こりゃ長丁場に……って、めっちゃ血出てんじゃん!? 大丈夫かイリス!?」
「もう血は止まっている。それより早急に片付けよう。私の“紅艶血相”は長期戦に向かないから」
「そういうことならのんびりしてられないな。じゃあ早速、ブチかましましょうか」
「言われずとも」
爆炎による土煙が晴れ、身を焦がした獄炎竜が姿を現す。
自身の火球に灼かれてもなお、ヴァニファールの瞳には依然怒りの灯火が宿っている。
「グオオォォォォァァアアアア!!!」
再三咆える。それは怒りによるものか、興奮によるものか。それすらも分からぬほど、その咆哮は野獣じみていた。
既に竜としての矜持をも捨て、彼はただの怒れる獣へと成り果てていた。
再び、その怒りを体現したかのような炎を吐く。炎はうねりを上げ、進行上の一切合切を燃やしながら二人の元へ迫る。
しかし、切断。
イリスが白亜の大剣を振るい、炎の壁に穴を開ける。
そこから二人が白と黒の残像を残しながら、ヴァニファールの元へ高速で向かう。
二人は分かれて波状攻撃かける。ヒロを狙えばイリスが、イリスを狙えばヒロが、ヴァニファールの死角から攻撃を浴びせる。
怒涛の連続攻撃。これには流石の獄炎竜も膝を地につけた。
(……! 効いている!)
(これなら、勝てる!!)
僅かな勝利の確信が微かに顔を覗かせる。
その淡い期待に心を委ねかけた。だが―――
「グォォオオオオォオォオオンン!!!」
高らかな咆哮とともに獄炎竜の鱗は輪郭を喪い、チリチリと陽炎のように揺らめき始めた。
次の瞬間、獄炎竜の燃える表皮が膨張し、太陽のような金色の巨大な火の玉へと変貌する。
燦々と輝く太陽は己のみならず周りのものを焼き尽くし、足元の岩盤を融かし蒸発させる。
その高熱域から少し離れたところに直径二メートル程の黒い球体が転がっている。球体の表面には高熱の影響による炎がこびりついていた。
すると突然、その球体が弾けた風船のように割れた。中から出てきたのはヒロとイリスだった。
獄炎竜が火球に姿を変える直前、ヒロは影の腕を伸ばしてイリスを引き寄せ、素早く影のシェルターを構築していたのだ。
とはいえ、防いだとて太陽のような高熱の火球のすぐそばにいたのだ。彼らの負ったダメージは大きい。
(九死に一生、ってやつだな)
〔あまり無茶をするな。君は私にとって大切なに………〕
(……? “大切な”……何?)
〔……大切な仲間だ。死ぬようなヘマだけはするな〕
(へいへい、分かってるよ)
目の前の太陽は未だ燃え盛っている。
この状態はヴァニファールにとって絶対的な防御形態であるのだろう。攻撃することはおろか近付くことすらできない。
加え、太陽は酸素を食い周りの温度を急激に上げている。放っておけば、数分の内に酸欠か高熱で死んでしまうだろう。
「死ぬようなヘマをするなつっても、これは流石にお手上げだな。イリス、どうにかしてアレを斬ることは出来な―――」
イリスに頼ろうと彼女に視線を向ける。しかし、生憎と彼女に頼ることは出来なさそうだ。
彼女は穴という穴から血を滴らせながら大きく息を乱していた。目からは血の涙を流し、大量の鼻血を地面に落とし、呼吸する度湿った咳とともに吐血する。
明らかに異常な事態にヒロは困惑した。
「イリス!! どうした!? 大丈夫か!!?」
「……ば…かな。早す……ぎ、る……ゴホッ。まだ……五分は、ゴフッ…あるはず……なのに。」
イリスは自身に起こったことに驚愕しているが、こうなるのは必然であった。
今の火山内部は超高温状態にある。そのような空間に人間が入れば、サウナ同様汗を大量にかき体内の水分の低下、血圧の上昇に繋がる。
元々、イリスの“紅艶血相”は自ら血の巡りを高め、身体能力を底上げするスキル。代償は高血圧による危険性の上昇。
二つの条件が重なったことで彼女の血管は限界を迎え、鼻や目、気管支などの毛細血管が破れたのだ。
「取り敢えず一度溶岩洞の方まで撤退しよう!! このままじゃ二人とも蒸し殺される!!」
「ダ、メ……ゴフッ。逃げたら……そこ、で、試練は…失敗。もう……コハッ……チャンスは、ない」
「試練なんてもう関係ないだろ!! 当の獄炎竜があんな状態じゃ無理だって!!」
二人が言い合っていると、太陽の方に変化があった。
太陽は輝きを失い始め、段々と萎んでいく。終に獄炎竜が丸々入るほどになると、まるで雛鳥が卵の殻を破るように炎が散っていく。
その中から現れ出たのは、当然が如くヴァニファールだった。彼は余裕を表すかのように、高熱で窪んだ岩盤に足を下ろす。
「クソッ、舐めてくれやがって。俺達を葬るのに茹でる必要もないってことか!」
「ハァ……ハァ……。ヒロ……私は、大丈夫だから……下がっ、てて」
「大丈夫なわけあるかよ! 俺が何とかするから、お前は隠れてろ!!」
「でも―――」
「いいから!!!」
ぶつかり合う二人の気持ち。そんなことは構いもせず、ヴァニファールは口に炎を溜め、吐き出す。
再び業火が二人に襲いかかる。今度は断ち切って回避することもできない。
「クッ……ソォッ!!」
ヒロは眼前に巨大な分厚い影の壁を作る。
火炎は壁にぶつかり、右へ左へと逸れていく。
これでひとまずは焼き殺される心配はないが、それもいつまで続くか分からない。
壁の後ろにいたとしても、その高熱は二人を包んでいく。
(クッ……! 今のうちに何か考えないと……!)
〔なるたけ早々に頼む! この壁も長くは持たないぞ!!〕
(一々言わなくても分かってる!!)
ヒロはどうにかして起死回生の策を練る。しかし、ヴァニファールはそれを許してくれない。
徐々に、だが確実に炎の温度が上がっていく。それに合わせ炎の色が赤から黄へと変化し、白となり、最終的にガスバーナーのような青へと変色する。それに伴い、炎の勢いも増し、炎の太さも次第に細くなる。それはもう炎と呼ぶより“プラズマ”と呼べるものとなった。
これこそ天帝竜の雷霆と並ぶ獄炎竜の竜位魔法“劫火”だ。
これをいち早く察知したヒロはイリスの手を引き、影の壁を残して付近の岩陰に身を隠す。
劫火の威力は凄まじく、厚い影の壁を豆腐に針を刺すかのように貫通し、火山の内壁をも穿つ。劫火が通ったあとは全てが蒸発し、その周りも蒸発・融解した。
その見た目に反し、まるで極太のレーザーでも撃ったかのような風穴が火山に新しく出来てしまった。
「冗談じゃない。こんなものまともに喰らえば、燃えるどころか火山の染みになって完全消滅だ」
劫火の威力に恐怖しながらも、ヒロの頭は生き残るためにフル回転を続けている。
ふとイリスに目を向ける。彼女の流血は既に止まっているが、まだ息は乱れておりこれ以上動くことはできなさそうだ。
影で防ぐ手も、劫火の前では意味をなさないだろう。
どんなに知略を巡らそうとも、最終的に待っている答えは同じ“死”だった。
そのことを見透かすかのように、死神の足音にも等しい大きな足音が近付いてくる。
岩陰から顔を覗かすと、ヴァニファールが一歩、また一歩と着実に近付いてきていた。
恐怖から呼吸と鼓動が早くなる。様々な考えや思いが泡沫のように現れては消えていく。
遂にヴァニファールはヒロ達の目と鼻の先まで来てしまった。そこで漸くヒロは自身の死に直面した。
(……紅蓮、俺達はもう駄目みたいだ。おかしな話だけど、人生二度目の死が竜に殺されるなら、悔いはないように思えるよ)
〔何を諦めている!? まだ希望を捨てるな!〕
(いや、流石にこれはもう無理っしょ。絶望感ヤバすぎてなんか笑えてきた)
獄炎竜がその口を開く。その中の赤い灯火は次第に青い光へと変わる。劫火だ。
イリスは未だ抵抗しようと体を動かそうとするが、無理をきかせた肉体はその要望に応えることが出来ずピクピクと痙攣するのみだった。
ヒロはと言うと、ギロチンを降ろされる寸前の死刑囚のように死を悟った潔い顔をしている。
獄炎竜の方も死刑執行の準備は整い、あとは発射するのみとなった。
〔チィッ! 些かまだ早すぎるが仕方ない。ヒロ! そのか―――〕
バチチッ
紅蓮が何か言いかけた、その時、ヒロの胸元から火花のようなものが散る。
次の瞬間、バチバチッという激しい音を立てる雷電がヒロの服の胸元を突き破り、獄炎竜に襲い掛かる。獄炎竜も咄嗟のことで判断が追い付かず、避ける間もなく電撃の餌食となった。
低い絶叫を発しながら苦しむ獄炎竜。電撃によりその身体は自由を失い、麻痺している。
直前まで死を覚悟していたヒロだが、まだ未練があったのか、この隙に生きる為の行動を起こす。すぐさまイリスを連れ別の岩陰に避難する。
(た、助かった……。しかし、今のは一体……?)
〔胸元を見てみろ。そうすれば自ずと答えは見つかる〕
(胸元?)
ヒロは自身の胸元を見てみる。
破れた服の中には、依然天帝竜ライディンから譲り受けた銀製の十字架のネックレスがかかっていた。
(これは……確かライディンの)
〔恐らくだが、その首飾りはこの少女が言っていた“竜石”なのだろう。それに籠もっていた竜の魔力が獄炎竜に反応し、その片鱗を見せたのではないか?〕
(なるほど。もし今度ライディンと会う機会があれば礼を言っておかないとな)
岩陰から再びヴァニファールの様子を伺う。
彼はまだ電撃の痺れから解放されてはおらず行動不能に陥っている。しかし、意識は明瞭であるようで、こちらをしっかりと睨んでいる。
ヴァニファールの麻痺が取れるまであと何分か、いやあと数秒かもしれない。どちらにせよ、麻痺が無くなったと同時に奴は再び襲い掛かってくることだろう。
「しっかし、どうしたもんか。攻撃しようにも、また太陽のような状態になれば攻撃できないし。かと言って防戦一方じゃ、あの劫火に消し飛ばされるし。溶岩洞や火口、アイツが風穴から逃げようにも、あの調子じゃ地の果てまで追ってきそうだな」
正に八方塞がり。攻撃も防御も逃走も簡単にはさせてもらえない。
やはりこのまま死を待つしかないのだろうか……?
「…ヒ、ロ……」
「! イリス、まだ無茶をするな! 大丈夫、ここは俺が―――」
「違、う……。よく…聞いて。私に……策が、あるの。……一発逆転の、策が」
イリスが言う一発逆転の策。それは一体……?
イリスのスキル“紅艶血相”の説明をしていて気付いた。これワ〇ピースのギア〇カンドじゃん!!




