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村人Aの異世界叙事詩  作者: ユッケ=ビビンバ
第三章 災いの詩〜双竜覚醒編〜
42/120

第42話 炎龍演舞 開幕

運動不足でブクブクと太ってきている今日この頃。

運動もせず食べてばっかで、肥満に拍車がかかっております。

私もヒロみたいに転生してイケメンになりたい。

 ヒロとイリスが火山内部で獄炎竜との遭遇を果たすその少し前、ヒロとはぐれてしまったユーリ達とディカプラ率いる帝国騎士分隊はニアポリの街に戻ってきていた。

 遡ること数時間前、ヒロが溶岩洞に生き埋めにされた後、取り残されたディカプラ達アルファチームは白コートの集団と衝突。二時間に渡る乱戦の後、甚大な被害を受けた騎士隊は撤退を余儀なくされた。

 そして今に至る。


 彼らが泊まる宿から突如怒声と机を思い切り叩く音が聞こえてきた。


「なんっっっで!! 助けにいっちゃ駄目なんだよ!!!」


 怒声の主はユーリだった。

 彼女は普段とは打って変わり、恐ろしいまでに怒りの表情を顕にして、机を挟んで煙草を吸っているディカプラに抗議を申し立てる。

 彼は煙草の先端の火を赤らめ口の端から煙を立たせた後に、ゆっくりと面倒臭そうに説明し始める。


「だから何度も言ってんだろ。この場での最高責任者である俺が危険だと判断したからだ」

「ヒロの方がもっと危険だよ! あいつは今竜が巣食う火山に閉じ込められているんだよ!? それにあそこには“七つの美徳”の構成員もいる……。今すぐにでも助けに行かないと……!」

「その一人を助けるためにより多くの犠牲を払えと?」

「違う! そういうことじゃ―――!」

「そういうことだろ、お前が言いたいのはよ。お前はあそこにいる手負いの騎士達に『仲間を助けたいから鞭打って危険に飛び込んでください』って言いたいんだろ、違うか?」


 そう言ってディカプラは親指で奥の部屋を指差す。

 そこには負傷した騎士が数人、呻き声を上げながら横たわっている。

 その光景にユーリも流石に何も言えなくなってしまった。


「……ユーリちゃんの言いたいことは分かっているつもりなのです。私達も市民を守るのは責務なのです。だからといって、そのためにいたずらに被害を増やすわけにはいかないのです。キッドちゃんもそのつもりで言っているのです」

「……お前にはただの言い訳にしか聴こえねえだろうが、敢えて言わせてもらう。今回は()()()()()()()。あの白コートのガキ共の正体は恐らくハン族だ。今の状態で行っても勝ち目はない。当然、お前一人で行ってもな」

「うっ……うぅ………」


 二人の聖十二騎士ゾディアックに諭され、ユーリは更に閉口を余儀なくされた。

 彼らの言う事は実に尤もだ。そんな事は頭で理解していても、どうも心が納得いっていない様子だ。

 下唇を噛み無理矢理耐えている彼女に対し、その一部始終を眺めていたクリス達が話し掛ける。


「ユーリ様、ここは耐え忍んでくださいませ。それに何もまだヒロが死んだとも決まったわけではありませんし」

「クリスの言う通りだ。あいつがドラゴン程度で死ぬタマかよ。危険な目にあったって、なんだかんだ無事に生き残るのがヒロの取り柄だろ。だから、信じて待つしかねえよ」

「…………うん、そうだね。今喚いたってどうにもならないよね」

「ゴウラも言っていたように、彼が無事であることを信じるしかないわ。それよりユーリ、アナタは今日一日気を張りっぱなしだったでしょ? もう遅いし寝たらどう?」

「……分かった、もう休むよ。また明日、皆」


 そう言うとユーリは宿の奥へと消えてしまった。

 彼女が部屋に戻った後、残った者達は暫く口を利かず俯くままだった。

 その状況を憂えたのか、ディカプラは素っ気ない態度で口を開く。


「……エラ、ブラボー班(そっち)でも白コートの集団が現れたと聞いたが?」

「そうなのです。こちらの白コートもそっち同様、身長からして十代前半だと推測できるのです。数は七人。全員が大人と渡り合える実力の持ち主だったのです。しかし、こちらが撤退するやいなや攻撃をピタリと止めたのです」

「その点ではコッチもおんなじだな。奴らはどうも俺達を火山の中に入れたくないらしい」


 そこまで言うと、ディカプラは限界まで吸いきった煙草を吸い殻の墓場と化した灰皿へと突っ込み、潰れた箱から新しく煙草を取り出し火を点ける。紫煙を肺いっぱいに吸い込み、吐き出す。

 外へ放たれた煙は彼の視線の上、ヴォルビオ火山の火口に重なりながら暗い空へ昇って消えた。


「……嫌な予感がするな」

「……それは“ヒロが”ですか? それとも“竜が”ですか?」

「そのどちらか、もしくはその両方。どちらにせよ、何か良くないことが起きるのは間違いねえだろうな。俺の勘はよく当たる。……悪い勘は特にな」


 すると突然、まるで示し合わせたかのように地面が振動を始めた。

 それはディカプラの話に大地が応じてくれたように感じさせる。

 応答は小さく短く、すぐに揺れは収まった。


「嫌な予感って地震コレのことか?!」

「さあな。……これだけで済んでくれると、実に助かるんだがな」


 地震の発生源と思しき火山を再三睨む。

 山はいつの間にか鈍い赤を灯し、黒い噴煙を空へと伸ばしていた。その黒煙は不思議と開戦の狼煙を思わせた。






「グォォォォオオオオオオオオ!!!!!」


 獄炎竜が吼える。それに呼応してマグマは流動し、火山は唸りを上げる。その様はまさに小さな噴火のようだった。

 嘗ての天帝竜は強さの中に完成された美と荘厳さを与えたが、この獄炎竜ヴァニファールは暴力的なまでの敵意をぶつけてくる。これが竜本来の威圧感か……!


 獅子の咆哮より恐ろしき轟音が止む。

 すると今度は偉大なる竜の誇りを持った威厳ある声で話しかけてくる。


「……すまないな、人間。突拍子もないことで取り乱した。して、先程は何と言ったか」


 とぼけているのか。それとも目の前の人間、ヒロとイリスにもう一度だけ機会を与えているのか。自身に向けられた言葉を繰り返すように告げる。

 彼らはそれに応え、各々の剣をヴァニファールに向けて再び宣言する。


「我、汝の力を欲する者」

「我、汝を遣うに値する者」

「「怒れる火炎の竜よ、我等に竜石の試練を与え給え!!」」




 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 時間は逆行して数十分前。溶岩洞の中間に二人はいた。

 彼らは来たる獄炎竜との戦闘のため、作戦を立てていた。


「―――“竜石の試練”?」

「そう。人間は竜に挑むには脆弱すぎる。そのために竜が情けで提案した試練、それが“竜石の試練”。これを獄炎竜ヴァニファールがのんでくれれば、勝てる可能性が上がる。グッと」


 “竜石の試練”

 それはかつての大昔、千国時代キーリアーキと呼ばれる戦乱の世を極めた時代、多くの国々が自らの国の繁栄のために力を、武を求めた。

 ある国は鉄を鋳造し、ある国は戦車を開発し、ある国は魔獣を飼いならし、ある国は魔法を究めた。

 そしていつしか、全ての国がある一つの力を求めた。それが竜の力だ。

 しかし、竜と人間との実力差はそう簡単に覆せないほど歴然としている。その実状にある竜は憂い、ある竜は面倒になったという。

 そこで竜達は自分達の実力に見合う者を選定する方法を考えた。その方法こそ“竜石の試練”である。


「それで、ヴァニファールが試練に応じてくれたとして、本当にどうにかなるものなのか? それに試練の内容は? そもそも、もしヴァニファールが断ったらその後はどうするつもりなんだ?」

「分からない、と言うしかない。これは賭け。それもかなり大きく、危険な賭け。勝てば竜石。負ければ、死」

「……降りること(フォールド)は?」

「勿論無理」

「ダヨネー」


 火山からの脱出には獄炎竜との戦闘は必至。それは二人とも承知の上だ。

 しかし、それでも二の足を踏むほどこれは危険な策である。


(……どうする? 紅蓮)

〔彼女が言ったとおり、この賭けの代償は甚大だ。通常なら他の策を講ずるべきだろう〕

通常・・じゃなかったら?)

〔……私が考えうる限り、ある状況下である作戦を用いれば、それで漸く五分と五分〕

(よし、それで十分だ!)


 改めてイリスの方に向き直る。

 その表情はいつもの彼とは違い、少し格好をつけたかのような自信に満ちた笑顔だ。


「イリス、その案で行こう!」

「……提案者である私が言えることじゃないけれど、あなたは本当に良いの?」

「それしか方法がないんだろ。それに僕に考えがある」(と言っても、紅蓮が立案してくれたんだけどな)


 かくして対獄炎竜の算段はついた。

 しかし、この策が功を奏すか……。それは運命の女神にしか知り得ない。


 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




(しかし、改めて考えてみると随分と無茶な賭けに乗ったもんだ)

〔とはいえ、これ以上に最適な方法なぞない。それに既に宣言した後だ。覚悟を決めろ〕

(分かってるよそんぐらい。それに断られた時の善後策も考えてあるんだろ?)

〔勝てる見込みはより少ないがな。それでもやるしかないだろう〕

(……そうだな。男は度胸! 当たって砕けろだ!)


 これから起こる激闘のため褌を締め直す。

 その間にヴァニファールの方も返答は決まったようだ。


「…………クハ、クハハハハ!! この俺様も嘗められたものよ。このような人間のガキ二人に闘いを挑まれるとはな。……良いだろう。若かろうと少なかろうと試練は試練だ。獄炎竜の名において手前らの挑戦を受けてやろう」


 その言葉に二人は『しめた!』とでも言わんばかりの表情を見せる。

 しかし、彼らの顔にはやはり恐れと緊張が表れている。

 比べ、ヴァニファールは未だ舐め腐った余裕の面を晒している。


「さて、試練の内容だが……俺様の力を使う資格のある者は“強き者”のみ。よって俺様は手前らの強さを試す。具体的に言えば、俺様の頭に一撃(・・)加えてみせろ」

「……たった一撃、だけ?」

「そうだ。頭部へのたった一撃、それだけで良い。加えて優しい俺様は手加減して相手してやろう。……ククッ、我ながら何と慈悲に溢れた試練なのだろうか」


 この竜の言う事はかなり自惚れと慢心に塗れているが、実質これ以上の好条件はない。

 この条件と既に用意していた策を用いれば、勝てる見込みはほぼ百パーセントと言っても過言ではなかろう。


〔これほどの機会、そうそう出会えないぞ。ヒロ、ここは下手に出てあのバカトカゲを煽てるんだ。もしかすれば、より良い条件を出してくれかもしれないぞ〕

(言われずとも)


 思わず零れそうになる笑みを必死に抑え、目の前のドラゴンに畏まった礼を申そうとする。

 しかし、それよりも早くヴァニファールに申し上げる人物がいた。


「手加減なんかしなくていい。私は本気のあなたと戦っても勝てる」

「!?……!………ッ!?!?」

「……………ほう、これまた威勢のいい」


 ふんすと口をへの字に結び、睨みつけながら大剣の切っ先を竜に向けるイリス。その闘志を向けられてもなお小馬鹿にしたようにほくそ笑むヴァニファール。そして目と口を大きく開けた顔で二人を交互に見るヒロ。

 全く別の三つの感情が混ざりあった空間が、少しの間続く。


(どうして僕の周りには無謀な女子しかいないんだ!!)

 〔ここまで来ると、それが君の運命だと言うしかないね〕

(チクショウメェ!!)


 心が下のマグマように煮えたぎり、額に青筋ができそうなほど怒りの感情を顕にするヒロをよそに、二人は自分たちの空間に入り込んでいる。


「白いの、随分と自信有りげだな」

「当然。私はあなたより強いもの」

「……くくく。これまた、大きく出たな。しかし俺様がこれ以上人間の言うことを聞く道理はない。手前らなぞ加減してようやっと勝利の希望が顔を覗かせる程度よ」


 余程の自信なのだろう。余裕綽々に、大胆不敵に、そう言ってのける。

 その態度にイリスはムスッと不満げな表情を見せ、ヒロは心の何処かで安心したのか顔の緊張が少し和らいだ。



「さて、話はこれくらいで良いだろう。下らん人間と語り合っても、俺様には何の得もないからな。先手は譲ってやる。さあ、何処からでもかかってくるが良い」


 慢心しきったヴァニファールは一流のホテルマンの心遣いのように、態々勝利条件である頭を前に出してくる。

 これは挑発か、それとも罠か。どちらにせよ、無闇にこの気遣いに便乗するのは迂闊だ。

 相対する二人もそう判断したのだろう。二人とも動こうとせず、ただじっと攻撃の機会を伺っている。


「……どうした? 来んのか? この俺様の厚意を足蹴にしようというのか!?」


 流石怒れる竜と呼ばれるだけはある。

 徐々にだが、ヴァニファールの瞳に怒気が籠もっていくのがありありと見て取れる。

 そのことを察知した二人の額には熱気によるものとは別に、大粒の冷や汗が引っ付いている。

 このままでは危険だ。そう判断したのか、ヒロは焦り気味に行動を起こす。


「言われずとも……今やってやんよ!!」


 左足を一歩前へ出し、ヴァニファールに向かって掌を突きつける。

 すると掌に煌々と光が宿り、その光は中央の一点に収束していく。


「ショック!!!」


 今、掛け声とともに光球が獄炎竜に放たれる。

 放たれた光球は真っ直ぐと竜の鼻先へと飛んでいく。

 そして、破裂した。



 キィィィイイイイインッッ!!!


 甲高い音と強烈な光がその場にいる全員を包む。

 閃光と高音の空間は僅か一秒と短い間だけ続き、そして光が明けた。


「……何かと思えば、ただの目くらましか。そのような猪口才な小細工など、この俺様には効かんわ!!」


 そう豪語するヴァニファールの瞳は真っ黒に変色している。その様はまるでサングラスでもかけている様だ。

 いや、この表現は“まるで”ではなくしっかりと的を射たものであった。


 魚類以上の多くの生物の目には“瞬膜”と呼ばれる器官が備わっている。但し、哺乳類の多くは痕跡器官としてしか残っていない。

 役割としては乾燥を防ぐ為、埃などを目に入れない為などがあげられる。

 しかし、獄炎竜の場合、そんなちゃちな理由であるわけではない。マグマの中を潜行したり、劫火を吐く彼には、黒く変色したこの瞬膜はそれらから目を守るために進化を遂げてきた。

 要は彼にとっての瞬膜とは、目を保護するためのゴーグルであり、遮光用のサングラスでもあるのだ。


「大方、俺様の目を潰し、その間に一本取る算段だったのだろう。甘い、甘いわ!!」

「クッ……! クッソォ!!」


 策が効かずヤケでも起こしたのか。ヒロは効きもしないショックを我武者羅に撃ち続ける。

 だが、瞬膜を張ったヴァニファールには当然効くはずもない。彼のこの行動は“愚行”と言って然るべきだ。


「クハハッ! 無駄よ無駄よ! 蛮勇とはこのことだな、人間!!」


 腕を振り上げ、降ろす。そんな猫が玩具で遊ぶかのような単純な動きでさえ、相手が竜となると致死の一撃に成り代わる。

 その竜の一撃を間一髪のところで避ける。直後、腕が振り下ろされた箇所にまるで爆発が起きたかのような振動が響く。

 見ずとも音だけで分かる。こんなものを喰らえば、いかなる戦士であろうと木端微塵にされるであろう。

 ヒロもそれを理解したのだろう。額の冷や汗は脂汗へと変わり、瞳には恐怖の色が宿っている。

 その上で彼はショックを放ち続けている。ヴァニファールの攻撃をすんでのところで回避し、強さも継続時間も不規則な光球をやたらめったらに撃つ。


「どうした!? この俺様に挑みに来たのであろう!? それとも笑かせに来たのか? ならその望み叶えてやる。クハハハハハ!!」

「……僕がただ逃げ回って、目くらましだけしていると思うのか?」

「ハン、その通りであろう。事実、手前は逃げ回っておるだけではないか」

「なら、もう一人はどうしてい(・・・・・・・・・・)()と思う?」

「……なに?」


 そこで漸く気付く。そう、イリスが(・・・・)居ない(・・・)のだ(・・)

 ヴァニファールはヒロの行動に気を取られ、あの白い肌の少女のことが頭から抜け落ちていたのだ。

 辺りを見回す。しかし、黒いフィルターのかかった彼の視界には、その少女が写らない。


「おや? 分からないのか? ならその瞬膜いろめがねを外してみたらどうだ?」

「……ッ! 調子に乗るなよ、人間風情が!! 白いのは俺様に恐れをなして逃げたに違いない。それよりも心配するのは手前の方だ!!」


 再び腕を振り上げ、その掌を矮小な人間に向かい振り下ろす。人間も今度こそ諦めたのか、動こうともしない。

 まるで人が蚊を煙たがり叩き潰す。それと同じ心情で獄炎竜は人間を叩き潰そうとする。


 ―――その時だった。目の隅で光球が僅かに動いたのを感じたのは。

 最初は何かの気のせいだと一瞬思った。しかし、その光球は実際に動いている。

 時間が経つごとにそれは確信に変わっていく。光球がこちらに向かってきていたのだ(・・・・・・・・・・)。まるで砲丸のような勢いで向かってくる。

 それは近付く度、どんどんその姿を明瞭にしていく。たなびく髪、躰から伸びる四肢、突き付ける大剣。それは見失っていたイリスだった。


「ヴァニファール!! その首貰った!!」


 今、イリスの一撃が獄炎竜の額を撃った!!!




 ヒロとイリス、そして紅蓮が立てた作戦はこうであった。


 先ずヴァニファールが遮光用の瞬膜を持っていることを見越し、ヒロがショックを放つ。ここで仮に瞬膜を持っていなかった場合、悶える獄炎竜の隙きをつき終わらせる予定であった。

 そして瞬膜を張ったヴァニファールに対し、瞬膜を解除しないよう連続してショックを放つ。この時、ショックの光の強さと継続時間を敢えて統一しないようにする。

 ヴァニファールの視界には濃いサングラスのように真っ黒なフィルターがかかっている。そのことで光を反射する白はぼやけて見える。それはまるで光の弱い光球(・・・・・・)のように。

 最後にイリスが光球に紛れヴァニファールに近付き、ヤツに攻撃を仕掛ける。


 しかし、この作戦は一度しか使えず、且つヴァニファールが目以外の察知器官を有していないことが条件であった。

 だが、奇しくもその条件は満たされ、その上獄炎竜に一撃与えれば良いと言う好条件まで揃った。

 この勝負、正に勝利の女神がヒロ達に味方したのだ。




 イリスの大剣を受けたヴァニファールの額は穿たれ、その硬い甲殻の下の薄い肉が血とともに空気に晒されている。

 ヴァニファールは何が起こったかわからないと言わんばかりに目を白黒させ狼狽している。


「……? 一体……なに、が……?」

「負けたんだよ。慢心して、まんまと僕達の策に嵌って、無様に呆気なく負けたんだよ。さあ、竜石を渡して貰おうか!」


 額から来たる痛み、ヒロの言葉、そして確かに覚えている自身の記憶。それらが『お前は人間に負けたのだ』とヴァニファールに語り掛けてくる。

 彼も流石にそれを受け入れたのか、呆けた顔は段々と表情を変えていく。

 しかし、それは納得等の潔い顔ではない。見るも恐ろしい憤怒の表情であった。

 既に怒りで我を忘れたか、人語を使わず地を揺るがすような低い声で怒りを吐き出す。


〔……許さん。許さんぞ人間。この俺様を、この獄炎竜を……! よくも、よくもよくもよくもっ!! 殺してくれるッッ!!!〕


 咆哮。それは今までの物と違い、全身全霊の怒りがこもった咆哮だった。

 鼓膜が破れそうな大声量。まるでライブ会場のように腹を揺らす轟音。これには思わずたじろいでしまう。


「うる……さい!」

「コイツ……! 自分から持ちかけた条件でキレてやがる!」

〔どうやら、このままでは済ませてくれそうにないな。ヒロ、ここは出し惜しみしてどうにかなる問題じゃない。口惜しいが最終作戦を推奨する〕

「……ああ、是非もない。イリス!! プランGだ!! “ガンガンいこうぜ”!!」

「……! 了解!」


 二人は一度獄炎竜から距離を取る。

 そして何やら気合でも入れるかのような行動を取りはじめた。


「スキル“紅艶血相”」

「スキル“鬼人モード”」


 二人の目が紅く変色する。

 ヒロは更に瞳孔が縦に割れ、目元に凶悪な隈取が現れる。それを抑えるように影が彼の体を包み兜武者のような風貌に変化する。

 対してイリスは全身が薄く紅潮し、所々に血管が浮かび上がる。

 まるで陰陽を表すかのような二人は戦神が如き気概を放つ。


「さあ、来いよ獄炎竜。人間の力、思い知らせてやる!」


 ここに炎龍演舞の第二幕が上がる。

個人の感想としては「獄炎竜呆気ねえwww」なんですよね。

このままじゃ竜として可哀想なので、頑張って活躍させます。(と言っても噛ませ犬になる未来しか見えませんけど)

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