第41話 白き少女
最近夏季休業に入り、バイトとドラクエ三昧の日々で全くコッチをやってなかった。
加えてFGOもイベント始まったし……
やー、夏休みってイイネ!!
―――――僕は夢を見ているのだろう。
見渡す限りの海原、これでもかと栄えた巨大街、天を衝くような岩山、無限に続く砂漠。
見たことも無い風景が走馬灯のように眼前に走り抜ける。
そこには喜劇があった。どんな土地であろうと家族は愛を育み、民は肩を並べあい笑いあった。幸せと喜びがあった。
そこには悲劇があった。病、老い、死、生。数々の苦痛に民は顔を歪め、涙を流した。悲しみと苦しみがあった。
それでもなお世界は誇り高く美しさを輝かせる。人々に豊かさと厳しさを与え、悠久の時を過ごす。
僕はこの光景を見て何を思うのだろう………。
―――真っ暗闇の意識が徐々に明瞭な形を持ち始める。
それと同時に頬を誰かに突っつかれていることに気付く。皮膚の柔らかい感覚と爪の硬い感覚が遠慮なく何度も僕の頬を押してくる。
……そろそろ鬱陶しいなあ。そう思い、目を開けて突っついてくる誰かを確認しようとする。
ぼやける目を擦り、瞳孔を周りの暗闇に合わせ、焦点を目の前の人間に合わせる。
そこに居たのは僕達に襲い掛かっていた筈の白コートの一人だった。
「うおおああああ!!??」
想定もしていない出来事に頭が追い付かず、僕は情けなく大声を上げて後退る。しかし、僕の背面には既に壁があり、これ以上の後退は許してくれなかった。
僕の頬を触れていた白コートは僕の叫びに驚き、体を大きく跳ねさせる。
一瞬の驚愕が二人を包んだ後、何とも言えない静寂が辺りに流れる。
僕が何も言えないでいると、白コートの方が最初に話しかけてきた。
「……良かった。気が付いた。体はもう大丈夫なの?」
無機質な仮面の奥から聞こえてきたその声は歌姫のように華麗なソプラノを奏でた。
パニックを起こした僕も何か言おうと口を動かすが、まともに声が出てこない。
そんな状態の僕を見て何を思ったのか、おもむろに付けていた仮面とフードを外す。
「安心して。今は危害を加えるつもりはない」
白コートの姿が露わになる。白コートの正体、それは僕より一つ下の可愛らしい少女だった。
真っ白な肌に真っ白な髪、所謂“アルビノ”というやつだろう。目はぱっちりと大きく、その中にある瞳は薄いライブルーに輝く。鼻は低くて丸く、小さくて丸い顔は凹凸が少ない。肌の色のわりにモンゴロイドとしての特徴が目立つ。気付かなかったが、背中には持ち手が長く剣身が骨のように白い巨大な大剣を背負っている。左の頬には刃物による大きな傷跡が刻まれている。だが、それを覆す程に―――
「………きれいだ………」
「………………は?」
「え? ……あ」
しまったぁぁああ!! 混乱していたとはいえ思っていたことが口に出てしまったぁあ!!
彼女もなんか引いてるような顔しているし! というか実際引いてるし!
な、なんとか弁解しないと……。
「あ、いや、違う! 今のは違うんだ! いや、きれいなのは違わなくて、僕はそんなつもりじゃなくて……!」
「……落ち着いて。別に怒ったりしてないから、ね?」
僕がアタフタとしていると、彼女は僕に目線を合わせてそう言った。
彼女のその可愛い顔が近づいたことに反応して、僕の心臓は更に鼓動を高鳴らせる。顔が紅潮してくるのがよく分かる。
ユーリやクリスの時でさえここまで動悸が起こることはなかったというのに……一体僕はどうしてしまったんだ?
再び木偶人形のように黙り込んでしまった僕に気遣ってか、その少女が喋りかけてきた。
「私はイリス、イリス・ハン。あなたの名前は?」
「え? あ、えと、せ、泉田緋色。周りからはヒロって呼ばれてる」
「………センダ・ヒイロ………うん、よろしくヒロ。早速だけど、まずここから抜け出そう?」
ここから抜け出すって……そもそもここは一体どこなんだ?
辺りを見回すと岩でできた壁しかない。奥に続く道は一本で、今いる所はどうやら突き当りのようだ。
僕の目の前、その少女の背面にあたる壁は崩れたばかりのようで、そこからは隙間から光が注いでいる。
……そうだ、確か僕は白コートの子供に攻撃され溶岩洞に突き飛ばされたんだった。その時にあの壁が崩れてきたんだっけ。
そういえば、その時に白コートが僕の……方……に………
「お前あん時の僕を攻撃してきた白コートかッ!!?」
僕があまりにも急に大きな声を出したせいで、イリスは驚き、目を見開いて肩を跳ねさせる。その反応に不覚にも敵ながら可愛らしいと思ってしまった自分がいた。
彼女は戸惑いながら僕の質問に答える。
「え、うん。そうだけど……」
「なんでだ!? どうして僕達を襲ってきた!? お前らは一体何者なんだ!? 何の目的があって……!?」
未だ動揺するイリスに質問の雨を浴びせる。
夕立のように激しく短く放たれた言葉。それを受けて彼女は少し考え込むような仕草を取ってから口を開く。
「……秘匿は悪……そうだね、黙っている必要もないし。“七つの美徳”の一つ、称号は“希望”。それが私。目的はこの奥に潜む竜、もしくは竜石の確保。そしてそれを邪魔する者の排除。あなた達を襲ったのも、そのため」
「……………!」
不思議と、驚きはなかった。逆に心の中には納得が支配した。
どこかでそうではないかと思っていたのだろう。場所、目的、タイミング……そのどれもが白コート共が七つの美徳であるという条件として成立する。
唯一驚かされた事としては、こんな僕とそう変わらない少女が奴らの幹部であるということだ。
(どうする……? この娘が七つの美徳の幹部だというのなら、今の内に倒してしまうか?)
〔いや、それは得策ではない。一瞬でも対峙していた君なら分かっていると思うが、この少女は強い。鬼人モードを自制している君では到底敵うはずがない〕
(紅蓮か。ああ、それは分かってる。でもそれじゃあどうする? この状況じゃ逃げ出すこともできないぞ)
〔幸いにもアチラに敵意はない。取り敢えず今は溶岩洞から脱出することを優先しよう〕
(……そうだな)
よいしょという掛け声と共に立ち上がり、背中や尻に付いた砂を払う。
そして、なるべく相手に警戒させないようにさっきと同じ調子で話しかける。
「……君の正体や目的については分かった。つまり僕達を襲ったのはその目的の邪魔となるから、だよね?」
「だからそう言っている。それがどうかしたの?」
「それってつまり僕がその邪魔しなけりゃ攻撃してこないってことだよね。だったら僕は君の邪魔をしない。その代わり、一緒に協力してこの洞窟から脱出しよう」
「私は最初からそのつもり。あなたが良ければ今からでも出発しようと思っているのだけど……」
「よし! それじゃ早速行こうか!」
意気揚々と奥へ通じる道へ歩き始める。
少し遅れて後ろからついてくる足音が聞こえてくる。
(紅蓮、あの娘が襲い掛かってきたら影魔導で縛ってくれ。僕はその間に全力で逃げる)
〔アイアイサー〕
僕は彼女を完全に信じたわけじゃない。それは彼女とて同じだろう。
悪いが協力関係は出口までだ。
溶岩洞に入って十分以上が過ぎた。どうやらこの洞窟、想像以上に複雑なようだ。それは僕の能力“地理理解”からでも解る。
先日突入したグハッツ洞窟より広いわけではないが、その道程が複雑怪奇の一言に尽きる。
元々火山ガスが抜けただけの横穴縦穴なので、アリの巣のように道が縦横無尽に伸びている。まさに自然の迷路だ。
「えーと、この道から行けば……いや、こっちの方が遠いが安全か……」
「……便利だね、その能力」
「え? ああ、まあね。それよりどうする? こっからだとどうしても火山中央経由の火口から脱出コースなんだけど……」
「私なら大丈夫。むしろそっちの方が都合がいい。……それよりもあなたこそいいの? そこには獄炎竜がいるはずだよ」
そうか。そもそも彼女はここへ竜を捕らえに来たんだった。
竜がいるとしたら十中八九この中央の大空間だろう。道すがらに竜を捕獲できるとなれば、彼女にとってこの上ない経路に違いない。
このままだと彼女達、七つの美徳に竜を明け渡すことになるが………。
「……うん、大丈夫だよ。それに、この道しか脱出経路は無いし」
背に腹はかえられない。竜は奴らの手に落ちるが、脱出することを優先しよう。
いざとなれば、鬼人モードを使ってでもこの娘を倒すしかないだろう。
「そう。なら行こうか。こっちの道の方が近いんだっけ?」
「うん、そうだけど……。あ、でも気をつけてね。もしかしたらその先は………」
言い終わる前にイリスの足がその先にある空間に踏み入る。
その瞬間、待ってましたとでも言うかのように大量のモンスターが物陰から姿を現した。
モンスター ハウス だ!! ▼
「あわ、あわわわわ……」
「……随分と大勢だね」
目の前に現れたのは、以前テッセンの鉱山にてユーリ達が戦ったという土竜だろう。螺旋状の頭部に平たい掌の巨大なトカゲなど見間違うはずもない。
ソイツ等が三十匹はいるだろうか。一体ずつなら大した脅威にはならないだろうが、こうも多いと話は違う。
というか、こんだけの数が一体どこに潜んでいたんだよ?!
「イリス! ここは一旦引こう! この数を相手にするのは二人でも無謀だ!」
「……そのようだね。ヒロ、危険だからあなたは下がってて。ここは私一人で戦う」
「……!?」
今、僕の耳は何と捕らえたのか。戦う? 一人で?? 僕より一回り若い少女がそう言ったのか??? そんなのは無茶だ!!
止めようと手を伸ばし、声を出そうとする。
しかし、それよりも早く彼女はモンスターの群れに飛び込んでいった。
彼女は大量のマオブルフに囲まれ、為す術なく襲われる―――
―――ことはなかった。
いや、寧ろ逆だ。彼女の方が獅子奮迅の勢いでマオブルフどもに襲いかかっている。
右手に携える白亜の大剣をまるで重さを感じさせないかのように振るい、飛び回り跳ね回りながらマオブルフを次々と屠っていく。
真っ二つに切り裂かれたマオブルフは絶命の一声も上げずに鮮血を撒き散らしながら地に倒れていった。
「……伸びろ、巨神の短剣」
イリスがそう言ったかと思うと、手に持っていた幅広の大剣は一メートルほどの直刀に姿を変える。
直刀は彼女の目の前にいたマオブルフ五体を貫きながら、グングンと伸びていく。
彼女はソレを真横に振り抜き、更に三匹をあの世へと送る。
「しなれ」
その一声と同時に剣を振り回す。するとどうだろう、剣はまるで鞭のようにしなり荒れ狂う大蛇のようにのたうち回る。
その軌跡にいたマオブルフは逃れることもできず、その身を切り裂かれていく。
暴虐の嵐が目の前で起こる。しかし、それも長くは続かなかった。
突如、イリスが攻撃を止め真上に跳び上がる。
その直後、彼女がいた足元から新たなマオブルフが一体顔を出した。
いや、一体だけではない。十匹のマオブルフが次から次へと地中から現れる。
これではイタチごっこだ。そう思ったとき―――
「スキル“千剣万壊”」
一蹴りで天井へと至ったイリスは大剣の切っ先を地面へ向け、天井を蹴り真っ直ぐと落ちていく。
真下にいたマオブルフを穿ち着地する。と同時に地面から様々な形をした無数の白亜の剣が突き出してきた。
その剣は地上のマオブルフだけでなく、地下に隠れていたものまで刺し穿つ。
その様はかの串刺し公、ヴラド・ツェペシュが通ったかのような惨状だ。
膨大な数の剣で形作られた針山に土竜による血の池。そんな地獄の中、返り血を浴びず純白のまま佇む彼女の姿は、不思議と僕の目には神秘的に写った。
「ん、しょっと……」
イリスが小さな掛け声とともに地面に刺さった大剣を引き抜く。すると、それに合わせて地面から生えた大量の剣は地中へと帰っていった。
湿った音とともにマオブルフの死骸が地べたに落ちる。どれもこれも急所を一突きされており、即死であったことを物語っている。
そんな死屍累々の空間の中、イリスが小走りでこちらに近寄ってくる。
「ヒロ、大丈夫だった?」
「あ、ああ。僕は大丈夫。それより、すごいな。イリスって滅茶苦茶強いんだな」
気丈に振る舞ってみせるが、内心では出会ったときに攻撃しなくてよかったと安堵と恐怖でガクブルしている。ここまで強いとは思いもしなかった。いやホント喧嘩売らなくてよかったぁ……。
対して彼女は僕に褒められたのが少しだけ嬉しかったのか、ほんのりと頬を赤く染め恥ずかしそうな態度を取る。
「そ、そうかな。それほどでもないと思うけど……」
「いや、十分強いよ。あの数のモンスターを二分足らずで倒すなんて全滅させるなんて簡単にはできないって。……って、君怪我してんじゃん!」
裂けたコートの隙間から彼女の左の太腿に先の戦闘による切り傷が刻まれているのが見える。白い肌が裂け、その間から赤黒い血液が溢れている様はなんとも痛々しい。とは言え、冷静に見ればそこまで騒ぐような傷でもない。
だが、先程の修羅の如き活躍を見せた彼女が少しでも傷を負うなど想像もしておらず、そんな僕にとってはこの事実はかなりのショックを与えたのだ。
「ちょっと待ってて! 確か回復薬を持ってきてたはずだから!」
「気にしないで。このくらいなら大丈夫だから」
「ダメだ。放っておいて、そこにバイキンでも入ったらどうするんだ。ほら、脚を出して」
僕に強く言われたイリスは渋々といった風にコートから怪我した脚を出す。
怪我はショートパンツとニーソックスの間、所謂絶対領域と言われる場所にある。そこへ持ち合わせていたポーションを塗りつける。
……今、改めて思ったが、これって結構変態まがいの行為じゃない?
目の前には十代中盤の若々しい太腿。それをポーションを塗るためとはいえ撫で回している形を取っている。
……あれ? そう考えると何だか変な気分になってきたぞ?
目をほんの少しだけ上に向けると、白い腿の付け根が端に写る。ショートパンツは少しゆったりしたもので、あいだからその奥が見えそうだ。
こ、これは―――
「ねえ」
「ハイなんでしょうかっ!!?」
イリスに急に話しかけられ、声を裏返しながら応える。
バレたか!? バレたのか!? バレたとしてまだ未遂です許してくださいすみませんでした!!
「……あなたは、私が怖くないの?」
「……え?」
不意の質問に一瞬頭が真っ白になる。僕はてっきり生ゴミでも見るような目で侮蔑の言葉でも投げ掛けられるもんだと思っていたから尚更だ。
……さて、それより質問の意味だ。
“自分が怖くないのか”、か……。確かに彼女の強さは恐るべきものだ。そこは違えようもない。
とはいえ、彼女自身に対してとなると……
「いや? 怖くともなんともないよ。話してみれば結構いい子だし」
これもまた違えようもない事実だ。
彼女は七つの美徳の幹部だが、不思議と怒りや憤りといった感情は湧いてこない。
まだ出会って十数分といった短い時間だが、彼女が悪い人物だとは到底思えない。
上手く言葉で表現できないが、それだけは確かに言える。
「……私が何者か、あなたは分かっているの?」
「何者かって……君はイリスだろ? まだ会ったばっかだから君の事なんか何も知らないけど、君の名前がイリス・ハンていうことは分かってる。あと、七つの美徳の……ホープ?だっけ?」
「……そう、本当に知らないようね」
「まあ、知ってるも何も僕は異世界人だからこの世界の事情には疎いんだよね」
「なるほど、通りで……」
そこまで言うとイリスは黙り込んでしまった。彼女は一体何が言いたかったのか?
それはさておき、傷口を抑えないと。ええと、ガーゼと包帯はっと……。
「……なら、ハン族は知っている?」
「ハン族? ……あー、なんか聞いたことあるような……ないような?」
「ハン族はかつてこの大陸、マザーズを横断するほどの大帝国を築き上げた一族。彼らは巧みな乗馬技術と高い身体能力で数々の国を侵略し、その大国を作ったと言われる。とはいえ、その帝国も今の三大国の出現により百年前に緩やかに滅亡した。そして大陸西部に残ったハン族はその栄光を取り戻すため、ユニオスの地で反乱を起こした。それが“ハン族の侵攻”」
ハン族の侵攻……。どこかで聞いたことがあるぞ。
そうだ、随分前にクリスから聞いたんだった。
確か少数民族であるハン族が虐げられる現状に反旗を翻し、リドニック国や東シュラーヴァ共和国を荒らし回り、帝都キャメロスにまで侵攻した一大事変。そのせいで多くの人間が亡くなったと聞く。当時の聖十二騎士の三分の二が戦死し、先代皇帝ウーゼルもそれが原因でその生涯を終えた。
遠い異世界、十年もの昔の内乱。僕にとっては教科書で見た戦争程度の感覚であった。
「で、それがどうしたんだ?」
「……ハン族は、他の人とは外見に決定的な違いがあるの。それは雪や骨のように、死を表すかのような白い肌と髪。ちょうど私みたいに」
「………!」
「漸く、気付いたようだね。そう、私はハン族の末裔。かのハン族の侵攻の指導者、亡きエイリッタ王の嫡子。王の名を継ぎし一族の首領。それが私だ」
……言葉が出てこない。彼女になんと言っていいものか、皆目検討もつかない。
十年前、ユニオスを蹂躙して回った一族の首領が目の前にいる。その事実に僕の顔は今まさに驚愕で引きつっていることだろう。
「これで分かった? この私の恐ろしさが」
「いや全く」
「……………は?」
「君が昔暴れ回っていた一族の末裔だなんて、僕からしたら知ったこっちゃないよ。そもそも僕はその事件も眉唾程度しか知らないんだぜ? だからこそ、言っただろ。怖くともなんともないって」
僕の言葉に今度はイリスが鳩が豆鉄砲を食らったかのような顔をして、言葉を失った。
彼女が茫然自失としている間に傷の治療は済み、包帯も巻き終えた。
「ハイ、完了! さ、早速出発しようか」
「ま、待って! ……本当に、私を恐れないの?」
「だからそう言ってんじゃん。それより早く行かないのか? 君が来なけりゃ竜退治も火山からの脱出も出来ないんだけど?」
そこまで言われると流石に何も言い返せなくなったのか、不服そうに小さく頬を膨らませて黙ってしまった。
それを横目に僕達は歩を進める。
「……そうだ。ちょっと提案があるんだけどさ」
「なに?」
「うん。今から僕達はこの先にいるかもしれない獄炎竜と戦うことになるんだけど、その時のために互いのことを知って作戦を立てといた方が良いと思うんだ。ドラゴン相手に好き勝手に戦っていても勝機はないだろうし」
一度天帝竜ライディンと戦ったことがあるからよく分かるが、竜の実力は桁違いだ。いくらイリスであろうと真正面からぶつかっては勝てない。
彼女達“七つの美徳”はそのライディンを追い詰めるほどの力はあるのだろうが、それも七人揃ってようやくと言ったところだろう。
だからこそ、僕が影魔導などで搦手を使い、イリスがそこで出来た隙を衝くのが最善だ。
「……共闘してくれるのは助かるけど、あなたが戦えるの?」
「な!? これでも僕は結構強いんだぞ! そんじょそこらのモンスターなんて目じゃないさ!」
「その割にはさっきのモンスターハウスでは随分とへっぴり腰だったね」
「うっ……」
そこをつかれると痛い。先程の意趣返しのつもりだろうか。イリスは困った僕の顔を見て得意げな笑みを滲み出している。
「まあ、作戦を立てるのは賛成。一人だと流石に苦戦するしね。……で、どうすんの?」
「ん。まずは互いの技能や能力を確認しなきゃね。作戦はそっからだ」
竜は一筋縄ではいかない。この作戦がうまくいかなければ、この火山が僕達の墓標となるだろう。
そうはいかない。そうはさせない。僕は必ず生きて帰るんだ!
ヴォルビオ火山 最深部
イリスのお陰で、ここまでは危なげなく来れた。
しかし、真に気を入れるべきはこれからだ。
最深部というだけあって流石に熱い。
というのもここは火口の真下だ。足元の崖の下には熔岩が流れている。それに火山ガスの影響か、何だか息苦しい。
ふと上を仰ぎ見る。いつの間にか火口から見える空は真っ黒な布に覆われ、眩い宝石がその布地に散りばめられている。
マグマで紅く彩られた岩壁を見回してみる。だがやはり、出口である火口に繋がる経路は一つしかない。
他の道となると、傾斜が九十度を超える岩肌を登るしかなさそうだ。勿論、失敗すればマグマへと真っ逆さまに落ちていくことになるので却下だ。
「この先が獄炎竜がいると思しき大広間、なんだけど……」
「……生憎と、留守のようだね」
僕達の視線の先には、どういう経緯で形成されたか想像もできないような巌が内壁から突き出ている光景が待っていた。その巌は上半分がきれいに水平に削れており、ちょうど都合のいいような足場になっている。
しかし、そこにはそれ以上何も無い。広めの公園ほどの面積を持つその足場には、竜がいたような痕跡も誰かが通ったような跡もなく、ただ平坦であるのみだった。
「どういうことだ……? まったくもって何もないじゃないか」
「……考えたくはないけど、そもそもここに獄炎竜がいるという情報自体デマだったんじゃない?」
「つーことは、僕達はハズレくじを引かされたわけか。んー、僕としては良かったような、残念なような……」
落胆と安堵。どっちつかずの気持ちを抱えながらも、火山から脱出するため踵を返そうとする。
その時―――
〔ほう。俺様の塒を闊歩する不届き者は手前らか。その不敬、その蛮行。度胸と評すべきか、愚行と嘲るべきか……。ククッ、迷う迷う〕
地を揺るがすような低い音と共に“言語通訳A”が発動する。
帝王のように威厳あるその声の主は見当たらない。だがしかし、直感でその者の正体を把握する。
足元から百メートルはあろうマグマが不自然に膨らむ。
次の瞬間、その膨らみは破裂し、中からあるものが生まれいでる。
そのものは悪魔のように大きな羽を広げ、僕達が立つ足場まで飛び上がってきた。
煮え滾る熔岩のような紅の鱗。縦に割れた瞳孔を宿す金の瞳。地獄の使者のような一対の角。頭はライディンと違い、こちらを見据えるように下げている。見た目は蝙蝠の羽の付いた蜥蜴とも獣とも取れるような姿をしている。口は大きく耳元に当たる部分まで裂け、その中に並んだ鋭い牙の間からチロチロと炎が零れている。
こいつが、間違いない―――
「さて、矮小なる人間よ。俺様が住まうこの地に何用ぞ? 返答次第では、一瞬で蒸発してやっても良いぞ」
獄炎竜ヴァニファールが現れた
よくゲームやらで火山マップが出てくるけど、あれって火山ガスとか熱とか大丈夫なのかな?
マグマって千四百度くらいあるらしいし。




