第4話 異世界一受けたい授業
――――――またあの“白い世界”だ。
二脚の白い椅子に白い机。椅子の片方には僕が、もう片方にはあの時の“誰か”が座っている。
この“誰か”の顔は分からない。体全体に白いもやが掛かっているようであり、モザイクで隠されているようにも見える。
輪郭さえはっきりせず、この“誰か”が男なのか女なのか、若いのか年老いているのか、人なのかそれ以外なのかさえ分からない。
いや、もしかしたらそこには何もないのかもしれない。
とりあえず正体が全くの不明、存在すらあやふやな相手にどう対処したものかと思考を巡らせていると、“誰か”の方から切り出してきた。
「やあ、新しい生活は順調かい?」
その声はボイスチェンジャーを通したような機械の音のようでもあり、春の心地に吹く暖かいそよ風のようでもあった。
“誰か”の声や口調では何者であるかは未だに不明だが、どうやらそこには“在る”ようだ。
「……はい。慣れないことばかりですが」
とりあえず返事はしておく。
「他人行儀だなぁ。良いんだよ普通で。私は君なんだから」
「っ?! 今なん―――」
駄目だ、意識が遠のいていく。
私は君? それは一体……?
そこで僕の意識は途絶えた。
否、覚醒した―――
「……朝か」
まだ日は登りきっていない早朝。朝の冷たい空気が肌を刺す。二度寝しようにも先程の夢の内容が気になり目が冴える。
私は君、“誰か”が発したその意味は?
「……着替えるか」
所詮、夢は夢。深く考えても夢占いくらいにしかならないだろう。
なら、目の前のことに意識を向けるべきだ。
そういえばクリスさんが僕の服を荷物に包んでくれていたっけ。
この世界は時代でいえば中世だろう。現代の服―――来たときは制服だったか。それで大丈夫か? と心配しつつ荷物をあさる。
出てきたのは僕の学校の制服ではなく、和服だった。
赤の混ざった黒色の袴、白色の和服、そして何より目を引くのは朱色の生地に和を思わせる金の刺繍の入った羽織だ。
全く身に覚えのないものばかりだった。
「何だよこれ……どうやって着るんだ?」
とりあえず白い和服に腕を通す。
するとどうだろう。体が知っているように、それらの衣服を着ていく。羽織の上から黒い帯を締めたところで僕はその異常に気付いた。
僕は十五年の人生で和服を着付けたことは一度もない。なのに何故ここまで自然に着れたのか、不思議でならない。
しかし、その疑問は部屋に置かれていた姿見で自分の中で完結した。
そう、恐らくこの和服は“この顔”のものだろう。
姿見で僕の顔をまじまじと見る。
東洋人の肌の色、長く艶のある黒髪、端正な顔立ち、鋭くも優しい雰囲気を感じる目、全体から言うと男性というよりは女性のような雰囲気ではある。
体の方も前のものとは違っていた。
背は前の僕と同じくらいだが、手足がすらりとしており、一見華奢な体つきだが筋肉はしっかり付いている。肩幅が少々狭いのが女性らしさを強めている。男とも女ともとれるような体だ。
そんなこんなで姿見の中の僕とにらめっこをしていると、扉からノックと共に「「失礼します」」とメイドの声が飛び込んでくる。僕は慌ててどうぞ、と中に入ることを促す。
「「衣服のご用意が……あら?」」
「あ、えっと、自前のがあったみたいです」
異世界から来たばかりということで服もないだろうと気を使ったのか、二人のメイドの手には紳士服があった。
このことに少し申し訳なさを感じる。
「お似合いですよ、ヒロ様」
「かっこよさに磨きがかかりましたね」
「あ、ありがとうございます」
純粋にほめられると少々恥ずかしい。
でもせっかくなので、二人が持ってきた服に着替えさせてもらうことにした。
「お食事の支度が整っております」
「私どもが案内致します」
そう言われ連れて来られたのは、長い食卓が鎮座する部屋だった。
というか本当にこんな食卓初めて見た。流石お姫様。
周りには使用人がズラリと並んでいる。
僕は促されるまま、ナプキンと食器が用意されている奥から二番目の席に座らされた。
一番奥はフローラちゃんのものだろう。
暫くすると寝巻姿で寝ぼけ眼を擦りながら、プリンセスが登場した。
「ん~、皆様お早うございま……」
どうやら僕の存在に気づいたようだ。
彼女の顔が耳まで真っ赤に染まっていく。
「~~~! か、顔を洗ってきます!!」
そう言うと彼女はぱたぱたと部屋を後にした。
これは流石に使用人も笑みをこぼしている。
数分後、髪と衣服を整えたフローラが再登場した。
「ヒロ様、皆様お早うございます」
そう言って少し照れくさそうに自分の席に座った。
それを合図に食事が提供される。
こちらの料理が口に合うか心配ではあったが、大丈夫そうだ。というより絶品だ。
王族は毎日これを食べているのか、とフローラちゃんがお姫様であることを再確認する。
食後は珈琲が出てきた。
珈琲については素人だが薫りが良く美味しい珈琲であった。
そして、珈琲片手にフローラちゃんと語り合いにふける。
「―――ということは今この家にはフローラちゃんのご家族はいないんだ。」
「はい、ここは私だけの別荘ですから。父上や兄上達は普段は自分たちの別荘か宮殿にいらっしゃいます」
「寂しくならないの?」
「まあ、たまには……でも私にはこの家の皆様がいます。だから決して寂しいという訳ではないのですよ?」
その言葉を聞き、皆さんとても嬉しそうだ。
……良いなぁこういうの。お互い信頼しあっている。この人達にとって第二の家族みたいなものなんだろうな……。
―――僕もこの人達のような人に出逢えていれば
「それより! ヒロ様の世界についてもっとお教えください!」
「え? あ、うん、えーと確か……」
……もう前の世界のことは考えないようにしてたけど、つい考えてしまっているな。もう未練なんてないと思っていたのに。
とりあえず、食いぎみに迫ってくるフローラちゃんをなだめておこう。前の世界の話か、次は何を話そうか……。
そんなことを考えていると、窓からコツコツという音が響いてくる。
音のする方を向くと、あれは……オウムだろうか。嘴で窓をノックしている。
「あれは伝言鸚鵡ですね。うちのものではないようですが」
アンネさんによると伝言鸚鵡というのは、自分が伝えたい言葉を覚え相手に伝達する、言わば伝書鳩のようなものである。
固有の魔石に反応して、相手が何処にいようと伝えてくれるらしい。
「どうやらヒロ様宛のようですね。再生してみます」
僕の? 僕はここに来たばかりだ。なのにそんな魔石を持っている筈がない。
アンネさんはオウムの喉を軽く掴んだ。その途端、鳴いていたオウムの声が、聞き覚えのある女性の声に変わる。
〔ヒロ君? あなたの正体が解ったかもしれないわ。急いで狩人組合に来て!〕
これはアリスさんの声だ。恐らくクリスさんが渡してくれた荷物の中に魔石があったのだろう。
それにしても正体が解ったって……
「アンネ、クライネ、急いで馬車の支度をなさって。目的地は王国の狩人組合です」
「「承知しました」」
フローラちゃんは僕が頼む前にすでにメイドに馬車の用意をさせていた。
「フローラちゃん、良いの?」
「困った時はお互い様、ですよね」
あの時、迷子になっていた彼女に投げ掛けた言葉をそっくりそのまま返される。
彼女にとって、その恩は一宿一飯だけでは済まないようだ。断ってもどうせ押しきられるだろうな。
すぐに馬車の用意は済み、ギルドへ向かうこととなった。
狩人組合内は騒然としていた。
一国の王女が急に来訪したのだ。それは騒ぐだろう。
すると奥から受付嬢らしき人が近づいてきた。受付嬢は近づくとひれ伏し挨拶した。
「お初にお目にかかります、王女殿下。此度はこのような場所にどのような御用件で?」
「頭をお挙げなさい。私共はアリス・ヴァイオレットという方に会いに来たのです」
「アリスに?」
すると、すぐアリス達ユーリ一行が呼び出され、ギルド内ほぼ中央の席に全員座らされた。
周りには狩人や冒険者の野次馬が囲んでいる。
……駄目だ。僕はこういう注目されるような状況は苦手なんだ。あぁ、早く終わってくれ。
「ヒロ様の正体が判明したと聞き及びましたが」
「え、あ、はいそうです」
流石のアリスさんも王女相手にはたじたじだ。
(おいヒロ、お前どこで王女様と知り合った? 昨日別れてから一日しか経ってねぇぞ)
(これは色々訳がありまして……迷子助けたらそれが王女だったんですよ)
(……何言っているのか分からないのですけれど)
そりゃそうだ。僕だって最初は混乱した。
「それで彼は、ヒロ様一体何者ですの?」
フローラちゃんは気にせず僕の正体を聞いてくる。それを受けてか、周りの野次馬も騒ぎ始めた。
どこかの王子じゃないか、魔王軍の手先じゃないか、等と根も葉もない憶測が飛び交っているのが聞こえてくる。
違います、ただの異世界人です。
「わかりました。彼の正体をお教えします」
何でアリスさんはわざわざ仰々しい言い方するわけ?
「彼が倒れていた場所には特別な魔方陣が描かれていた。これは古代に伝わる禁忌の魔方陣なのです。そして彼が言っていた日本という国、これはこの世界には無い国なのです。そうこの世界には」
何で推理小説のトリックを明かすように言うわけ?
「調べてみればこの日本という国、異世界から来た人による文献に残っています。そして先程の魔方陣、これは異世界から人を召喚する魔方陣なのです!」
あぁ、もう止めてくれ。
「つまりこのセンダ・ヒロは異世界から来た、異世界人なのです!!」
「……ええ、知っていますわ」
「…………え?」
あぁ、恥ずかしい。
周りの野次馬も肩すかしを食らっている。
もう通常の仕事に戻っている人もいる。
「え、あの、知っていたんですか?」
「はい、本人から聞きました」
「え」
「つーか、本人なら分かるだろ。ここが異世界だって」
「え」
「アリスさん、ブレインの割りに少し抜けてますものね」
「え」
「ア、アリス。僕は信頼してるからね、チームのブレインだって」
「……うん、ありがとユーリ」
ユーリ、ときにその優しさで人が傷つくことを知ってくれ。
暫くして、フローラちゃんはギルドの人達と打ち解けたようだ。仲良く談笑している。
アンネさんとクライネさんがいれば、心配はないだろう。
「何よそ見しているのかしら?」
こちらは絶賛お勉強中です。
ギルドから机と椅子を借り、目の前にはどこからか持ってきた小さい黒板。講師はユーリ一行である。
とりあえず学ぶのは、この世界の地理、歴史と魔法、ステータスについてらしい。
僕たちが今いる大陸の名はマザーズ。この大陸には三つの大国が存在している。
東の陳帝国、中央のパーシア大国、そして我々がいるユニオス連合帝国。
ユニオスは大小二十程の国家で形成されており、その一つ一つに自治権が存在する。
今いるのが花と美の国“フルーランス王国”、フローラちゃんのお父さんが統治している国だ。
その南西には情熱の国“西ラテニア王国”、北に騎士と軍艦の国“ケルティン王国”、東に鉄と闘士の国“アイゼンラント軍国”、南東に神と水の国“モーラ神国”、更に東には神秘が残る国“東シュラーヴァ共和国”、最大の領地を持つ氷と雪の国“リドニック国”、これらはユニオスの中でも力を持つ国である。
フルーランス、アイゼンラント、モーラの三国の境界に帝都“キャメロス”がある。
ユニオスの歴史は今から百年以上前に遡る。
戦乱の続く世を打開するため、ケルティンの王子とモーラの女皇帝が協力しあい、王子が持つ聖剣で平定したと言われている。
そして今の皇帝は4代目であるらしい。
「こんなところですか?」
「はい、歴史についてはそれくらいで良いでしょう。本当はハン族の侵攻等も教えたいのですが」
「次は魔法ね。これはあたしの出番よ」
あ、アリスさんいつの間にか立ち直っている。
「この世界はあなたがいた世界より、大気中の“魔素”の量が断然多いの」
「魔素?」
「読んで字の如く、魔力の素になるものよ。魔導士は大気中から魔素を取り込んで“魔導”を使うの」
「なるほど。ところでアリスさんは“魔導士”と言っていましたけどアリスさんの“魔術使”とは違うんですか?」
「いいところに気が付いたわねヒロ君。魔法には大きく分けて“魔術”“魔導”“魔法”があるの。
魔術は魔道具等の道具や鉱石に込められた魔力を使う方法で、魔道具の開発、改良をするのが私達“魔術使”。
魔導は自らに溜めてある魔力を魔法陣や呪文によって使う方法。それを使うのが“魔導士”。
そして最後に魔法だけど、これは通常人間ではなし得ないもので、自然の権化である“精霊”や最強種“竜”しか使えないと言われているの。でもその魔法が使える人も存在する。その人達を“魔法使い”といって、魔力を扱う人にとっては憧れなのよ」
前の世界にはなかった“魔力”という概念。それはここでは蒸気機関や電気より身近なものなのであろう。よく知っておかなくては。
「あの、魔力についてもっと教えてくれませんか?」
「ええ、もちろん! まず魔力というのは……」
「ストップ、ストーップ!!」
魔力について知ろうとした矢先、ユーリに急遽中断された。
「もう、どうしたの」
「それはステータスの部分でまとめて説明したいからいいの!」
「分かったわよ。ヒロ君、他に質問は?」
「いえ、特には」
「じゃあ僕の番だね!」
随分ユーリのテンションが高い。
人に教えるのが好きなのかな?
「“ステータス”は力、速さ、堅さ、器用さ、賢さ、体力、魔力の七つに加えて“能力”、“技能”を足したものだよ。
力は単純な攻撃力。堅さは攻撃にどれほど耐えれるかの耐久力。速さは体の俊敏性。この三つは攻撃系の役職には必要不可欠だね。あと、体力も重要。体力は生命力と同義で、これが低いと前線では戦えないね。
加えて、器用さはそのまんま手先の器用さのこと。これが高いと技能の習熟が早かったり、相手の急所を狙って当てることもできるようになるんだ。
賢さは物事の理解力。これは魔導士とかに必要で、これがないと魔力が多くても強い魔導は出せないの。次に魔力は魔素を溜められる総量。これが多いと、作られる魔力は質の良いものになるんだって」
「能力と技能の違いって何ですか?」
「ほう、いいところに気が付いたねヒロ君!」
あぁ、これが言いたかったんだな。すごくどや顔してるし。
「“アビリティ”は本来持っている力、特殊能力だよ。例を挙げると“怪力”や“千里眼”とか分かりやすいかな。そして“スキル”は簡単に言えば技だね。魔術や魔導もこれに入る」
「なるほど。それでそのステータスはどうやって確認するんですか?」
「こうやって」
そうユーリが言うと彼女の前にポップアップが出現した。
「ここに書いてあるステータスによって……」
「ちょっと待って! それどうやって出したの?!」
「え? どうやってって、こうやって?」
彼女はもう一度ポップアップ開いて見せたが
「いやムリムリムリ! 全くわかんない!!」
「えーと、出ろーって強く思えば?」
えぇ、そんな適当な……
「とりあえずやってみれば?」
そんなことで本当に出てくるのか?
ひとまず出てくるように強く念じてみる。
出てこい出てこい出てこい出てこい出てこい出てこい出てこい出てこい出てこい出てこい出てこい出てこい出てこい出てこい出てこい出てこい出てこい出
~数分後~
「うぅぅぅううおおおおおぉぉぉぉぉおおぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおお出ええぇぇてぇぇええこぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおいいいいいいぃぃぃいいい!!!!」
「……何やってんだアレ?」
「ステータスが出てこないみたい」
「ステータスの出し方ってああだったか?」
「多分違う」
はぁはぁはぁ。何やっても全然出てこない。これじゃあまるで頭のおかしな人だ。
「おーい、ヒロー」
「な、何? はぁ、ゴウラさん。はぁ」
「どうしても無理だったらクリスが“解析”つー技能持ってるから、それでステータス見てもらえー」
……それを先に言ってよ。そう伝えたくても喉から声がもう出てこない。
「―――はい、“解析”完了です」
クリスの目の前には僕のステータスが表示されていた。
「……おおこれは」
「なんともまあ」
「あの、これってどういう評価何ですか?」
全員が感嘆の声をあげているが、正直自信はない。恐る恐る聞いてみると
「全体的に一般人より少し上だな。抜きん出たところはないがバランスが良い。しかし魔力が少ないのが気になるな」
「注目すべきは能力の部分ですね。“地理理解”と“言語通訳”が共にAランクです」
と言われても自分には全くわからない。それは結局良いのか悪いのか。
「“地理理解”はその土地はどうなっているのか、町の構造はどうなっているのかが分かる能力よ。Aランクなら、その土地の名前や構造を完璧に理解できるの」
そうか、フローラちゃんと会ったときこの街の名前が解ったのも、迷わずすぐに目的の国立公園に着けたのもこの能力のお陰だったのか。
「“言語通訳”はどれほど言語を理解し話せるかだね。Aランクは動物とも話せるらしいよ。……! そうだ! ちょっと待ってて!」
そう言うと彼女はギルドの奥へ駆けていった。一体なんだというのだ。
「あぁ、アイツ“チビスケ”を持って来る気だ」
「え、嘘?! ……じゃああたしこの辺りでゴファッ!!」
ユーリが入っていった奥から白い毛玉のようなものが高速でアリスさんの脇腹に突撃した。
突然の出来事に避けることも守ることも出来ずに、アリスさんは倒れ伏した。
そして倒したことへの愉悦か、その小さな毛玉は雄叫びをあげる。
「キューーーーーーーーーーーーーイ!!」
「待ってよー、モフー」
その毛玉の名だろうか、“モフ”に少し遅れてユーリが現れた。
「あー! モフまたアリスの魔力吸ってるー! 駄目だってそんなことでしちゃ。わかった?」
「キュイ」
「うん、良い子。もうしちゃ駄目だからね」
「ユーリ、そんなことより早く助けて…………」
……もしかしてユーリがこいつを連れてきたのは
「この子さ、この前探索に行ったときに偶々会ってね。僕になついてるみたいなんだ。ヒロ、この子の考えてること読んでみて」
やっぱりかー、そんな気はしてたけどさー。まあ聞くだけ聞いてみよう。見た目通り可愛いヤツかも知れないし。
「や、やあモフ君、元気ー?」
さあ頼む! なるべく「うん、元気だよー」くらいの可愛い感じで・・・・・・
〔おうなんやワレ、いきなり馴れ馴れしいな!〕
可愛くねえええええええ!!
〔お、もしかして新人か? ならそう言えや! 言っとくが俺様が一番上、そん次にユーリちゃんや! わかったな? わかったならわかりましたモフ様と言え!〕
「…………」
「ねえ、何か言ってる?」
「……ウン、ゲンキダヨーッテ」
「ほんと!? じゃあ僕は? 僕のこと何か言ってた?!」
「イチバンダイスキダヨーッテ」
「やったぁ! 僕も大好きだよモフー」
……言えない。こいつの本心は彼女に言ってはいけない。墓まで持っていこう、そう決意したのであった。
「……で、これからどうすんだお前?」
「……? どうするって何を?」
「仕事と家だよ。いつまでも姫様のところに厄介になるわけにもいかねぇだろ」
そうだ忘れていた、今の僕は家無しの無一文。
このままだと異世界でホームレス生活を送るはめになる。それは絶対嫌だ。
「それでよ、俺らで家と職を探すのを手伝ってやろうていう話になってな。今回は断ってくれるなよ?」
「え、僕のために?」
「おう! あと金のことも心配すんな。姫様が幾らか出してくれるそうだ」
彼らはまだこんな僕を心配してくれている。一度その好意を拒否したというのに。その好意を無下にしようとしたのに。
「……ありがとう。そして、昨日は、ごめん…、」
「昨日? あぁ、あれか。気にしてねぇよ。んなことよりそろそろ探そうかと思ってんだが準備は良いか?」
「っ……うん、いこう!」
「うしっ! 行くぞお前ら!」
「いらっしゃいませー」
ここは街の職種案内所。
家を借りる前に給料の問題がある。お金がなければ何も始まらない……と言うわけでこちらに来た。
今一緒にいるのはゴウラ、クリスだ。
残りのメンバーは僕の家探しに行ってもらってる。
クリスはユーリ様と一緒にいたいと言っていたが、当のユーリに宥められ渋々こちらに来てもらった。
そしてフローラちゃんもぼくと一緒にいたいと我が儘を言っていたが、アンネさん達に連行される形で帰ってもらった。
「どちらが役職をお探しでしょうか?」
「あ、僕です」
「それではステータスを提示してください」
「はい。お願い、クリス」
「……はあ。解析」
そうクリスにはこの為だけに来てもらった。そのためにわざわざ愛しのユーリ様から離れ、ここに連れてこられているのだ。
味方に解析されてステータスを提示した客は初めてなのだろう。店員も少し笑顔が引きつっている。
「……で、どうなんだ?」
「え? あ、はい少々お待ちください」
硬直していた店員はゴウラの一言で作業を開始した。
店員の作業に目をやると、魔力でキーボードのようなものを作り、それで僕に合った仕事を検索しているようだ。
そして十秒ほどで検索は終了した。
「センダ・ヒイロ様に合うのはこの役職です」
そう言って店員が見せてきた役職。それは……
「……御者?」
御者、つまり現代でいうタクシーの運転手だ。しかしこれが本当に僕に合った仕事なのか?
「はい、街の構造が解る“地理理解”や馬ともコミュニケーションがとれる“言語通訳”持ちでしたらこれが一番かと。今人材が少なく、すぐに採用されるでしょう。一ヶ月研修期間もあるので初めてでも安心ですよ」
「だとよ。どうする?」
「……うん、これにします」
「かしこまりました」
店をあとにし、ユーリ達との集合場所へ歩いていく。その途中でふと気になったことを聞いてみた。
「そういえば何で二人はその役職にしたの?」
「あ? そりゃあステータスで決めたんだよ。俺は力と堅さが高かったからな、最前線で戦える役職にした。逆にアリスは高い知力を持っていたから魔術使になったと言っていたぜ。それにハンター業は危険だが儲かるしな。帝国騎士団の次に良い仕事だ。」
「わたくしは親の勧めです。我が家は代々男の子は騎士に、女の子は聖職者になることが通例ですので」
「こいつの実家はアイゼンラント有数の家柄だ。そうは見えねえだろ」
そう茶化していたゴウラが急に後ろへ吹っ飛んだ。ゴウラの顔があった位置には乙女の鉄拳が残っている。
「さて、行きましょうか」
「ハイ」
この人には逆らわないでおこう、僕は固く固く決心した。
「そういえばユーリの役職ってなんだっけ?」
「あら、ご存じなかったのですか」
「いや、忘れているだけかも。うーん……」
「いや、それはねぇよ。あいつの役職聞いたら一生忘れねぇだろ」
「あら、ゴリラ。お早い復帰で」
「ゴリラじゃねぇって」
一度聞いたら忘れられない役職? 一体なんだ?
「なあそれって一体……?」
そう尋ねると、二人は立ち止まりこちらを向いた。
何故か二人を纏う空気が変わったように感じる。
どうしたんだ? ユーリの役職とは一体なんなのだ?
「あいつは世界を救う“勇者”だよ」
ここで出てきた国名のモデルを紹介しておきます。
フルーランス王国 フランス
アイゼンラント軍国 ドイツ(アイゼンは鉄というドイツ語)
西ラテニア王国 スペイン、ポルトガル(ラテンから)
モーラ神国 イタリア(ローマのアナグラム)
ケルティン王国 イギリス(ケルト民族から)
リドニック国 ロシア等北欧(リドニックはロシア語で氷河)
東シュラーヴァ共和国 東欧諸国(スラヴから)
パーシア大国 中東(ペルシャPersiaから)
陳帝国 中国(Chinaからaを取った)




