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村人Aの異世界叙事詩  作者: ユッケ=ビビンバ
第三章 災いの詩〜双竜覚醒編〜
39/120

第39話 出立

外は暑いくせに、バス内や部屋は冷房きかせすぎ。

また腹壊すわ。

 フルーランス王国パリリー郊外。そこにはハンターが鍛錬に励むための修練場がある。

 森を切り拓いただけの簡素な修練場には数多くの剣技や魔法を受け続けた人型の模型が並べられている。

 今そこで二人の少年少女が組手を行っていた。




「―――ゥブグッ!!」


 激痛。鼻の頭から酸っぱい感覚と鉄の臭いとともに、痛みと衝撃が真っ直ぐ脳髄に響いてくる。

 直後、足の裏は地から離れ、僕の体は後方へ吹っ飛んでいく。

 着地。同時に今度は後頭部から痛みが脳を揺らしてくる。


 二秒にも満たない短い時間で訪れた前後二つの痛みに僕が悶絶していると、その元凶たる少女、英雄級の一人であるリンが謝罪する。

 今の彼女は腕輪を外して歳相応の小さい姿に戻っている。


「あー、ごめんヒロ。モロに入っちゃった。大丈夫?」

「な、なんとか……」


 そう言いながら手の甲で鼻を拭う。……うわ、めっちゃ鼻血出てる。

 “強くなりたいから特訓の相手をしてくれ”と頼んだのは僕だけど、もう少しだけ手加減というものがほしい。腕輪がなくても技術は超一級なんだから。


「本当に大丈夫ですか? 元々頭がおかしいんじゃないですか?」

「元々頭おかしいって何だよ。僕は至って普通だぞ」

「ハイハイ。取り敢えず怪我したところを見せてください。ワタクシが治しますから」


 そう言って彼女、クリスは僕の鼻に治療魔導を掛け始める。当然その間は僕とクリスの顔はかなり近い状況にある。

 …こうしてみると、やはりクリスは可愛い。人形のように完成された顔立ち、絹のように白くキメの細かい肌、生糸のように滑らかな金髪、宝石のように透き通った碧眼。

 あの性格でさえなければ、僕も彼女の虜の一人となっていただろうな……。



「お、そっちも終わったところか」


 クリスに見惚れ、意識が抜けていた耳に突如低い男の声が飛び込む。

 その方向に目だけを動かすと、同じく手合わせをしていたはずのユーリとゴウラ、そして二人を観戦していたアリスが近寄ってきているのが見える。


「ああ、今さっきな。そっちはどうだったんだ?」

「へっへーん、僕の勝ちー!」

「まったく、コイツの成長ぶりには正直脱帽だぜ。少し前までひよっこだったのにすぐに互角まで持っていきやがって、んでもって今日じゃ俺を超えやがった」


 ユーリはこれでもかという笑顔を浮かべ、いかにも嬉しそうにピースサインをこちらに向けてくる。彼女の純真な笑顔にこっちまで自然と頬が緩む。

 ふと正面を覗くと、クリスが若干不満げに頬を軽く膨らませている。ユーリが勝ったのは嬉しいが、その活躍を近くで見れなかったのが悔しいのだろう。本人が目の前にいるのに僕の愚痴をブツブツと呟いている。


「ところで、なんでまた特訓に付き合ってほしいなんて言い始めたわけなのよ? 昨日はアタシのところに『魔法を教えてくれ』って押しかけてきたし」

「ん、実は―――」




 先日のグハッツ洞窟探索、そこで一つ分かったことがある。それは僕は弱い(・・・・)ということだ。

 今まで多くのモンスターを討伐してきた。しかし、それは僕の実力で倒したわけではなく、紅蓮の力を借りていたに過ぎない。影魔導にしたって鬼人モードにしたって全て紅蓮によるものだ。僕自身の実力は未だ新米ハンターのそれにも及ばない。

 そこで、このままではいけないと危惧した僕は頼れる仲間に協力してもらおうと考えた訳だ。


「それで最初にユーリとゴウラに剣術を教えてもらおうと思ったんだけど……」

「「振り回してたら大丈夫!!」」

「って言われたから、諦めて魔法を覚えようとアリスんとこに訪ねたんだよ」

「……なるほどね」


 アリスは納得と呆れを含んだ目でユーリ達を見つめる。

 彼女の心中は察せる。言ったところ彼らのいい加減さに何も言えないのだろう。

 まあ、この二人に流派とか堅苦しいのは似合わないしな。


「取り敢えずヒロの修行の動機は分かったけど…リンもコイツに頼まれたの?」

「私はここに居合わせただけよ。日課の鍛錬をしていたらヒロ達を見かけてね、それで理由を聞いてボランティア気分で付き合ってあげたの」

「ボランティア気分にしては大分ガチだった気がするけど?」

「これでもかなり抑えた方よ。腕輪ターカタバルも着けてないし」


 抑えた割には随分と痛かったけどな、と心の中で悪態をつきながら僕は治してもらった鼻を擦る。

 リンは若いながらも英雄級の一人だ。腕輪なしでも僕とのレベルやステータスの差はまさに“雲泥”と言ったところだろう。

 しかし、その裏を返せば彼女に少しでも追いつければ、それだけで僕自身のレベルアップに繋がる。

 あと、流石に負けたままは悔しいのでなんとか一撃でも仕返ししたい。


「よし、休憩終了! リン、もう一回だ!」


 意気揚々と立ち上がり再戦を挑む。

 そんな僕の様子にリンは呆れるような眼差しと溜息で返す。


「……私は別にいいけど、また負けるだけよ?」

「なっ!? やってみなくちゃ分かんねえだろッ!」


 先手必勝。リンが気を抜いている今がチャンスだ。

 一気に距離を詰める。リンはこちらに気付いたが、構えも取れず棒立ちの状態だ。

 取った―――!




 ―――次の瞬間、僕は地に伏し腕をめられていた。


「っっだだだだだ!! ま、参った! 降参! ギブ! ギブーッ!!」

「アッハハハ! 勇猛果敢に突っ込んできた割には情けない格好ね!」


 僕の背中を片足で抑え極め技をかけているリンが高らかに笑う。

 正直、彼女のこの態度は気に入らないが、それに見合う技量は十二分にある。

 今の一瞬、何が起こったのか分からなかった。僕が殴ったと思った瞬間、まるで小川の流れのように自然に、抵抗もなくこの無様な姿を取っていた。

 一体何ががががががっ!!


「痛い痛い痛い痛いっ! 関節が! 関節が外れる!!」

「そう簡単に外れないわよ。……はい、どいた」


 リンが掴んでいた僕の腕をはなし、背中を抑えつけていた脚をどかすことによって漸く僕は痛みと束縛から自由になれた。もう二度と彼女には逆らわないでおこう。

 それにしても、さっきのは何だったのだ?


「っつー……。リン、さっきの技は一体何なんだよ? 全くの抵抗なく組み敷かれたんだけど」

「“アイキドー”っていう武術よ。なんでも相手の力を利用して相手を制するのが基本らしいわ。だから私みたいなか弱い女性でも使えるのよ」

(か弱い女性?)

「と言っても、私も眉唾程度だから使いこなせている訳じゃないけどね」

(その割には達人級に上手かったけどな)

「ヒロは剣術よりどちらかというと武術の筋があるわ。良かったら私が武術を教えましょうか?」

「……考えさせてもらいます」


 新しく強力なスキルを教えてもらうのは嬉しい。嬉しいのだが、その講師がリンというのがなぁ……。

 先程の組手のこともあるから、修行が過酷を極めるのは目に見えてんだよな。

 教えてもらうべきか断るべきか。それが問題だ……。






 そんなことを悩んでいると、遠くの方から何やら十人にも満たない団体が修練場に向かってきているのが見える。

 その団体の正体は彼らが修練上の入り口まで来て漸く解った。


 青を基調とした制服。その上に鈍く輝く甲冑をまとっている。間違いなく帝国騎士団だろう。

 そしてその先頭を務めているのは―――


「あ、ケイちゃーーーん!おーーい!」


 そう、ケイちゃんこと騎士団西方部隊長のケイロン・エイジャックスである。

 彼は周りの部下になんとも気まずい表情を向けられながら、癖のようにこめかみを押さえて近付いてくる。


「ユーリ。何度も言っているが、俺のことはケイロンと呼べ」

「え〜、別にいいじゃん。もう今更なんだしさ」

「そうだぜ。今に始まった事じゃねえじゃねえか、ケイちゃん」

「それにユーリに聞き分けという言葉が無いのはアナタも知ってるでしょ、ケイちゃん」

「というより、貴方の方が折れなさい。ケイちゃん……ブフッ」

「よし、お前らそこに並べ。一人ずつ鉄拳を下してやる」


 あ、ヤバい。ケイロンさんがキレた。




 なんとか僕と騎士団の皆さんがケイロンさんを宥めて事無きを得た。

 それにしても、ケイロンさんって意外と沸点が低いんだな。


「ったく。毎度毎度俺を怒らせないと気が済まないのか」

「まあまあ。それより、今日はどうしてここへ?」

「ああ、その話なんだがな……」


 ケイロンさんが騎士団を一瞥する。すると示し合わせたかのように彼らは声が届かない距離まで離れていく。

 そのことを確認すると、次はリンに顔を向ける。


「シャオ・リン。悪いが外してくれないか?」

「……英雄級わたしにも言えない重要案件、というわけね?」

「そうだ。話はすぐに終わる。だから少しの間―――」

「嫌よ」


 ワーオ、男らしい! っじゃねえ!!


 ケイロンさんは騎士団のことを“警察のようなもの”と言っていた。もしその言葉がそのままの意味だとしたならば、騎士団は国家権力の下に動いているということだ。

 警察の命令を堂々と断るなんて、僕には理解できない。


 今二人は何も言わずに相手の顔を真っ直ぐと見あっている。それは不思議と嵐の前の静けさという物を想起させた。

 英雄級と聖十二騎士ゾディアック。二人とも良識のある人間だからぶつかることはないと頭で理解しているが、それでもやはり緊張は否めない。


「……嫌、というのは?」

「分からない? ユーリ達に用件があるなら私も一枚噛ませなさいって話よ」

「部外者の無用な干渉は控えてもらいたい」

「じゃあ今関係者になるわ」

「ほう。一体どうするつもりだ?」

「貴方が私に内容を伝えてくれるのが一番手っ取り早いんだけど」

「そうすると思っているのか?」

「まあ無理よね。だから新人作家よろしく自分を売り出すことにするわ」

「……言ってみろ」

「それではお言葉に甘えて。まず何と言っても腕っ節には自信があるわ。大抵のモンスターなら一瞬で圧倒できるわよ。それと口も固い。どんな衝撃的な内容だろうが神に誓って情報漏洩はさせない。ま、こんなもんだけど“英雄級”の肩書も忘れてもらっちゃ困るわよ」

「……なるほどな」


 少し長めの問答が漸く終わる。

 話を聞いたケイロンさんが下した判断は―――


「……良いだろう。但し、お前はユーリ達とは別行動、つまりは俺と一緒に来てもらう」

「腑に落ちないけど、まあしょうがないわね。良いわ、それで手を打ちましょう」


 そう言うと二人は軽い握手を交わす。

 良かった、争い事になることは避けられた。



「ところでケイちゃん、僕達にどんな用事? ……あ! もしかして、大事件の協力とか!!?」

「まあ、違くはないが、嬉々として聞く内容ではないだろう」

「やっぱり! なになに!? 凶悪モンスターの討伐!? それとも犯罪組織の逮捕とか―――」

「竜だ」


 竜。ケイロンさんのその一言で目を輝かせていたユーリが一瞬で大人しくなった。

 それはこちらも同じこと。浮ついた気分は消え去り、形容できない緊張がその場を支配する。


 竜の恐ろしさは一度相対した僕達には嫌というほど理解できる。

 鋼を超える硬度の鱗。何ものをも切り裂く爪。底知らずの魔力と体力。鎧袖一触の怪力。そして、一撃必殺のブレス。最強種と謳われる生物、それがドラゴンだ。

 そんなものにもう一度相見える機会が来ようとは。


「ね、ねえ。一応聞いておきたいんだけど、その竜ってワームとかワイバーンみたいな亜竜よね?」


 震えた声でアリスが問う。

 ケイロンさんの言う竜が亜竜であること。今はその事を切に望む。

 しかし、そんな望みはいとも容易く絶たれる。


「違う。この場での竜は亜竜ではなく純粋な竜種、伝承で語り伝えられている五竜の事だ」


 全員の顔に怖れの色が濃く表れる。かくいう僕も手先や膝がガクガクと震えて止まらない。

 それも仕方のない事だ。僕達は五竜の一、天帝竜ライディンによって全滅寸前にまで陥られたことがある。あの時は倒せこそ出来なかったが、ライディンが正気に戻ったことで九死に一生を得た。

 だが、二度はない。今度こそ竜が全力で襲ってくるのならば生きては戻れないだろう。


「恐怖する気持ちは分かる。しかし安心してくれ。今回はあくまで竜の存在の確認だ。戦闘を行う必要はない。その上、現在その竜は休眠中にあるはずだ。万が一、戦闘に陥ることがあれば付き添いの騎士団が命に替えて助けてくれる。それでも無理と言うならば大人しく退こう」


 ケイロンさんも僕らの心境を汲み取って最大限の配慮はしてくれているつもりなのだろう。

 それでもやはり……恐ろしいものは、恐ろしい。再び仲間を失うかもしれないと考えると、命の危機に瀕するのではないかと思うと、恐怖のあまり何もできなくなる。


 それは他の皆も同じだろう。そう思い、ユーリ達の顔を覗く。

 しかし、そんな僕の予想も呆気なく裏切られた。


 彼らの瞳には恐怖とともに確かな勇気がこもっていた。

 彼らも竜の恐ろしさは十二分に承知しているはずだ。だというのに、恐怖で震えるどころか、態々立ち向かっていくかのような気概さえ感じさせる。

 やはり僕より多くの死線を越えてきただけはあるのだろう。彼らを取り巻く空気は英雄のそれを思わせた。


「無理? そんなわけ無いじゃん! 僕達は一度竜を退けたんだよ。任せてよ!」

「ユーリの言う通りだぜ。それに聞くに危険は少ねえんだろ? なら安心していけるってもんだぜ」

「正直、怖くて仕方ないけど、怖がってばかりもいられないしね。アタシの魔術があればどんな敵でも遅れを取ることはないわ」

「ワタクシはユーリ様のご意思に添うだけです。たとえ怪我をなされても、ワタクシの治癒魔導で治してみせます」

「私はどのみち付いていくことが決定しているから、今更NOとは言えないし。あと、同じ英雄級として“竜騎士(ドラゴナイト)”には負けられないからね」

「話は決まったようだな。……ところで、ヒイロ君はどうするつもりだ?」


 ケイロンさんが振り向き、僕にそう訊いてくる。

 僕は一体この後どうするべきなのか。

 僕はユーリ達とは違いまだ戦う事に若干の恐れがあるし、それに何より弱い。ついていったとして何の役にも立たないだろう。

 だから―――


「僕は………怖い」


 僕の言葉に皆は当然といった納得の表情と、ほんの僅かにもの惜しげな憂いの表情を見せる。


「……だけど、僕一人だけこのまますごすごと引き下がるわけにもいかない。僕だって皆の役に立ちたい。皆を助けたいんだ!」


 僕は弱い。だから、だからこそ(・・)、弱いままでいたくない!!


「よく言った! それでこそ男だ!!」


 そう言いながらゴウラが僕の背中をバシバシと叩いてくる。

 痛い。少し力を抑えてくれ。痛い。



「協力に感謝する。さて、それでは内容だが―――」

「ちょっと待って。その前に幾つか質問があるんだけど」


 ケイロンさんの話に待ったをかけたのはアリスだった。

 彼女の顔は神妙そのものだった。


「何だ? 今回の依頼の件で何か気にかかることでもあったか?」

「まあ、ね。早速質問させてもらうけど、まず何故私達だったの?」


 ……? どういうことだ? アリスが言いたいことの意図が掴めない。

 ユーリとゴウラも僕同様に頭の上にハテナマークを浮かべている。

 すると、彼女の意図を察したのか、続けてクリスが口を開く。


「そうですね、たしかに妙です。高難度の探索なら私達だけではなくもっと大人数、ましてやリンのように実力のある方に率先して呼び掛けるはず」

「なのにアナタは敢えて彼女を選択肢から外した。そこまでして私達だけ(・・)に協力を求める理由がある。そうでしょ?」


 …言われてみればそうだ。

 安全を保証されていようとも竜がいるかもしれない土地に僕達だけが、特に僕のような奴が送られるということに多少の疑問がある。


 ケイロンさんは僅かな間黙っていたが、小さなため息を吐いたあとに話し始めた。


「望まれれば話さなければならないか……。そうだ、お前達に協力を仰いだのには相応の理由がある。それは……」


 そこまで言うと、ケイロンさんはリンの方に視線をちらりとやる。

 リンもそのことに気付き、小さく頷く。


「……それは、現在捜査中の集団“七つの美徳”が竜の捕獲を目的としている可能性が非常に高いからだ」


 瞬間、体に稲妻が走った感覚に襲われる。

 七つの美徳……。また、奴らか。


「……話の途中で悪いけど、その七つの美徳とやらはどういった集団なの? 周りの反応を見るに慈善団体ではないようだけど」

「そうだな、今回協力してくれるならば知らないわけにもいかないか。奴らの正体は全くもって把握できていない、所謂秘密結社だが、ポオクの集落への襲撃疑惑やドレミファ村の領主殺害、そして先程説明した竜の捕獲を企んでいることから、善良な集団とは言えない」

「要は悪党集団ってことね。分かったわ」


 ケイロンさんはリンに七つの美徳について簡単な説明を終えると、軽く咳払いをして話を戻しにかかる。


「奴らの存在は公にされていない。一度その存在を知られれば、大なり小なりパニックが起こるだろうと踏んでのことだ。だからこそ騎士のみでの探索がベストなのだが、知っての通り騎士団われわれは対人に特化している。支給される装備や常日頃の鍛錬は対モンスター戦を想定していないため、会敵するとやはりハンターには一歩劣る。そうなると探索にはハンターの助力が必要。しかし何も知らない者では情報漏洩の危険がある」

「それで既に七つの美徳について知っているアタシ達に白羽の矢が立った、ってわけね」

「その通りだ」


 なるほど。だから僕達の出番という訳か。

 確かに他のハンターに『その地の竜の存在の有無を調べたいから手伝ってくれ』と頼んでも、その理由を問われて素直に答えるわけにもいかないだろうな。


「それで、他に質問はあるか?」

「ええ。例えば“竜は数体いるのか”とか“竜を見つけたとしてその後はどうするのか”とか……まあ、思いつくあたりではこのくらいかしら」

「そのことか。それらは依頼内容と一緒に説明させてもらう」


 そう言うとケイロンさんは事細かに依頼内容の説明を始めた。



 要約すると、現在竜がいると思しき場所は二ヶ所。モーラはヴォルビオ火山に炎の竜“ヴァニファール”、フルーランス王国と西ラトニア王国の国境のニリペオス山脈に巨竜“グラン・ガイアス”がいるらしい。

 ケイロンさんとリンはニリペオスでの探索に参加し、僕達とは別行動になる。僕達はヴォルビオの少数編隊のチームに加えられるそうだ。

 今回の目的は竜の捜索。隅々まで探して居なかったら帰還。居たら一時撤退し、竜の保護の為にチームを再編成するらしい。発見された竜の処遇をどうするかはまだ分からないらしいが、ケイロンさんは『竜は人語を解するから説得して避難でもさせるんだろう』と冗談混じりに言っていた。



「―――粗方の説明はこのくらいでいいだろう。何か質問はあるか、アリス・ヴァイオレット」

「ないわ。敢えて挙げるとすれば、アタシ達は何時出発すれば良いのかしら?」

「“今”だ」

「「「「「……………え?」」」」」


 彼の答えにその場にいる全員が素っ頓狂な声を漏らす。

 彼は今何と言った? 出発は今? 今って何時? まさか現時刻って意味じゃないよね?


「なあ隊長サンよ。もう一度確認したいんだが、俺等は何時出発すんだ?」

「今だ。今すぐモーラへ行ってもらう」

「……あー、分かった。じゃあ今すぐ用意するから少し待って―――」

「いや、その時間さえ勿体無い。早く行かなければモーラ行きの列車に乗り遅れる。それと依頼金をやるから、日用品は着いてから買え。わかったな。わかったなら馬車を用意してあるからすぐに乗れ」



 かくして僕達は強引な騎士隊長によってあれよあれよという間に馬車に乗せられ、列車に乗せられ、歴史深き国“モーラ神国”へ送られることとなった。


 伝統ある国で待ち構える獄炎竜とは、一体如何程のものなのか?

 僕達の心は僅かにふるえる。

一つ前の話でもあるように、騎士団は基本人間相手、ハンターはモンスター相手で戦っている設定です。

要は警察と猟友会みたいなもんですかね。

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