第35話 絶世の名剣
~あらすじ~
第一の試練を通ったヒロ。そんな彼に襲い掛かってきたのは、なんと仲間であるはずのジークとエピーヌだった。
勇者と称される彼らに絶体絶命のところまで迫ったヒロは、禁断の力“鬼化”を使う───!!
ジェット機のエンジンの様な轟音が辺りに轟く。
大気もそれに呼応し、微振動を起こしている。
地を揺るがす轟音は相対する二人の鼓膜を、皮膚を、腹の奥を震わせる。
それを発するのは一人の少年―――否、一匹の化物だ。
「ガアアアアアアアアアアアアアッッ!!!!!」
その姿は人なれど纏う空気は理性無き獣のそれである。
強力な覇気ゆえか彼の周りの空気は陽炎が如く揺らめき、近くにある氷壁はひび割れていく。
勇者候補の二人、ジークとエピーヌはそれを受けて、堪らず焦りを顕にする。
「……おいおい、聞いていた以上じゃねえか。どうなってんだ?」
「私が聞きたい! 私と戦ったときもあの様な姿にはなったが、あそこまで凶悪ではなかったぞ!」
暫くして轟音が止む。
叫んでいた怪物、ヒロは電池でも切れたように腕をぶら下げ、頭を垂れている。
先程と打って変わった静寂は、また違う緊張感を勇者たちに与える。
次の瞬間、予備動作なしでヒロが勢いよくジーク達に向かう!
(っ! 速い!)
(だが、避けられる!)
流石歴戦の猛者。このくらいの速さなら簡単に対処できる。
二人はヒロの拳を見極め、後ろへ飛び退く。
だが、彼の“力”までは見極められなかったか。
ヒロの一撃は当然二人に掠る事無く空を切り、そのまま地面へと振り下ろされる。
瞬間、まるで隕石でも落ちたかのような衝撃が発生する!
殴られた床はその圧力に耐えれず変形し、小石や瓦礫は為すすべなく吹っ飛んでいく。
ジークとエピーヌもそれら同様、突風に体を預け飛ばされる。
二人は各々の剣を床に突き刺し、何とか体勢を立て直す。
しかし、爆風にも近い暴風に彼らは行動を起こすどころか、目を開ける事さえままならなかった。
猛烈な突風は長く続かず、すぐに止んでしまう。
漸く現場を直視できるようになった二人が見たもの。それは小さなクレーターの中心に佇むヒロの姿だ。
「ハハ……すっげ。これをあのヒロがやったのか」
「これは一筋縄ではいかないな。もとより殺す腹だ、本気で当たるぞ」
「いわれずとも」
攻守逆転、次はジーク達が攻める番だ。
二人は両翼に分かれ、攻撃を仕掛ける。
ヒロは気付いていないのか、はたまた気付いたうえで見逃しているのか、動こうとしない。
そんな彼に二人は無慈悲に襲い掛かる!
「迅速剣“チェレリタス”!!」
「スキル“大連斬”!!」
高速の連撃がヒロを包み込むように放たれる!
だが、なんということだろうか。そのマシンガンのような攻撃を彼はその場から動くことなく、一人の攻撃につき片手で難なく受け流してしまった。
「チッ! なんつー反応速度だよッ!!」
「……だ、……」
「あ?」
掻き鳴らされる甲高い金属音の中に、少年の声が混じっていることをジークは聞き逃さなかった。
「まだ、大丈夫。まだ、いける。まだ、自我は保っていられる」
「……? コイツ、何を……?」
ヒロの独り言に疑問の意を示すと、剣撃の合間から彼がこちらを睨む。
「ッ!」
「ジーク……必ず、お前とエピーヌを、助けてやるからな……」
ヒロはまだ、二人が何者かに操られていると信じているようだ。
そのことに対し、ジークは苛立ちとも申し訳無さとも取れるように眉をひそめ、歯を食いしばる。
「ッ……! エピーヌ!! 一思いに片をつける!! アレをやるぞ!!」
「……! ああ、承知した!!」
彼らが声を掛け合うと、連撃を止め、大きく一歩後ろへ飛び退る。
退くのかと思いきや、二人は再び襲いかかる。
「“凍結剣”!!」「“火の角撃”!!」
炎を纏った剣。冷気を発する剣。対立し合う性質の突きがヒロを襲う!!
超高熱の一撃と超低温の一撃により、辺りの空気はミキサーのようにかき混ぜられ、あたかも大型の台風が到来したかの様な暴風を起こす。
荒れ狂う風は砂埃を巻き上げ、台風の目を隠す。
しかし、煙幕代わりの砂埃は二吹きの風によって切り裂かれる。
砂煙の窓掛けが開かれた先の空間には二人、ジークとエピーヌが睨み合う形で立っている。
二人の間に居たはずのヒロの姿はない。
遅れて、二人の位置から少し離れた所で何かが落ちるような音がする。
そちらに視線をやると、消えたと思われていたヒロが立っていた。
「私たちの切先が君に触れる瞬間、ギリギリのところで跳躍して躱したのか。まったく、嫌になるほどの身体能力だな」
エピーヌが構えを取りながら話しかける。
しかしヒロは、そんなことを気にも留めていないのか、マネキンのようにボーっと立っている。
余りにも無反応な彼に痺れを切らし、何か言ってやろうとする。
その時―――
「―――ァアアアアアアアッッ!!!」
突如、ヒロは奇声を発し苦しみだす。
頭を抱え、これでもかと身をよじる様は実に狂気的であっただろう。
獣のような呻き声を発しながら、ヒロは残った意識で何とか意味のある言葉を紡ぎ始める。
「ァ、ウゥ……ど、どうして、邪魔を、する……紅蓮ッ!!」
今、ヒロの身体には二つの人格がせめぎ合っている。
片方は彼本人の物。
そして、もう片方は彼の内に潜む鬼、紅蓮の物だ。
〔どうして、か。冥途の土産という訳ではないが、教えてやろう。
そも、私は君を利用する腹づもりだった。君をこの異世界に呼んだのも、君の体を私が復活する為の一時の宿として扱う為だ。今や用済みとなった君は私に取り込まれる運命なのだよ〕
信頼する者の三度目の裏切り。
既にヒロの頭は混乱して正常に働かない。
いや、紅蓮の侵略によって思考力が低下しているのか。もうそんなことも分からなくなる。
朦朧とする意識の中、自身の口が勝手に動くのを感じる。
その声は自身のものではない。紅蓮の声だ。
「もう既に体の半分以上を手中においたぞ。どうだ、今の気分は……? 例えるなら、蜘蛛の毒を受け意識が朦朧とする中、ゆっくりと溶かされる矮小な羽虫の気分、と言ったところか」
まさにその通りだろう。
まともに動かない思考にあっても、自身が消える確かな恐怖がそこにはあった。
「ん、おい。あれを見てみろよ」
そう言いながら、また勝手に腕が動く。
自分の腕が指差した先に居たのは一人の少女。彼女はゆっくりと自分に近付いてきている。
掠れていく意識の中で、彼女の名を導き出す。
(……ユー、リ……)
いつもの明るい笑顔とは違い、彼女の顔には冷酷な表情が張り付いている。
ユーリはヒロの側まで近付くと、その手に持つ剣の切先を喉元に突き付ける。
その仕草で確信する。彼女も自分を殺しに来たのだと。
「……お前も、俺を殺したかった、のか?」
沈黙。
「否定、しないって事は、そうなんだろな」
またも沈黙。
「でも、なんでかな。不思議と怒りも、絶望も、湧いてこないんだ」
沈黙が続く。
構わずヒロは独白を行う。
「きっと、何か、理由があるんだろ?それは気になるけど、もう割り切ることにしたよ。俺が死んで、ユーリ達が喜ぶのなら、俺は喜んで命を差し出す」
言いたい事は言い尽くした。
あとはなるべく痛くないように祈るのみだ。
ユーリは彼の独白を聞き終わったあとも、暫く黙り続けている。
だが、漸くその小さな口を開く。
その声はうら若き少女のものではなかった。
『見事なり。其が信頼、其が忠誠、素晴らしきものと値する。二の試練“不忠の夢”合格なり』
何を言っているのだ? そう言ってやりたかったが、既に意識が自身の手から離れていく。
そして、ヒロは意識を失った。
―――、――!
遠くで誰かが呼ぶ声がする。
―ロ、しっ―――ろ!
聞き覚えのある声だ。
お―、起き―!
意識が明確となるにつれ、その者が自分を起こそうとするのが分かった。
だが、この心地良い時間をもっと楽しみたい。
一言言ってやって、再びその心地良さに沈み込むとしよう。
「ムニャ、あと五分……」
「馬鹿言ってねえで起きろ!」
その声と共に、背中に衝撃が走る。
突然の事に驚き、僕は跳ね起きた。
「え!? 何!? 何事!!?」
「ようやくお目覚めか。良い御身分だな」
声のした方を向く。
そこにはジークが少し顔を引きつらせて立っていた。
「ジーク? なんでここに……」
瞬間、先程起こったことをすべて思い出す。
同時に、体全体に緊張が走るのを感じる。
「……ジーク。エピーヌとユーリはどこに?」
「……? エピーヌなら天寿草を取りに行っただろ?」
すっとぼけているのか、片眉を上げてジークは答える。
一体どういうことだ? さっきまでジーク達は殺意満々で僕に襲い掛かってきていた。
だというのに、今の彼には殺意の『さ』の字すらない。
「……もう、殺しに来ないのか?」
「殺すぅ? ……ああ、そっか。お前もあの“夢”を見たんだな」
夢? 何の事だ?
状況が飲み込めない僕に、ジークは自身に起こったことを交えて説明を始める。
「―――つまり、信頼する誰かに裏切られる幻覚を見せられる。それが試練だったってこと?」
「そういうこと」
ジークから聞いた話を要約すると、これは挑戦者の信頼の強さ、忠誠心の強さを量る試練だったようだ。
先程言ったように、その者が信頼する誰か……例えば騎士ならば仕える君主などが襲い掛かる幻覚を見せ、それでも忠誠を立てられるかという事を試すものらしい。
とはいえ、さっきのは少々度が過ぎていると思うが……。
「ま、兎にも角にも二人とも第二試練までクリアしたことを喜ぼうぜ」
「むぅ……それもそうだな」
既に終わったことをとやかく言うのも野暮だ。
まだ納得できないが、渋々諦めることにした。
再び大広間の中心まで赴き、立ち止まる。
その行動に反応してガーゴイルの一体が話し始める。
『名剣に挑みし者よ、其が心の強さ、意志の強さ、賞賛に値する』
「あーはいはい。世辞は結構だ。次の試練は何だ? 意志、心と来たら、今度は力か?」
飽き飽きとした表情で次の試練を求めるジーク。
英雄級の一人と謳われる彼にとっては、この試練も手間でしかないのだろう。
『然り。名剣を持つ者には、名剣に見合う技量が問われる。その技、とくと見せてみよ』
ガーゴイルがそう言うと、扉を護っていた二体の巨像が動き出す。
今度は扉を開くためではなさそうだ。
牛と馬の頭の革を被ったような戦士の巨像は、その首に合わせた鳴き声で高らかに吠える。
「ブモオオオオオオオオオオオオオッッ!!!」
「ヒヒイイイイイイイイイイイイイッッ!!!」
八メートル以上ある巨大な半人半獣の像。
その手には身の丈にあった巨大な剣と斧。
無機質な肌とその巨体から、かつて戦った岩石兵を想起させる。
だが、あの時の不安や恐怖といった感情はない。
何故なら、こっちには“彼”がいる。
「やるぞ、ヒロ!!」
「ああ!!」
すかさず“解析”を行う。
しかし、そうはさせまいと馬頭の像はその巨剣で斬りかかってくる。
想像以上に速いッ! このままでは避けられないッ!!
「“ジェリダ”!!」
その言葉とともに氷塊が剣を受け止める。
「助かった、ジーク」
「コッチはオレに任せておけ!オマエは解析を続けろ!」
「ああ! ……ッ! ジーク、後ろッ!!」
牛頭の像がジークを叩き潰さんと斧を振りかぶっていることにいち早く気付く。
彼もそれに気が付き、素早く剣を替える。
「111番! 盾剣“トゥテラ”!!」
ジークはスパルタ兵を思わせるような大きな円盾に鉄板のような刃の付いた武器を取り出す。
そして、その刃を床に突き刺し、防御の構えを取る。
斧と盾がぶつかる。
その際の衝撃が波動となり、辺りの砂利や小石を吹き飛ばし、僕の肌を打つ。
「ぬうぅぅっ……おおりゃあああああっ!!!」
一秒にも満たない競り合い。それに勝ったのはジークの方であった。
牛頭は弾き返され、バランスを崩し後ろへ倒れる。
地響きが起こる。それが止んだとき、同時に解析も完了した。
「できた! ジーク! 相手のLVはどっちも……80!?」
今まで戦った相手の中で天帝竜に次ぐ実力。そのことに僕は驚愕を隠せない。
一般的に熟練のハンターと言われる人間でも、大体はLV50程。そう考えるとLV80は途方もない数字なのである。
だというのに、ジークは恐れの表情を見せない。
それどころか目を輝かして、これでもかと口角を上げている。
「いいじゃねえか……ッ! ヒロ! ヤツの弱点は!?」
「え!? あ、ちょっと待て! えっと……、属性弱点はなし、等倍だ!」
言い終わるとともに、馬頭は氷塊を破壊し、牛頭は立ち上がる。
「等倍、てーなると有効なのは物理攻撃だな。そんなら“十八番”だ」
牛頭馬頭は最初に処理すべき人物を認識したのか、体勢を立て直したと同時にジークに襲い掛かる。
今、巨大な剣と斧が地を穿つ。その振動と轟音が大広間に響いた。
あまりにも速い一撃。僕の目では到底追い付けない速度。
僕が最後に見た光景。それは剣と斧が振り下ろされる直前まで仁王立ちをしていたジークの姿だった。
当然僕は彼が為すすべなく叩き潰されたものだと思った。
だが、それは間違いだったと思い知らされることとなる。
「ジーク!!」
無意識に彼の名を呼ぶ。遅れて、そうした事を後悔する。
どうせ彼の名を呼んでも、返ってくるのは静寂のみだ。そのことを理解すると、途端に恐怖と喪失感から胸が苦しくなるのを感じる。
もう彼は―――
「なにっ!?」
予想に反して、返ってきたのは少し声のひっくり返った返事だった。
僕は想定外の事態に一瞬困惑する。あまりの事で幻聴でも聞こえたのかと疑う。
武器が振り下ろされた際の砂煙が晴れる。同時に今度は自身の目を疑う。
人の丈などゆうに超す二つの大得物。勿論その重量は馬鹿にならないだろう。
そんなものを目にも留まらぬ速さで振り下ろされたとなれば、普通の人間なら真夏の蚊の如く叩き潰されるに違いない。
当然僕は彼もそうなったものだと思い込んでいた。
砂煙が晴れた先、そこには振り下ろされた武器の刃。
そして、その下に、大剣でその刃を受け止めているジークの姿があった。
「ふんんぬぬぬぬぬぬぬ……ッ!」
これが英雄級の胆力であろうか。
巨大な岩石の塊を二つも押し付けられてもなお、潰れずに足掻き続けている。
「18……番、多能剣“ジークシュヴェルトStG77”!!」
ジークがその手に持つ機械仕掛けの大剣で二体の得物を弾き返す。
そこからは、まさに韋駄天が駆けるような出来事だった。
ジークは大剣の中央にある穴に手を入れる。
すると、大剣は二つに分かれ、幅広の刃と斧に変形する。
二刀流となったらジークは黒い風になり、巨像どもの足から頭まで連撃を浴びせる。
やられてばかりではいられないと、牛の巨像は大降りの攻撃で反撃する。しかし、そんなものジークに当たるはずもない。
彼は巨斧を難なく避け、一度距離を取る。
剣斧が十分に届かない距離まで後退すると、斧の峰にある引き金に手をかける。
すると斧の頭から銃床が出現し、彼が持っていた斧は突撃銃へと姿を変えた。
ジークはコマンドーよろしく片手のまま銃を構え、引き金を引く。
柄は銃身に役割を変え、銃口からは雨霰と銃弾が発射される。
巨像を襲う鉄の雨。だが、効果が薄いようだ。
銃弾の雨に打たれながらも、巨像たちは突進してくる。
ジークは銃撃を止め、刃と突撃銃を再び両手剣に戻す。
襲い来る巨像ども。応じて大剣を振るうジーク。
両者が今ぶつかった―――。
最後に立っていたのは―――ジークだった。
斬り伏せられた巨像達は音を立てて倒れる。
それを背に立つジークの勇姿に、僕は思わず興奮と歓声を上げる。
「やった!!」
「いや、まだやってねえ」
彼の口から零れた一言で僕の興奮は僅かに冷める。
そのお陰か、ジークがまだ固い表情をしていることに気が付く。
その理由はすぐに解った。
倒した筈と思っていた巨像達が動き出したのだ。
その腹には浅い切り傷が刻まれている。
恐らく先程の一撃はジークの全力。それであの程度の傷しかつけられないのか!?
さっきから冷や汗が止まらない。
唾を飲み込もうとしても、うまく喉を通らない。
絶望と緊張の渦の中、僕はそれを消し去るような言葉を確かにこの耳で聞いた。
「想像以上に硬えな。こりゃ本気で行くしかないか」
“本気で”、すなわち今までの攻撃は全力ではないということ。
その言葉は僕に驚愕とともに希望を与えてくれた。
「さあさ、お立ち会い! これなるは英雄級が剣聖の真髄真骨頂! 真っ向から見たが最期、冥土の土産として獄卒共に語るが良い!!」
持っていた大剣をしまい、口上を述べながらその右手を前へ伸ばす。
「剣聖の至高の十剣、その二。これなるは地に落ちた太陽の残火なり。炎よ、今再びその輝きを顕し給え。輝け、自然なる剣!
2番!太陽剣“イグニスソウル”!!」
伸ばした右の掌から黄金の焔が走る。
それはすぐさま形を変え、太陽のように光り輝く剣となった。
……もの凄い力を秘めた剣だ。
ジークから数メートル離れたこの場所でさえ、灼き付くような熱気と凄みを肌で受け止める。
巨像達もそれを察知してか、後退りしているようにも見える。
まるで、すぐそこに太陽があるみたいだ。それほどまでに凄まじいオーラを感じる。
ジークはその光の塊のような剣を馬の巨像に向ける。
「光よ、貫け」
その一言とともに、剣はレーザーのように伸び巨像の胴体を射貫く。
そしてそのまま、薙ぎ払う。
「“万物を照らす光”!!」
馬頭は牛頭もろともに真っ二つに焼き切られる。
切り裂かれた二体の上半身はその現実を受け入れるように、彼の実力を認めるように地へと堕ちる。
「“剣聖”の名は伊達じゃねえよ」
見事打ち勝ったのは、ジークであった。
『其が実力、見事なり。さあ、不滅の刃は其が手に』
扉の上に居る大きいガーゴイルがそう言うと、扉が低い音を立てて開く。
扉の奥には、あの永遠に続く道の跡はなく、小さな空間が広がっていた。
広さにして十畳と言った所か。まずまずの広さだ。
内装は神聖の一言に尽きる。様々な彫刻や壁画が部屋を埋めながらも、気取った派手さはなく荘厳な趣がある。
空間の中央には一本の剣が飾られてある。それが恐らく求めていた聖剣、不滅の刃、絶世の名剣“デュランダル”であろう。
黄金の柄に純白の鞘、そして圧倒的なこのオーラ。間違える筈も無いだろう。
それにしても、凄いオーラだ。ジークの太陽剣に比肩、否、それを遥かに凌駕している。
相対した瞬間、僕が感じていた痺れるような感覚が増す。僕の鬼としての身体が物語る。それは紛う事なき聖剣だと。
僕がデュランダルに圧倒されていると、ジークは剣を手に入れるためにその空間に歩みを進ませる。
その姿はまさに聖剣に見合う戦士のもの。一人と一本が紡ぎだす光景に、僕は思わず見とれてしまう。
今、ジークがデュランダルを手に取り、鞘から引き抜く。
その時、剣身に光が反射し、まるで剣自体が光ったように見えた。それはまるで彼を祝福しているようだと僕は感じた。
・・・綺麗な剣だ。
まっすぐで曇りのない刃。黄金の装飾に宝石が埋め込まれた柄。一つの芸術であると称賛したいほどに、美しい。
「……うしっ。そろそろ帰るか」
ジークはそう言って剣を鞘に戻す。
後ろめたいとは感じたが、試練を開始してから随分と時間が経っているはずだ。
そう思い懐中時計に目をやる。5時29分。大広間に着いてから一時間半しか経っていない。
今までのは幻覚だったのか。僕の中では既に何時間も経過しているものだと思っていたが……ま、いっか。
「……そうだな、早く戻ろう。帰りはソレがあるから、無駄な戦闘をせずに済むしな」
とにかく疲れた。当初は僕もデュランダルを手に入れたかったが、なんだかんだで結局はジークが選ばれるような雰囲気になっていたし。
それに、上ではエピーヌとシャトンが待っているはずだ。一刻でも早く戻らねば
「さて、と……ヒロ、帰りはどのくらいかかる?」
「えーと……モンスターに会わずまっすぐ帰れれば、少なくとも一時間弱だな」
「となると、洞窟を出る頃には辺りは暗くなってんな。野宿を検討しとくか」
「え……こんな蟲だらけの所で寝るの? ぜってー嫌なんだけど」
「コレがありゃあ蟲モンスターの被害は大丈夫だろ」
「扱い方が雑いな、絶世の名剣」
ヒロ達が最下層から出て行った後、役目を終えた守護者たちは静かに動きを止める。
この守護者、ガーゴイルたちはこの後どうなるのだろうか?
聖剣の加護が無くなった今、虫たちの通り道と化すのか。誰にも知られず風化し朽ちていくのか。
そのような未来の事、今を生きる我々には知る由もない。それは今やただの石像と化した彼らとて同じこと。
動かなくなった彼らの様子は、先の勇者を讃えるようであった。
なんとなく走ってしまった感が否めないですね。
これで第二章も終盤です。そろそろ次の章の構想を練らないと・・・。
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