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村人Aの異世界叙事詩  作者: ユッケ=ビビンバ
第二章 誉れの詩〜騎士と魔女編〜
33/120

第33話 名剣の試練

ウィザを救うため立ち入ったグハッツ洞窟。

その最深部を行くのは二人の男、ヒロとジークであった。

彼らは最奥に秘められるという絶世の名剣“デュランダル”を手に入れるべく歩みを進めていた。

 ―――数時間前―――


 エピーヌ達が第一階層へ着いたのと時を同じくして、ヒロ達も第二十階層へ辿り着いていた。


 既に地下十数メートルほど潜っているというのに、その空間は満月の夜のように明るい。

 その理由としては謎の光る壁とそこから突き出した無数の結晶クリスタルによるものだろう。

 一種の発光機能を持つバクテリアが壁に多く住み着いており、それによって壁自体が光っているように見えるのだ。

 そしてその光を結晶が反射、増幅させることで部屋全体が明るくなっている。


 そのような場所に二人の男性が地面から生えた小さなクリスタルを踏み付けてしまわないように慎重に歩いていた。




「……不自然だな」


 黒髪の少年、ヒロがそう零す。

 それに応えるように長身の青年、ジークが返す。


「ああ、おかしい。ここに来て()()()()()()()()()()()()なんて……」



 通常、探索地ダンジョンは奥へ進むほど強力なモンスターが出現する。

 その理由は定かではないが、一説には奥に行くほど魔素マナの濃度が高くなるためらしい。


 例に漏れず、このグハッツ洞窟も第十八階層までは、段階的にモンスターも強くなっていた。

 しかし、第十九階層からは突然モンスターの数が格段に減り、第二十階層に至ってからはその数は0となった。



遭遇エンカウントしないに越したことはないが、それでもこうも出会わないとなるとなんか気味が悪いな」

「ああ、それに……」


 歩みを進める度、ヒロはある感覚に襲われる。

 まるで電気風呂に入ったかのような感覚。長時間正座をした後のような感覚。

 皮膚、筋肉、骨や内臓に至るまで、神経に直で微弱な電流を流されているかの様な痺れに襲われる。


「“それに”、何だ?」

「なんか……ピリピリする」

「はあ? そうか? 俺は特に何も感じないけど」


 何も感じない? そんな訳はない。

 この微小ながらも確かな感覚は決して気のせいで済むようなものではない。

 だというのに、この男は本当に何も感じないというのか?


「ジーク、ホントになんも感じない? なんか痺れる様な、灼ける様な、それでいて悪寒がする様な……そんな変な感覚、ない?」

「……? ああ、別におかしなところはないぞ」


 ヒロの質問に対してキョトンとした顔でジークは答える。

 やはり気のせいかと思おうとしたが、現在進行形で知覚しているこの感覚を気のせいと思うには多少無理がある。

 自分しか認識できない感覚にヒロは疑問の色を示す。



「……もしかして、体調が悪いのか? なら無理すんな。一回ここで休憩をとろう」


 首を傾げるヒロにジークが声をかける。

 ヒロが言う感覚とやらを疲労から来るものだと判断したのだろう、一時的な休息を提案する。


 とはいえ、彼は実際そこまで疲れているわけではない。

 というのも、遭遇した敵の粗方はジークが一分も立たないうちに仕留めてしまうからだ。


「え、いや、そういうつもりじゃ……」

「遠慮すんな。あそこに丁度いい感じの腰掛けがある。そこで暫く休むぞ」


 ヒロが話す暇も与えず、あれよあれよという間に休息を取る方向で話が進んでいく。

 何を言っても無駄だと悟ったのか、ヒロは流れに身を任せ、されるがまま為すがままに休息を取ることとした。






 万剣の鞘(オールオブマイン)から取り出された缶詰を万剣の鞘(オールオブマイン)から取り出した缶切りで開ける。

 中身は豆の煮物だ。

 それを万剣の鞘(オールオブマイン)から取り出したスプーンを使って口に運ぶ。

 咀嚼するヒロの顔は特に何かしらの感情を見せない。


「……美味くも不味くもないな」

携帯食レーションだからな。食えりゃあいいって趣旨で作られたから、味なんて二の次だ」


 そう言って、ジークは同様に顔色一つ変えないで作業的に豆を食べる。


 結晶が煌めく絢爛な空間の中、男二人がただ黙々とレーションを食べている様は傍から見ると実にシュールであろう。

 それに耐え切れなくなったヒロはなんとかこの空気を崩そうとジークに話し掛ける。


「……それにしても、随分と便利だよな、その能力アビリティ

「まあな。“万剣の鞘”つっても保管できんのは剣だけじゃないみたいだしな。到底剣とは呼べない奇剣、人が扱えないような変体刀をはじめ、斧、槍、槌、盾、鎧、杖、果てはこんな日用品・消耗品まで保管できる」


 そう言って、万剣の鞘からまた新しく缶詰と缶切り、加えてフォークも取り出す。

 缶詰の中身はロゴからフルーツであることが伺える。


「それより、体調はもう良いのか?」


 缶詰を慣れた手つきで開けながら、ジークはヒロの心配をする。

 八分ほど縁を切り抜いた所で、蓋を強引に開けヒロにその缶詰を差し出す。

 それを受け取りながらヒロは自身の体調について答える。


「うん、いつ出発しても大丈夫だよ……ぁむ」

(つっても、そもそも体調が悪かったわけじゃなかったけどね)


 桃に似た果実を口の中で転がしながら彼はそう思う。

 果実を噛み砕き喉の奥に通す。甘味と渋味が混ざった味がする。


「それじゃ、コレ(デザート)食い終わったら再出発だ」


 ジークはいつの間にか取り出した缶詰の中身をヒョイヒョイと口に放り込んで言う。

 ヒロももう一つ、果実を口に入れ噛み砕く。


(……渋ッ!)


 運悪くまだ熟していないモノが当たってしまったようだ。

 とはいえ吐き出すこともできず、我慢して食べることしかできなかった。






 再び奥へ目指すため足を動かす。

 ふと、ヒロは自身の懐中時計に目をやる。

 3時48分、外では既に日が傾き始めた頃か。


「おい、今何時だ?」


 その行動に気付いたジークが時間を尋ねる。

 ヒロは懐中時計を見せながら教える。


「3時50分。洞窟に入ってから一時間半以上経ってる」

「あと二時間で日の入りか……。チャッチャと済ませないとな。ヒロ、最奥までどのくらいかかる?」


 ジークに訊かれ“地理理解”に意識を向ける。


「えっと……うん、もうすぐそこだ。そこの突き当りを左に曲がれば大きな空間に出る」


 そう言って百メートル先の壁を指差す。

 そのことを確認すると、ジークは何かを思いつきヒロにそのことを提案し始めた。


「そうだ。ヒロ、あそこの壁まで競争しないか?」

「……なんで?」


 突拍子もない提案に眉をしかめて疑問の感情を顕にするヒロ。

 ジークはそんなことお構いなしに話を続ける。


「いいじゃん、やろうぜ〜」

「だからなんでそんなことしなくちゃいけないの?」

「特に意味なんてねえよ。敢えて挙げるとすれば第二十階層コッチに着いてから戦闘がないからつまんねえんだよ」


 要は自分の都合かよ、とヒロは心の中でツッコミを入れる。


「買ったら好きなジュース奢ってやるからさ〜」

「……まあいいよ。僕が買ったらジュースな」


 遂にヒロが折れて、競争を承諾することとなった。

 これに対し軽い喜びを見せるジークに『但し』と付け加え始める。


「但し、僕は全力でやらせてもらう。あと、スタートの合図は僕がやる」

「おう! 構わねえぜ!」



 決まるとすぐさまヒロは踵で道に対し垂直に線を引き始める。

 これがスタート位置となる。

 二人は片足の指先をその線に重なるかどうかという位置に置いた。


「僕が『よーいドン』って言ったら走り出す。先にあの壁に手を付いたほうが勝ち。それでいいな?」

「ああ、異論ねえぜ!」


 ルールを再確認したことで二人の間に緊迫した空気が流れる。

 今、ヒロが満を持して合図の決まり文句を述べ始める。


「それじゃあ、位置について……」


 合図に合わせ二人は片足を引き、スタンディングスタートのフォームを取る。

 空気が更に張り詰めたものとなる。

 時間がかかるほどその緊張感は増していく。

 ヒロの合図のその時まで二人は押し潰されそうな―――


「ょぃドン!」


 突如、ヒロはその短い言葉とほぼ同時に、フライングギリギリで走り出す。

 余りの事でジークは動き出すのが一瞬遅れてしまった。


「きったねえぞテメエ!!」

「フハハッ! こんなもので“汚い”とはまだまだ甘いねジーク君! ここで更に距離を離させてもらうよ!」


 そう言うとヒロは後方、ジークに向かってショックを打ち出す。


(目くらましか!)


 構えるジーク。ショックが今炸裂した。


 しかし、ショックは目くらましどころか猫騙しにすらならない程弱い光を発する。


(不発か……? ……いや、違う!!)


 ショックはジークの網膜に残像を残す程度の光を発している。

 だが、そのほんの些細な光でいい。それで十分なのだ。

 ()()()()にはそれだけで十分だ。


「スキル“シャドウスーツ”!」


 ヒロの影が体を覆い、一瞬の内にボディスーツへと変化する。

 途端にヒロは更に加速し始めた。


「パワードスーツか!? ズリィ!!」

〔協力している私が言えたもんじゃないが、これは流石に卑怯だな〕

「勝手に言えばいいさ! 最終的に勝ちゃいいんだよ、勝ちゃ!! ワハハハハハ!」


 余裕と皮肉を込め高らかに笑う。

 だが、それを許容できてしまう程に、距離においても速さにおいても二人の差は歴然だった。

 あと数秒でヒロの手が壁に触れるのは目に見えて明らかだ。


 だというのに、ジークの瞳には未だ諦めの色が見えない。


「881番! 迅速剣“チェレリタス”!!」


 瞬間、ヒロの横に一陣の風が駆ける。

 その風圧に押され、ヒロの体はいとも容易く吹き飛んでしまう。


「ぅわぉお……っとと」


 きりもみ回転する身体を、絡まった操り人形(マリオネット)の糸を解くように立て直す。

 崩れた体勢を立て直したヒロは先程の風を確認すべく、ゴールの壁の方を見る。

 そこには壁に手をつくジークの姿があった。


「ジーク!? なん……剣か!」

「卑怯なんて言わせねえぞ。勝ちゃいいんだろ、勝……ちゃ……」


 剣身の細い短剣を振りながら勝者の余裕を見せていたジークの顔が次第に驚愕へと変貌していく。

 その視線は目指していた大広間を覗いている。


「……? どうしたんだ、ジーク?」


 シャドウスーツを解除し、上がった呼吸を整えながらヒロは小走りで近づく。

 呆然とするジークの横に立ちその視線が向く方向を見る。そのことで漸く彼の表情の理由を理解することができた。




 開けた空間が広がる。そこは今までの自然の洞窟とは違い、明らかに人の手が加えられた“部屋”となっていた。

 部屋の反対側には巨大な扉。その扉を封じるように斧と剣を交差させた二体の半人半獣の巨像。

 そして壁を覆い尽くすまでの無数のガーゴイルの石像。その一体一体の表情、仕草は千差万別である。


「何だ……これ?」

守護者ガーディアンだろうな。名剣が隠されてんだ、これくらいの用心はするだろうさ」


 そう言いながらジークは部屋の中央へ歩いていく。

 少し遅れて、ヒロがその後を追いかける。


「ガーディアンって?」

「その名の通り“守護者”だよ。大昔の人間が宝とかをダンジョンに隠して、それを簡単に盗られないようにする為のセキュリティだな。とはいえ、オレもここまで豪勢なモノは初めてだ。まあ逆に、そんだけするってこたぁ間違いなくデュランダルはここにある」


 二人が話していると、すぐに部屋の中央に辿り着く。


 すると突然、壁のガーゴイル達の首が一斉に中央を向く。


「な、なんだ!?」

「慌てんな、ヒロ。ここはオレに任せておけ」


 混乱するヒロ。対象的に落ち着いた空気を纏うジーク。

 そんな彼等にある一体の石像が話しかけてくる。


『其、ここに何する者ぞ』

「……!? 石像が喋った!?」

「だから動揺すんなってーの。ったく……」


 ジークはヒロを落ち着かせ、部屋に響き渡るほどの大声で告げる。


「オレはここに秘められているデュランダルを手に入れに来た!!」


 ガーゴイル達はジークの言葉を確認すると、別の一体がまた話しかけてくる。


『其、命惜しければ退くが良い』

「悪いが死ぬ気はねえんでな」


 また一体、話しかけてくる。


『其、半端な覚悟なら退くが良い』

「覚悟なら決まっている。後悔もない」


 最後に前面中央の、特に大きいガーゴイルが話しかけてくる。


『……是。其方等に三つの試練を受けることを許可しよう』


 その一言とともに扉を塞いでいた二体の巨像が動き出す。

 交差させていた剣と斧を扉から離し、まるで来客を歓迎する門番のように並び立つ。

 扉が厳かな音ともに開かれる。開いた先には整備された道が続いているが、その先は暗くどこまで続いているか知れない。


『『『『さあ、意志のある者から一人ずつ入り給え』』』』


 周りのガーゴイル達が一斉に言い放つ。


「一人ずつって……ジーク」

「うん、ここからは単独行動みたいだな。ヒロ、こっから先はマジで危険だ、無理についてくるな。でないと死ぬぞ」


 彼が忠告するのも無理はない。

 伝説にもなる絶世の名剣“デュランダル”、その持ち主となる者を選定する試練となれば常人では到底敵うものではない。

 そのことはヒロ自身もよく理解している。

 彼が出した答えは―――


「……はっ! 僕がその程度の男に見えたのか? 僕も当然チャレンジする!」

「……道案内程度の村人だと思っていたのに、オレの見込み違いだったようだな。オマエがその気なら、今からオマエは共にデュランダルを狙うライバルだ! 呆気なく死ぬんじゃねえぞ、村人!」

「言われずとも! お前こそ倒れんなよ、剣聖様!」


 二人は互いの拳をつき合い、不敵な笑みを浮かべる。

 二人とも『お前には負けるか』とでも言いたげないい表情だ。




 拳を離し、ジークが扉へ歩いていく。

 彼が扉の線を越えると、扉は勢い良く閉じる。

 残るのはヒロと無数の石像達、そして静寂のみだ。


〔……随分と威勢がいいが、一体どうするつもりだい? 君は回復力以外はまだ普通の人間と大差ないのだぞ?〕

(分かってんよ、んなこと。自分でも柄にもない事をしたとちょっぴり後悔してる)


 頭を掻きため息を吐く。

 その様子を見て、紅蓮は小さく零す。


〔……やっぱり君、変わったね〕

(ん? なんで?)

異世界ここに来たときの君は、人を信頼しようとせず、繋がりを極度に避け、明確な意志も夢も持たず、なのに人一倍の傲慢さは兼ね備える、自分の為でも相手の為でもなく生きていた陰鬱な人間だった〕

(陰鬱って……まあ、否定はできないけどさ)


 ヒロは苦い顔をする。

 自身が臆病で卑怯な人間だと理解しているからだ。

 紅蓮はそのまま話を続ける。


〔そんな君が今や人の為に行動し、そして自分の意思で敢えて困難に挑んだ。私からしたら、それは君にとって驚異的なほどの成長と言える。それもこれも、あの勇者候補達のお陰かな?〕

(……ユーリ達の……)


 そうと言われるとそうであるかもしれない。

 ユーリやエピーヌ、ジーク達勇者候補にはヒロに無い人としての素晴らしさを持っている。

 それに感化されて少しずつだが彼の心が変化しているのかもしれない。


「……確かに、ユーリ達は僕にとって眩しいくらいの人達だ。彼らのお陰で前を向いて歩けるようになった。でも、それだけじゃないよ」

〔……?〕

「ゴウラにアリス、クリス、フローラちゃん、アンネさんとクライネさん、他にも今まで出会った人達。そんな人達のお陰で僕は今の僕になれたと思う。

 そして、何より、お前のお陰だとも思うよ、紅蓮」

〔…………〕


 驚愕しているのか、呆れているのか、顔を見ることができないので何とも言えないが、紅蓮はその言葉に沈黙で返す。


「お前のお陰で僕は強くいれた。お前がいたから僕はどんな困難も怖くなかった。だから僕は、君に感謝している」


 ありのまま本心を伝える。嘘偽りのない感謝の気持ちを。

 紅蓮はしばらく黙っていたが、少しして口を開く。


〔……よくまあそんな臭い台詞が言えるね。世辞のつもりかい?〕

「お前なぁ……。少しでもありがたがるくらいは―――」

〔ありがとう。君の本心は私には身に余るくらいだ〕


 あまりにも不意の感謝の言葉に今度はヒロが黙ってしまう。

 何より紅蓮が自身に『ありがとう』と言うなんて思ってもみなかったのだろう。

 埴輪のようにキョトンとした顔で思考が停止してしまっている。



 ヒロがフリーズしている間に、再び扉が鈍い音を立てて開く。


『さあ、次の意思ある者よ。入るが良い』

〔ほらっ、ヒロ! 呆けてないで先を進もう〕

「え? あ、うん」


 止まっていた思考を若干無理矢理に起動させ、足を動かす。

 ヒロの動きに合わせてガーゴイルの首も動く。

 ガーゴイルの視線、厳かな内装、そこに一人という状況、それらが重なり合い圧力となって彼の肩にのしかかる。


 扉を跨ぐ数歩先、そこで足を止める。

 見上げると巨大な扉が彼を飲み込まんと大きな口を開けている。

 ここに来て思わず委縮してしまうほどの圧力だ。

 ヒロの顔には若干の怖れが見て取れる。


 だが、それも一瞬の気の迷い。

 両頬を一度叩き気を引き締める。

 更に覚悟を入れるために右手の拳を左の掌で受け止める。


「……よし、行こうか」


 覚悟を決めた少年は再び歩み始める。

 彼が入ったことを確認し、扉は鈍い唸り声をあげその口を閉じた。






 長い永い道を歩く。

 もうどれくらい歩いただろうか。数分か、数時間か、それとも一日を越してしまったのだろうか。

 ここでは時間の感覚がひどく曖昧だ。ずっと変わらぬ景色、ショックを使っても十メートル先までも見えぬ暗さ。それらが時間の概念を奪っていく。

 自身の感覚を頼りにしようとしても、まるで時が止まったかのように、不思議と疲れもなく、腹も減らない。

 ただ歩かせるだけで他に何もない。まるで拷問だ。


「いつまで続くんだよこの道……。こんなんじゃ試練なんて受けられないぞ」

〔何を言っているんだ。試練は既に始まっているぞ?〕

「……はぁ?」


 その言葉にヒロは訳が分からないといった表情をする。

 その感情を読み取った紅蓮は仕方なしといった調子で説明を始める。


〔恐らくこれは挑戦者の忍耐力と精神力を試す試練なのだろう。およそ無限といえるこの道を歩かせ、意思の弱い者を振り落とす。よくできた試練だよ〕


 粗方の説明を聞き終える。それと同時にヒロの顔色はどんどん変化する。

 終わりの無い道を永遠と歩かされる。それは難攻不落の迷宮ラビリンスを歩くより絶望に満ち溢れているという事だ。


「およそ無限って……。それじゃあ一生辿り着けないじゃないか!」

〔慌てるな、意思を強く持て。試練というのは必ずクリアさせる為にある。その条件は甚だ不明だが、ゴールは絶対にあるんだ。だから諦めるな。今はただ前を進もう〕

「ッ……そうだな。取り敢えず進むしか……ん?」



 紅蓮に言われるまま歩き出そうとしたその時、ヒロは何かを見つけ動きを止める。


〔どうした?〕

「いや、あそこに……」


 指差した先には今までになかった分かれ道がある。

 片方は道幅が広く如何にも正規ルートといった道だ。

 そしてもう片方は、小道といえるほど狭くほんの五メートルで行き止まりになった道だ。

 普通なら誰でも大きな道を行くだろう。但し、その小道に何もなかったらの話だが。


 小道の奥には暗闇の中燦々と黄金色に輝く何かがあった。

 目を凝らしてみれば、それは黄金色の何かが寄り集まったものだと分かる。

 分かれ道の直前まで歩いてみると、黄金色の何かは一本四千万は下らない黄金の延べ棒であった。


「……なあ、あれって、金だよな?」

〔ああ、どこからどう見ても金のようだね〕

「だよな!? まさかこんな所に金が落ちているなんて!」


 初めて目にする黄金に興奮冷めやらぬ様子のヒロ。

 もっと近くで見てみよう、手に入れようと一歩踏み出そうとした瞬間


〔待った〕

「ぐぇっ」


 制止の一声と共に自身の影が喉元に巻き付き、進むことを阻止する。

 当然、歩いている最中に喉に固定された糸でも引っかかれば首が絞まる。ヒロも同じ状況になり、潰れたカエルの様な声を発する。


 数回咳き込み、息を整えてからヒロは首を絞めた本人に抗議をする。


「いっっっきなり何すんだ!!」

〔すまないすまない。しかし無防備にも自ら危険に飛び込もうとしていたからね。前にも言ったと思うが君に死なれては困るんだ〕

「はあ? 何の話だ?」

〔これは明らかに罠だって話。試練の最中(こんなところ)に金塊だなんて如何にもじゃないか〕

「……! 確かに!」


 紅蓮の話に納得していると、影が動き出し近くの壁を破壊する。

 その時にできた瓦礫の中でも一番大きなものを掴みながら紅蓮は話を進める。


〔恐らく、範囲内に入るか金に触れると作動するタイプ。もしくは……〕


 瓦礫を金の延べ棒に向かって投げ入れる。

 瓦礫はカンッと乾いた音を立て黄金に当たるとそのまま地面に転がる。


「……おい。何も起きないじゃん」

〔まあ見てな〕


 紅蓮はうでを先程の瓦礫に伸ばす。

 瓦礫を掴み持ち上げる。すると、黄金も磁石に引き寄せられる砂鉄の如く、瓦礫についていく。


「なっ!? これは!?」

〔挑戦者の欲深さを試す罠なのだろう。卑しい者が黄金に触れると、その分枷となる仕組みだな〕


 この無限の道において枷を付けられるということは、更なる地獄に身を投じることと等しい。

 黄金に触れる前に紅蓮が止めてくれなければ、より一層の苦痛が自身の身に降り注いでいたことだろう。

 そのことへの恐怖とそうならなかったことへの安堵を胸に秘め、ヒロは大きい道へと踵を返す。


〔これから先、同様のトラップがあるだろう。それは金銀財宝とは限らん。十分気をつけて行こう〕

「あ、ああ」


 頼りなさげな返事を告げ、ヒロは再び奥へと目指すのであった。

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