第32話 Fall in madness for you
あらすじ
ウィザを救うためブォワホレの森の奥地、グハッツ洞窟に自生している“天寿草”を取りに向かうエピーヌ、シャトン、そしてヒロ。
彼らは途中、同じくグハッツ洞窟を目指す青年ジークと行動を共にすることとなった。
グハッツ洞窟に入った後、彼らは各々の目的を達するがためにヒロとジーク、エピーヌとシャトンで別行動をすることとなった。
エピーヌ達は無事、天寿草が群生するエリアへと辿り着いたのだが、そこには“ウィザを助ける者を始末する”ように命令された双子が待ち構えていたのであった。
―――兄ちゃん、俺たちこれからどうなるの?
弟がそう訊いてくる。その瞳には今にも溢れ出しそうなほど涙を浮かべている。
これからどうなるか、それは僕だって訊きたい。僕も何が何だか全くもって判らないのだもの。
だからって弱音ははけない。だって僕はこの弟の兄だもん。
―――大丈夫、お兄ちゃんが守ってあげるから
そうだ、僕が守らないと。
僅か数分早く産まれただけだけど、僕はこの弱虫な弟のお兄ちゃんなんだ。
僕が守らなきゃいけないんだ。
「ああ、なんて美しい。なんて美しい兄弟愛なんでしょう」
暗く閉ざされた何処ともしれない部屋に一筋の光が差しながら誰かの声が飛び込む。
光の差し込む方を見てみれば、何者かの人影が逆光に照らされている。
それは不思議と美しく感じた。
「……あなたは、誰?」
目を奪われていた僕の代わりに弟がその人に質問した。
人見知りの激しい弟が初対面の人に話しかけるなんて。
それほどまでにその人には妖しいまでの魅力があったことを僕は子供ながらに理解した。
その人は淫魔のような優しい笑みを浮かべ、聖母のように妖艶な声で紹介を始める。
「私は“――”。本当の名前は教えられないの、ごめんね」
謝りながら“――”と名乗った綺麗な女性は僕達に近づいてきた。
何故だろう、彼女のことを逃げ出したくなるほど恐ろしく感じるのに、もっと近づいてきて欲しいとも思う。
僕の本能が警告を鳴らすとともに、触れたいと欲求が叫ぶ。
僕はもうどうすればいいのか分からなくなって、ただ涙で顔をグチャグチャにすることしかできなかった。
僕の少ない勇気を振り絞ってできたことは、弟を守る為に大の字で立つことだけだった。
「お、おとうどに、ヒグッ、で、でを、てをだずな!!」
なんとか捻り出した言葉は自分でも何言っているかわからないほどに崩れてしまう。
それほどまでに限界な状態だった。
女性は微笑みながら目線を僕達に合わせる。
それだけのことに心臓が止まりそうなくらい恐怖を抱く。
「ごめんなさいね、怖がらせてしまったかしら。当然よね、いきなりこんな所に連れてこられて怖いと思わない方が無理があるわよね」
女性が話しかけてくる。
するとどうだろう、先程までの恐怖心が嘘のように薄れていく。
その代わりに安心感というか、リラックスした気分になっていくのが感じられる。
まるで母と話しているような気分だ。
「大丈夫、私は貴方達を傷付けたりしないわ。確か貴方は、カイン、だったかしら」
「……うん」
「そう。カイン、貴方の弟を思う気持ち、“愛”は素晴らしいものだわ。その気持ちを忘れないでちょうだい。弟を守るのは貴方だけの権利であり、義務であり、使命なのよ」
“弟を守るのは僕の権利であり、義務であり、使命である”
あの日“あの方”に初めて出会い、そう言われた日の事を今でも忘れない。
その言葉は今も僕の信念となって生きている。同時にこれは“あの方”から拝命した初めての命令でもあった。
―――――――――
「お前らは! 僕の弟を傷付けたッ!! それだけでも万死に値する!! だからぁッ! 僕がお前らをぉ!! ブッ殺ぉす!!!」
野獣が如き絶叫。皮膚自体が振動するかのような気迫。
彼はただ叫ぶ。
しかし、それだけだというのに、まるで嵐を相手取るような感覚を体全体で感じ取る。
その怒りを一身に受け止める勇者候補、エピーヌは堪らず委縮する。
(くっ……なんて圧だ! まだこんな力を隠し持っていたとは……!)
今までで一番の恐怖を感じる。体の動きを阻害するほどの緊張が身に溜まっていく。
コイツは今まで斃してきたどのモンスターより強敵だ。そう思わざるを得ない。
風が止む。
嵐の跡の晴天の様な静けさが場を包む。
エピーヌの瞳に映るのはこちらを見るカインの姿。
どの動物かは忘れたが、よく“目を逸らすと危ない”という。今が正にそれだ。
彼は目を逸らす、いや、瞬きする余裕すら与えてはくれないだろう。
それどころか呼吸すらまともにできない。
意識して肺を動かさなければすぐにでも止まってしまいそうだ。
張り詰めた弦の様な空気の中、カインはその空気を緩めるように再び元の柔らかい笑顔に戻る。
「安心して、安心しなよ、紅薔薇の騎士。ブッ殺すとは言ったけど、君はまだ殺さない。先に制裁を加えるのは……」
ゆっくりと首を右に回す。同時にエピーヌも彼の見ている方へと顔を向ける。
彼の視線の先、そこには壁に打ち付けられたまま動かないシャトンの姿があった。
「あの僕の弟を傷付けた、哀れで愚かで憎らしい糞猫からだ」
その言葉を聞くとエピーヌの表情は更に恐怖で満ちたものとなる。
シャトンは彼の初撃の一発でさえ生死の境を渡りかけた。今もそうであるかもしれない。
そこへ更なる追い打ちをかけるとなれば、説明する必要もない。
「止め―――」
彼女が言い切るよりも早くカインの姿は消える。
刹那の後、シャトンのいる壁の方から轟音が響く。
急いでそちらに目をやると、そこには蹴りを放ち終えたカインと彼の脚に左腕を潰されたシャトンの姿。
一瞬の静寂、たった一度の呼吸しかできないようなほんの僅かな時間。
それが過ぎると同時に叫び声が上がる。
「ぎゃああああああああああああああ!!!!!」
「あぁ、いいよぉ。その煩わしいまでの叫び声、人を不快にさせるその苦悶の表情。そうだ、もっと苦しめ。苦しんで苦しんで苦しんで苦しんで苦しんで苦しんで苦しみぬいた先で、自ら死を求めるまで君を甚振ろう。そのうえで最後の慈悲として僕は君に死を与えることを約束しよう」
シャトンの叫び声に交じり、カインによる狂気的な言葉の羅列が聞こえる。
その光景、その言の葉を知覚した瞬間、エピーヌの内に巣くっていた恐怖が怒りの炎によって消滅する。
怒りの灯によって点火されたエンジンのままに体を動かす。
「シャトンに! ちかづくなぁぁああ!!!」
怒声を発する。それと共にスキル“縮地”を発動する。
自身の怒声に追いつくほど加速したうえで、更なる跳躍。
「大跳躍突き!!!」
設置型巨大弩が如く音速に匹敵する速度でカインに迫る。
彼女の手に持つレイピアの切っ先はまっすぐとカインを捉えている。
(もらった―――!)
―――キュィン!! まるで弾丸と鉄板がぶつかるような音が響く。いや、“ような”ではなく“その通り”なのだろう。
エピーヌの剣先が突いたもの。それはカインの肉体ではなく、鉄のように鈍く光る黒色の巨大な“掌”だった。
それは到底有機物とは思えない物であった。
刃を通さぬほどの硬さ、その異常な大きさ、黒鉱のような無機質な見た目。
一見巨大な岩と見間違うようなソレを掌だと判断できたのは、平たい岩盤に五本の巌が生えた手のような形状であることと、手首に当たる部分から先に人間の腕が付いていたからだろう。
その掌の主、アベルがエピーヌに対し一言発する。
「やらせねえっての!」
声と共に巨大なオブジェがゆっくりと動き出す。
次の瞬間、エピーヌの体はアベルの手によって投げ飛ばされた。
宙を舞うエピーヌの体。
だが、持ち前の体幹と身体能力でなんとか体勢を立て直し着地する。
(一体……何が!?)
顔を上げ目の前の敵と状況を確認する。
依然シャトンを踏みつける兄カイン。カインに踏みつけられ呻き声を上げるシャトン。そして、いつの間に移動してきたのか、異様に巨大化した手を持つ弟アベルがこちらを睨んでいる。
「兄ちゃん、俺はコイツを引き止めておくから、その間にそのカスを片付けておいてよ」
「ああ、言われずとも―――」
そんな短い会話さえ終わらせず、エピーヌが再び攻撃に入る。
だがその奇襲もアベルの手に阻まれる。
「……はあ。僕達は今話していた最中だったんだけどね」
「黙れッ!! 貴様ら下郎のする会話など知ったことではない!!」
「全く、折角の美貌が台無しだ……。アベル、そのレディをもてなしてやってくれ」
「アイアイ、兄ちゃん」
そのまま先程の出来事が無かったかのように、カインは再びシャトンを蹴り始める。
すぐ目と鼻の先で行われている惨劇に対して、エピーヌの表情は怒りともどかしさから更に険しくなる。
「どけっ! 今は貴様にかまっている暇なぞ無い!!」
「それで『はいそうですか』って行かせるほど俺は甘くねえんだよ。それに……」
アベルの顔が恍惚とした笑顔に変わる。
口角を耳に届くくらいに上げ、目を薄め、頬を赤らめる。
「良い気味じゃないか。アイツは僕の顔に傷を付けた。そんな調子に乗ったやつが、今、苦悶の表情を浮かべて苦しんでいる。それだけで酷く心地良いじゃねえか」
彼の一言一句を聞く度にエピーヌは修羅の如く顔を歪ませる。
手に力が入る。レイピアが今にも折れそうなほどしなり始める。
遂にエピーヌの怒りが頂点に達した。
「きっっっさまああああああああああ!!!!!」
一瞬、エピーヌのレイピアが姿を消す。
次の瞬間、目にも止まらぬ怒涛の剣撃がアベルを襲う。
辺りには機関銃の弾が鉄板に打ち付けられる音が響く。
(グッ……! コイツ、まだこんなに余力を残していたのか!!)
アベルはその両手でなんとかエピーヌの連撃に耐えている。
と言っても、掌はただ体の前に置いているだけで、実質何もできずにいる。
だが、それも長くは続かない。
僅かだがアベルが後退し始める。それは加速度的に顕著になっていく。
遂に限界に達したのか、アベルの両手が大きく弾き飛ばされた。
(しまっ―――)
僅かにできた一瞬の隙を縫うかのように、アベルの脇腹を風が通り抜ける。
その風は真っ直ぐとカインを襲う。
「カイイィィィイイイインンンンンン!!!!!」
「……ふん」
剣を向け叫ぶエピーヌ。臆することなく彼女を睨むカイン。
カインは身体の軸をずらし、左脚に体重を乗せる。
爪先をエピーヌに向け、右脚を浮かす。
脚は死神の鎌のように空気を裂き、エピーヌの首を捉える。
回し蹴りが放たれた。
(死ね……ッ!!)
―――理解が追いつかない。今、一体何があった?
僕の蹴りは確かにヤツの首を捉えていたはずだ。
この瞬間、僕が見ているべき光景は首を刎ねられた哀れな女騎士のはずだ。
なのに、何故目の前には何もない?何故その女騎士は僕の遥か後ろにいる?
何故? 何故?? 何故何故何故なぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜ?????
「……お前、今何しやがった!?」
振り向き、問う。
その者は傷付いた仲間を抱きかかえ、仲間の状態の安否を確認していた。
その仲間の傷が死に至るようなものでないと判断したからか、落ち着いた笑みを浮かべ、抱きかかえてた身体をゆっくりと柔らかい花々の上に寝かせる。
彼女が振り向く。
その顔には今までの憤怒に満ちた表情はなく、逆に余裕を含んだ自信ありげな表情をしている。
「……何だ、その顔は? 何だ、その余裕に満ちた顔は!!? お前は今、仲間を傷付けられ怒りと憎悪に塗りたくられた表情をしているはずだ!! なのに、何故!!??」
疑問。苛立ち。不愉快さ。それらが混ぜ合わさり、カインの美しい顔は醜く歪む。
対照的にエピーヌは端正な顔を崩すことなく、カインの求める答えとなる一言を発する。
「レベルアップだよ」
「…………何だと?」
「聞こえなかったのか? “レベルアップ”と言ったのだよ。これで私も晴れてLV49、同時にスキル“縮地”の進化形、スキル“神速”も習得できた」
そう言って彼女は手の平の上にステータスを表示する。
そのポップアップには確かに“LV49”の表記がある。
“レベルアップ”と一口に言うが、ステータスの上昇率はレベルが上がるほどに格段に上昇する。
その上がりようをグラフに表すとしたら、それは綺麗な二次曲線を描くだろう。
それほどまでに高レベルでのレベルアップは強力なものなのである。
「……何故、今、この瞬間に?」
「それは本当に偶然だ。本来はもっと後になる筈だったんだがな。皮肉なことに貴様達の戦闘で経験値が一定数まで溜まったんだ」
その事実を聞くとともにカインは更に憤りの表情を顕にする。
それもそのはずだろう。彼がエピーヌを完全に格下だと決めつけ、早々に決着をつけなかった結果がこの竹箆返しだ。
悔しくない筈が無かろう。
「……! …………ッ!!」
「兄ちゃん、落ち着いて。いつも通り冷静にいこうぜ」
「ああ、落ち着いているともさ。だけどね、ここは見た目に気にしていくんじゃない。ここは燃え上がるくらい徹底的にいくッ!!」
そう言ったかと思うと、カインの脚が弟の腕と同様に、黒く無機質な形に変貌していく。
「あーあ、完全に切れちゃったよ。……まあいいか、これであの糞猫は完全に死んだ」
弟も構えをとる。
二対一、加えて今度は兄弟も全力だ。レベルアップしたとはいえ、今までのダメージは確実に持ち越されている。勝てる確率はかなり低い。
それでも彼女に撤退の言葉はない。ただ敵を見据え、剣を構える。
永遠の様な一瞬が何度も通り過ぎる。互いに動かない。
茜色だった空も、気付けば夜の闇が顔を覗かせている。
冷たい風が三人の間をすり抜ける。それは天寿草の花を揺らし、花弁を宙へ巻き上げる。
―――風が止んだ。
「「「ッ!!!」」」
同時に三人が一歩踏み出す。次の一瞬には誰かがやられる。そう誰しもが思っていた。
『やめなさい、カイン、アベル』
どこからか女性の声がする。
それは麻薬でも吸ったかのように心の底から心地よくさせる、甘く蕩ける様な美しい声だった。
思わずエピーヌはその声に聞き惚れ、足を止めてしまう。
兄弟も同様の事、案山子のように呆然と突っ立っている。
声がした方に顔を向ける。ソレは縦穴の縁、地上に居た。
そこに居たのは白い鱗を持った蛇の使い魔であった。
「「慈愛様!!」」
兄弟はそう叫ぶ。反応からしてこの“慈愛”という女性が彼らが傾倒する“あの方”なる者だろう。
慈愛は使い魔を通して、兄弟に話しかける。
『その娘は勇者候補。既に選定済みの人間よ。手を出すことは許されないわ』
「し、しかし慈愛様!!」
『分かって頂戴、私の可愛いカインとアベル。それに、アベル貴方、怪我をしているじゃない。直してくれるよう頼んでおくわ、早く戻ってきなさい』
「……はい、分かりました」
そう言うと兄弟は驚異的なジャンプ力を持って縦穴の上まで行ってしまう。
『申し訳ございません、誠実の勇者様。この者たちの無礼、主である私から謝罪しましょう』
白蛇はお辞儀でもするかのように頭を下げる。
「……ああ、そんなことはどうでも良い。それより貴様、慈愛と言ったな。幾つか質問がある」
「君、幾ら何でも慈愛様に対し失礼だぞ! やはり今ここで―――」
『良いのです、カイン。さあどうぞ、ご自由に質問なさいまし』
慈愛と言う女性はあの兄弟より話が分かるようだ。
この機を逃すまいとエピーヌは次々と質問をぶつける。
「ウィザから送り付けられた予告状を隠蔽したのは貴様か?」
『はい、その通りでございます』
「ウィザが宝物を盗み逃走した際、背後から彼女を撃ったのも?」
『ええ、私でございます』
「貴様は王宮の関係者なのか?」
『そうかもしれませんし、そうではないかもしれません。答えられませんね』
「……貴様はウィザの関係者なのか?」
『関係者、という間柄なら答えはYESです。しかし、どういった関係かは教えられません』
「最後に……貴様、何処かで会ったことがないか?」
『……いいえ、お会いしたことはないはずです』
「……そうか」
どこか腑に落ちないといった表情で蛇を睨むエピーヌ。
蛇は何の感情を表すことなく、話を閉めにかかる。
『もう宜しいですか?』
「……ああ、これ以上有力な情報は掴めそうにないしな。それにこちらも仲間の治療がしたい」
『左様でございますか。それは何と美しき“友愛”なのでしょうか。お二人の無事を心から願っております』
襲っておいて“無事を願う”とは片腹痛いな、と心の奥底で悪態をついて見せる。
そんなことは露知らず、白蛇と兄弟は地上の森の奥に消えていった。
カイン達が全く見えなくなった頃、漸くエピーヌの緊張の糸は緩まった。
同時に力が抜け、嫌な冷や汗がどっと噴き出す。
(正直、もう限界だ。奴等が大人しく退いてくれたのがせめてもの幸運だな)
巨大蟲との連戦につぐ連戦。その締めにあの兄弟との決戦。
途中、レベルアップという偶然に拾われたが、それでも溜め続けた疲労は回復することはない。
エピーヌの体力も魔力も赤色を示すほど疲弊していたのだ。
「……ニャア、アイツ等がもう行ったんニャら、そろそろ回復してほしいんだけどニャ。こっちはもう指先一つも動けないのニャ」
座り込んだエピーヌの後方から声がする。
振り返ると満身創痍のシャトンが横たわっている。
「……シャトン、気が付いていたのか。待っていろ、今すぐそっちに行く」
「なるべく早く頼むニャ。さっきから全身が痛くてたまったもんじゃニャい」
疲れ切った身体に鞭打ちゆっくりと立ち上がるエピーヌに対し、全身に隈なく痣を作っている割には元気そうなシャトンが『はやくはやく』とせかす。
「……随分、手酷くやられたものだな」
「全くだニャ。アイツ等、顔は良い癖に女性の扱いがド下手糞だニャ」
「……ふふ、そうだな」
回復魔導をかけながら二人は仲良くそのような話にふける。
互いの無事を祝い合っているのだろう。
「所でシャトン、“慈愛”という女性に聞き覚えはあるか?」
「……いや、ニャいニャ」
シャトンは瞳孔を右上に動かした後にそう言う。
「……そうか。なら、そろそろ行こう。予想以上に手間取ってしまったからな、ヒロ君達を待たせているかもしれない。シャトン、もう動けるか?」
「あー、まだちょっと厳しいニャ」
手を動かそうとしているのか、どうも力が入らないようで右手を痙攣させるかのようにピクピクと動かす。
「確かにそのようだな。なら、どれ、よいしょっ、と」
「うわ、わ」
シャトンの上半身を自身の背中に乗せ、太ももを掴み立ち上がる。
所謂、おんぶの形だ。
「ニャ、何をやっているのニャ! お前も既にまともに動けニャい状態だろ!? 無理する必要はニャいニャ!」
「ははっ、私を気遣ってくれているのか?」
「はあっ!? そんニャわけ無いだろ。私はただ、人におんぶされんのが恥ずかしいだけだニャ!」
シャトンは顔を真っ赤にさせて否定する。
それに対してエピーヌは柔らかい笑みを零す。
「まあ、どちらにしろお前が動けないようではこれしか移動手段はないぞ。ここで野垂れ死ぬのは嫌だろう?」
「……はぁ。しょうがニャい、このまま背負われてやるニャ」
「そうしてもらえると助かる」
「……あ、天寿草」
「お前を回復したついでに摘んである。心配はいらない」
「流石勇者様、細かい所まで気配りのできる出来た人ニャ」
「茶化すな。置いていくぞ」
エピーヌはシャトンを背負いながら、天寿草の花畑に別れを告げもと来た道を引き返す。
「……何か心配事でもあるのかニャ?」
「……? どうしたんだ急に?」
「いや、なんかおっかない顔してたから」
言われて初めて、自身の顔に力が入っていることに気付く。
「……少し、嫌な予感がしてな」
「それは剣探し組の事ニャ?」
「ああ」
「アイツ等なら大丈夫ニャ。あっちには最強の英雄級であるジークもいるんだろ?こっちがあくまでも不測の事態だっただけで、あっちはうまくいっている筈ニャ」
シャトンの言っている事は尤もだ。
普通に考えれば千弱の剣を自在に操るジークが居れば、どのような敵であれ苦戦することはないのだろう。
「……そうだと、いいのだがな」
やはり、どこか一抹の不安を拭い切れないでいる。
それは二人の安否というのも含まれている。
しかし、それ以上に心配なのが―――
(……ヒロ君、ジークに襲われていないかな)
ヒロの純潔であった。
―――クソッ、何でこんな事に……
僕達はデュランダルを手に入れようとしていた。
その為の戦闘は覚悟していた筈だ。
なのに、何故―――
「なんで、なんで僕達が戦わなくちゃいけないんだ!? ジーク!!」
剣を構える僕の目の前にはジークがいる。
彼は一直線に自身の剣を僕に向けている。
その態度、その瞳を見て分かる。彼は僕を殺るつもりだ。
一体どうしてこんな羽目になってしまったんだ!?
今回初めて題名を英語にする事とあらすじを付けることをしてみました。
題名を英語にしたのは、血界戦線の“Dont forget to dont forget me”に触発されてです。
この前、再放送を見て、つい全巻揃えてしまうほどはまってしまいました。
もう30話も超えて、感想、レビュー、評価が全く無いのは正直寂しいところもあるので、どんなものでも構わないので送って頂けると嬉しいです。




